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第9話 森の奥で見つけた眠たい花

「今日は何があるかなぁ!」


 ELOにログインした雪乃は、森の中で元気よく伸びをした。


 昨日は花畑を見つけたり、青い鳥を見たり、甘くて辛い木の実を食べたりした。


 新しいスキル《足場感知》も覚えた。


「今日はもっと奥まで行ってみようかな!」


 そう言いながら歩き出す。


 もちろん、どこまで行くかは決めていない。


 面白そうなものを見つけたら、そちらへ向かうだけだ。


 ふわふわ揺れる白い花


 森の中をしばらく歩いていると、木々の間に白いものが見えた。


「ん?」


 雪乃は足を止める。


 近づいてみると、地面から細長い茎が伸び、その先に白い花が咲いていた。


 花びらは綿のようにふわふわしている。


 風が吹くたび、ゆらゆらと揺れていた。


「わぁ、ふわふわ!」


 雪乃はしゃがみ込んだ。


 指先で花びらをつついてみる。


 ふにっ。


「柔らかい!」


 もう一度つつく。


 ふにふに。


「これ、触ってると気持ちいいね!」


 花を摘み取ってみる。


『《綿花草》を入手しました』


「綿花草だって!」


 説明を見ると、柔らかい繊維を持つ植物で、布や道具の材料になるらしい。


「へぇー。これで何か作れるのかな?」


 雪乃は綿花草をアイテム欄へしまった。


 その近くにも同じ花がいくつか咲いている。


「もう少し集めようっと!」


 いくつか採取していると、風に乗って別の香りが流れてきた。


 今度は甘い香りではない。


 少しだけ、眠くなるような落ち着いた匂いだった。


「……ん?」


 雪乃は鼻を動かした。


「何の匂いだろう?」


 気になったので、匂いのする方へ歩いていく。


 眠たくなる花?


 木の根元に、薄紫色の花が咲いていた。


 花びらは五枚。


 中央には小さな黄色い模様がある。


「これかな?」


 雪乃は近づいて、花を覗き込んだ。


 ふわり。


 香りが強くなる。


「……あれ?」


 少しだけ、まぶたが重くなった気がした。


 雪乃は目をこする。


「眠い……?」


 昨夜はちゃんと寝たはずだ。


 それなのに、急に眠気がやってきた。


「変なの……」


 もう一度、花へ顔を近づける。


 ふわり。


「……ふぁ」


 小さくあくびが出た。


 その瞬間、視界に通知が表示された。


『状態異常《睡眠》が発生しました』


「えっ!?」


 雪乃の身体から力が抜ける。


「ちょ、ちょっと待って……!」


 その場に座り込んでしまった。


 まぶたが重い。


 起きていようと思っても、意識がぼんやりしていく。


「ねむ……い……」


 雪乃は慌ててアイテム欄を開こうとした。


 しかし、指先がうまく動かない。


「えっと……回復……」


 なんとかアイテム欄を操作し、状態異常を回復する薬を探す。


 ところが、睡眠に効く薬は持っていなかった。


「うそぉ……!」


 雪乃は焦った。


 このまま眠ってしまったらどうなるのだろう。


 周囲にモンスターがいるかもしれない。


「起きて……起きてぇ……!」


 目をこすり、何とか意識を保とうとする。


 けれど、眠気には勝てなかった。


 雪乃はその場で横になり、眠ってしまった。


 目が覚めたら


 どれくらい時間が経っただろう。


「……ん」


 雪乃はゆっくり目を開けた。


 目の前には木の葉が広がっている。


「あれ……?」


 身体を起こす。


 どうやら、眠ってしまっていたらしい。


「……あっ!」


 思い出した。


 さっきの花だ。


「もしかして、あの花のせい!?」


 雪乃は慌てて花から離れた。


 少し距離を取ると、眠気はすっかりなくなった。


「びっくりしたぁ……」


 自分の状態を確認する。


 状態異常は解除されている。


 どうやら、時間が経って自然に回復したようだ。


 そのとき、通知が表示された。


『スキル《睡眠耐性》を獲得しました』


「おっ!」


 雪乃は目を丸くした。


「眠っちゃったから?」


 説明を見ると、睡眠状態になったときの効果時間を短くするスキルらしい。


「なるほど!」


 雪乃は少し考えた。


「でも、あの花の近くにはあんまり行かない方がいいね」


 そう言いながら、少し離れた場所から花を眺める。


「きれいなのに、眠くなるんだねぇ」


 不思議な花だった。


 雪乃は名前を確認する。


『《夢見花》』


「夢見花かぁ!」


 名前もかわいい。


 雪乃は少し迷ったあと、花から離れた位置に回り込んで、手を伸ばした。


 しかし、距離が足りない。


「うーん……届かない」


 無理に近づくのはやめておいた。


 今日はもう、眠るのは十分だ。


 変な鳴き声の正体


 夢見花から離れて歩いていると、どこかから変な鳴き声が聞こえてきた。


「……?」


 きゅるる。


 きゅるるる。


「何の声?」


 雪乃は周囲を見回した。


 鳴き声は、少し先の茂みから聞こえている。


 そっと近づいてみる。


 葉っぱの隙間を覗くと、小さな生き物がいた。


 緑色の身体に、丸い目。


 背中には小さな葉っぱが何枚も生えている。


『リーフトカゲ』


「わぁ、トカゲさん!」


 リーフトカゲは雪乃に気づくと、きゅるっと鳴いた。


「こんにちは!」


 雪乃が手を伸ばすと、リーフトカゲは身体を低くした。


 次の瞬間、背中の葉っぱがぱっと広がる。


「わっ!」


 葉っぱが揺れ、細かい粉のようなものが舞った。


 雪乃は慌てて顔を背けた。


「何これ!?」


 粉はすぐに消えた。


 雪乃は自分の身体を確認する。


 状態異常はない。


「びっくりしたぁ……」


 リーフトカゲはその隙に、木の根元へ逃げていった。


「あっ、待って!」


 追いかけようとしたが、穴の中へ入ってしまった。


「また逃げられちゃった」


 雪乃は穴を覗き込む。


 奥には入れそうにない。


「うーん、残念!」


 そのとき、近くの葉っぱに粉が少しだけ残っていることに気づいた。


「これ、さっきの粉かな?」


 指でそっと触れる。


 さらさらしている。


『《葉粉》を入手しました』


「葉粉だって!」


 雪乃はアイテム欄へしまった。


「何に使うんだろう?」


 分からないけれど、面白そうなものが手に入った。


 雪乃は満足そうに頷いた。


 森の奥の小さな滝


 さらに歩いていくと、水の音が聞こえてきた。


「また水の音!」


 雪乃は音のする方へ向かった。


 木々の間を抜けると、小さな滝が見えた。


 高さはそれほどない。


 岩の上から水が流れ落ち、下には小さな水たまりができている。


「わぁ、滝だ!」


 雪乃は近づいていった。


 水しぶきが顔にかかる。


「気持ちいい!」


 滝の近くには、苔の生えた岩が並んでいた。


 その一つに、青く光るものがくっついている。


「ん?」


 近づいてみる。


 それは、小さな貝のような形をした鉱石だった。


『《滝青石》を入手しました』


「滝青石!」


 雪乃は石を光にかざした。


 水色の表面に、細い青い筋が入っている。


「きれい!」


 さらに岩の隙間を覗くと、小さな魚が泳いでいた。


「お魚さん!」


 手を水の中に入れる。


 魚はすぐに逃げてしまった。


「あっ、逃げちゃった」


 もう一度、ゆっくり手を伸ばす。


 今度は魚が近くを通り過ぎた。


「わっ、近い!」


 雪乃は手を動かさず、じっと眺めた。


 魚は水の中をすいすい泳いでいる。


 その姿を見ていると、時間を忘れそうだった。


「ここ、いい場所だねぇ」


 雪乃は滝の近くに座り込んだ。


 しばらく水の音を聞いて休憩する。


 滝の裏側?


 休憩していると、ふと気になるものが目に入った。


 滝の水が流れ落ちている岩壁。


 その端に、少しだけ隙間がある。


「……ん?」


 水の向こう側に、暗い場所が見えるような気がした。


 雪乃は立ち上がった。


「もしかして、裏に何かあるのかな?」


 滝へ近づいてみる。


 水しぶきが強くなった。


 顔を近づけると、確かに岩壁の一部が少し奥へ引っ込んでいる。


「おおっ!」


 雪乃は目を輝かせた。


 しかし、水の流れが邪魔で、すぐには近づけない。


「うーん……」


 横から回り込めないか探してみる。


 岩の上に足をかける。


 《足場感知》のおかげか、滑りそうな場所が少し分かりやすい。


 ゆっくり進むと、滝の端まで回り込めた。


「やった!」


 水しぶきを浴びながら、岩壁の隙間を覗き込む。


 奥には小さな空間があった。


 けれど、人が入れるほど広くはない。


「うーん、入れないかぁ」


 少し残念そうに頬を膨らませる。


 それでも、何か落ちていないか探してみる。


 岩の隅に、小さな白い石があった。


 拾い上げる。


『《滝白石》を入手しました』


「おっ、また石!」


 雪乃は石を眺めた。


「今日は石がいっぱいだね!」


 そのまま滝の周りを一周してみたが、ほかに目立ったものは見つからなかった。


「また今度来ようっと!」


 雪乃は滝に背を向けた。


 今日の冒険はここまで!


 ログアウトの時間が近づき、雪乃は森の中でアイテム欄を確認した。


 《綿花草》


 《夢見花》


 《葉粉》


 《滝青石》


 《滝白石》


 今日もいろいろなものを見つけた。


 そして、スキルも一つ増えている。


 《睡眠耐性》。


「眠くなるのは困るけど、スキルが覚えられたのはよかったかな!」


 雪乃は笑った。


 ただし、夢見花の近くでまた眠ってしまうのは嫌だ。


「次は眠くならないものを探そう!」


 そう言って、雪乃はログアウトした。


 現実世界・学校


「眠っちゃったの?」


 昼休み、舞は少し驚いた顔をした。


「うん。花の匂いを嗅いでたら、急に眠くなっちゃって」


「それ、状態異常だったんじゃない?」


「そう! 睡眠って出た!」


 優真が呆れたように言う。


「今度は睡眠かよ」


「でも、寝ちゃったあとに睡眠耐性を覚えたよ!」


「それはよかったけど……」


 舞は苦笑した。


「雪乃、状態異常になるものに近づきすぎじゃない?」


「だって、どんなものか気になるんだもん!」


「気になるのは分かるけど、ほどほどにね」


「はーい!」


 雪乃は元気よく返事をした。


 優真は少し考えてから言った。


「俺も森の奥へ行ってみようかな。まだ見てない場所が多そうだし」


「うん! いろんなものがあるよ!」


「お前の話を聞いてると、森だけで相当遊べそうだな」


「そうなの! まだまだ見つけたいものがいっぱい!」


 雪乃は楽しそうに笑った。


 明日もまた、森の奥へ。


 まだ知らない景色が、そこには待っている。

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