第10話 森の奥で見つけた不思議な木
「今日は何が見つかるかなぁ!」
ELOにログインした雪乃は、森の中で両手を上に伸ばした。
昨日は眠くなる花を見つけて、うっかり眠ってしまった。
それから小さな滝も見つけた。
「今日は眠くならないといいなぁ」
そう言いながら、雪乃は歩き始める。
もちろん、今日も行き先は決めていない。
「よし、出発!」
森の中を、のんびりと進んでいった。
風に揺れる不思議な葉っぱ
しばらく歩いていると、頭上からかすかな音が聞こえた。
さらさら。
さらさら。
「ん?」
雪乃は立ち止まって上を見上げた。
木々の間に、銀色に光る葉っぱが見える。
風が吹くたびに葉っぱ同士が触れ合い、きれいな音を立てていた。
「わぁ、何あれ!」
雪乃は近くの木に手をかけた。
「登ってみよう!」
幹に手をかけ、枝を伝って上へ進む。
少しずつ登っていくと、銀色の葉っぱが近づいてきた。
「きれい!」
葉っぱは細長く、表面が薄い銀色に輝いている。
雪乃は一枚摘み取った。
『《銀鳴葉》を入手しました』
「銀鳴葉だって!」
手のひらに乗せて軽く揺らす。
さらっ。
小さな音が鳴った。
「本当に音がする!」
もう一度揺らす。
さらさらっ。
「これ、楽器みたい!」
雪乃はしばらく葉っぱを鳴らして遊んだ。
その後、何枚か採取してアイテム欄へしまう。
すると、枝の奥に小さな実がなっているのが見えた。
「あっ、実もある!」
手を伸ばして一つ摘み取る。
『《銀露の実》を入手しました』
「銀露の実!」
実は透明に近い銀色で、表面に小さな水滴のような模様がある。
雪乃は匂いを嗅いでみた。
甘い香りがする。
「おいしそう!」
ぱくっ。
口に入れると、しゃりっとした食感が広がった。
「んー!」
甘くて、少しだけ冷たい。
まるで冷やした果物のようだった。
「おいしい!」
雪乃は残りの実も採取した。
そして、木の上から周囲を眺める。
「わぁ……森って広いねぇ」
遠くの方に、少しだけ明るい場所が見えた。
「向こうも行ってみたいな!」
雪乃は木から降りた。
追いかけっこの相手
明るい場所を目指して歩いていると、足元を何かが横切った。
「ん?」
小さな影。
茶色い身体に、長い尻尾。
「何だろう?」
雪乃が目を向けると、その生き物は木の幹を駆け上がった。
『ツリースクワール』
「リスさんだ!」
ツリースクワールは木の枝に止まり、こちらを見下ろしている。
その口には、何か木の実のようなものをくわえていた。
「ねえねえ、それ何?」
もちろん返事はない。
雪乃が近づくと、ツリースクワールは枝から枝へ飛び移った。
「あっ、待って!」
雪乃も木へ登る。
しかし、ツリースクワールはとても身軽だった。
枝を渡り、幹を回り、葉っぱの間へ隠れてしまう。
「速いねぇ!」
雪乃は笑いながら追いかけた。
ツリースクワールが枝の先へ移動する。
雪乃も後を追う。
ぴょん。
次の枝へ。
ぴょん。
もう一つ先へ。
そのとき、ツリースクワールが急に立ち止まった。
雪乃も止まる。
「……あれ?」
ツリースクワールはくわえていた木の実を枝の上に置いた。
そして、前足で木の実を押さえながら、こちらをじっと見ている。
「それ、くれるの?」
雪乃が手を伸ばす。
すると、ツリースクワールは木の実をくわえ直し、反対側へ飛び移った。
「あっ、くれないんだ!」
雪乃は少し笑った。
そのまま追いかけようとしたが、ツリースクワールは枝の奥へ消えてしまった。
「またねー!」
雪乃は手を振った。
枝の上には、小さな木の実が一つ落ちていた。
「おっ、これは別の実かな?」
拾い上げる。
『《リス木の実》を入手しました』
「リス木の実だって!」
雪乃はアイテム欄へしまった。
大きなキノコの集まる場所
木から降りて、再び歩き出した雪乃。
しばらくすると、地面に大きなキノコがいくつも生えている場所を見つけた。
「わぁ! キノコ!」
赤、茶色、紫。
いろいろな色のキノコが集まっている。
雪乃は近づいてしゃがみ込んだ。
「こんなにいっぱいあるんだ!」
まずは赤いキノコを見てみる。
表面に白い点々がある。
「これは……食べられるのかな?」
指でつついてみる。
ぷにっ。
柔らかい。
匂いを嗅いでみる。
少し土っぽい匂いがする。
「うーん……」
雪乃は少し考えた。
以前、キノコを食べて毒になったり、麻痺したりしたことがある。
でも、どんな味がするのか気になる。
「一口だけなら……」
雪乃は小さくかじった。
もぐもぐ。
「……ん?」
味はほとんどない。
少しだけ苦い。
「おいしくない!」
その瞬間、視界に通知が表示された。
『状態異常《混乱》が発生しました』
「えっ?」
目の前の景色がぐにゃりと揺れた。
「わっ、何これ!?」
左右の方向が分からなくなる。
雪乃は立ち上がろうとして、反対側へ身体を傾けた。
「あれ? あっちが前?」
一歩進む。
ふらっ。
「わわっ!」
その場に尻もちをついた。
「ちょっと待ってぇ!」
慌てて状態を確認する。
混乱。
どうやら、このキノコには混乱の効果があるらしい。
「また変なの食べちゃった!」
雪乃はアイテム欄を開こうとするが、操作する方向まで分かりにくくなっている。
「えっと……こっち?」
何度か間違えながら、ようやく回復薬を取り出した。
ごくっ。
しばらくすると、景色の揺れが落ち着いてきた。
「ふぅ……戻ったぁ」
雪乃は胸をなで下ろした。
そして、食べかけのキノコを見つめる。
『《迷い斑キノコ》』
「迷い斑キノコ……」
名前の通り、迷子になりそうなキノコだった。
「これはもう食べない方がいいかなぁ」
そう言いながら、残りのキノコを一つ採取した。
『《迷い斑キノコ》を入手しました』
「持って帰ろうっと!」
その直後、通知が表示された。
『スキル《混乱耐性》を獲得しました』
「おおっ!」
雪乃は目を輝かせた。
「混乱にも耐性ができた!」
これで少しは安心できるかもしれない。
ただし、すぐに完全に防げるわけではない。
雪乃はその説明を読んでから、キノコの群生地を離れた。
森の中の大きな木
さらに進むと、周囲の木々よりもずっと大きな木が見えてきた。
「……おっきい!」
幹は太く、枝は高く広がっている。
周囲にはほかの木が少なく、その木だけが目立っていた。
雪乃は近づいて、幹を見上げる。
「これ、登れるかな?」
幹には大きなこぶがあり、手をかけられそうな場所もある。
「よし!」
雪乃は木に登り始めた。
途中で枝に腰掛け、周囲を眺める。
すると、枝の間に小さな穴があることに気づいた。
「ん?」
木の幹に、丸い穴が開いている。
中は暗い。
「鳥さんのお家かな?」
近づいて覗き込んでみる。
しかし、何もいない。
穴の奥から、かすかに風が吹いているようだった。
「……風?」
雪乃は耳を近づけた。
ふうっ。
小さな風の音が聞こえる。
「不思議だねぇ」
穴の中へ手を入れてみる。
指先に何か硬いものが触れた。
「あっ!」
取り出してみると、小さな木の実だった。
表面には白い模様が入っている。
『《大樹の実》を入手しました』
「大樹の実!」
雪乃は嬉しそうに笑った。
そのまま幹の上を見てみる。
枝の間には、まだいくつか実がなっている。
「もう少し採れそう!」
雪乃は手を伸ばし、実を採取した。
そして、最後にもう一度だけ木の穴を覗き込む。
「またね!」
誰に言っているのか分からないが、雪乃は木に向かって手を振った。
今日も新しい発見!
ログアウトの時間が近づき、雪乃は大きな木の近くで立ち止まった。
今日は銀色の葉っぱを見つけた。
リスのようなモンスターを追いかけた。
そして、キノコを食べて混乱した。
「今日はちょっと大変だったねぇ」
雪乃は苦笑した。
スキル欄を確認する。
新しく覚えたのは《混乱耐性》。
「これで、混乱するキノコも少しは大丈夫かな?」
もちろん、完全に防げるわけではない。
それでも、新しいスキルを覚えられたのは嬉しかった。
アイテム欄には今日見つけたものが並んでいる。
《銀鳴葉》
《銀露の実》
《リス木の実》
《迷い斑キノコ》
《大樹の実》
「いっぱい集まった!」
雪乃は満足そうに頷いた。
「明日は何を見つけようかなぁ」
まだまだ森には知らない場所がある。
そして、雪乃はそのすべてを見てみたいと思っていた。
『ログアウトしますか?』
「はーい!」
視界が白く染まる。
今日も、雪乃の冒険は寄り道だらけだった。
現実世界・学校
「今度は混乱?」
舞が目を丸くした。
「うん! キノコを食べたら、前と後ろが分からなくなっちゃった!」
「それは大変だったね」
「うん。回復薬を使うのも大変だったよ!」
優真が呆れたように言う。
「お前、森に行くたびに何か食べてないか?」
「食べてるよ!」
「そこは否定しないんだな……」
舞が小さく笑う。
「でも、混乱耐性を覚えたんでしょ?」
「うん!」
雪乃は嬉しそうに頷いた。
「毒と麻痺と睡眠と混乱! いっぱい耐性が増えたよ!」
「耐性を集めるために食べてるわけじゃないよね?」
「違うよ! おいしいか気になるから!」
「そこは変わらないんだね」
舞は楽しそうに笑った。
優真は少し考えてから言う。
「俺もそろそろ森の奥へ行ってみるか。新しいモンスターもいそうだしな」
「うん! 面白いものがいっぱいあるよ!」
雪乃は明日も森へ行くつもりだった。
まだ見つけていないものが、たくさんある。
そして、森のさらに奥には、雪乃がまだ知らない場所が広がっていた。




