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第11話 森の奥で見つけた小さな光

「今日はもっと奥まで行ってみよう!」


 ELOにログインした雪乃は、森の中で元気よく声を上げた。


 昨日は銀色の葉っぱや、不思議なキノコを見つけた。


 混乱するキノコには驚かされたけれど、新しい耐性スキルも覚えられた。


「今日はどんなものがあるかなぁ」


 雪乃は双短剣を腰に装備したまま、森の奥へ歩き出した。


 目的地はない。


 気になったものを見つけたら、そちらへ行く。


 今日もそんな気ままな探索の始まりだった。


 木の根元の小さな光


 森の中を歩いていると、木の根元で何かが光った。


「ん?」


 雪乃は立ち止まり、しゃがみ込んだ。


 落ち葉の隙間から、小さな青い光が見えている。


「何だろう?」


 指で落ち葉をどかしてみる。


 すると、そこには小さな虫がいた。


 透明な羽を持ち、身体の中が青く光っている。


『ルミナホタル』


「わぁ、ホタルさん!」


 ルミナホタルは雪乃の指先に近づき、ふわりと飛び上がった。


 青い光が、暗い木の根元を照らす。


「きれいだねぇ」


 雪乃は手を伸ばしてみた。


 ルミナホタルは指先の周りを一周すると、ふわふわと森の奥へ飛んでいく。


「あっ、待って!」


 雪乃は立ち上がり、後を追った。


 ルミナホタルはゆっくり飛んでいるように見えるのに、木々の間をすり抜けるのが上手だった。


 雪乃も枝を避けながら追いかける。


「こっちかな?」


 光が右へ曲がる。


 雪乃も右へ。


 今度は少し上へ飛んでいく。


「わっ、上!」


 雪乃は木の根元に手をかけ、登り始めた。


 しかし、ルミナホタルは枝の向こうへ消えてしまった。


「あれ?」


 雪乃は周囲を見回した。


 見つからない。


「行っちゃったかなぁ」


 少し残念そうにしていると、近くの葉っぱに小さな青い粉がついていることに気づいた。


「これ、何だろう?」


 指先で触れてみる。


 さらさらとした感触だった。


『《光粉》を入手しました』


「光粉!」


 雪乃は手のひらを見つめた。


 ほんの少しだけ、青く光っている。


「わぁ、きれい!」


 そのままアイテム欄へしまった。


 ふわふわの綿毛を追いかけて


 木から降りて歩き始めると、今度は白いものが風に乗って飛んできた。


 ふわふわ。


 くるくる。


「ん?」


 雪乃は両手を伸ばした。


 白い綿毛が手のひらに乗る。


「わぁ、ふわふわ!」


 軽く息を吹きかけると、綿毛はまた空へ飛んでいった。


「あっ!」


 雪乃はその後を追った。


 綿毛は風に乗って、木々の間を進んでいく。


 右へ。


 左へ。


 少し上へ。


 雪乃は走ったり、立ち止まったりしながら追いかけた。


「待ってよー!」


 やがて綿毛は大きな木の根元へ降りていった。


 そこには、白い花がいくつも咲いていた。


「わぁ!」


 花の中央には、丸い綿毛のような部分がある。


 風が吹くと、その綿毛が一斉に舞い上がった。


「これだったんだ!」


 雪乃は花に近づいた。


『《風綿花》』


「風綿花だって!」


 一輪摘み取る。


『《風綿花》を入手しました』


「ふわふわでかわいい!」


 雪乃はもう一輪採取しようとした。


 そのとき、花の間から小さな虫が飛び出した。


「わっ!」


 虫は白い綿毛をまとったような姿をしていた。


『コットンモス』


「蛾さん?」


 コットンモスは雪乃の周囲をふわふわと飛び回った。


 そのたびに、細かい綿毛が舞い上がる。


「わぁ、雪みたい!」


 雪乃は思わず両手を広げた。


 綿毛が髪や服にくっついていく。


「ふふっ!」


 しばらくその場で眺めていたが、コットンモスは花の奥へ飛んでいってしまった。


「またね!」


 雪乃は手を振った。


 何かが走っていった!


 風綿花の場所を離れ、さらに森の奥へ進んでいく。


 すると、少し先の茂みが大きく揺れた。


 がさがさっ!


「ん?」


 雪乃が振り向くと、茶色い生き物が走り抜けていった。


 長い耳。


 細い足。


 そして、ふさふさした尻尾。


「ウサギさん?」


 しかし、いつものフォレストラビットよりも身体が大きい。


『フォレストホーン』


 頭には、小さな角が一本生えていた。


「わぁ、角がある!」


 フォレストホーンは雪乃を見ると、地面を蹴った。


「えっ?」


 次の瞬間、勢いよく走り出す。


「わっ、速い!」


 雪乃は慌てて横へ避けた。


 フォレストホーンはそのまま木の間を駆け抜けていく。


「あっ、待って!」


 雪乃も走り出した。


 けれど、相手はかなり速い。


 木の根を飛び越え、岩を避け、草むらへ飛び込んでいく。


 雪乃も負けじと追いかける。


「そっちに行くの!?」


 フォレストホーンが急に方向を変えた。


 雪乃は慌てて足を止める。


 しかし、少し遅かった。


「わわっ!」


 勢い余って、目の前の草むらへ飛び込んでしまった。


 ごろごろっ。


「いたた……」


 雪乃は草むらから顔を出した。


 フォレストホーンの姿は、もう見えない。


「逃げられちゃった……」


 少し残念だったが、雪乃はすぐに立ち上がった。


 服についた草を払う。


「でも、速かったなぁ!」


 そのとき、足元に小さなものが落ちているのを見つけた。


 拾い上げてみると、茶色い毛がついた小さな角の欠片だった。


『《小角の欠片》を入手しました』


「角の欠片だって!」


 雪乃はアイテム欄へしまった。


「落としていっちゃったのかな?」


 変な音がする場所


 フォレストホーンを追いかけた先は、今までよりも木々が少し密集している場所だった。


 雪乃は周囲を見回した。


「ここ、初めて来たかも」


 地面には大きな木の根が何本も伸びている。


 足元に気をつけながら歩いていると、どこかから小さな音が聞こえてきた。


 こん。


 こん。


 こん。


「……ん?」


 雪乃は立ち止まった。


 木を叩くような音。


 誰かが何かをしているのだろうか。


 音のする方へ近づいてみる。


 すると、太い木の幹に、小さな鳥が止まっていた。


 くちばしで木を叩いている。


「鳥さん!」


『キツツキ』


「木を叩いてるんだ!」


 雪乃は少し離れた場所から観察した。


 こん。


 こん。


 こん。


 一定のリズムで木を叩いている。


「面白いねぇ」


 しばらく見ていると、キツツキは飛び立ってしまった。


 そのあと、叩いていた場所を覗き込んでみる。


 小さな穴が開いている。


「ここに何かあるのかな?」


 指を入れてみる。


 届かない。


 雪乃は少し考えて、近くに落ちていた細い枝を拾った。


 枝を穴の中へ差し込む。


 ごそごそ。


 何かに当たった。


「おっ!」


 枝を動かしていると、小さな木の実がころんと落ちてきた。


『《木洞の実》を入手しました』


「わぁ! 出てきた!」


 雪乃は嬉しそうに木の実を拾った。


「キツツキさん、これを探してたのかな?」


 そんなことを考えながら、木の実をアイテム欄へしまった。


 見たことのない地形


 さらに進むと、地面が少しずつ傾斜してきた。


「ん?」


 雪乃は足元を見た。


 今まで歩いていた場所より、少し低いところへ続いている。


 木々の間から、岩肌が見え始めた。


「岩がいっぱい!」


 雪乃は下り坂を進んだ。


 足元には小さな石が転がっている。


 《足場感知》を意識しながら、滑りにくそうな場所を選んで歩く。


「このスキル、便利だね!」


 岩の間を抜けると、小さな窪地に出た。


 周囲は岩壁に囲まれている。


 上から木の枝が伸び、少し薄暗い。


「わぁ、こんな場所があったんだ!」


 雪乃は窪地の中を歩き回った。


 岩の表面には、緑色の苔が生えている。


 その中に、赤い小さな実がいくつか落ちていた。


「実だ!」


 拾い上げる。


『《岩陰の実》を入手しました』


「岩陰の実だって!」


 雪乃は一つを口に入れた。


 もぐもぐ。


「……すっぱい!」


 思ったより酸っぱい。


「うーん、これはちょっとすっぱいねぇ」


 でも、食べられないほどではない。


 雪乃は残りをアイテム欄へしまった。


 そのとき、窪地の奥から、ふわりと冷たい風が吹いてきた。


「……ん?」


 雪乃は顔を上げた。


 風は岩壁の向こうから流れてきているようだった。


「また風だ!」


 雪乃は風の吹いてくる方へ歩き始めた。


 岩壁の下には、細い隙間がある。


 しかし、そこは人が通れるほどの大きさではなかった。


「ここじゃないみたい」


 雪乃は少し残念そうに言った。


 それでも、風が吹いてくる場所は気になる。


 岩壁の周囲をぐるりと回ってみることにした。


 もう少し先へ


 岩壁の端まで回ると、木々の間に細い道が続いていた。


 道というより、動物が通ったような跡だ。


「ここ、通れるかな?」


 雪乃は少し迷った。


 しかし、奥から小さな羽音が聞こえてきた。


 ぶんぶん。


「ん?」


 何かが飛んでいる。


 雪乃はそちらを見た。


 木々の間に、小さな青い光がちらちらと見える。


「もしかして、ホタルさん?」


 第11話の最初に見たルミナホタルに似ている。


「また見たい!」


 雪乃は細い道へ入っていった。


 道は少しずつ狭くなり、両側から草が伸びている。


 それでも、青い光は少し先で揺れていた。


「待ってー!」


 雪乃は小走りになった。


 青い光は木々の間を抜け、岩の向こうへ消えていく。


「どこ行ったの?」


 雪乃は岩のそばまでやってきた。


 そこには、苔の生えた大きな岩がいくつも並んでいる。


 青い光は見えなくなっていた。


「うーん……」


 周囲を見回す。


 すると、岩の向こうから、ひんやりとした風が吹いてきた。


「……あれ?」


 雪乃は風の方へ顔を向けた。


 岩の隙間からではない。


 もう少し奥の方から吹いている。


「何かあるのかな?」


 気になって、岩の周りを歩いてみる。


 しかし、今日はもうログアウトの時間が近い。


「うーん、今日はここまでかなぁ」


 雪乃は少しだけ名残惜しそうに振り返った。


「明日、また見に来よう!」


 青い光が消えた場所を覚えておく。


 そして、森の中を戻っていった。


 今日も楽しかった!


 ログアウト前、雪乃はアイテム欄を確認した。


 《光粉》


 《風綿花》


 《小角の欠片》


 《木洞の実》


 《岩陰の実》


 今日もたくさんのものを見つけた。


 新しいスキルは増えなかったけれど、初めて見る場所をいくつも歩けた。


「森って広いねぇ!」


 雪乃は満足そうに笑った。


「明日は、さっきの青い光を探してみようっと!」


『ログアウトしますか?』


「はーい!」


 視界が白く染まる。


 今日も、雪乃の冒険は寄り道だらけだった。


 現実世界・学校


「今日は森の奥まで行ったんだね」


 昼休み、舞が雪乃の話を聞いて頷いた。


「うん! 青く光る虫がいたよ!」


「ホタルみたいな?」


「そう! すごくきれいだった!」


「それで、追いかけたの?」


「うん。でも途中で見失っちゃった」


 優真が少し笑う。


「また追いかけてたのか」


「だって、気になるんだもん!」


「まあ、お前らしいけどな」


 舞は楽しそうに笑った。


「森の奥って、どんな感じ?」


「木がいっぱいで、岩も増えてきたよ! 小さな窪地もあった!」


「へぇ。結構広そうだね」


「うん! まだまだ見てない場所があるよ!」


 雪乃は嬉しそうに頷いた。


「明日もあの青い光を探しに行くんだ!」


「また見つかるといいね」


「うん!」


 雪乃は窓の外を見ながら、明日の冒険を楽しみにしていた。


 森の奥には、まだ知らないものがたくさんある。


 そして、今日見つけた岩の向こうにも、何かがあるような気がしていた。

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