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第88話 夕暮れの草原と風に揺れる小さな光

「外に出られた!」


 白雪は岩の隙間を抜け、草原へ戻ってきた。


 空は少しずつ夕方の色に変わり始めている。


 太陽はまだ沈んでいないが、昼間よりも光が柔らかくなっていた。


「もう夕方なんだねぇ」


 白雪は空を見上げる。


 イベントが始まってから、ずいぶん長い時間が経った気がする。


 けれど、まだまだ気になる場所はたくさんあった。


「もうちょっとだけ遊ぼうかな!」


 白雪は歩き出した。


 草原を進んでいると、風に揺れる草の間に小さな光が見えた。


 ぴかっ。


「ん?」


 白雪は足を止める。


 もう一度、光る。


 ぴかっ、ぴかっ。


「何だろう?」


 光は地面の近くにあるようだった。


 白雪は草をかき分け、光の方へ近づいていく。


 すると、そこには小さな白い花が咲いていた。


 花びらの先端が淡い青色で、中心部分がほのかに光っている。


「わあ、きれい!」


 白雪はしゃがみ込んだ。


 花は風が吹くたびに、少しだけ明るくなる。


 風が止まると、光も弱くなる。


「風が吹くと光るんだね」


 白雪は花の周囲を調べた。


 根元には、小さな丸い実がいくつか落ちている。


 《夕風白花》を入手しました。


「あっ、花の名前が出た!」


 白雪は花を一つだけ採取し、残りはそのままにしておいた。


 次に、根元の実を拾う。


 《夕光の実》を入手しました。


「夕光の実……」


 白雪は実を手のひらに乗せた。


 表面には、細い光の筋が走っている。


「これも光るのかな?」


 実を少し傾ける。


 光の筋が、夕方の光を反射してきらりと輝いた。


「おおっ!」


 白雪はしばらく実を眺めていた。


 それから、いつものように匂いを嗅ぐ。


 甘い香りがする。


「食べられるかな?」


 白雪は小さくかじった。


 しゃりっ。


 ほんのり甘く、少しだけ酸味がある。


「おいしい!」


 もう一口食べようとしたとき、口の中に小さな刺激が広がった。


 ぱちっ。


「ん?」


 舌の上で、光が弾けるような感覚がした。


「わっ、今の何?」


 白雪は目を丸くする。


 もう一度、ゆっくり噛んでみた。


 ぱちぱちっ。


「面白い!」


 《夕光の実を食べました》

 《満腹度が少し回復しました》

 《味覚の熟練度が上昇しました》


 白雪は残りを袋へしまった。


「これ、あとでまた食べよう!」


 花の周囲には、小さな光がいくつも浮かんでいた。


 白雪は指先を伸ばす。


 光はふわりと離れ、草の間へ移動する。


「あっ、逃げちゃった!」


 もう一度近づく。


 今度は光が二つに分かれた。


「増えた!」


 白雪は光を追いかけた。


 光は草の間をゆっくりと漂い、少し離れた場所へ移動していく。


 その先には、小さな石が並んでいた。


「石がいっぱいあるね」


 白雪はしゃがみ込む。


 石は丸く、表面に細かな模様が刻まれている。


 一つ拾い上げてみた。


 《夕風石》を入手しました。


「夕風石だって!」


 石を手のひらに乗せていると、近くに浮かんでいた光がふわりと近づいてきた。


 そして、石の表面に触れる。


 ぴかっ。


 石が一瞬だけ明るくなった。


「わあ!」


 白雪は別の石も拾い上げる。


 こちらは少しだけ形が違う。


 《光紋石》を入手しました。


「こっちは光紋石!」


 白雪は二つの石を並べてみた。


 すると、光が二つの石の間を行ったり来たりし始めた。


「何してるのかな?」


 白雪が石を少し離すと、光も離れる。


 近づけると、光も近づく。


「ふふっ。ついてくる!」


 白雪は石を動かしながら遊んでいた。


 そのとき、光が突然、二つの石の間を通り抜けた。


 ぴかっ!


 周囲の草が一斉に光る。


「わっ!」


 白雪が驚いて顔を上げると、地面に小さな光の筋が浮かび上がっていた。


 その筋は草の間を通り、少し離れた場所まで続いている。


「道みたい!」


 白雪は光の筋を追いかけた。


 光の筋は、草原の小さな窪地へ続いていた。


 そこには、背の低い白い草が生えている。


 夕方の風が吹くと、草の先端が淡く光った。


「ここも光るんだ!」


 白雪は窪地の中へ降りていった。


 草の間には、小さな青い粒がいくつも落ちている。


 《夕光草》を入手しました。


「草も光るんだね!」


 白雪は一本だけ採取した。


 そのとき、窪地の奥から小さな音が聞こえた。


 ちりん。


「あれ?」


 白雪は音の方を見る。


 そこには、淡い黄色の小さな生き物がいた。


 丸い身体に、長い触角のようなものが二本。


 身体の周囲には、小さな光の粒が浮かんでいる。


 生き物は白雪に気づくと、草の上をゆっくり移動し始めた。


「わあ! 何だろう?」


 白雪は近づきすぎないように、少し離れてしゃがんだ。


 生き物は白雪の方を向く。


 触角がぴくりと動いた。


 《夕光ホタル》を発見しました。


「夕光ホタルちゃん!」


 白雪が名前を呼ぶと、夕光ホタルは身体の光を少しだけ強くした。


 ぴかっ。


「きれい!」


 白雪は手を伸ばしかけたが、触れずに眺めることにした。


 夕光ホタルは草の上を進み、窪地の端にある小さな穴へ向かっていく。


「どこに行くの?」


 白雪は後を追った。


 穴の周囲には、夕光草がいくつも生えていた。


 入口は小さいが、奥からは淡い光が漏れている。


 白雪はしゃがみ込み、穴を覗いた。


 中には、白い粒がいくつも浮かんでいる。


「わあ……」


 夕光ホタルは穴の前で止まり、触角を揺らした。


 その瞬間、穴の中から小さな光が一つ飛び出してくる。


 ふわっ。


 光は白雪の目の前を通り過ぎ、夕光ホタルの周囲を一周した。


「お友達かな?」


 夕光ホタルはその光を追いかけるように、ゆっくりと飛び始めた。


 白雪もその様子を眺める。


 光は一つ、二つ、三つと増えていく。


 やがて、穴の周囲が小さな光でいっぱいになった。


「わあ! いっぱい!」


 白雪は目を輝かせた。


 そのとき、システムメッセージが表示される。


 《夕暮れに活動する生物の生息地を発見しました》

 《イベントポイントを獲得しました》


「あっ、ポイント!」


 白雪は嬉しそうに笑った。


「ここ、夕方になると光るんだね!」


 白雪はしばらくその場に座り、光が飛び回る様子を眺めていた。


 その頃、北の森では黒羽が根の奥に続く通路を進んでいた。


 通路は狭く、ところどころに木の根が張り出している。


 黒羽は足元を確認しながら進んだ。


 やがて、通路の先に小さな石の部屋が現れる。


 壁には三つのくぼみがあり、それぞれ違う形をしていた。


「三つのくぼみ……」


 黒羽は先ほどの石柱の模様を思い出した。


 あの仕掛けと関係があるのかもしれない。


 黒羽は周囲を調べ、壁の端に小さな石片が落ちているのを見つけた。


 《根紋石片》を入手しました。


「これが鍵になるのかしら」


 石片を三つのくぼみに近づけてみる。


 一つ目には入らない。


 二つ目にも合わない。


 三つ目に近づけると、ぴたりとはまった。


 かちっ。


 部屋の奥で、小さな音が響いた。


 黒羽はすぐに短剣を構え、様子を見る。


 壁の一部がゆっくりと動き始めた。


「また通路ね」


 黒羽は周囲を確認し、慎重に先へ進んだ。


 山岳地帯では、ユウマが崩れた岩の向こうを調べていた。


 岩巨兵がいた広場の奥には、細い通路が続いている。


 通路の壁には、古い傷のような跡がいくつも残っていた。


「誰かが通った跡か?」


 ユウマは壁に手を触れた。


 そのとき、足元に小さな石が転がってくる。


 ころん。


 拾い上げると、黒っぽい石の表面に銀色の筋が走っていた。


 《山銀石》を入手しました。


「鉱石か」


 ユウマは周囲を見回した。


 壁の一部にも同じ筋が見える。


 採取できそうな場所を確認しながら、奥へ進んでいく。


 やがて通路の先に、外へ続く出口が見えた。


「ようやく外か」


 出口を抜けると、山の斜面に小さな岩棚が広がっていた。


 そこからは、イベント会場となっている山岳地帯の景色が見渡せる。


 ユウマは少しだけ足を止めた。


「結構進んだな」


 そのとき、イベントのランキング表示が視界の端に浮かび上がった。


 ユウマは自分の順位を確認する。


 まだ上位にいる。


「このままいけるか……?」


 ユウマは表示を閉じ、再び前を向いた。


 まだ一日目は終わっていない。


 草原の窪地では、白雪が夕光ホタルを眺めていた。


 光は穴の周囲を飛び回り、時折、白雪の近くまでやってくる。


「近くに来た!」


 一匹が白雪の手の甲に止まった。


 ぴかっ。


 小さな光が手の甲を照らす。


「わあ……」


 白雪は動かないようにして、じっと眺めた。


 しばらくすると、夕光ホタルは再び飛び立ち、仲間のところへ戻っていった。


「またね!」


 白雪は小さく手を振る。


 そして、立ち上がった。


 空はさらに夕方らしい色になっている。


「そろそろ移動しようかな」


 白雪は窪地を出て、草原の方へ歩き始めた。


 けれど、数歩進んだところで足を止める。


 遠くの草むらに、何かが動いたように見えた。


「ん?」


 白雪は目を凝らす。


 草の間から、細長い影が一瞬だけ見えた。


「何だろう?」


 白雪は少しだけ考えた。


 それから、すぐに笑顔になる。


「見に行ってみよう!」


 白雪は再び走り出した。


 探索祭の一日目は、夕暮れを迎えている。


 それでも白雪の好奇心は、まだまだ止まりそうになかった。

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