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第83話 綿毛の草原と風に転がる不思議な木の実

「ふわふわだねぇ」


 白雪は《風綿草原》の真ん中で、両手を広げていた。


 風が吹くたび、白い綿毛が一斉に舞い上がる。


 まるで小さな雪が降っているようだった。


「もう一回、風が吹かないかな?」


 白雪が空を見上げていると、少し離れた草むらから、風綿モモンが顔を出した。


「あっ、風綿モモンちゃん!」


 白雪が手を振る。


 風綿モモンは、ぴょこんと跳ねて近づいてきた。


「さっきはありがとうね!」


 頭にくっついた綿毛を取りながら、白雪は風綿モモンを眺める。


 背中の綿毛は、周囲の草に生えているものとよく似ていた。


「もしかして、この綿毛も同じなのかな?」


 白雪は風綿モモンの背中をじっと見る。


 風綿モモンは少しだけ身体を揺らした。


 ふわっ。


 背中から綿毛が一つ飛び出す。


「あっ!」


 綿毛は白雪の目の前を通り、ゆっくりと地面へ落ちていった。


 白雪はそれを追いかけて拾い上げる。


 《風綿の毛》を入手しました。


「毛なんだ!」


 白雪は綿毛を指先でつまみ、そっと息を吹きかけた。


 ふわふわ。


 綿毛は少し浮き上がり、手のひらの上を転がるように移動する。


「おおー。軽いね!」


 白雪は何度か息を吹きかけて遊んだ。


 その様子を見ていた風綿モモンは、白雪の足元をくるりと回る。


「ん? どうしたの?」


 風綿モモンは窪地の奥へ走っていった。


 そして、少し離れた場所で立ち止まる。


「また何かあるの?」


 白雪はすぐに後を追った。


 窪地の奥は、少しだけ地面が盛り上がっていた。


 その斜面には、細い木が何本も生えている。


 枝には小さな丸い実がぶら下がっていた。


「あっ、木の実!」


 白雪は近づいて、実を見上げる。


 白い殻のようなものに包まれていて、風が吹くたびに枝の上で揺れていた。


 ころん。


 一つの実が枝から落ちる。


 地面に落ちた実は、そのまま斜面を転がっていった。


「あっ、待って!」


 白雪は慌てて追いかける。


 実は草の間を転がり、最後には小さな岩の隙間へ入り込んだ。


「あー! 入っちゃった!」


 白雪は岩の前にしゃがみ込む。


 隙間は狭いが、実はまだ見えている。


 指を伸ばしてみる。


 あと少し。


「んー……届かない」


 身体を少し横に傾ける。


 指先が実に触れた。


 ころん。


「取れた!」


 白雪は実をつまみ上げる。


 《風綿木の実》を入手しました。


「これも木の実なんだね!」


 白雪は表面を眺めた。


 殻のような部分には、細かな白い毛が生えている。


「中身はどうなってるのかな?」


 白雪は指先で殻を押してみた。


 少しだけ柔らかい。


 ぎゅっ。


 ぱきっ。


 殻が割れ、中から淡い黄色の実が現れた。


「おおっ!」


 白雪は匂いを嗅ぐ。


 甘い香りがする。


「食べられるかな?」


 一瞬だけ考えてから、ほんの少しかじってみた。


 しゃりっ。


「ん!」


 甘い。


 けれど、噛んでいるうちに口の中が少しだけ乾くような感覚があった。


「お水が欲しくなる味だね」


 白雪は水筒を取り出し、一口飲んだ。


 その直後、システムメッセージが表示される。


 《風綿木の実を食べました》

 《満腹度が少し回復しました》

 《味覚の熟練度が上昇しました》


「おいしかった!」


 白雪は残りの実を袋へしまった。


 風綿モモンは、割れた殻の方をくんくんと嗅いでいる。


「殻も欲しいの?」


 白雪が地面に置くと、風綿モモンは前足でそれを押した。


 ころころ。


 殻は斜面を転がっていく。


 風綿モモンはその後を追いかけた。


「あっ、遊んでる!」


 白雪も笑いながら追いかける。


 斜面を下った先には、細い木の根が地面から顔を出していた。


 その根の間に、丸いものがいくつも挟まっている。


 白雪はしゃがみ込んだ。


「あれ? 木の実がいっぱい」


 よく見ると、先ほどの風綿木の実とは形が違う。


 小さな茶色の実で、表面には渦巻きのような模様が刻まれていた。


 一つ拾い上げる。


 《風巻き木の実》を入手しました。


「風巻き?」


 白雪は手のひらの上で実を転がした。


 そのとき、風が吹く。


 ころころころっ。


 手のひらの上にあった実が、勝手に回り始めた。


「わっ!」


 白雪は驚いて手を開く。


 実は手のひらの上でくるくる回り、最後には小さく跳ねた。


「何これ! 面白い!」


 白雪はもう一つ拾って、同じように手のひらへ乗せてみた。


 今度は風が吹くまで待つ。


 ふわっ。


 ころころころっ。


 二つの実が同じ方向へ回り始めた。


「風が吹くと回るんだね!」


 白雪は実を地面に置いてみた。


 すると、二つの実は風に押されて転がり、根の隙間へ入っていった。


 ころころ。


 その先で、何かにぶつかった音がする。


 こつん。


 少し遅れて、根の奥から小さな音が聞こえた。


 からん。


「ん?」


 白雪は顔を近づけた。


 根の隙間から、青白い光が少しだけ見えている。


「また何かあるのかな?」


 白雪は近くの根をそっと持ち上げた。


 根は少ししなるだけで、簡単には動かない。


 無理に引っ張ると傷つけてしまいそうだった。


「うーん。これは難しいね」


 白雪は根の周囲を調べる。


 すると、根の間に小さな木の枝が挟まっていた。


「これが引っかかってるのかな?」


 枝を抜いてみる。


 その瞬間、根の奥から風が吹き出した。


 ひゅうっ!


 白雪の髪が揺れる。


 同時に、青白い光が少しだけ強くなった。


「わあ!」


 根の奥で、何かがくるくると回っている。


 白雪は目を凝らした。


 小さな風巻き木の実が、風に乗って回転していた。


 その周囲には、細かな白い粒が浮かんでいる。


「すごい! 中で回ってる!」


 白雪はしばらく眺めていた。


 すると、風が弱くなり、木の実の回転も止まった。


「止まっちゃった」


 白雪は少し残念そうに頬を膨らませる。


 もう一度枝を動かしてみる。


 ひゅうっ。


 ころころころっ。


 再び木の実が回り始めた。


「ふふっ。これ、風で動くんだね!」


 白雪は何度か枝を動かし、回る様子を楽しんだ。


 やがて、システムメッセージが表示された。


 《風の流れを利用した自然現象を発見しました》

 《イベントポイントを獲得しました》


「あっ、ポイント!」


 白雪は表示を確認すると、嬉しそうに笑った。


「これも探索になるんだね!」


 根の奥にあるものは取り出せそうにない。


 白雪は無理をせず、その場所を離れた。


 一方、北の森では黒羽が小さな岩場を調べていた。


 先ほどの根の隙間を抜けた先には、木々の間に隠れるような細い通路が続いている。


 通路の先には、古い倒木が横たわっていた。


「この倒木、自然に倒れたにしては位置が変ね」


 黒羽は周囲を確認する。


 倒木の下には、細い空間がある。


 その奥から、かすかに水音が聞こえた。


 黒羽は倒木の周囲を回り、通れそうな場所を探す。


 すると、倒木の端に小さな穴があった。


「ここなら入れそうね」


 身体を低くして穴をくぐる。


 その先には、木の根に囲まれた小さな水場が広がっていた。


 水面には葉が浮かび、岩の隙間から細い水が流れ込んでいる。


 黒羽は水辺へ近づいた。


 《根影の水場》を発見しました。


「新しい場所ね」


 黒羽は水辺を一周し、足場や出口を確認する。


 そのとき、水面の向こう側で何かが動いた。


 黒羽はすぐに短剣へ手をかける。


 水面から現れたのは、小さな水棲モンスターだった。


 一体だけではない。


 水草の間に、もう一体の影が見える。


「二体ね……」


 黒羽は相手の動きを見ながら、岩場へ移動した。


 水辺で戦うより、足場のある場所へ誘い込んだ方がいい。


 短剣を構え、わざと一度だけ水面へ石を投げる。


 ぱしゃん。


 二体が一斉に動いた。


 黒羽はその動きを確認し、岩の上へ跳び移った。


「こっちよ」


 水棲モンスターが水辺から飛び出す。


 その瞬間、黒羽は一体の横をすり抜け、短剣を振った。


 白雪は風綿草原を離れ、丘の斜面を歩いていた。


 風綿モモンは途中までついてきていたが、いつの間にか草むらへ戻ってしまった。


「またねー!」


 白雪は手を振る。


 それから、近くに生えている背の高い草を眺めた。


 草の先には、細長い穂がついている。


 風が吹くたび、穂が同じ方向へ倒れていた。


「こっちはどうなってるのかな?」


 白雪は草の間を歩いていく。


 すると、足元に小さな羽根が落ちていた。


 白い羽根の先端は、淡い青色になっている。


「羽根だ!」


 拾い上げる。


 《風草の羽根》を入手しました。


 白雪は羽根を手のひらに乗せ、ふうっと息を吹きかけた。


 羽根はふわりと浮き上がり、草の間を飛んでいく。


「あっ、飛んでいっちゃった!」


 白雪は羽根を追いかけた。


 羽根は草の上を越え、丘の斜面にある岩の近くへ落ちる。


 白雪が拾おうとしたとき、岩の向こうから小さな音が聞こえた。


 ころん。


「ん?」


 もう一度。


 ころん、ころん。


 白雪は岩の向こうを覗き込んだ。


 そこには、小さな丸い石がいくつも転がっていた。


 風が吹くと、石同士がぶつかり合って音を立てている。


「石が鳴ってる!」


 白雪はしゃがみ込んだ。


 石を一つ拾ってみる。


 表面には小さな溝があり、他の石とぶつかると澄んだ音が鳴った。


 こつん。


「いい音!」


 白雪は石を二つ手に取り、軽くぶつけてみる。


 からん。


「こっちも!」


 今度は少し大きな石を拾う。


 こつん、からん。


 音の高さが違う。


 白雪は夢中になって、いくつかの石を鳴らしていた。


 そのとき、近くを通りかかったプレイヤーが足を止めた。


「……何してるんだ?」


「石を鳴らしてるみたいだな」


「イベントポイントになるのか?」


「さあ……」


 白雪はプレイヤーたちに気づかず、石を並べて音を鳴らしている。


 ころん、からん。


 風が吹くと、地面の石も自然にぶつかり合った。


 ちりん。


「あっ、今の音かわいい!」


 白雪は一番小さな石を拾い上げた。


 《風鳴り小石》を入手しました。


 その直後、システムメッセージが表示される。


 《自然に発生する音の変化を発見しました》

 《イベントポイントを獲得しました》


「あっ、またポイント!」


 白雪は石を手のひらに乗せたまま、嬉しそうに笑った。


 プレイヤーたちは顔を見合わせる。


「やっぱりポイントになったぞ」


「どうやって見つけてるんだ、あの子……」


「本人は石で遊んでるだけに見えるけどな」


 白雪はそんな声にも気づかず、石を袋へしまった。


「これ、持って帰ろう!」


 草原の向こうから、また風が吹いてくる。


 白雪は風の通り道を探すように、顔を上げた。


「次はどこに行こうかな!」


 探索祭の一日目は、まだ続いている。


 白雪は今日も、ランキングより目の前の不思議に夢中だった。

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