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第81話 風に鳴る黄色い花と小さな音の秘密

「この花かな?」


 白雪は岩の間に咲いている淡い黄色の花へ近づいた。


 花は一輪だけ、周囲の草から少し離れた場所に咲いている。


 細長い茎の先には、釣り鐘のような形をした花びらがついていた。


 風が吹く。


 ちりん……。


「やっぱり音がする!」


 白雪はしゃがみ込み、花をじっと眺めた。


 花びらが揺れるたび、小さな鈴の音が聞こえてくる。


「かわいい音だねぇ」


 指先で花びらに触れてみる。


 ちりん。


 もう一度触れる。


 ちりん、ちりん。


「ふふっ。触っても鳴るんだ!」


 白雪はしばらく花をつついて遊んでいた。


 その様子を、隣にいた風耳ラビットが不思議そうに見つめている。


「風耳ラビットちゃんも聞いてみる?」


 白雪が花の近くを指差すと、風耳ラビットは耳をぴんと立てた。


 ちりん……。


 ぴょこん。


 どうやら気に入ったらしい。


 白雪は花の根元を調べてみた。


 細い茎の周囲には、小さな白い粒がいくつも落ちている。


「これは何かな?」


 一粒拾ってみる。


 指先に乗せると、かすかに震えているような感触があった。


 《風鈴花の種》を入手しました。


「種だったんだ!」


 白雪はもう一粒拾い、袋にしまった。


 そのとき、花の根元に小さな青い実が隠れているのを見つけた。


「あっ、実もある!」


 《鈴音の実》を入手しました。


 白雪は実を鼻に近づける。


 ほんのり甘い香りがする。


「これも食べられるかな?」


 少しだけかじってみる。


 しゃりっ。


 口の中に甘酸っぱい味が広がった。


 その直後、舌の上で小さな刺激が弾けた。


「んっ? ぴりぴりする!」


 白雪は目を丸くした。


 もう一度、舌先で確かめる。


 ぴりっ。


「わっ、舌がくすぐったい!」


 毒や麻痺のような感覚ではない。


 むしろ、炭酸のような刺激に近かった。


「面白い味!」


 《味覚》の熟練度が上昇しました。


 白雪は残りを袋にしまった。


「この花、どうして音が鳴るんだろう?」


 白雪は花の周囲を歩きながら考えた。


 風が吹くと鳴る。


 触っても鳴る。


 けれど、風が止まっているときは音がしない。


「中に何か入ってるのかな?」


 花を横から覗き込む。


 花びらの奥には、小さな空洞があるように見えた。


 白雪は顔を近づけて、そっと息を吹きかけてみる。


 ふうっ。


 ちりん!


「わあ!」


 花が大きく揺れ、少しだけ音が響いた。


 もう一度。


 ふうっ。


 ちりん、ちりん!


「これ、息でも鳴るんだね!」


 白雪は楽しくなって、何度か息を吹きかけた。


 そのうち、花の周囲にあった小さな白い粒が風に乗って舞い上がる。


 ふわふわと浮かんだ粒は、白雪の目の前を通り過ぎ、岩の隙間へ吸い込まれていった。


「あっ、飛んでいっちゃった!」


 白雪は粒の行き先を追いかけた。


 岩の隙間には、小さな穴が開いている。


 穴の奥からは、かすかに風の音が聞こえていた。


「また穴だ!」


 白雪はしゃがみ込み、穴を覗く。


 奥には小さな空間があるらしい。


 ただし、入口はかなり狭い。


「入れないかなぁ……」


 手を伸ばしてみる。


 指先が少しだけ届いた。


 そのとき、穴の奥から白い粒が一つ転がってきた。


 ころん。


 拾い上げると、先ほど花の根元にあったものと同じだった。


「これ、種かな?」


 《風鈴花の種》を入手しました。


「中にもあるんだ!」


 白雪はもう少し奥を調べようと、近くに落ちていた細い枝を拾った。


 枝を差し込み、軽く動かしてみる。


 こつん。


 何かに当たった。


 さらに動かす。


 ころころ。


 すると、穴の奥から風が強く吹き出した。


 ひゅうううっ!


「わっ!」


 白雪の髪が後ろへ流れる。


 風は一瞬だけ強くなり、すぐに弱まった。


 その直後、穴の奥で小さな音が鳴った。


 ちりん……。


「花の音と同じ!」


 白雪は目を輝かせた。


 どうやら、この穴の奥にも風鈴花があるらしい。


「何か見つけたのか?」


 少し離れた場所を歩いていたプレイヤーが、白雪の姿に気づいた。


「また穴を覗いてるぞ」


「今度は何だ?」


「さっきから花を吹いて鳴らしてたみたいだけど」


「花を吹く?」


「そう。何回も」


 プレイヤーたちは顔を見合わせた。


「イベントの探索って、あんな感じでいいんだな……」


「いや、あれが普通かは分からないけど」


 そのとき、穴の奥から風が吹き出した。


 白雪のマントが大きく揺れる。


「おおっ、また鳴った!」


 白雪は嬉しそうに穴を覗き込んでいる。


 プレイヤーたちは、しばらくその様子を眺めていた。


 その頃、北の森では黒羽が根の奥にあった小さな空間を調べていた。


 そこには、木の根が天井から垂れ下がり、地面には薄い水が流れている。


「水があるのね」


 黒羽は水の流れを確認する。


 細い水路は岩の下へ続いているようだった。


 水の中には、小さな青い粒がいくつも沈んでいる。


 《根水晶片》を入手しました。


「これも新しい素材ね」


 黒羽は周囲を調べたあと、地図に位置を記録した。


 そのとき、通路の外からモンスターの足音が聞こえた。


「一体だけじゃないわね」


 黒羽は短剣を構える。


 茂みから現れたのは、森に住む小型の獣型モンスターが三体。


 黒羽はすぐに距離を取った。


 正面からぶつかる必要はない。


 木の根を利用して動きを制限し、相手の進路を少しずつずらしていく。


 一体が根に足を取られた。


「そこね」


 短剣を一閃。


 続けて残りの二体にも攻撃を加え、素早く片付けた。


「よし」


 黒羽は周囲の安全を確認してから、再び探索を始めた。


 山岳地帯のユウマは、隠し通路の奥にある岩棚を調べていた。


 岩の隙間には、白い鉱石がいくつか埋まっている。


 すでに採取した場所とは別の場所にも、同じ鉱石が見つかった。


「こっちにもあるのか」


 ユウマは周囲を見回す。


 岩棚の端には、細い道が続いていた。


 その先から、風が吹いている。


「まだ奥があるみたいだな」


 剣を背負い直し、足場を確かめながら進む。


 すると、岩の陰から大きな影が現れた。


「……今度は大きいな」


 現れたのは、角の生えた岩獣だった。


 ユウマは剣を抜く。


「よし。相手になってやる!」


 白雪は穴の前にしゃがんだまま、枝を動かしていた。


 すると、枝の先に何かが引っかかった。


「ん?」


 ゆっくり引き抜く。


 先端には、細い青色の草が絡まっていた。


 《風鈴草》を入手しました。


「草が出てきた!」


 白雪は草を眺める。


 細い葉の先には、小さな鈴のような実がついている。


 指で触れると、かすかに音が鳴った。


 ちりん。


「こっちも音がするんだ!」


 白雪は風鈴草を袋にしまった。


 その直後、穴の奥で何かが動いた。


 ころん、ころん……。


 小さな石が転がってくる。


 そして、入口の近くで止まった。


 白雪は拾い上げる。


 青白い石の表面には、花のような模様が刻まれていた。


 《鈴花石》を入手しました。


「わあ、花の模様!」


 白雪は石を光にかざした。


 すると、穴の奥から再び風が吹き出す。


 ひゅうう……。


 ちりん、ちりん……。


 今度は複数の音が重なって聞こえた。


「すごい! いっぱい鳴ってる!」


 白雪は耳を澄ませた。


 まるで、小さな風鈴がたくさん並んでいるような音だった。


 その瞬間、システムメッセージが表示される。


 《特殊な自然音を発見しました》

 《イベントポイントを獲得しました》


「あっ、ポイント!」


 白雪は嬉しそうに笑う。


「音を聞いただけでもポイントになるんだね!」


 しばらく音を楽しんでから、白雪は立ち上がった。


 穴の奥はまだ気になる。


 けれど、入口が狭いので今はこれ以上調べられそうにない。


「また今度、来てみよう!」


 白雪は風耳ラビットがいる花畑の方へ戻っていった。


 風耳ラビットは、岩の上で丸くなっていた。


「風耳ラビットちゃん!」


 白雪が声をかけると、耳がぴくりと動く。


 そして、ゆっくり顔を上げた。


「また遊ぼうね!」


 風耳ラビットは、ぴょこんと一度跳ねた。


 白雪はその姿を見て、満足そうに笑った。


 探索祭の一日目は、まだ続いている。


 草原には、まだまだ知らない音や景色が隠れているようだった。

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