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第79話 青い光の先にあった水の小部屋

「ここ、通れるかな?」


 白雪は草原の窪地にある岩の隙間を覗き込んでいた。


 水たまりから続く細い水路は、岩の隙間へと流れ込んでいる。


 その奥から、淡い青色の光が漏れていた。


「ちょっと狭いね……」


 白雪は両手をついて、顔を近づける。


 水路の幅は腕を伸ばせば届きそうなほどしかない。人が通るには難しそうだった。


「うーん。入れないかなぁ」


 試しに指先を差し込んでみる。


 ひんやりとした水が指に触れた。


 そのまま奥へ伸ばすと、指先に何か硬いものが当たる。


 こつん。


「あれ?」


 もう少し動かしてみる。


 こつ、こつ。


 石のような感触だ。


 白雪は近くに落ちていた細い枝を拾い、水路の中へ差し込んだ。


 枝の先で、何かが転がる。


 ころん。


「石がある!」


 枝を少し動かすと、奥から小さな青い粒が流れてきた。


 水に押され、白雪の手元まで転がってくる。


「おっ!」


 拾い上げると、透き通った青色の小石だった。


 《水路青晶》を入手しました。


「きれい!」


 白雪は光にかざしてみる。


 青い石の中に、細い白い筋がいくつも走っている。


「水の中にあったからかな?」


 そのまま水路を覗き込んでいると、奥から小さな泡が浮かんできた。


 ぷくっ。


「また泡だ!」


 泡は水路の途中で弾けず、そのまま水面を進んでくる。


 白雪は指先でそっと触れた。


 ぷにっ。


 泡が少しだけへこんだ。


「おお……!」


 もう一度触ろうとした瞬間、泡はふわりと浮かび上がり、岩の隙間へ戻っていった。


「あっ、逃げちゃった!」


 白雪は残念そうに見送った。


「どうにかして中を見たいなぁ」


 白雪は岩の周囲を調べ始めた。


 隙間の上には、細い根が何本も伸びている。


 そのうちの一本は、水路の入口に沿うように伸びていた。


「この根っこ、邪魔なのかな?」


 白雪は根を引っ張らず、そっと横へ避けてみる。


 すると、根の下から小さな石が見つかった。


 丸い石の表面には、波のような模様が刻まれている。


「これも仕掛けかな?」


 白雪は石を指で押してみた。


 動かない。


 少しだけ回してみる。


 こりっ。


 石がわずかに回転した。


 その瞬間、水路の奥から水の流れる音が強くなる。


 ごぼごぼ……。


「わっ、また何か起きた!」


 水が一気に流れ込んできた。


 白雪は慌てて手を引っ込める。


 すると、水路の中にあった小さな石が奥へと押し流されていった。


 ころころ、ころん。


 さらに、岩の隙間から青白い光が強く漏れ始める。


「わあ……!」


 光は水の流れに合わせて、ゆっくりと明滅していた。


 やがて、岩の一部が少しだけ動く。


 ごとっ。


 隙間が広がった。


 人が通れるほどではないが、手や顔を入れられるくらいの幅になっている。


「おおー! 開いた!」


 白雪は嬉しそうに手を叩いた。


 中を覗くと、小さな空間が見える。


 水はその空間を通り、さらに奥へ流れているようだった。


「入れないけど、見えるようになったね!」


 白雪はその場に腹ばいになり、できるだけ奥を覗き込んだ。


 そのとき、青い光の中に小さな影が動いた。


「あっ!」


 白雪が目を凝らす。


 小さな魚のような生き物が、水の中を泳いでいた。


 体は半透明で、尾びれの先が青く光っている。


「お魚だ!」


 生き物は岩の向こうを一周し、こちらへ近づいてきた。


 そして、隙間から顔を出す。


 ぷくっ。


 小さな泡がひとつ浮かんだ。


「こんにちは!」


 白雪が指を近づけると、生き物は泡を吐きながら、指先に鼻を寄せた。


「わあ、かわいい!」


 白雪はしばらく、その生き物を眺めていた。


 体は小さく、手のひらに乗りそうな大きさだ。


 背中には水草のような薄いひれがあり、動くたびに淡い光が揺れている。


 生き物は岩の隙間から出たり入ったりを繰り返していた。


「こっちに来たいの?」


 白雪が手を水につける。


 生き物は近づいてきたが、岩の隙間から外へ出ることはできないようだった。


「そっかぁ。狭いもんね」


 白雪は入口の周りを見回した。


 岩を無理に動かすと崩れてしまうかもしれない。


 それに、奥には水が流れている。


「壊しちゃったら困るよね」


 白雪は少し考えてから、入口の横にあった小石を一つだけ拾った。


 すると、生き物がその小石を追いかけて動いた。


「石が好きなの?」


 小石を水の中に戻す。


 生き物はそれを鼻先で押し、ころころと転がした。


「ふふっ。遊んでる!」


 白雪も指先で石を少し動かす。


 生き物が追いかける。


 石を押す。


 生き物が追いかける。


 いつの間にか、白雪は小さな生き物と石ころ遊びを始めていた。


 その様子を見ていたプレイヤーが、少し離れた場所で呟く。


「……あの子、また遊んでるぞ」


「今度は何?」


「水の中の小さい生き物」


「イベントの探索中だよな?」


「そうだな」


「いや、楽しそうだからいいんだけどさ」


 プレイヤーたちは苦笑した。


 白雪はそんな視線に気づかず、石を転がしている。


 ころころ。


 ぷくっ。


「上手!」


 しばらく遊んでいると、生き物が突然、岩の奥へ泳いでいった。


「あれ?」


 少し待っていると、今度は小さな白いものをくわえて戻ってくる。


 生き物はそれを隙間から押し出し、白雪の手元へ流した。


「くれるの?」


 白雪は受け取る。


 それは小さな貝殻だった。


 表面には青い模様があり、光にかざすと水面のような輝きが見える。


 《水光貝》を入手しました。


「わあ! ありがとう!」


 白雪が笑うと、生き物はぷくぷくと泡を吹いた。


 さらに、もう一度奥へ戻っていく。


 今度は何も持ってこなかった。


 代わりに、水路の奥にある青い光が少し強くなった。


「ん?」


 白雪は奥を覗き込む。


 壁に埋まった青い結晶が光っているようだった。


 その周囲には、小さな水草が生えている。


 《水陰草》を入手しました。


「これも採れるんだ!」


 白雪は手が届く範囲にあった草を一つだけ採取した。


 その直後、システムメッセージが表示される。


 《未発見の水辺生物を発見しました》

 《イベントポイントを獲得しました》


「あっ、またポイント!」


 白雪はメッセージを見て笑った。


「この子も初めて見つかったんだね!」


 生き物は、まるで返事をするように泡を吐いた。


 一方、北の森。


 黒羽は木の根に隠れていた空間を調べ終え、少し開けた場所へ移動していた。


 その先には、低い岩壁が続いている。


 岩壁の下には、いくつかの小さな穴があった。


「風が抜けているわね……」


 黒羽は穴の前にしゃがみ込む。


 風の流れを確認すると、いくつかの穴は奥でつながっているようだった。


「どれかが入口かしら」


 慎重に枝を差し込み、反応を確かめる。


 一つ目は何も起こらない。


 二つ目は奥で何かに当たった。


 三つ目に枝を差し込んだとき、奥から小さな音がした。


 カチッ。


 黒羽はすぐに手を止めた。


 すると、岩壁の一部がわずかに動く。


「……やっぱり仕掛けね」


 黒羽は周囲を確認しながら、ゆっくりと岩壁へ近づいた。


 山岳地帯では、ユウマが岩壁の一部を調べていた。


 剣の柄で叩くと、他の場所とは違う音がする。


「ここだけ空洞か」


 周囲を探ると、岩の隙間に小さな窪みが見つかった。


 ユウマはそこに手をかけ、岩を少し押してみる。


 ゴトッ。


 岩の一部が動き、細い通路が現れた。


「おっ、隠し通路か?」


 通路の奥は暗く、先が見えない。


 ユウマは回復薬を確認し、剣を抜いた。


「何がいるか分からないな」


 慎重に足を踏み入れる。


 白雪は水辺の小さな生き物に手を振っていた。


「またね!」


 生き物は隙間の奥へ戻っていく。


 白雪は水光貝を袋にしまい、立ち上がった。


「楽しかった!」


 水路の奥にはまだ続きがありそうだったが、今の入口から進むのは難しい。


 無理に壊すのもよくない。


「また来たら、もっと遊べるかな?」


 白雪は窪地を離れようとした。


 そのとき、足元に小さな青い実が落ちているのを見つけた。


「あっ、実だ!」


 拾い上げて匂いを嗅ぐ。


 甘い香りがする。


「これも食べられるかな?」


 白雪は少しだけかじった。


 しゃりっ。


 甘くて、口の中に水分が広がる。


「おいしい!」


 《水光の実》を入手しました。

 《水光の実》を食べました。

 《満腹度》が少し回復しました。


 白雪は残りを袋にしまう。


「今日はおいしいものもいっぱいだね!」


 そう言って、草原の向こうを眺めた。


 まだ見ていない場所がたくさんある。


 次はどこへ行こう。


 白雪は少し考えたあと、風に揺れる草の向こうに、小さな白い影を見つけた。


「あっ、何かいる!」


 また新しい寄り道が始まりそうだった。


 探索祭の一日目は、まだ終わらない。

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