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第72話 花畑の先に広がる小さな秘密の池

 探索祭、初日。


 白雪は草原の花畑を抜け、さらに奥へと歩いていた。


「次は何があるかなー!」


 白いマントが風に揺れる。


 手には、昨日買った小さな風車。


 くるくるくる。


 風を受けて回る羽根を眺めながら、白雪は草原を進んでいく。


 先ほど見つけた岩の隙間には、光る小さな虫たちが暮らしていた。


 《ミツヒカリ》という名前の虫で、周囲には甘い香りのする《蜜光粉》が落ちていた。


 あの場所がイベントで最初に発見された生息地として記録されたらしい。


 けれど、白雪はそのことをあまり気にしていなかった。


「またあの虫さんに会いに行こうかな?」


 少しだけ振り返る。


 しかし、すぐに前方へ視線を戻した。


「あっ!」


 草の間に、白いものが見えた。


 近づいてみると、それは小さな石だった。


 表面には丸い模様が刻まれている。


《草原紋石》


「模様がある!」


 白雪は石を拾い上げ、くるりと回した。


 裏側にも、小さな線が刻まれている。


「昨日の石と似てるね」


 そう言いながら、白雪は石を持ち物にしまった。


 少し先には、背の高い草が集まっている場所があった。


 草の間から、淡い青色がちらりと見える。


「何だろう?」


 白雪は草をかき分けて進んだ。


 その先には、小さな池があった。


「わあ……!」


 池の水は透き通っていて、底にある白い石まで見える。


 周囲には丸い葉っぱが浮かび、小さな花がいくつも咲いていた。


《草原水花》


《浮草葉》


 白雪は池の縁にしゃがみ込む。


 水面を覗き込むと、小さな魚が泳いでいた。


 白い体に淡い青色の線が入っている。


「お魚さん!」


 白雪が指先を水面に近づける。


 魚はすっと離れた。


「あっ、逃げちゃった」


 白雪は少しだけ水面を眺めていた。


 すると、池の中央に小さな泡が浮かんだ。


 ぷくっ。


「ん?」


 もう一つ。


 ぷくっ。


 白雪は目を輝かせた。


「泡だ!」


 泡は水面から浮かび上がり、ゆっくりと白雪の方へ流れてくる。


 白雪は《泡操作》を使った。


 泡がふわりと持ち上がる。


 その瞬間、池の葉っぱの下から白い小さな生き物が顔を出した。


「あっ!」


 丸い体に、淡い青色のひれ。


 背中には小さな水草が乗っている。


 白雪が手を振ると、生き物はぷくっと泡を吐き出した。


「こんにちは!」


 生き物は池の中をゆっくり泳ぎ、白雪の近くまでやってきた。


「ここにも泡を吐く子がいるんだね!」


 白雪は嬉しそうに泡を動かした。


 生き物は泡を追いかける。


 くるりと回り、葉っぱの下をくぐり、また泡を吐き出す。


「ふふっ、楽しい!」


 しばらく遊んでいると、生き物は池の中央へ泳いでいった。


 そして、水面に浮かぶ小さな葉っぱを白雪の方へ押してきた。


《池泡葉》


「くれるの?」


 白雪が拾い上げると、生き物はもう一度泡を吐いた。


「ありがとう!」


 そのとき、イベント画面に表示が出た。


《未発見の水辺生物を発見しました》


《イベントポイントを獲得しました》


「あっ、またポイント!」


 白雪は嬉しそうに画面を見た。


 その後、池の周囲を歩いてみると、草の根元に小さな青い実が落ちていた。


《池青実》


 白雪は拾い上げ、匂いを嗅ぐ。


 少し甘い香りがする。


「これも食べられるかな?」


 少しだけかじってみる。


 ぷちっ。


「んー! 甘くて、ちょっと酸っぱい!」


 白雪は残りも食べた。


 《味覚》の熟練度が上昇しました。


「また上がった!」


 白雪は満足そうに笑った。


     ◇


 一方、北側の森林地帯では、黒羽が探索を続けていた。


 彼女は木々の間にある小さな斜面を見つけ、周囲を確認している。


「ここ、少し不自然だね……」


 木の根が一方向に集まっている。


 地面には、何かが通ったような跡もあった。


 黒羽は双短剣を構えながら、ゆっくり近づいた。


 根の間には、小さな隙間がある。


 中を覗くと、淡い紫色の光が見えた。


「何かありそうだね」


 黒羽は周囲の木の枝を避け、隙間の中へ入っていく。


 その先には、小さな空間が広がっていた。


 壁には紫色の結晶が埋まっている。


《紫晶片》


 床には、細い根が網のように広がっていた。


「これは……」


 黒羽が根に触れると、奥から小さな音が聞こえた。


 かさっ。


 黒羽はすぐに短剣を構える。


 根の隙間から、茶色い小型モンスターが飛び出した。


「やっぱり、住みついていたんだね」


 黒羽は相手の動きを見て、攻撃をかわす。


 モンスターが根に足を取られた瞬間、横から短剣を振るった。


 続けてもう一匹が現れる。


 黒羽は後ろへ下がり、相手が並ぶ位置を調整した。


「一度に相手をするより、分けた方がいいね」


 根の間を利用して一匹を足止めし、もう一匹を先に倒す。


 その後、残った一匹も確実に仕留めた。


《森林探索ポイントを獲得しました》


《モンスター討伐ポイントを獲得しました》


 黒羽は周囲を確認し、紫色の結晶を採取した。


「ここも未発見だったみたいだね」


 黒羽は小さく笑い、さらに奥を調べ始めた。


     ◇


 山側では、ユウマが岩場を進んでいた。


 先ほど倒した《ロックホーン》のいた場所から、さらに高い場所へ向かっている。


 足場は狭く、ところどころ崩れやすい。


「この辺りは慎重に進まないとな……」


 そのとき、岩の上から大きな影が落ちてきた。


 ユウマはすぐに横へ飛び退く。


 地面に落ちたのは、灰色の甲羅を持つ大きなモンスターだった。


《グレイシェル》


 背中には岩のような突起がいくつもある。


「今度は甲羅持ちか」


 ユウマは剣を構えた。


 グレイシェルはゆっくりと近づき、前脚を振り下ろす。


 ユウマは攻撃をかわし、横へ回り込む。


 剣を振るうが、硬い甲羅に弾かれた。


「やっぱり正面からは厳しいな」


 ユウマは距離を取った。


 相手が体を丸める。


「来るか!」


 グレイシェルが転がり始めた。


 ユウマは岩の陰へ移動し、相手の進路を見極める。


 転がる勢いが弱まった瞬間、背後へ回り込んだ。


「ここだ!」


 甲羅の隙間へ剣を突き込む。


 グレイシェルは大きく体を震わせ、やがて光の粒となって消えた。


《モンスター討伐ポイントを獲得しました》


「よし!」


 ユウマは息を吐き、岩場の先を見た。


 まだ奥に道が続いている。


「今日はもう少し進めそうだな」


 彼は剣を握り直し、先へ進んでいった。


     ◇


 草原の池では、白雪がまだ水辺で遊んでいた。


 池の小さな生き物は、白雪が動かした泡を追いかけている。


 白雪は泡を二つ並べ、ゆっくりと回転させた。


 生き物はその間をくぐり抜けた。


「上手!」


 白雪が拍手する。


 生き物はぷくっと泡を吐いた。


 その泡が水面に浮かぶと、池の奥から別の泡がいくつも現れた。


「あれ?」


 白雪は水面を覗き込む。


 泡は池の端へ向かって流れていく。


 その先には、草に覆われた小さな水の流れがあった。


「こっちにも続いてる!」


 白雪は泡を追いかけた。


 池の生き物も後ろからついてくる。


 水の流れは細く、草の根元を通って奥へ伸びていた。


 白雪は草を少しだけ持ち上げてみる。


 その向こうに、小さな空間が見えた。


「入れるかな?」


 白雪はしゃがみ込んで、頭からそっと覗いた。


 中は人が通れるほど広くはない。


 けれど、白雪なら体を低くすれば進めそうだった。


「ちょっと行ってみよう!」


 白雪は地面に手をつき、ゆっくり中へ入っていく。


 黒羽やユウマはいない。


 今は一人だ。


 奥には、小さな水たまりがあり、その中央に青い石が沈んでいた。


「わあ……!」


 白雪は手を伸ばした。


 石を拾い上げると、表面に小さな泡の模様が浮かんでいる。


《泡紋石》


 さらに、壁際には小さな白い花が咲いていた。


《水陰花》


 白雪は花を一輪採取する。


《水陰花》を入手しました。


 その瞬間、イベント画面が表示された。


《未発見の小規模水辺を発見しました》


《イベントポイントを獲得しました》


「あっ、またポイント!」


 白雪は嬉しそうに笑った。


 水たまりの外では、先ほどの小さな生き物が待っていた。


「案内してくれたの?」


 生き物は泡を一つ吐いた。


 白雪はその泡を指先で押し返す。


 ぷにっ。


 泡はゆっくりと生き物の方へ戻っていった。


 生き物はそれを追いかけるように泳いだ。


「ふふっ!」


 白雪はもう一度、泡を動かした。


 イベント初日。


 白雪はまだ、草原の小さな池からほとんど離れていない。


 けれど、その池と奥の水辺は、イベント中に初めて発見された場所として記録されていた。


 広い世界のどこかでは、他のプレイヤーたちも新しい場所を見つけ、戦い、ポイントを稼いでいる。


 そして白雪は、今日も目の前の小さな泡を追いかけていた。


 探索祭の初日は、まだ始まったばかりだった。

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