第71話 未知なる大地の探索祭、開幕
イベント当日。
ELOにログインした雪乃は、いつもより少し早くゲームの世界へやってきた。
白い髪がふわりと揺れる。
白と青を基調とした《白蒼の疾風》の装備は、今日も綺麗な状態を保っていた。
「わあ……!」
ログインした場所は町の中央広場。
そこには、普段よりもずっと多くのプレイヤーが集まっていた。
広場の中央には巨大な青い光の柱が立ち上り、その周囲にはイベントの案内表示が浮かんでいる。
《未知なる大地の探索祭》
<イベント開催中>
イベント期間:ゲーム内三日間
参加方式:個人参加
探索、発見、採取、討伐などの行動に応じてポイントを獲得できます。
イベント終了時の総合ポイントによってランキングが決定されます。
「始まったんだね!」
白雪は広場を見回した。
プレイヤーたちはそれぞれ装備を確認したり、持ち物を整理したり、仲間と話したりしている。
その中には、すでに町の外へ走り出しているプレイヤーもいた。
「白雪!」
声をかけられて振り返ると、黒羽が歩いてきた。
「おはよう!」
「おはよう。いよいよ始まったね」
「うん!」
その少し後ろからユウマもやってくる。
「二人とも準備はいいか?」
「もちろん!」
白雪は元気よく答えた。
「今日はそれぞれ別行動だね」
「うん。私は北側の森林地帯を中心に調べてみるつもり。地形を見ながら、まだ誰も見つけていない場所を探したいんだ」
黒羽が説明する。
「俺は山側へ向かう。強いモンスターがいる場所を探してみるつもりだ」
「そっか!」
白雪は二人の話を聞いて頷いた。
「私はね、まだ決めてない!」
「だと思った」
黒羽が笑う。
「気になるものが見つかったら、そっちに行く!」
「白雪らしいな」
ユウマも笑った。
「じゃあ、イベントが終わったらまた集まろう」
「うん!」
三人はそれぞれ手を振り、別々の方向へ歩き出した。
こうして、初めての大型探索イベントが始まった。
◇
白雪は町の門を抜けると、草原へ向かった。
周囲には同じように町を出ていくプレイヤーが大勢いる。
「よし、どこに行こうかな!」
白雪は風車を取り出した。
くるくるくる。
風車の羽根が回る。
白雪はその回転を眺めてから、草原の方を見た。
「あっ!」
草の間で、小さな黄色いものが跳ねた。
白雪の視線がそちらへ向く。
小さな黄色い生き物が、草の上をぴょんぴょん跳ねている。
「かわいい!」
白雪はすぐにそちらへ向かった。
イベント開始から、まだ数分。
周囲のプレイヤーたちは、未知の地域や珍しいモンスターを探そうと急いでいた。
しかし白雪は、目の前を跳ねる小さな生き物が気になって仕方がない。
「待ってー!」
生き物は草の間を走り、少し先の小さな岩の陰へ隠れた。
白雪は岩の向こうを覗き込む。
そこには、小さな黄色い花が咲いていた。
《陽跳ね花》
「あっ、花もある!」
白雪は花を一輪採取した。
《陽跳ね花》を入手しました。
そのとき、イベント画面に小さな表示が現れる。
《未発見植物を発見しました》
《イベントポイントを獲得しました》
「あっ、ポイント!」
白雪は画面を見つめた。
「花を見つけてもポイントになるんだ!」
どうやら、初めて発見された植物を見つけることでもポイントが入るらしい。
白雪は少し嬉しくなった。
「じゃあ、もっとお花を探そう!」
そう言って、草原の中へ歩いていった。
◇
一方、黒羽は北側の森林地帯へ向かっていた。
森の入口には多くのプレイヤーが集まっている。
黒羽は周囲を見回し、プレイヤーの少ない方向を選んで進んだ。
「みんなが向かう場所と違う方が、まだ調べられていない場所がありそうだね」
彼女は地形を確認しながら、木々の間を進んでいく。
途中、地面に残された小さな足跡を見つけた。
「これは……」
足跡は森の奥へ続いている。
黒羽は周囲の草の倒れ方や、木の幹についた傷を確認した。
「小型のモンスターかな?」
足跡を追いかけていくと、木の根元に小さな穴があった。
その近くには、淡い紫色の葉が落ちている。
《紫紋葉》
「これは初めて見る素材だね」
黒羽は周囲を確認してから、葉を採取した。
その直後、少し離れた場所で草が揺れる。
黒羽は双短剣を構えた。
木の陰から現れたのは、二匹の小型モンスターだった。
「なるほど。足跡の主はこの子たちかな」
黒羽は相手の動きを観察しながら、ゆっくり距離を取る。
一匹が飛びかかってきた。
黒羽は横へ避け、相手の着地点に合わせて短剣を振る。
もう一匹が背後へ回ろうとする。
しかし、黒羽はすでにその動きを予測していた。
「そっちは通さないよ」
足元の草を利用して相手の進路を誘導し、二匹を別々の方向へ分ける。
そのまま一匹ずつ攻撃して倒した。
《森林探索ポイントを獲得しました》
《モンスター討伐ポイントを獲得しました》
「よし。順調かな」
黒羽は短剣をしまい、さらに森の奥へ進んでいった。
◇
ユウマは山道を登っていた。
草原とは違い、岩場が多く足場も不安定だ。
周囲には大型モンスターを探しているプレイヤーが何人かいる。
「強い相手がいるといいんだが……」
ユウマは剣の柄に手を添えた。
そのとき、岩陰から大きな影が現れた。
灰色の毛皮を持つ四足のモンスター。
頭には太い角が一本生えている。
《ロックホーン》
「おっ、ちょうどいいな」
ロックホーンは地面を蹴り、ユウマへ突進してきた。
ユウマは横へ避ける。
角が岩にぶつかり、鈍い音が響いた。
「隙ができた!」
ユウマは踏み込み、剣を振り下ろす。
ロックホーンは体をひねって攻撃を受け流し、再び距離を取った。
「思ったより動きが速いな」
ユウマは剣を構え直す。
相手の突進を待ち、今度はぎりぎりまで引きつけた。
角が迫る。
ユウマは一歩だけ横へ踏み込み、すれ違いざまに剣を振るった。
攻撃が毛皮を切り裂く。
ロックホーンが大きく鳴き、体勢を崩した。
「これで終わりだ!」
最後の一撃を当てる。
ロックホーンは光の粒となって消えた。
《モンスター討伐ポイントを獲得しました》
「よし!」
ユウマは満足そうに剣をしまった。
さらに山の奥には、まだ見たことのない岩場が続いている。
「こっちも面白そうだな」
ユウマは次の探索場所へ向かった。
◇
一方、白雪は草原の小さな花畑にいた。
「わあ、いっぱい!」
そこには淡い黄色や白色の花が咲いている。
白雪は花畑の中を歩きながら、一つずつ眺めていた。
《陽跳ね花》
《草原白花》
《風揺花》
見覚えのある花もあれば、初めて見る花もある。
白雪は初めて見た花を中心に、少しずつ採取していった。
そのとき、花畑の奥で小さな羽音が聞こえた。
ぶんぶん。
「あれ?」
白雪が顔を向けると、黄色い小さな虫が花の周りを飛んでいた。
体は丸く、背中には透明な羽が二枚。
花の蜜を吸っているようだ。
「ハチさんかな?」
白雪が近づく。
虫は一度だけ白雪の方を向き、すぐに別の花へ飛んでいった。
「待ってー!」
白雪は追いかける。
虫は花から花へ移動し、花畑の奥にある小さな岩の隙間へ入っていった。
「あっ、そこに入るの?」
白雪は岩の隙間を覗き込む。
中には、小さな空間が広がっていた。
壁には淡い黄色の花が咲き、床には細かな花粉が積もっている。
「きれい……!」
白雪はそっと中へ入った。
すると、天井近くに小さな光がいくつも浮かんでいる。
よく見ると、虫たちが飛び回っていた。
《ミツヒカリ》
小さな虫たちは、白雪が入ってきても逃げなかった。
むしろ、白雪の周りをふわふわと飛んでいる。
「わあ……!」
白雪は手を伸ばした。
一匹が指先に止まる。
小さな羽が震え、淡い黄色の光がこぼれた。
「かわいい!」
白雪はしばらくその様子を眺めていた。
やがて、床に落ちていた小さな黄色い粒に気づく。
《蜜光粉》
「これ、何だろう?」
白雪は指先につけてみた。
ほんのり甘い香りがする。
少しだけ舐めてみると、口の中に優しい甘さが広がった。
「おいしい!」
その瞬間、イベント画面が表示された。
《未発見の生息地を発見しました》
《イベントポイントを獲得しました》
「あっ、またポイント!」
白雪は嬉しそうに笑った。
ただ、彼女はまだ気づいていない。
この小さな空間が、イベント開始後に初めて発見された場所として記録されたことに。
◇
しばらくして、白雪は岩の隙間から外へ出た。
花畑の外では、別のプレイヤーたちが採取をしていた。
「今の光、何だったんだ?」
「岩の隙間から出てきた子がいたぞ」
「中に何かあるのか?」
白雪が通った場所を見て、何人かのプレイヤーが話している。
その中の一人が岩の隙間を覗き込んだ。
「おっ、入れるぞ!」
「本当だ。行ってみようぜ」
プレイヤーたちは順番に岩の隙間へ入っていった。
やがて、イベント画面に表示が出る。
《新たな生息地が発見されました》
最初の発見者として記録された名前は、白雪。
「えっ、誰が見つけたんだ?」
「白い装備の子じゃないか?」
「あの子、さっき普通に出てきたぞ……」
プレイヤーたちは驚いたように顔を見合わせた。
その頃、白雪はすでに花畑から離れ、草原の向こうへ歩いていた。
「次は何があるかなー!」
白雪の冒険は、まだ始まったばかりだった。




