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第7話 森の水辺と不思議な泡

「昨日の穴、どうなってるかなぁ!」


 ELOにログインした雪乃は、昨日見つけた岩の隙間を思い出していた。


 奥から冷たい風が吹いていた、小さな穴。


 中に何があるのか、少し気になっている。


「よし! 今日はあそこを見に行こう!」


 そう決めた雪乃は、森の中を歩き始めた。


 ……のだが。


「ん?」


 少し進んだところで、足を止めた。


 木の枝に、何かがぶら下がっている。


 細長くて、緑色。


 風に揺れて、ゆらゆら動いていた。


「何だろう、あれ?」


 雪乃は近くの木に手をかけた。


「ちょっと登ってみよう!」


 木の幹をよじ登り、枝へ移る。


 ぶら下がっていたものに手を伸ばすと、指先に柔らかい感触があった。


「わっ、これ葉っぱ?」


 よく見ると、細長い葉が何枚も重なっている。


『《垂れ葉草》を入手しました』


「垂れ葉草だって!」


 雪乃は葉っぱをくるくると回して眺めた。


「これ、何かに使えるのかな?」


 説明欄には、薬草の材料になることがある、と書かれている。


「へぇー。薬草なんだ!」


 雪乃はアイテム欄にしまった。


 そして、せっかく登ったので、もう少し上へ行ってみる。


 枝の間から、森の奥が見えた。


「あっ、あっち明るい!」


 木々の向こうに、少し開けた場所がある。


「行ってみよう!」


 雪乃は枝から枝へ移り、最後は地面へ飛び降りた。


 着地すると、少しだけ足が滑った。


「わわっ!」


 両手を広げて体勢を整える。


 転ばずに済んだ。


『スキル《着地》の熟練度が上昇しました』


「おっ、上手になった!」


 雪乃は嬉しそうに足元を見た。


「もうちょっと高いところからでも大丈夫かな?」


 ……試すのは、また今度にしておこう。


 水の中のきらきら


 明るい場所へ向かって歩いていくと、木々の隙間から水の音が聞こえてきた。


 さらさら。


 ちょろちょろ。


「水の音!」


 雪乃は音のする方へ進んだ。


 そこには、小さな川が流れていた。


 水は透き通っていて、底にある石まで見える。


「わぁ、きれい!」


 雪乃は川辺にしゃがみ込んだ。


 水面に手を入れる。


 ひんやりして気持ちいい。


「冷たーい!」


 両手ですくってみると、水が指の隙間からこぼれていった。


 そのとき、水面の下で何かが光った。


「……ん?」


 小さな青い光。


 川底の石の間に、きらきらしたものが見える。


 雪乃は顔を近づけた。


「宝石かな?」


 手を伸ばしてみたが、少し深くて届かない。


「うーん……」


 雪乃は靴を脱ぎ、そっと水の中へ足を入れた。


 足首まで水に浸かる。


「つめたっ!」


 それでも、気になるものは気になる。


 ゆっくり川底へ手を伸ばす。


 指先が何かに触れた。


 ころん。


 小さな石を拾い上げる。


『《水晶片》を入手しました』


「水晶片!」


 雪乃は光にかざしてみた。


 透明な石の中に、青い筋が入っている。


「きれいだねぇ」


 もう一つあるかもしれない。


 雪乃は川底を探し始めた。


 石を一つずつ持ち上げてみたり、水の流れを眺めたりする。


 すると、川の端に小さな貝のようなものが張りついていた。


「貝?」


 指でつつく。


 ぴくっ。


「動いた!」


 貝のような生き物は、ゆっくりと殻を閉じた。


『《川殻虫》』


「虫なんだ!」


 雪乃はじっと観察した。


 殻は薄い水色で、表面に小さな模様がある。


「これ、食べられるのかな?」


 少し考える。


「……いや、今はいいや!」


 雪乃は川殻虫をそっと元の場所へ戻した。


 その代わり、近くに落ちていた丸い石を拾う。


『《川丸石》を入手しました』


「こっちは石なんだね!」


 水辺で遊んでいるうちに、いつの間にか時間が過ぎていた。


 雪乃は川から上がり、濡れた足を軽く振る。


「楽しかった!」


 泡の正体は?


 川沿いを歩いていると、少し先に不思議なものが見えた。


 水面に、白い泡が浮かんでいる。


 ぷく。


 ぷくぷく。


 泡は一か所から次々に出てきていた。


「何だろう?」


 雪乃は近づいていった。


 泡が出ている場所は、川の流れが緩やかになっている小さな水たまりだった。


 底の方から、泡が上がってきている。


「ここから出てるのかな?」


 雪乃はしゃがみ込んだ。


 ぷくっ。


 目の前で泡が弾ける。


「わっ!」


 顔に小さな水滴が飛んできた。


「ふふっ。面白い!」


 雪乃は指先を水につけてみた。


 少しぬるい。


 川の水よりも温かい気がする。


「何でここだけ温かいんだろう?」


 水の中を覗き込むと、底に白っぽい石がいくつも転がっていた。


 そのうちの一つに、泡がくっついている。


「石から泡が出てる?」


 雪乃は石を拾い上げた。


『《泡石》を入手しました』


「泡石!」


 手のひらに乗せると、表面から小さな泡が一つ出た。


 ぷくっ。


「わぁ!」


 雪乃は目を輝かせた。


 もう一度。


 ぷくっ。


「すごい! 泡が出る!」


 何度か眺めていると、泡石の表面が少しだけぬるぬるしていることに気づいた。


「……これ、食べられるのかな?」


 雪乃は泡石をじっと見た。


 石である。


 普通に考えれば食べ物ではない。


「うーん……」


 少しだけ悩んだあと、雪乃は泡石をアイテム欄へしまった。


「これは、食べるものじゃなさそう!」


 珍しくまともな判断だった。


 そのとき、川の向こう側で水面が大きく揺れた。


 ばしゃっ!


「ん?」


 魚が跳ねたのかと思った。


 しかし、水面から出てきたのは魚ではなかった。


 丸い身体に、透明なひれ。


 水色の小さなモンスターだった。


『アクアプニ』


「わぁ! ぷにぷにしてそう!」


 アクアプニは水面を跳ねながら、こちらへ近づいてくる。


 雪乃は立ち上がった。


「こんにちは!」


 もちろん返事はない。


 アクアプニは雪乃の足元まで来ると、ぴょんと跳ねた。


 水しぶきが飛ぶ。


「きゃっ!」


 顔に水がかかった。


「もうっ!」


 雪乃は笑いながら水を払い落とした。


 アクアプニがもう一度跳ねる。


 今度は少し横へ避けた。


 ばしゃっ。


 水しぶきが地面に落ちる。


「ふふっ、当たらなかった!」


 もう一度。


 ばしゃっ。


 今度は反対側へ避ける。


 アクアプニは何度も跳ねて、水を飛ばしてくる。


 雪乃はそのたびに左右へ動いた。


「わっ、こっち!」


「今度はそっち!」


 しばらく水しぶきと追いかけっこをしていたが、アクアプニが突然こちらへ飛び込んできた。


「えっ!?」


 雪乃は慌てて横へ跳んだ。


 アクアプニは地面に落ち、ころころと転がった。


 その隙に雪乃は短剣を抜く。


「よーし!」


 一度近づいて斬りつける。


 アクアプニの身体がぷるんと揺れた。


 反撃の水しぶきを避け、もう一度攻撃する。


 数回繰り返すと、アクアプニは光の粒になって消えた。


『経験値を獲得しました』


『《アクアプニの核》を入手しました』


「やった!」


 雪乃は短剣をしまった。


「水の中にもモンスターがいるんだね!」


 川を眺める。


 まだ何かいそうだ。


「今度はもっと奥まで見てみたいなぁ」


 そう言いながら、雪乃は川辺を歩き始めた。


 気になる穴はどこへ?


 しばらく川沿いを歩いたあと、雪乃は昨日見つけた岩の隙間を思い出した。


「あっ、そうだった!」


 今日はあの穴を見に来たのだ。


 水辺が楽しくて、すっかり忘れていた。


「えーっと、昨日はこっちだったかな?」


 森の中へ戻り、昨日通った道を探す。


 大きな木を目印にして、草むらを抜ける。


「あった!」


 岩の隙間を見つけた。


 雪乃はしゃがみ込んで、中を覗き込む。


 相変わらず奥は暗い。


 そして、冷たい風が吹いている。


「やっぱり風が出てる!」


 手をかざすと、指先にひんやりとした空気が触れた。


「中、どうなってるんだろう?」


 少しだけ手を伸ばしてみる。


 しかし、穴は狭く、腕を入れることはできなかった。


 雪乃は周囲を見回す。


 岩の隙間は小さく、身体が入るような大きさではない。


「うーん……入れないね」


 残念そうに頬を膨らませた。


「もっと大きな入口があるのかな?」


 岩の周りを一周してみる。


 しかし、それらしい場所は見つからなかった。


「まあ、また今度探そう!」


 雪乃はあっさりと諦めた。


 そして、近くに生えていた小さな青い草を見つける。


「おっ、草!」


 しゃがんで摘み取る。


『《水紋草》を入手しました』


「水紋草だって!」


 葉の表面には、水の波紋のような模様が入っていた。


「さっきの川の近くに生えてたからかな?」


 雪乃はアイテム欄へしまった。


 そのまま歩き出そうとしたとき、足元の土が少し盛り上がっていることに気づく。


「……ん?」


 指で土を払う。


 すると、小さな白い石が出てきた。


『《白光石》を入手しました』


「わぁ、光ってる!」


 白光石は、手の中で淡く輝いていた。


 雪乃はしばらく眺めてから、満足そうに頷いた。


「今日はきれいなものがいっぱい見つかったね!」


 今日の発見


 ログアウトの時間が近づき、雪乃は森の中で立ち止まった。


 今日もいろいろなものを見つけた。


 《垂れ葉草》


 《水晶片》


 《川丸石》


 《泡石》


 《アクアプニの核》


 《水紋草》


 《白光石》


 それに、新しいモンスターとも出会えた。


「ふふっ、今日も楽しかった!」


 スキル欄を確認してみる。


 新しいスキルは増えていない。


 けれど、昨日覚えた《跳躍》や《追跡》の熟練度が少し上がっていた。


「また何かしてたら覚えるかな?」


 雪乃は楽しそうに笑った。


 そして、最後にもう一度だけ岩の隙間を振り返る。


「やっぱり気になるなぁ」


 冷たい風が、穴の奥から吹いている。


「今度は別の道から探してみようっと!」


 そう決めて、雪乃はログアウトした。


 現実世界・学校


「川を見つけたの?」


 昼休み、雪乃の話を聞いた舞が尋ねた。


「うん! 水がきれいでね、泡が出る石もあったよ!」


「泡が出る石?」


「そう! ぷくぷくって!」


 雪乃は手で泡が出る様子を表現する。


 優真が少し呆れたように言った。


「また変なものを拾ってるな」


「変じゃないよ! 面白いんだよ!」


「で、その石は何に使うんだ?」


「分かんない!」


「分からないのかよ」


 舞が笑った。


「でも、そういう素材を集めるのも楽しそうだね」


「うん! あと、水の中にモンスターもいたよ!」


「倒したの?」


「うん! 水を飛ばしてきたから、避けて倒した!」


「水辺のモンスターか。俺も今度探してみるかな」


 優真は少し興味を持ったようだった。


「それで、昨日の穴は?」


 舞に聞かれ、雪乃は少しだけ頬を膨らませる。


「小さくて入れなかったの」


「入れなかったんだ」


「うん。でも、風が出てたよ!」


「別の入口があるのかもね」


「そうなの! だから、また探す!」


 雪乃は机に両手をついて、楽しそうに笑った。


 舞と優真は顔を見合わせる。


 どうやら、雪乃の森探索はまだまだ続きそうだった。


 そして本人は、次に何を見つけるかを考えるだけで、もうわくわくしていた。

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