第6話 森で見つけた不思議な生き物
「今日は何に会えるかなぁ!」
ELOにログインした雪乃は、昨日と同じ森の中に立っていた。
目の前には大きな木々が並び、木漏れ日が地面に模様を作っている。
昨日は森蜜実を見つけたり、水場で魚を捕まえたり、ハリネズミのモンスターと戦ったりした。
そして、麻痺キノコも食べた。
「うーん……昨日のキノコ、もう一回食べたらどうなるんだろう?」
雪乃はアイテム欄を開いた。
《黄斑キノコ》。
まだ残っている。
「……」
じーっと見つめる。
「いや、今日はやめておこう!」
昨日は二回も麻痺してしまった。
さすがに今日は別のものを探したい。
「よし! 探検開始!」
雪乃は元気よく歩き出した。
ふわふわの毛玉?
森の中をしばらく歩いていると、木の根元に白いものが落ちているのを見つけた。
「ん?」
雪乃は近づいてしゃがみ込む。
白くて丸い。
まるで小さな毛玉のようだった。
「……何これ?」
指先でつついてみる。
ふわっ。
柔らかい。
「わぁ、ふわふわ!」
もう一度つつく。
ふわふわ。
「これ、綿みたい!」
雪乃は両手で持ち上げた。
思ったより軽い。
そのまま手のひらで転がしてみる。
すると、毛玉が少しだけ動いた。
「……ん?」
ぴくっ。
「えっ?」
毛玉が動いた。
雪乃は目を丸くした。
「これ、生きてるの!?」
毛玉は、ぴょこんと跳ねた。
そして、少し離れた場所へ転がっていく。
「あっ! 待って!」
雪乃は慌てて追いかけた。
毛玉は木の根元をくぐり、草むらへ入っていく。
雪乃も後を追った。
「待って待ってー!」
しかし、毛玉は意外と速い。
ころころ、ぴょんぴょん。
草の間を器用に進んでいく。
「わっ、速い!」
雪乃は少し速度を上げた。
すると、毛玉が突然止まった。
その正体は、小さなモンスターだった。
白い毛に覆われた丸い身体。
小さな耳と、つぶらな瞳。
『モコリス』
「わぁぁ! かわいい!」
雪乃は思わず声を上げた。
モコリスは雪乃を見つめている。
「ねえねえ、触ってもいい?」
もちろん返事はない。
雪乃が手を伸ばすと、モコリスは少しだけ後ろへ下がった。
「逃げないでよぉ」
今度はゆっくり近づく。
すると、モコリスは小さく跳ねて、木の陰へ隠れてしまった。
「あっ!」
雪乃は木の反対側へ回る。
モコリスも反対へ移動する。
「……」
「……」
しばらく無言で追いかけっこが続いた。
「ふふっ、楽しい!」
モコリスは、ころころと転がるように走っていく。
雪乃もそれを追いかける。
しばらくすると、モコリスは大きな木の根元にある穴へ逃げ込んだ。
「あー、入っちゃった」
雪乃は穴を覗き込む。
奥は暗く、モコリスの姿は見えない。
「お家なのかな?」
少しだけ待ってみたが、出てこなかった。
「そっかぁ。またね!」
雪乃は手を振って、その場を離れた。
その直後、通知が表示された。
『スキル《追跡》を獲得しました』
「おっ!」
雪乃は足を止めた。
「追いかけてたら覚えた!」
どうやら、モコリスを追いかけ続けたことで獲得したらしい。
「へぇー! こんなスキルもあるんだ!」
雪乃は嬉しそうに笑った。
木の上にあるもの
モコリスと別れた雪乃は、森の中を歩き続けた。
すると、少し先に大きな木が立っているのが見えた。
その木には、太い枝が何本も伸びている。
「おっきい木!」
雪乃は近づいて、上を見上げた。
枝の上には、赤い実がいくつか見える。
「赤い実だ!」
雪乃は目を細めた。
地面からでは、どんな実なのかよく分からない。
「上に行けば見えるかな?」
昨日覚えた《登攀》を思い出す。
「よし、登ろう!」
雪乃は木の幹に手をかけた。
昨日よりも少し慣れている。
手をかける場所を探し、足を枝に乗せ、ゆっくりと登っていく。
途中で枝に座り、周囲を見渡した。
「わぁ……!」
木の上から見る森は、地面から見る景色とは違っていた。
木々の隙間から、遠くの草原も見える。
風が吹くと、枝葉が揺れて気持ちいい。
「ここ、いいねぇ」
雪乃はしばらく景色を眺めていた。
そして、目的の赤い実を見つける。
「そうそう、これ!」
枝の先に、赤い実が三つほどなっていた。
手を伸ばして、一つ摘み取る。
『《森赤実》を入手しました』
「おっ、これ前にも見た!」
以前食べたことのある実だった。
「これ、おいしかったんだよね!」
雪乃は一つを口に入れた。
甘くて、少し酸っぱい。
「うん、おいしい!」
残りの実も採取してアイテム欄へしまう。
すると、すぐ近くに小さな鳥が止まっているのに気づいた。
「……あっ」
小さな鳥は、青い羽根をしていた。
雪乃が近づくと、鳥は首を傾げる。
「こんにちは!」
もちろん返事はない。
雪乃はそっと手を伸ばしてみた。
しかし、鳥はすぐに飛び立ってしまった。
「あっ、行っちゃった!」
少し残念だったが、鳥が飛んでいった方向を眺める。
「青い鳥、かわいかったなぁ」
そのまま枝の上でしばらく休憩した。
そして、木から降りることにする。
今度は、途中の枝から別の枝へ移ってみた。
右の枝。
左の枝。
少し離れた枝へ、ぴょんと飛び移る。
「おおっ!」
思ったよりうまくいった。
もう一度。
ぴょん。
今度も成功。
『スキル《跳躍》を獲得しました』
「わっ! 跳躍!」
雪乃は目を輝かせた。
「ジャンプが上手になるのかな?」
説明を見ると、跳躍力や空中での身体操作に関係するスキルらしい。
「これ、楽しそう!」
雪乃はその場で軽く跳ねてみた。
枝が揺れる。
「わわっ!」
慌てて枝を掴んだ。
「危なかったぁ……」
少しだけ反省して、今度こそ地面へ降りた。
変な匂いのする草
地面に降りた雪乃は、再び森の探索を始めた。
しばらく歩くと、変な匂いが漂ってきた。
「……ん?」
雪乃は鼻を動かす。
甘い匂いではない。
少し青臭くて、薬草のような匂いがする。
「何だろう?」
匂いを頼りに進んでいくと、木の根元に細長い葉っぱが生えていた。
葉の表面には、白い筋が入っている。
「これかな?」
雪乃は葉っぱを一枚摘み取った。
『《白筋草》を入手しました』
「白筋草だって!」
手のひらに乗せて匂いを嗅いでみる。
「うーん……変な匂い」
もう一度嗅ぐ。
「やっぱり変!」
雪乃は少し笑った。
食べてみようかとも思ったが、今日はまだ食べていないものが多い。
「これは持って帰ろうっと!」
アイテム欄へしまう。
その近くには、青い小さな花も咲いていた。
『《青鈴花》を入手しました』
「こっちはかわいい!」
雪乃は花を採取して、満足そうに頷いた。
森の小さな広場
さらに奥へ進むと、木々が少し開けた場所に出た。
小さな広場のようになっていて、中央には大きな切り株がある。
「わぁ、広い!」
雪乃は広場の真ん中へ向かった。
切り株の上には、何かが置かれている。
近づいてみると、小さな木の実だった。
丸くて、表面に白い模様がある。
「これ、何かな?」
拾い上げる。
『《森紋の種》を入手しました』
「種?」
雪乃は手のひらに乗せた種を眺めた。
「植えたら何か生えるのかな?」
試しに、切り株の横にある柔らかい土を指で掘ってみる。
少しだけ穴を作り、種を入れてみた。
その上から土をかぶせる。
「よし!」
もちろん、すぐには何も起こらない。
「……あれ?」
雪乃はしばらく待った。
一分。
二分。
何も起きない。
「うーん、すぐには生えないかぁ」
当たり前である。
雪乃は種を植えた場所に小さな石を置いて、目印にした。
「また見に来ようっと!」
そのとき、広場の端で何かが動いた。
草むらが揺れる。
「ん?」
雪乃はそちらを向いた。
そこには、先ほどのモコリスとは違う生き物がいた。
茶色い身体に長い耳。
昨日戦ったフォレストラビットに似ているが、少し大きい。
『ヒルスカイラビット』
「わぁ、ウサギさん!」
雪乃は嬉しそうに近づこうとした。
しかし、ヒルスカイラビットは雪乃を見ると、すぐに走り出した。
「あっ、待って!」
また追いかける。
雪乃は木々の間を走り、ウサギの後を追った。
途中でウサギが急に方向を変える。
雪乃も慌てて曲がる。
「わわっ!」
足元の根に引っかかりそうになったが、何とか避けた。
そして、ヒルスカイラビットが大きな岩の向こうへ消えてしまった。
「あれ?」
雪乃は岩の周りを探した。
しかし、見つからない。
「逃げられちゃった」
少し残念そうに岩に手をつく。
すると、岩の隙間に小さな穴があることに気づいた。
「……ん?」
穴の奥から、ひんやりとした風が吹いてきた。
雪乃は顔を近づける。
「風が出てる?」
中は暗くてよく見えない。
「何かあるのかな?」
少しだけ覗き込んだ。
しかし、奥は暗いままだ。
「うーん……」
気になる。
とても気になる。
でも、今日はもうログアウトの時間が近い。
「また今度見に来よう!」
雪乃は穴の場所を覚えておくことにした。
そして、森の広場へ戻った。
今日も楽しかった!
しばらくすると、ログアウトを促す通知が表示された。
「えー、もう時間?」
雪乃は少し残念そうに周囲を見回した。
今日もいろいろなものを見つけた。
ふわふわのモコリス。
木の上の赤い実。
変な匂いのする草。
小さな種。
そして、岩の隙間にあった謎の穴。
「明日も来ようっと!」
雪乃はアイテム欄を確認する。
《森赤実》
《白筋草》
《青鈴花》
《森紋の種》
それから、モコリスを追いかけている途中で拾った小さな毛も入っていた。
「いっぱい集まった!」
今日覚えたスキルも確認する。
《追跡》
《跳躍》
「ふふっ!」
雪乃は満足そうに笑った。
『ログアウトしますか?』
「はーい!」
視界が白く染まる。
今日も、雪乃は森の中で自由に遊んでいた。
そして、森の奥にはまだまだ気になるものが残っている。
明日もきっと、寄り道だらけの冒険になるだろう。
現実世界・学校
「今日は何をしてたの?」
昼休み。
舞が雪乃に尋ねた。
「森でモコリスっていうモンスターを見つけたよ!」
「モコリス?」
「うん! 白くてふわふわなの!」
雪乃は両手で丸い形を作った。
「最初、毛玉かと思った!」
「それで?」
「追いかけてたら逃げちゃった!」
「捕まえられなかったんだ」
「うん。でも、追跡っていうスキルを覚えたよ!」
舞は少し驚いた。
「追いかけるだけでスキルが手に入るんだね」
「そうみたい!」
優真が会話に入る。
「俺は昨日、剣の練習をして剣術の熟練度を上げたぞ」
「へぇー!」
「舞は?」
「私は罠を試してたよ。まだうまくいかないけど」
「罠かぁ! 面白そう!」
雪乃は興味を持った。
「今度、私もやってみたい!」
「雪乃なら、何か変な罠を作りそうだね」
舞が笑う。
「えー? 普通の罠だよ!」
「その普通が信用できないんだよな」
優真の言葉に、三人は笑った。
雪乃は明日も森へ行くつもりだった。
岩の隙間にあった穴が、どうしても気になっていたからだ。
「明日はあの穴を見に行こうかな!」
そう言って、雪乃は楽しそうに笑った。




