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第67話 跳んで見つけた草原の小さな仕掛け

 町へ戻った翌日。


 白雪はログインすると、まず手の中にあるものを確認した。


 昨日見つけた《風紋の小石》。


 青みがかった小さな石で、表面には風が流れるような模様が刻まれている。


「うーん……」


 白雪は石をくるりと回した。


「これ、何に使うんだろう?」


 昨日の丘にあった仕掛けの中から出てきたものだ。何か特別な使い道があるのかもしれない。


 けれど、今のところは分からない。


「まあ、いっか!」


 白雪はあっさりと石をしまった。


 そのとき、待ち合わせ場所に黒羽がやってきた。


「おはよう、白雪」


「おはよう!」


「今日は何をするの?」


「ジャンプ!」


「……ジャンプ?」


 黒羽が首を傾げる。


「昨日、ジャンプしたら開く仕掛けもあるかもって話したでしょ?」


「ああ、そんなことを言っていたね」


「だから、探してみたい!」


「本当に探すんだ……」


 そこへユウマもやってきた。


「何の話だ?」


「今日はジャンプで動く仕掛けを探すの!」


「そんなものがあるかは分からないぞ」


「あるかもしれないよ!」


「まあ、探すだけならいいけどな」


 三人は町の門を抜け、草原へ向かった。


 イベントまで、あと四日。


 探索祭が近づいているものの、白雪は今日も普段どおりだった。


     ◇


 草原に出ると、白雪はさっそく小さな段差を見つけた。


「ここから跳んでみよう!」


「何もない場所だけど?」


「何かあるかもしれないよ!」


 白雪は少し後ろへ下がり、軽く助走をつける。


 とんっ。


 白蒼の疾風のブーツが草を蹴り、白いマントがふわりと広がった。


 着地。


「うーん……」


 何も起こらない。


「もう一回!」


 今度は少し横へ跳ぶ。


 とんっ。


 着地。


 やっぱり何も起こらない。


「ここは違うみたい」


「そりゃそうだろうな」


 ユウマが笑った。


 白雪は気にせず、次の場所へ歩き出す。


 草原には小さな石が点々と転がっていた。


 白雪はその石を見つけると、今度は石から石へ跳び移ってみる。


 ぴょん。


 ぴょん。


 ぴょん。


「おお、こっちは跳びやすい!」


「足場が安定しているからかな」


 黒羽が見ていると、白雪は少し大きな石に飛び乗った。


 その瞬間。


 かちっ。


「ん?」


 足元から小さな音がした。


 白雪が下を見る。


 石の表面に、薄い円形の模様が浮かんでいた。


「あっ!」


「どうした?」


「これ、光ってる!」


 黒羽とユウマが近づく。


 石の模様は淡い黄色に光り、すぐに消えてしまった。


「今のは仕掛けか?」


「たぶん!」


 白雪はもう一度、石から降りて乗ってみた。


 かちっ。


 今度も模様が光る。


「やっぱり!」


 白雪は嬉しそうに何度も乗り降りした。


「ちょっと待って。何度も踏んでも大丈夫なのかな?」


 黒羽が注意する。


「壊れないかな?」


「うーん……」


 白雪は足を止め、石をじっと見つめた。


 すると、少し離れた場所に同じような石があることに気づいた。


「あっちにもある!」


 その石も、表面に円形の模様が刻まれている。


 白雪はそちらへ移動した。


 ぴょん。


 かちっ。


 黄色い光が一瞬だけ灯る。


「こっちも!」


 さらに周囲を見渡すと、草の中にもう一つ、半分埋まった石が見つかった。


 その石にも模様がある。


「三つもあるよ!」


「並んでいるのかもしれないね」


 黒羽が周囲を確認する。


 石は三角形に近い形で配置されていた。


「順番に踏むのかな?」


 ユウマが言う。


「やってみよう!」


 白雪は最初の石に乗った。


 かちっ。


 次に二つ目。


 かちっ。


 最後の石へ。


 かちっ。


 その瞬間、三つの石の模様が同時に光った。


 地面が小さく揺れる。


 ごとごと……。


「おおっ!」


 少し離れた草地の一部が、ゆっくりと沈んでいった。


 そこには、丸い石の板が隠されていた。


「何か出てきた!」


「やっぱり仕掛けだったんだね」


 黒羽が近づいて、石の板を確認する。


 中央には、小さなくぼみが一つ。


 その周囲には、三つの丸い模様が刻まれていた。


「ここに何かを置くのかな?」


「昨日の《風紋の小石》みたいなものか?」


 ユウマが尋ねる。


「そうかもしれないね」


 白雪は持ち物を確認した。


 けれど、くぼみに合いそうなものは見つからない。


「うーん……」


 白雪は石の板の周囲を覗き込んだ。


 すると、板の端に小さな穴がある。


「ここ、何か入るかな?」


「小さな穴だね。無理に触らない方がいいかも」


「そうだね」


 白雪は穴を覗くだけにした。


 しばらくすると、石の板から淡い光が消え、ゆっくりと元の位置に戻っていった。


「あっ、閉じちゃった!」


「時間が経つと戻る仕組みなのかな」


「もう一回やってみよう!」


 白雪は三つの石を順番に踏んだ。


 かちっ。


 かちっ。


 かちっ。


 再び石の板が現れる。


 今度は少しだけ、板の中央から風が吹き上がった。


「わっ!」


 白雪の髪がふわりと浮く。


 風はすぐに止まってしまった。


「風が出たね!」


「何かを動かす仕掛けなのかな?」


 黒羽が考える。


 しかし、それ以上の反応はなかった。


「また今度来てみよう!」


 白雪は満足そうに頷いた。


 仕掛けの正体はまだ分からない。


 でも、ジャンプで動くものを見つけられた。


 それだけで十分だった。


     ◇


 その後、白雪は草原の中を歩き回っていた。


 仕掛けを探すことは、もう半分くらい忘れている。


 今は、少し離れた場所で何かが動いたのが気になっていた。


「あれ、何かな?」


 草の間を、小さな茶色い影が走っていく。


 白雪は目を細めた。


 影は草の陰に隠れ、少しだけ頭を出す。


 丸い耳。


 短い尻尾。


 そして、背中には小さな葉っぱが乗っていた。


「あっ、かわいい!」


 白雪が近づく。


 すると、小さな生き物はぴょんと跳ねて逃げた。


「あっ、待って!」


 白雪も追いかける。


 生き物は草の間をくぐり抜け、小さな穴へ逃げ込んだ。


「入っちゃった……」


 白雪は穴の前にしゃがみ込む。


 中を覗いてみるが、暗くてよく見えない。


「こんにちはー」


 もちろん返事はない。


 白雪は少し考えてから、持ち物の中にある《森赤実》を取り出した。


 穴の入口にそっと置く。


「食べるかな?」


 黒羽とユウマも近づいてきた。


「また餌付けしてるの?」


「うん!」


「出てくるといいな」


 三人は少し離れて待つことにした。


 しばらくすると、穴の奥から小さな鼻先が出てきた。


 生き物は周囲を確認してから、赤い実をくわえて穴の中へ戻っていく。


「あっ、持っていった!」


 白雪は嬉しそうに笑った。


「気に入ってくれたみたいだね」


「うん!」


 少しして、穴の入口に小さなものが置かれた。


《草葉の実》


「お返し?」


 白雪はそれを拾った。


 小さな緑色の実で、表面には細い葉脈のような模様がある。


「食べられるかな?」


「また食べるの?」


「気になるから!」


 白雪は実をじっと見つめた。


 少し匂いを嗅いでみる。


 青い草のような香りがした。


「うーん……」


 白雪は小さくかじってみた。


 しゃくっ。


「ん!」


 口の中に、ほんのりとした甘さが広がる。


 後から少しだけ草の香りが残った。


「おいしい!」


「大丈夫そう?」


「うん! 甘いよ!」


 白雪は残りも食べた。


 すると、システムメッセージが表示された。


《草葉の実》を食べました。

《味覚》の熟練度が上昇しました。


「あっ、味覚が上がった!」


「いろいろ食べているからね」


 黒羽が笑う。


 白雪は穴の方へ向き直った。


「ありがとう!」


 穴の奥から、小さな鳴き声が聞こえた気がした。


     ◇


 草原をさらに歩いていると、白雪は小さな水たまりを見つけた。


 昨日の雨が残っているのか、浅い水が草の間に広がっている。


 その水面に、小さな丸いものが浮かんでいた。


「あれ?」


 白雪が近づく。


 丸いものは、水面でゆらゆら揺れている。


 よく見ると、小さな葉っぱのようなものがついていた。


「水草かな?」


 指先で触れてみる。


 ぷるん。


 丸いものが揺れた。


「わっ、柔らかい!」


 白雪はそっと持ち上げた。


《水浮実》


「水に浮く実なんだね」


 白雪は水浮実を眺め、匂いを嗅いでみた。


 ほんのり甘い香りがする。


「これも食べられるかな?」


「さっき食べたばかりじゃない?」


「でも、こっちは別の実だよ!」


 白雪は少しだけかじった。


 ぷちっ。


 口の中に水分が広がる。


「んー! 甘くて冷たい!」


 残りも食べると、体が少しだけ軽くなったように感じた。


《水浮実》を食べました。

《水辺採取》の熟練度が上昇しました。


「こっちも上がった!」


「水辺で採ったものだからかな」


 黒羽が水たまりを覗き込む。


 そのとき、水面の奥で小さな影が動いた。


 ぴょこっ。


 白い頭が一瞬だけ顔を出す。


「あっ!」


 白雪が身を乗り出した。


 しかし、影はすぐに水の中へ隠れてしまった。


「何かいたね!」


「小さな水棲生物かな?」


「もう一回出てこないかなー」


 白雪は水面を覗き込んだ。


 けれど、影はもう現れなかった。


     ◇


 その後、三人は町へ戻ることにした。


 白雪の持ち物には、《草葉の実》《水浮実》のほか、いくつかの採取品が増えていた。


 特別な宝物を見つけたわけではない。


 新しい装備を手に入れたわけでもない。


 それでも白雪は、今日の冒険に満足していた。


「今日はジャンプで動く仕掛けを見つけられたね!」


「まだ完全には解けていないけどね」


「でも、動いたよ!」


「それはそうだな」


 ユウマが笑う。


「今度は別の仕掛けも探してみたいな」


 黒羽が言うと、白雪はすぐに頷いた。


「うん! 今度は何をしたら動くんだろう?」


「押すとか、回すとか?」


「走ったら動くとか!」


「ありそうだな」


「転がったら?」


「それは仕掛けというより、ただ転がっているだけじゃない?」


 三人は笑いながら町へ戻った。


 イベントまで、あと四日。


 探索祭が近づいていることは確かだけれど、白雪の興味は今日見つけた仕掛けや小さな生き物に向いていた。


 明日は何を見つけるのだろう。


 白雪は風車をくるくる回しながら、町の門をくぐった。

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