第63話 森の奥で見つけた小さな光の正体
「光って、どこにあったの?」
舞が白雪の隣に並び、前方を見渡した。
「えっとね、あっち!」
白雪が指さしたのは、木々が少し密集している場所だった。
葉の隙間から、淡い青色の光がちらちらと見えている。
「確かに何か光ってるな」
優真も目を細める。
「モンスターかもしれないわね」
「そうかな?」
「光るモンスターもいるだろ」
「そっか! かわいい子だといいなあ」
白雪は楽しそうに歩き始めた。
「戦うことになるかもしれないんだけどね……」
舞が小さく呟く。
「白雪の場合、まず近づいて観察するんじゃないか?」
「そうね」
二人は顔を見合わせ、白雪の後を追った。
◇
木々の間を進んでいくと、地面に小さな青い花が咲いていた。
「あっ、お花!」
白雪はすぐにしゃがみ込む。
「また花か」
「だって、きれいだよ!」
花びらは薄く透き通っていて、中心部分が淡く光っている。
白雪が指先で触れると、花びらが小さく揺れた。
《光青花を入手しました》
「光青花だって!」
「光る花なんだね」
舞も近くで観察する。
「この辺り、ほかにも咲いているわ」
「本当だ!」
白雪は周囲を見回した。
木の根元には白い花、岩の隙間には紫色の小さな花もある。
それぞれ一つずつ採取してみる。
《森白花を入手しました》
《紫根花を入手しました》
「こっちは紫色だよ!」
「花だけでも種類が多いな」
優真が感心したように周囲を見る。
「白雪はこういうものを見つけるのが好きなのね」
「うん! 知らない花があると気になるもん!」
白雪は満足そうに立ち上がった。
そして、再び青い光を探す。
「あっ、あそこ!」
木の枝の間で、光がふわりと動いた。
今度はさっきより近い。
三人はそちらへ向かった。
◇
光が見えた場所は、小さな岩場だった。
岩の周囲には苔が生えていて、地面には青白い小石がいくつも転がっている。
その中央に、淡い青色の光が浮かんでいた。
「わあ……!」
白雪が足を止める。
光は小さな球のような形をしていた。
ふわふわと上下に揺れながら、周囲を漂っている。
「何だろう、あれ?」
舞が慎重に距離を取る。
「モンスターか?」
優真は剣の柄に手を添えた。
白雪は二人の間から、光をじっと見つめる。
「小さいね」
光は白雪の方へゆっくり近づいてきた。
ぽわん。
「あっ!」
白雪が手を伸ばす。
光は指先のすぐ前で止まり、くるりと一回転した。
「かわいい!」
「触って大丈夫なのか?」
「分かんない!」
「分からないなら、少し待ちなさい」
舞が止める。
しかし光は、白雪の手の周りをくるくると回り始めた。
そして、白雪の手の甲にちょこんと触れる。
ひんやりとした感触が伝わった。
「冷たい!」
光は驚いたように離れ、少し上へ浮かんだ。
「ごめんね?」
白雪が声をかけると、光はまた近づいてきた。
敵意はなさそうだった。
「友好的なモンスターなのかな?」
舞が呟く。
「名前は表示されないな」
優真も周囲を確認した。
白雪は光の動きに合わせて、ゆっくり手を動かしてみた。
光はその手を追いかけるように移動する。
「おいでー」
ぽわん。
光が白雪の指先に近づく。
「わあ、ついてきた!」
白雪は嬉しそうに笑った。
◇
光は白雪の周りを何度か回ったあと、岩場の奥へと移動した。
「あっ、待って!」
白雪が後を追う。
「また追いかけるのね」
舞も続く。
「何かあるのかもしれないな」
優真が最後尾を歩いた。
岩場の奥には、小さな窪みがあった。
そこには青白い石がいくつも埋まっている。
光はその石の上に浮かび、ふわふわと揺れていた。
「ここがお家なのかな?」
白雪はしゃがみ込んだ。
石の表面には細い模様があり、光が触れるたびに淡く輝く。
「この石、きれいだね!」
白雪は手近な一つを拾い上げた。
《光紋石を入手しました》
「光紋石!」
さらに周囲を見てみると、石の隙間に小さな粒が落ちていた。
《青光粒を入手しました》
「こっちは小さい!」
「素材が採れる場所だったんだな」
優真が石を眺める。
「イベントでもこういう発見がポイントになるのかもしれないわね」
舞が言った。
「そうだね!」
白雪は光の周りを見回す。
すると、岩の隙間から細い風が吹き出していることに気づいた。
「ん?」
白雪は顔を近づけた。
ひゅう……。
風と一緒に、青い光の粒が一つ飛び出してくる。
「あっ、出てきた!」
光の粒は白雪の目の前を通り過ぎ、ふわりと上へ浮かんだ。
白雪は手を伸ばしたが、届かない。
「もうちょっと!」
そのまま背伸びをする。
あと少し。
ぴょん!
白雪が跳び上がると、光の粒が指先に触れた。
《風光粒を入手しました》
「取れた!」
「わざわざ跳んだのか……」
優真が呆れたように言う。
「だって届かなかったんだもん!」
舞は笑っていた。
「でも、風が出ている場所を見つけたのは面白いわね」
岩の隙間は小さく、人が通れるほどの広さはない。
白雪は少し覗き込んでみた。
奥は暗く、青い光がわずかに見える。
「中にも何かあるのかな?」
「入れそうにないわね」
「うーん……」
白雪は岩の周りを回ってみたが、ほかに通れそうな場所はなかった。
「また今度見に来よう!」
そう言って、あっさり立ち上がった。
◇
岩場から離れると、青い光は再び白雪の周りを漂い始めた。
「まだついてくるね!」
「気に入られたのかしら」
「そうだったら嬉しい!」
光は白雪の頭の上を通り、少し先の木の枝へ移動した。
そこには、小さな巣があった。
「あっ、鳥の巣!」
白雪はすぐに足を止めた。
巣の中には、白っぽい小さな羽が一枚落ちている。
「羽があるね」
「親鳥が近くにいるかもしれないから、あまり近づかない方がいいわ」
「うん!」
白雪は木の下から見上げるだけにした。
青い光は巣の近くを一周すると、また白雪のところへ戻ってきた。
「この子、鳥さんのお友達なのかな?」
「どうだろうな」
優真が周囲を見回す。
木の枝の向こうに、小さな影が動いた。
白い羽に青い模様のある鳥が、枝の上から三人を見ていた。
「あっ、鳥さん!」
白雪が声を上げる。
鳥は一度だけ鳴くと、森の奥へ飛んでいった。
青い光もそれを追いかけるように移動する。
「あっ、行っちゃう!」
白雪は少しだけ追いかけようとしたが、舞が声をかけた。
「白雪、そろそろ戻る時間も考えた方がいいんじゃない?」
「あっ、そうだった!」
白雪は足を止めた。
優真も周囲を見渡す。
「今日はこの辺りまでにしておくか」
「そうね。まだイベントまで時間もあるし」
「うん! また来ようね!」
白雪は青い光が消えていった方向へ手を振った。
◇
町へ戻る道の途中。
三人は、森で見つけたものについて話していた。
「今日は光る生き物を見つけられてよかった!」
「結局、あれが何なのかは分からなかったけどね」
舞が笑う。
「でも、素材も見つけたしな」
優真が言った。
「うん! 光紋石も青光粒もきれいだった!」
「白雪は素材を集めるのが好きだな」
「好きだよ!」
白雪は元気よく答えた。
「でも、集めようと思って集めてるわけじゃないんだよね」
「どういうことだ?」
「気になるものがあったら拾ってるだけ!」
「……なるほど」
舞は白雪のアイテム欄を思い出した。
きっと、今まで見つけた素材が大量に入っているのだろう。
「白雪、イベント前に一度持ち物を確認しておきなさいよ」
「うん!」
「本当に分かってる?」
「たぶん!」
「もう……」
舞が苦笑する。
優真も笑った。
森の入口が見えてくる。
その向こうには町の門があり、プレイヤーたちが行き交っていた。
「今日は楽しかったね!」
「ああ。森もなかなか面白かった」
「まだ見てない場所も多そうね」
「いっぱいあるよ!」
白雪は嬉しそうに答えた。
イベント開催まで、あと7日。
白雪は今日も、順位や報酬のことより、目の前にある不思議なものを見つけることを楽しんでいた。
そして、そんな白雪の自由な冒険が、いつか大きな発見につながることを、まだ誰も知らない。




