第62話 初めての大型イベント告知
町の門を抜けた三人は、草原の道を歩いていた。
「森までもう少しかな?」
先頭を歩く白雪が、前方を眺めながら尋ねる。
「そうね。あの木々が見えているところが森の入口だと思うわ」
舞が答えた。
「白雪はあの辺りをずっと探索してたんだよな?」
後ろを歩く優真が尋ねる。
「うん! いろんなものがあったよ!」
「例えば?」
「えっとね、池とか滝とか、温泉とか!」
「温泉?」
優真が少し驚いた。
「森の中に温泉があるのか?」
「あるよ! 暖かくて気持ちよかった!」
「ゲームの中でも温泉に入れるんだね」
舞も興味を持ったようだった。
「うん! ふわふわの動物も一緒に入ってきたんだよ!」
「動物と温泉……?」
「そう!」
白雪は楽しそうに話す。
「あとね、泡を出す水の生き物もいたよ!」
「泡?」
「うん! ぽわんって出すの!」
白雪は両手を使って、泡が浮かぶ様子を表現した。
「それで《泡操作》を使って遊んだんだよ!」
「相変わらず、モンスターと遊んでるのね」
舞が笑う。
「だって面白いんだもん!」
「まあ、白雪らしいな」
優真も苦笑した。
そんな話をしながら歩いていると、三人の視界に突然光が広がった。
ピコン!
「ん?」
白雪が足を止める。
舞と優真も同時に立ち止まった。
目の前には、普段の通知とは違う大きなシステムウィンドウが表示されていた。
◇
<第一回大型イベント開催のお知らせ>
《未知なる大地の探索祭》
ELO初の大型イベントを開催いたします!
開催期間:3日間
参加形式:自由参加型
イベント内容:
フィールドを自由に探索し、未知の場所や珍しい素材、モンスターなどを発見しよう!
探索、発見、討伐などの成果に応じてイベントポイントを獲得できます。
獲得したポイントに応じて、ランキングが集計されます。
報酬:
・ランキング上位10名に特別報酬
・イベントポイント交換所を設置
・総合ランキング上位3名に記念称号を授与
※記念称号にステータス補正や戦闘能力の上昇効果はありません。
詳細はイベント開始時に公開されます。
開催まで残り7日!
◇
「おおおっ!」
白雪の目が輝いた。
「探索イベントだって!」
「そうみたいね」
舞は告知を上から順番に確認している。
「三日間の自由参加型か。探索だけじゃなくて討伐でもポイントが入るんだな」
優真は報酬の部分を確認していた。
「上位10名には特別報酬か……。ポイント交換もあるみたいだな」
「ねえねえ!」
白雪が二人の間に入ってくる。
「これって、好きなところを探検していいってことだよね?」
「基本的にはそういうことだと思うわ」
「森でもいいの?」
「イベント対象のフィールドなら大丈夫じゃないかな」
「じゃあ、あの池も? 温泉も?」
「イベントの対象範囲によると思うけど……」
「わああ! 楽しそう!」
白雪はその場でぴょんと跳ねた。
どうやら、報酬やランキングよりも自由に探索できることが気になっているらしい。
「白雪、ちゃんとイベントの説明も確認しなさいよ」
「あとで見る!」
「今見てるでしょう?」
「えへへ!」
舞は小さくため息をついた。
優真はイベント告知を閉じずに、もう一度内容を確認する。
「探索でポイントが入るなら、普段から見つけにくい場所を探しておくのもいいかもしれないな」
「優真はランキングを狙うの?」
「せっかくなら上位を目指してみたい。報酬も気になるしな」
「そっか!」
白雪は再び告知を眺めた。
上位3名には記念称号。
特別な能力が付くわけではないらしい。
「称号かあ……」
「白雪は欲しくないの?」
舞が尋ねる。
「うーん……。もらえたら嬉しいけど、いろんな場所に行ける方が楽しそう!」
「だと思った」
舞は笑った。
◇
町の方から、何人ものプレイヤーの声が聞こえてきた。
「イベント告知来たぞ!」
「探索祭だって!」
「三日間か。結構長いな!」
「上位10名に報酬があるのか!」
「ポイント交換もあるなら参加してみようかな」
町の門の近くでも、告知を見たプレイヤーたちが集まり始めていた。
中には、すでにイベントの話をしている人たちもいる。
「探索系なら、今のうちにフィールドを調べておいた方がいいな」
「いや、事前に見つけた場所もポイントになるのか?」
「詳細が出るまでは分からないだろ」
「討伐でもポイントが入るなら、強いモンスターを探すのもありだな」
あちこちで話が盛り上がっている。
白雪はそんな様子を眺めていた。
「みんな楽しそうだね!」
「初めての大型イベントだからね」
舞が答える。
「イベントが始まるまで、あと7日か」
優真が残りの日数を確認する。
「それまでに装備を整えたり、回復薬を補充したりしておくのもいいかもしれないな」
「回復薬なら持ってるよ!」
「白雪はどれくらい持ってるんだ?」
「いっぱい!」
「またそれか……」
優真は苦笑した。
舞も白雪のアイテム欄を思い出していた。
森で集めた素材が大量に入っているらしいが、本人はほとんど整理していない。
「白雪、イベント前に一度アイテムを整理しておいた方がいいんじゃない?」
「えー?」
「必要なものをすぐに取り出せないと困るでしょ?」
「でも、どこに何があるか分かるよ!」
「本当に?」
「たぶん!」
「たぶんじゃ困るんだけど……」
舞は困ったように笑った。
◇
「ところで、森にはこのまま行くのか?」
優真が尋ねる。
「うん! せっかくだから三人で行こうよ!」
「私は大丈夫よ」
「俺も問題ない」
「やった!」
白雪は嬉しそうに前を向いた。
三人は草原を進み、森の入口へ向かう。
森が近づいてくると、白雪は周囲をきょろきょろと見回し始めた。
「あっ、あそこに花がある!」
「白雪、まだ森に着いてないわよ」
「でも、花があるよ?」
「そうね」
「ちょっと見てくる!」
白雪は道から少し外れて、草むらへ向かった。
「……やっぱりこうなるか」
優真が呟く。
「いつものことよ」
舞も慣れた様子だった。
白雪は花の前にしゃがみ込んでいた。
淡い紫色の花びらが、風に揺れている。
「かわいいね!」
指先でそっと触れてみる。
すると、花びらの奥に小さな粒が見えた。
「あっ、何かある!」
白雪は花を傷つけないように、根元に落ちていた粒を拾い上げた。
《紫風の粒を入手しました》
「紫風の粒だって!」
「へえ、そんな素材もあるんだな」
優真が近づいてくる。
舞も花を眺めた。
「花の周りに落ちていたものなのね」
「うん!」
白雪は粒をアイテム欄へしまった。
そして、満足そうに立ち上がる。
「よし! 森に行こう!」
「今度こそね」
舞が笑う。
三人は再び歩き始めた。
◇
森の入口に到着すると、白雪は大きく息を吸い込んだ。
「やっぱり森の空気っていいね!」
「町とは雰囲気が違うな」
優真が周囲を見渡す。
「ここから先は、白雪がいつも歩いていた場所なのよね?」
「うん! こっちに池があって、あっちに滝があって、もっと向こうには温泉もあるよ!」
「そんなにいろいろあるのか」
「あるよ!」
白雪は得意げに頷いた。
「でも、今日はどこに行こうかなあ」
森の中には、いくつもの道がある。
白雪は右を見て、左を見て、それから少し奥を眺めた。
「……あっ!」
何かを見つけたらしい。
「どうした?」
「向こうで何か光った!」
「光?」
「うん!」
白雪はすぐにそちらへ歩き出した。
「白雪、そっちはまだ行ったことがない場所?」
舞が尋ねる。
「たぶん!」
「また新しい場所を見つけるつもりか」
優真が笑う。
「行ってみようよ!」
白雪は二人を振り返った。
「イベントが始まる前に、森のことももっと知りたいし!」
「そうね。せっかくだから見てみましょう」
「分かった」
三人は木々の間へ進んでいく。
白雪の視線の先には、木漏れ日の中で小さく揺れる淡い光があった。
それが何なのかは、まだ分からない。
けれど、白雪にとっては十分だった。
「何があるのかなあ!」
イベント開催まで、あと7日。
ELO初の大型イベントに向けて、町のプレイヤーたちが動き始めていた。
そして白雪もまた、いつもと変わらない自由気ままな冒険を続けていく。




