第61話 町の門でばったり再会
町の中央広場。
噴水の前で休憩していた白雪と舞は、そろそろ次の場所へ向かおうとしていた。
「それじゃあ、森に行こうか!」
「うん。白雪が歩いてきた場所、少し見てみたいしね」
「いっぱい面白いものがあるよ!」
「それは楽しみね」
舞は腰に装備した二本の短剣を確認する。
黒を基調とした軽装は動きやすそうで、白雪の《白蒼の疾風》とは雰囲気が違う。
二人は町の門へ向かって歩き始めた。
大通りには相変わらずプレイヤーが多く、露店の呼び込みや会話があちこちから聞こえてくる。
「あっ、あのお店!」
白雪が途中で立ち止まった。
「どうしたの?」
「昨日見たお店! あそこに丸いパンがあったんだよ!」
「パン屋さんね」
「おいしそうだった!」
「さっきも食べたばかりじゃない?」
「でも、別のパンかもしれないよ?」
「……そうね」
舞は少し笑った。
白雪はパン屋の前を覗き込むと、並んでいるパンを眺めた。
丸いもの、細長いもの、木の実が乗っているもの。
「うーん……」
しばらく悩んだ末、白雪は何も買わずに戻ってきた。
「今日は森に行くから、また今度!」
「そう。じゃあ行こうか」
二人は再び門へ向かった。
◇
町の門が見えてきた。
門の周辺には、町へ入ってくるプレイヤーや、外へ出ていくプレイヤーが行き交っている。
白雪は門の向こうに広がる草原を見て、嬉しそうに目を輝かせた。
「森、楽しみだなあ!」
「白雪は森が好きなんだね」
「うん! 知らないものがいっぱいあるから!」
「何が見つかるか分からないのも面白そうね」
「そうなの!」
そのときだった。
門の向こうから、一人のプレイヤーが歩いてきた。
短めの髪に、片手剣を装備した男性プレイヤー。
町の門をくぐり、周囲を見回している。
その姿を見た白雪が、ぱっと顔を上げた。
「あっ!」
見覚えのある姿だった。
「ユウマだ!」
白雪は大きく手を振った。
「おーい! ユウマー!」
呼ばれたプレイヤーが振り向く。
そして、白雪と舞を見つけて足を止めた。
「……雪乃? いや、白雪か」
「そうだよ!」
白雪は駆け寄っていく。
「ユウマだ! 久しぶり!」
「久しぶり。こんなところで会うとはな」
ユウマは白雪の姿を見て、少し目を細めた。
そして、その後ろにいる舞にも気づく。
「舞もいるのか」
「うん。久しぶりね、優真」
「二人で一緒だったのか?」
「そうだよ! 町で偶然会ったんだ!」
白雪が元気よく答えた。
「それで、これから森に行くところ!」
「森?」
「うん!」
ユウマは白雪を見てから、舞へ視線を移した。
「森って、あの周辺の森か?」
「そうよ。白雪がずっと探索していた場所ね」
「なるほどな」
ユウマは納得したように頷いた。
そして、改めて白雪の姿を眺める。
「……ところで、それが前に言ってた装備か?」
「うん! 《白蒼の疾風》だよ!」
白雪は嬉しそうに両手を広げた。
白い軽装衣に淡い青色の装飾。
銀色の細かな飾りが光を受けて輝いている。
背中の白いマントも、風を受けてふわりと揺れた。
「へえ……」
ユウマは装備をじっくり眺めた。
「話には聞いてたけど、実物を見ると結構目立つな」
「かわいいでしょ!」
「まあ、似合ってると思うぞ」
「えへへ!」
白雪は嬉しそうに笑った。
「どこで手に入れたんだ?」
「森の奥にあった洞窟だよ!」
「洞窟?」
「うん! 青い水晶がいっぱいあってね、大きな石のモンスターもいたの!」
「それを倒したのか?」
「そうだよ!」
白雪は身振りを交えて話し始めた。
硬くて攻撃が通りにくかったこと。
何度も攻撃を避けていたら、背中の結晶が光らなくなることに気づいたこと。
そこを狙って、最後には結晶を壊したこと。
そして、奥の宝箱から《白蒼の疾風》が出てきたこと。
ユウマは黙って話を聞いていた。
「……よく倒せたな」
「いっぱい跳んだよ!」
「それだけで倒せる相手じゃなかっただろ」
「うーん……。何回も攻撃されたけど、避けられたから!」
「相変わらずだな」
ユウマは小さく笑った。
「それにしても、そんな場所を見つけるとはな」
「光ってる虫を追いかけてたら見つけたんだよ!」
「虫を追いかけて?」
「うん!」
舞が横から補足する。
「白雪は森の中で気になるものを見つけると、すぐそっちへ行っちゃうのよ」
「なるほど。だから見つけられたのか」
「そういうこと!」
白雪はなぜか得意げだった。
◇
「それで、ユウマは何をしてたの?」
白雪が尋ねる。
「俺は町の周辺を見てきたところだ。少し前まで別の場所で狩りをしていた」
「狩り?」
「ああ。森とは違う場所でな。敵の動きや武器の扱いを確認してた」
「へえー!」
白雪はユウマの腰にある片手剣を眺めた。
「ユウマも強くなった?」
「まあ、少しはな」
「どんなモンスターと戦ったの?」
「草原の狼や、岩場にいる大型の敵だな」
「狼!」
白雪の目が輝く。
「どんな狼?」
「灰色の毛並みで、群れで動くタイプだ。単体ならそれほどでもないが、複数で囲まれると面倒だな」
「へえー! 見てみたい!」
「見に行くのか?」
「うん!」
「戦うつもりはあるのか?」
「見てから考える!」
「……そうか」
ユウマは苦笑した。
舞も隣で笑っている。
「白雪ならそう言うと思った」
「だって、どんなモンスターか気になるんだもん!」
「気になるのは分かるけど、無理はするなよ」
「大丈夫!」
白雪は胸を張った。
その返事を聞いたユウマは、少しだけ不安そうな顔をした。
「その言葉、どこまで信用していいんだか……」
「えっ?」
「いや、何でもない」
◇
しばらく三人で話していると、ユウマが門の外を眺めた。
「二人はこれから森に行くんだったな」
「うん!」
「俺は別の場所へ行くつもりだったが……」
ユウマは少し考える。
「森の様子も気になるな。少しだけ一緒に行ってみるか」
「本当!?」
白雪が嬉しそうに反応した。
「別に構わないだろ?」
ユウマは舞を見る。
「私は大丈夫よ」
「じゃあ決まり!」
白雪は両手を上げた。
「三人で行こう!」
「まだ森の入口までしか行ってないのに、ずいぶん嬉しそうね」
「だって、三人で冒険するの初めてだよ!」
確かに、ゲーム内で三人がこうして揃うのは初めてだった。
学校ではいつも顔を合わせている三人だが、ELOではそれぞれ別々に遊んでいた。
それが今、偶然町で出会い、一緒に外へ出ようとしている。
「まあ、たまにはいいか」
ユウマも笑った。
「じゃあ、行こう!」
白雪が先頭を歩き始める。
「白雪、そっちじゃないわよ」
「あれ?」
舞が指さした方向には、町の門がある。
白雪は少しだけ進行方向を間違えていた。
「こっちだった!」
「大丈夫かよ……」
ユウマが呆れたように言う。
「大丈夫だよ!」
白雪は笑顔で答えた。
三人は町の門をくぐり、草原へと足を踏み出した。
森の方から、心地よい風が吹いてくる。
白雪はその風を感じながら、楽しそうに前を向いた。
「今日は何が見つかるかな!」
「まずは道から外れすぎないようにね」
舞が釘を刺す。
「分かってるよ!」
「本当か?」
「たぶん!」
「たぶんって……」
ユウマと舞の声が重なった。
白雪は二人を振り返って笑う。
こうして、白雪、黒羽、ユウマの三人による初めてのゲーム内での冒険が始まった。




