第60話 二人で歩く町と気になる小さな工房
「次はどこに行こうか?」
町の中央広場を歩きながら、白雪が舞に尋ねた。
「そうね……。まだ見ていない場所もあるし、少し奥の通りに行ってみない?」
「いいよ!」
白雪は元気よく返事をした。
昨日一人で歩いたときには、町の入口や露店、噴水、工房などを見て回った。
けれど、町は思っていた以上に広い。
まだ知らない場所がたくさんある。
二人は中央広場から少し離れた通りへ向かった。
◇
通りの両側には、小さな店が並んでいた。
野菜や果物を売っている店。
木製の道具を扱う店。
布や糸を並べた店。
そして、その中に少し変わった看板があった。
「……あれ?」
白雪が足を止める。
看板には、小さな鍋と木べらの絵が描かれていた。
「料理のお店かな?」
「料理工房みたいね」
「料理工房!」
白雪の目が輝いた。
森では木の実や果物をそのまま食べることが多かった。
町の料理店でパンやスープを食べたこともあり、料理そのものには興味があった。
「ちょっと見てみよう!」
二人は建物の中へ入った。
室内には大きな調理台がいくつも並んでいる。
鍋やフライパン、包丁、まな板などの道具も揃っていた。
奥ではプレイヤーが料理を作っている。
「おおー!」
白雪は調理台の前に立ち、料理の様子を眺めた。
プレイヤーが野菜を切り、鍋に入れる。
そこへ水や調味料を加えて、木べらで混ぜていた。
「何を作ってるんですか?」
白雪が尋ねると、料理をしていた女性プレイヤーが顔を上げた。
「野菜スープだよ。料理スキルを上げながら、素材の組み合わせを試してるところ」
「素材の組み合わせ?」
「そう。使う材料によって味も効果も変わるんだよ」
「へえー!」
白雪は鍋を覗き込んだ。
中では野菜がぐつぐつと煮えている。
「いい匂い!」
「よかったら少し味見する?」
「いいの!?」
「もちろん」
女性プレイヤーは小さな器にスープを入れてくれた。
白雪は受け取ると、ふうふうと冷ましてから口に運ぶ。
「んー! おいしい!」
「よかった」
「野菜が甘い!」
舞も少しだけ味見をする。
「確かにおいしいね」
「でしょ!」
白雪は器を返した。
「自分でも作れるのかな?」
「もちろん。材料と調理道具があればね。料理スキルがあれば、作れる料理も増えていくよ」
「そうなんだ!」
白雪は調理台を眺めた。
今すぐ料理を始めようとは思わなかったが、面白そうだとは感じた。
「白雪、森で集めた木の実とか使ってみたら?」
舞が尋ねる。
「うーん……。まだいっぱい持ってるよ!」
「やっぱりたくさん持ってるんだ」
「いろんなものがあるよ!」
「どれくらい?」
「いっぱい!」
白雪は両手を広げた。
舞はそれを見て苦笑する。
「具体的な数は分からないんだね」
「うん!」
「まあ、白雪らしいか」
◇
料理工房を出た二人は、さらに奥の通りへ進んだ。
次に見つけたのは、木工品を扱う小さな店だった。
店先には木の人形や小さな箱、置物などが並んでいる。
「あっ、かわいい!」
白雪は小さな鳥の置物を見つけた。
白い木で作られた鳥で、羽の先には青い模様が描かれている。
「これ、かわいいね!」
「本当だね」
舞も隣から覗き込んだ。
店主のプレイヤーが声をかけてくる。
「それは木彫りの鳥だよ。自分で木材を加工して作ったんだ」
「自分で作ったんですか?」
「そう。木工スキルを使ってね。材料は森で集めた木材だよ」
「森の木から作れるんだ!」
「そうだよ。木の種類によって、できるものも変わるんだ」
白雪は店に並んでいる置物を一つずつ眺めた。
鳥、ウサギ、猫のような生き物。
どれも小さくてかわいらしい。
「これ、どうやって作るんだろう?」
「木材を削って形を整えるんだ。最初は簡単なものから作れるよ」
「へえー!」
白雪は木彫りのウサギを見つめた。
森で出会った小さな白い生き物に少し似ている。
「これ、欲しいかも……」
「買う?」
「うん!」
白雪は木彫りのウサギを一つ購入した。
アイテム欄に入れると、嬉しそうに笑う。
「かわいい!」
「よかったね」
「森で会った子に似てるんだよ!」
「この前言ってた白い生き物?」
「そう! 木の穴に住んでる子!」
「また会えるといいね」
「うん!」
◇
その後、二人は町の外れにある広場へ向かった。
そこでは何人かのプレイヤーが、木材や金属の素材を広げて作業をしていた。
「ここは何をしてるんだろう?」
「生産職の人たちが作業している場所みたいね」
舞が周囲を見回す。
あるプレイヤーは木材を組み合わせて箱を作り、別のプレイヤーは金属の部品を磨いている。
さらに少し離れたところでは、布を広げて装備を作っている人もいた。
「いろんなものを作ってるね!」
「専門にしている人もいるみたい。自分で全部作る人もいれば、依頼を受けて作る人もいるんだと思う」
「へえー!」
白雪は作業台の上に置かれた木の板を眺めた。
その隣には、いくつもの小さな木の実が並んでいる。
「あっ、あれ!」
白雪が指さした。
木の実の一つが、森で見つけたものに似ていた。
「あれ、私も持ってるかも!」
「どんな素材?」
「えっとね……」
白雪はアイテム欄を確認しようとした。
しかし、素材の数が多い。
森で拾った草や花、石、木の実、羽根などがたくさん並んでいる。
「……いっぱいある!」
「整理してないの?」
「うん!」
「見つけたものをそのまま入れてるんだね」
「そうだよ!」
舞は少しだけ呆れたように笑った。
「あとで必要なものを探すのが大変そうね」
「そうかな?」
「そうだと思うよ」
白雪はアイテム欄を閉じた。
今は特に困っていないので、あまり気にしていない。
そのとき、近くで作業をしていたプレイヤーが声をかけてきた。
「君たち、素材を集めてるの?」
「うん!」
「もし余っている素材があったら、売ったり交換したりもできるよ。生産をしている人は素材を必要としているからね」
「そうなんだ!」
「森で採れるものは、種類によっては結構需要があるんだよ」
白雪は自分のアイテム欄を思い出した。
森で拾ったものはたくさんある。
けれど、売ることはあまり考えていなかった。
「うーん……。まだ持っておく!」
「そうか。必要になったら声をかけてね」
「ありがとう!」
白雪は手を振った。
◇
広場を離れた二人は、町の外れにある小さな水路へ向かった。
石で作られた水路には、透明な水が流れている。
水の中には小さな魚も泳いでいた。
「あっ、魚!」
白雪は水路の縁にしゃがみ込んだ。
「白雪、また水を見てるの?」
「うん! 魚がいるよ!」
「本当に水辺が好きだね」
「だって、いろんなものがいるんだもん!」
白雪は水面を覗き込んだ。
魚が尾びれを動かして泳いでいる。
そのとき、水路の端に小さな泡が浮かんできた。
「……あれ?」
ぽこっ。
泡が一つ弾ける。
白雪は目を輝かせた。
「泡だ!」
水路の奥から、もう一つ泡が浮かんでくる。
白雪は《泡操作》を使ってみた。
すると、泡がふわりと水面から持ち上がる。
「おおっ!」
泡はゆっくりと宙へ浮かんだ。
そのまま白雪の目の前でくるくる回る。
「できた!」
舞は少し驚いた。
「そんなこともできるんだ」
「うん! 泡を動かせるんだよ!」
「便利そうなスキルね」
「楽しいよ!」
白雪は泡を二つ並べて、少しずつ高さを変えた。
泡は風に揺られながら、ふわふわと漂う。
やがて一つが壁に触れて、ぱちんと弾けた。
「あっ、割れちゃった」
「泡だからね」
「もう一個!」
白雪は水路の近くにしゃがんだまま、しばらく泡を探していた。
舞はその様子を見て、笑いをこらえる。
「町に来ても、結局こうなるんだね」
「こうなる?」
「気になるものを見つけたら、ずっと遊んでるってこと」
「だって楽しいんだもん!」
「そうね」
舞は白雪の隣にしゃがんだ。
二人で水路を眺める。
その後、白雪は水路の近くで見つけた小さな青い花を採取した。
《水路青花を入手しました》
「これもきれい!」
「本当にいろいろ見つけるね」
「うん!」
◇
しばらくして、町の中央広場へ戻ってきた。
噴水の周りには、相変わらず多くのプレイヤーが集まっている。
「今日はいっぱい歩いたね!」
「そうね。私もいろいろ見られてよかった」
「料理工房も面白かったし、木の置物もかわいかった!」
「白雪は料理も気になってたよね」
「うん! いつか作ってみたいな!」
「そのうち森で集めた素材を使ってみたら?」
「そうする!」
白雪は嬉しそうに頷いた。
舞は少し考えてから口を開いた。
「そういえば、今度森に行くときは私も一緒に行っていい?」
「もちろん!」
「白雪が見つけた場所を見てみたいし、どんなところを歩いているのかも気になるから」
「じゃあ、今度一緒に行こう!」
「うん」
二人は噴水の前で少し休憩した。
白雪は水面を眺め、舞は周囲のプレイヤーの様子を見ている。
町にはまだまだ知らない場所がある。
森にも、まだまだ知らない場所がある。
白雪にとっては、どちらも楽しみな場所だった。
「また明日も遊ぼうね!」
「そうだね。時間が合えば一緒に遊ぼう」
「やった!」
白雪は笑顔で頷いた。
こうして、町での二人の散策は終わった。
白雪の冒険は、森の外へ広がっただけではない。
少しずつ、誰かと一緒に楽しむ時間も増えていくのだった。




