第59話 町で再会した友達と白蒼の疾風
町の入口近く。
白雪は通りを眺めながら、次にどこへ行こうか考えていた。
「うーん……」
町にはまだ見ていない場所がたくさんある。
露店も気になるし、さっき見かけた工房にももう一度行ってみたい。
それに、掲示板の周辺もまだゆっくり見ていない。
「今日はどこに行こうかなあ」
白雪がそう呟いたときだった。
「……白雪?」
「ん?」
後ろから聞き覚えのある声がした。
振り返ると、そこには黒い短髪の少女が立っていた。
黒を基調とした軽装に、腰には二本の短剣。
見慣れた姿。
「あっ! 舞!」
「やっぱり白雪だった」
舞は少し驚いたように目を丸くした。
「こんなところで会うなんてね」
「うん! 偶然だね!」
「白雪もこの町に来てたんだ」
「昨日やっと森の外に出たんだよ!」
「やっと?」
舞は首を傾げた。
「前にログインしたとき、まだ森の中にいたって言ってなかった?」
「うん! でも、森の中っていろいろあるんだよ!」
「……それで、ずっと森にいたの?」
「そうだよ!」
白雪は元気よく頷いた。
舞は少しだけ呆れたように笑う。
「相変わらずね」
「えへへ」
「褒めてないからね?」
そんなやり取りをしていると、舞の視線が白雪の服装に移った。
白を基調とした軽装衣。
淡い青色の装飾と、銀色の細かな飾り。
背中には白いマントが揺れている。
そして、腰には左右一対の短剣。
以前、雪乃から話を聞いていた装備だ。
「……あれ?」
舞は白雪の全身を眺めた。
「もしかして、それが前に言ってた装備?」
「うん! そうだよ!」
白雪は嬉しそうに両手を広げた。
「《白蒼の疾風》っていうんだ!」
「へえ……。話には聞いてたけど、実物はこんな感じなんだ」
舞は少し近づき、装備をじっくり眺めた。
「白と青で統一されてるんだね。かなり綺麗」
「かわいいでしょ!」
「うん。白雪によく似合ってると思う」
「えへへ!」
白雪はくるりと一回転した。
白いマントがふわりと広がる。
「それに、動きやすいんだよ!」
「性能もいいの?」
「うん! いっぱい跳べるし、走るのも楽になった!」
「……それは装備の効果?」
「たぶん!」
「たぶんって……」
舞は苦笑した。
「それで、どうやって手に入れたの?」
「えっとね、森の奥に洞窟があったんだよ!」
「洞窟?」
「うん! 青い光がいっぱいあってね、きれいだった!」
「へえ」
「それで、奥に大きな石のモンスターがいたの!」
「大きな石?」
「うん! すっごく硬かった!」
白雪は身振り手振りを交えて説明する。
何度も攻撃を避けて、双短剣で攻撃してもほとんどダメージが通らなかったこと。
相手の攻撃を避けているうちに、背中の青い結晶が光らなくなることに気づいたこと。
そこを何度も狙って、最後には結晶を壊して倒したこと。
「それでね、奥に宝箱があったんだよ!」
「宝箱?」
「でも、最初は開かなかったの!」
「鍵が必要だったとか?」
「ううん。青い石をはめるところがあったんだよ!」
「それで?」
「持ってた結晶を入れたら開いたの!」
白雪は嬉しそうに続けた。
「中にこの装備が入ってたんだ!」
舞は少し黙った。
そして、ゆっくりと口を開く。
「……ちょっと待って」
「ん?」
「森の奥で洞窟を見つけて、奥にいた大きなモンスターを倒して、宝箱を開けたらその装備が入ってたってこと?」
「うん!」
「それ、普通にすごいことだと思うんだけど……」
「そうなの?」
「そうなの」
舞は頷いた。
そもそも、そんな洞窟を見つけること自体が簡単ではない。
さらに奥にいる強敵を倒し、宝箱まで開けている。
白雪本人は楽しそうに話しているだけだが、舞からすれば十分に驚く内容だった。
「白雪って、本当に変なところを見つけるのが得意だよね」
「変なところ?」
「褒めてるのよ」
「そっか!」
白雪は納得した。
舞はもう一度《白蒼の疾風》を眺めた。
「それにしても、かなり珍しそうな装備ね」
「うん! お気に入り!」
「大事に使いなよ」
「もちろん!」
◇
「それで、舞は何をしてたの?」
白雪が尋ねる。
「私は町の中を見て回ってたところ。装備を扱っている店とか、生産系の施設とかね」
「生産系?」
「武器や防具を作ったり、料理を作ったりする場所よ」
「あっ! 私も昨日、服を作ってるところを見たよ!」
「裁縫工房かな?」
「たぶん! 布がいっぱいあった!」
「私は少し生産システムを確認してたの。自分で作ることもできるみたいだし、専門のプレイヤーに依頼することもできるみたい」
「へえー! そうなんだ!」
「白雪も何か作ってみたら?」
「うーん……。面白そうだったらやってみたい!」
「相変わらず気分次第ね」
「うん!」
舞は笑った。
「じゃあ、せっかくだし一緒に町を見て回らない?」
「いいの!?」
「私もまだ全部見たわけじゃないからね」
「行く行く!」
白雪はすぐに頷いた。
二人は並んで歩き始める。
まず向かったのは、町の中央にある広場だった。
大きな噴水の周りには、たくさんのプレイヤーが集まっている。
「ここ、昨日も来たよ!」
「そうなんだ」
「水がきれいだった!」
「噴水を見に来たの?」
「うん!」
舞は白雪らしい理由に小さく笑った。
噴水の周囲には、露店も並んでいる。
武器や防具を扱う店だけでなく、食べ物や素材を販売する店もあった。
「あっ、これ!」
白雪が足を止める。
露店の上に並んでいたのは、色とりどりの小さな飾りだった。
青い石がついた髪飾りや、花の形をしたブローチ。
「かわいい!」
「アクセサリーね」
「これ、どうやって作るんだろう?」
「宝石や金属を加工するんじゃない?」
舞が説明していると、店主のプレイヤーが声をかけてきた。
「いらっしゃい。気になるものがあるかい?」
「この青いの、かわいいね!」
白雪は小さな青い花の髪飾りを指さした。
「それは青花の髪飾りだよ。自分で集めた素材を使って作ったんだ」
「自分で作ったの!?」
「ああ。生産スキルを上げていけば、もっといろいろ作れるようになるよ」
「すごいね!」
白雪は髪飾りを眺めた。
自分でも作れるのだろうか。
そんなことを考えていると、舞が横から声をかける。
「気に入ったなら買ってみたら?」
「うーん……」
白雪は少し考えた。
そして、髪飾りをそっと戻した。
「今日は見るだけ!」
「そう」
「また気になったら買いに来るね!」
「待ってるよ」
二人は露店を離れた。
◇
次に向かったのは、町の工房が集まっている通りだった。
鍛冶工房からは金属を叩く音が響き、裁縫工房の前には色とりどりの布が干されている。
「ここが工房の通りよ」
「わあ、昨日も見たところだ!」
「昨日?」
「うん! 一人で歩いてたときに見つけたの!」
「もう見て回ってたんだ」
「うん!」
白雪は鍛冶工房の前で立ち止まった。
職人が金属を叩いている。
カン、カン、カン。
「やっぱりすごいね!」
「武器の修理や製作もここでできるみたい」
「私の短剣も直せるのかな?」
「装備の状態によるんじゃない?」
白雪は腰の双短剣に目を向けた。
《白蒼の疾風》には《自己修復》がある。
時間が経てば自然に修復されるため、今のところ修理を頼む必要はなさそうだった。
「でも、作ってるところを見るのは面白いね!」
「そうね」
二人はしばらく工房を見学した。
そのあと、近くにある道具屋にも立ち寄る。
舞は回復薬や状態異常を治す薬を確認していた。
「白雪、回復薬は持ってる?」
「うん! いっぱいあるよ!」
「状態異常を治す薬も?」
「あるよ!」
「ならよかった。森では何が起こるか分からないからね」
「うん!」
舞は棚に並ぶ薬を確認しながら、必要なものをいくつか購入した。
白雪はその横で、瓶の色を眺めている。
「この紫色の薬は何?」
「睡眠を治す薬みたい」
「へえー!」
「白雪、眠らされたことがあるんじゃない?」
「あるよ!」
「やっぱり……」
舞は少しだけ眉を寄せた。
「今度から、眠くなる花には気をつけなよ」
「うん! 気をつける!」
白雪は元気よく答えた。
舞はそれ以上、何も言わなかった。
どうせ白雪は、気になるものを見つけたら近づいてしまうのだろう。
◇
その後も二人は町の中を歩き回った。
店を覗いたり、広場で休憩したり、道端の花を眺めたり。
途中で白雪が小さな噴水の水を指で触ってみたり、建物の壁に止まっていた虫を観察したりもした。
「白雪って、町でもそんな感じなんだね」
「そんな感じ?」
「森の中と変わらないってこと」
「そうかな?」
「そうよ」
舞は楽しそうに笑った。
町の中では、プレイヤー同士が集まって話をしている姿も多い。
その中には、白雪の装備に目を向ける人もいた。
「あの白い装備、珍しいな」
「どこで手に入れたんだろう?」
「隠し装備かな?」
そんな声が聞こえてくる。
舞は少しだけ白雪を見た。
「結構見られてるね」
「えっ?」
「その装備、目立つから」
白雪は自分の服を見下ろす。
「かわいいからかな?」
「それもあると思うけど、見たことがない装備だからじゃない?」
「そっか!」
白雪は納得したように頷いた。
そして、舞の装備にも目を向ける。
「舞の装備もかっこいいよ!」
「ありがとう。私は動きやすさを優先してるからね」
「短剣も二本だね!」
「そう。白雪と同じ武器だけど、使い方は違うと思うよ」
「一緒に戦ったら面白そう!」
「機会があればね」
舞はそう答えた。
まだ二人で一緒に戦ったことはない。
白雪がどんな動きをするのか、舞も少し興味があった。
「そのうち森にも行ってみたいな」
「本当!?」
「うん。白雪が見つけた場所も気になるし」
「じゃあ、今度一緒に行こう!」
「そうね」
白雪は嬉しそうに頷いた。
こうして、町での偶然の再会は、二人での散策へと変わっていった。
白雪にとっては初めての町。
舞にとっては、白雪の装備を初めて間近で見られた日。
二人はまだパーティーを組んではいない。
けれど、これから一緒に遊ぶ機会は少しずつ増えていきそうだった。




