第55話 森の奥に広がる不思議な風の丘
森の木々の間から、明るい光が差し込んでいた。
「今日はあっち!」
白雪は昨日見つけた、木々の並び方が少し違う場所へ向かっていた。
木漏れ日の広場を抜け、小さな花畑を通り過ぎる。
昨日は夕方になってしまい、先へ進むのを諦めた場所だ。
「どんなところなのかな?」
白雪は楽しそうに歩いていた。
途中、道端に生えている草を見つける。
細長い葉っぱの先に、丸い水滴のようなものがついていた。
「あれ? これ、前にも見たような……」
似たような植物を見たことはあるけれど、こちらは葉の色が少し青い。
指で触れると、水滴のような部分がぷるんと揺れた。
「面白い!」
白雪は一本だけ採取する。
《青露草を入手しました》
そのまま歩き続けると、少しずつ地面が上り坂になってきた。
木々の間隔も広がり、頭上から差し込む光が増えていく。
そして――。
「わあっ!」
目の前に、広々とした丘が現れた。
◆
そこは、森の中にぽっかりと開けた小さな丘だった。
なだらかな斜面には短い草が生え、ところどころに白い花が咲いている。
丘の上には大きな木が一本。
その枝は横に広がり、風を受けて葉を揺らしていた。
周囲を見渡すと、森の木々が遠くまで続いている。
「すごい! 上まで登れるかな?」
白雪はさっそく丘を駆け上がった。
斜面はそれほど急ではない。
白蒼の疾風のブーツで地面を蹴ると、軽やかに身体が前へ進む。
途中、草の上に小さな白い花が咲いていた。
白雪は走りながら花を眺め、気になったものだけを採取していく。
《風丘花を入手しました》
「風丘花かあ!」
さらに進むと、今度は淡い青色の草がまとまって生えていた。
葉っぱは細く、風が吹くたびに同じ方向へ倒れている。
白雪はその草の前で立ち止まった。
「こっちは風で動いてるね」
手を伸ばすと、葉っぱが指先に触れた。
さらさら。
まるで細い布のような感触だった。
《風揺草を入手しました》
「これ、触ると気持ちいい!」
白雪はもう一度、葉っぱを指で撫でた。
そのとき、丘の上から強い風が吹き下ろしてきた。
ふわっ。
白雪のマントが大きく広がる。
「わわっ!」
身体が少しだけ浮き上がった。
白雪は驚きながらも、足を踏み直す。
「今の風、すごかった!」
風は丘の上から吹いているようだった。
白雪は興味津々で、再び坂を駆け上がった。
◆
丘の頂上には、大きな木が一本立っていた。
太い幹には、風に削られたような模様がいくつもある。
木の根元には、白い石が転がっていた。
「石がいっぱい!」
白雪はその中から、丸くて軽そうな石を拾い上げる。
表面には細い筋があり、持ち上げると少しだけ冷たい。
《風丘石を入手しました》
続いて、木の根元に落ちていた小さな羽根も拾う。
白と淡い緑色が混じった羽根だった。
《丘風鳥の羽根を入手しました》
「鳥さんの羽根だ!」
白雪は周囲を見回した。
けれど、鳥の姿は見えない。
木の枝には巣もないようだった。
「どこにいるのかな?」
そのとき、木の葉が一斉に揺れた。
ざわざわ。
風が木の周りを通り抜けていく。
白雪は両腕を広げてみた。
「風が気持ちいい!」
丘の上は、森の中よりも風が強い。
白雪は木の根元に腰を下ろし、しばらく風を感じていた。
すると、足元の草が一か所だけ大きく揺れた。
「あれ?」
近づいてみると、草の間に小さな穴が開いている。
穴から風が吹き出していた。
ふううっ。
「ここから風が出てる!」
白雪は穴の周囲を覗き込んだ。
奥は暗くて見えない。
指を近づけると、風が指先を押し返してくる。
「ふーん……」
白雪は少し考えた。
それから、近くに落ちていた細い草を穴の前に置いてみる。
草はふわりと浮き上がり、少し離れた場所へ飛んでいった。
「おおっ!」
もう一本置いてみる。
今度は草がくるくる回りながら飛んでいった。
「面白い!」
白雪はしばらく草を飛ばして遊んでいた。
ただし、穴の中へ手を入れるようなことはしない。
風が強く、何があるか分からないからだ。
◆
しばらくすると、丘の反対側から小さな鳴き声が聞こえた。
「ぴゅいっ!」
「あっ!」
白雪が振り向くと、白い小鳥が大きな木の枝に止まっていた。
身体は小さく、翼の先が淡い緑色をしている。
先ほど拾った羽根とよく似た色だ。
「もしかして、君の羽根?」
小鳥は首を傾けた。
白雪が手を振ると、小鳥は枝から飛び立った。
そして、丘の斜面へ向かって滑るように飛んでいく。
「待ってー!」
白雪は追いかけた。
小鳥は地面すれすれを飛び、草の上を滑るように進んでいく。
途中、風が吹くとふわりと上昇した。
「すごい飛び方!」
白雪も同じように走ってみる。
丘の斜面を駆け下り、風が吹く方向へ身体を向けた。
ふわっ。
マントが広がり、身体が軽くなる。
「おおっ!」
そのまま少しだけ跳び上がる。
着地。
もう一度、風に合わせて跳ぶ。
今度は少し遠くまで進めた。
「風に乗ってるみたい!」
白雪は何度も試した。
風が吹く方向へ跳ぶと、いつもより遠くへ進める。
反対に、風に逆らうとあまり進まない。
小鳥は少し離れた場所に降り立ち、白雪の様子を眺めていた。
白雪は小鳥を見つけると、嬉しそうに手を振る。
「見て見て! ちょっと飛べたよ!」
小鳥は小さく鳴いた。
ぴゅいっ。
その直後、視界に新しい表示が現れた。
《新スキル《風跳躍》を習得しました》
「えっ、スキル!」
白雪は目を輝かせた。
「風跳躍だって!」
どうやら、風の流れを利用して跳ぶ動きを繰り返したことで、新しいスキルを覚えたらしい。
白雪はさっそく、もう一度試してみた。
風が吹く。
その方向へ身体を向けて、地面を蹴る。
ふわっ!
いつもより少しだけ高く、遠くへ跳ぶことができた。
「わあ! すごい!」
白雪は何度も跳び上がった。
ただし、風が弱くなると効果も小さくなる。
風の向きを考えずに跳ぶと、いつも通りの跳躍になってしまう。
「風がないと難しいんだね」
それでも、新しい遊び方が増えたのが嬉しかった。
◆
小鳥は丘の斜面にある低い枝へ移動した。
白雪が近づくと、枝の上から小さな実をひとつ落とす。
ころん。
「あっ、くれるの?」
拾い上げると、白い皮に淡い緑色の模様が入った小さな実だった。
「かわいい!」
白雪は匂いを嗅いでみる。
甘く爽やかな香りがする。
「食べてみよう!」
ぱくっ。
噛むと、さっぱりした甘さが広がった。
そのあと、少しだけ舌が冷たくなる。
「おいしい!」
白雪はもう一口食べた。
今度は、口の中に風が通り抜けるような不思議な感覚があった。
「ん? なんだろう?」
身体が少し軽くなった気がする。
白雪は試しに走ってみた。
いつもより足取りが軽い。
「おおっ!」
短い時間だけ、移動時の疲れが少なくなる効果があるようだった。
《風涼実を入手しました》
「風涼実かあ!」
白雪は残りの実をいくつか採取した。
小鳥は枝の上で白雪を見ている。
「ありがとうね!」
白雪が手を振ると、小鳥は一度だけ鳴き、丘の向こうへ飛んでいった。
「またね!」
白雪はその姿を見送った。
◆
丘の上へ戻る途中、白雪はもう一度、風が吹き出している小さな穴のところへ立ち寄った。
先ほど飛ばした草は、少し離れた場所に落ちていた。
「まだ風が出てるかな?」
穴の前に手をかざす。
ふううっ。
やっぱり風が吹いている。
白雪は今度、風の流れに合わせて小さな葉っぱを置いてみた。
葉っぱはくるくる回りながら、丘の斜面へ飛んでいく。
「わあ、飛んでいっちゃった!」
白雪は葉っぱを追いかけようとした。
しかし、葉っぱは風に乗って斜面を越え、森の向こうへ消えてしまった。
「あー……」
少し残念そうに見送る。
その先には、木々がまばらになっている場所が見えた。
遠くの方に、森とは違う景色が広がっているようにも見える。
「向こう、何があるんだろう?」
白雪は目を細めた。
丘の上からなら、もう少し遠くまで見えそうだ。
しかし、今日はそろそろログアウトする時間だった。
「明日はもっと上から見てみよう!」
白雪は大きな木の根元に戻り、周囲をもう一度眺めた。
今日の収穫は、青露草、風丘花、風揺草、風丘石、丘風鳥の羽根、風涼実。
それに、新しいスキルも覚えた。
「今日はいっぱい遊べたね!」
白雪は満足そうに頷く。
風が吹く。
白いマントがふわりと広がった。
白雪はその風に合わせて、小さく跳び上がる。
ふわっ。
いつもより少し遠くへ跳べた。
「これ、楽しい!」
もう一度。
今度は少しだけ高く。
白雪は何度か跳びながら、丘を下りていった。
森の向こうに見えた景色のことは、まだ知らない。
けれど、明日になればきっと、また新しい発見が待っている。
そう思いながら、白雪は木漏れ日の広場へ戻っていった。




