第49話 滝の上流と水しぶきの小さな冒険
「次は上流だね!」
白雪は小さな滝を振り返り、にこりと笑った。
昨日は水のすべり台で遊んで、思いきり水しぶきを浴びてしまった。
《白蒼の疾風》の装備は少し濡れているけれど、歩いているうちに水気もだいぶ落ち着いてきた。
「滑るの、楽しかったなぁ」
白雪は足元の岩を見た。
せっかく覚えた《滑走》も、もう少し試してみたい。
けれど、今はまず上流へ行ってみよう。
白雪は滝の横に続く細い道へ進んだ。
道の両側には背の低い草が生え、ところどころに白い石が転がっている。
足元には水が流れているので、滑らないように気をつけながら進む。
少し進むと、岩の間から小さな水が流れ出している場所を見つけた。
「あっ、ここからも水が出てる!」
白雪はしゃがみ込み、水の流れを覗き込んだ。
岩の隙間から透明な水が湧き出し、小さな水路を作っている。
その水路の中には、丸い青色の石がいくつも転がっていた。
「きれいな石!」
ひとつ拾い上げる。
表面はつるつるしていて、光にかざすと淡い青色が透けて見えた。
『《湧水石》を入手しました』
「湧水石だって!」
白雪はもうひとつ拾い上げた。
今度は白い筋が入っている。
『《白筋湧水石》を入手しました』
「こっちは模様が違うね」
二つの石を並べて眺め、満足そうにアイテム欄へしまった。
そのとき、水路の中で何かが動いた。
ぴくっ。
「ん?」
小さな魚が一匹、石の陰から顔を出している。
身体は半透明で、尾びれだけが薄い黄色だった。
「お魚さんだ!」
白雪が指を近づけると、魚は水路の奥へ逃げてしまった。
「あらら。速いねぇ」
白雪は魚を追いかけず、周囲を見てみることにした。
水路の横には、小さな白い花が咲いている。
花びらは細く、先端に水滴が乗っていた。
風が吹くと、水滴がころんと転がる。
「かわいい!」
白雪は花を摘み取った。
『《湧水花》を入手しました』
「湧水花。名前もそのままだね!」
さらに奥へ進むと、道が少しずつ広がってきた。
木々の隙間から、明るい光が差し込んでいる。
「何かありそう!」
白雪は少し足を速めた。
そして、木々を抜けた先に広がっていた景色を見て、思わず立ち止まった。
「わあ……!」
そこには、小さな池があった。
前に見つけた池よりも広く、水面は青く澄んでいる。
池の周囲には大きな岩が並び、岩の上から細い水が何本も流れ落ちていた。
滝というほど大きくはないが、あちこちから水が流れ込んでいる。
「水がいっぱい!」
白雪は池の縁まで近づいた。
水面には小さな波紋が広がっている。
よく見ると、池の中央に丸い岩がひとつ突き出していた。
その上には、白い鳥が止まっている。
「あっ、鳥さん!」
鳥は白い身体に淡い青色の翼を持ち、頭には小さな飾り羽が生えていた。
白雪が近づくと、鳥は首を傾ける。
「こんにちはー!」
鳥は一度鳴いた。
きゅるるっ。
そして、池の中央の岩から飛び立ち、反対側の岩へ移動した。
「飛んでいっちゃった」
白雪は少し残念そうにしたが、すぐに別のものを見つけた。
池の縁に、透明な小さな玉がいくつも落ちている。
「ん? これ何?」
拾い上げてみると、玉の中に水が入っているように見えた。
指で軽く押してみても、割れたり潰れたりしない。
「不思議!」
『《水珠玉》を入手しました』
「水珠玉!」
白雪は玉を光にかざした。
中の水が、ゆっくり動いているように見える。
「どうなってるんだろう?」
もうひとつ拾い上げると、こちらは少し青みがかっていた。
『《青水珠玉》を入手しました』
「色違いだ!」
白雪は二つともアイテム欄にしまった。
そのあと、池の周囲を歩いてみる。
岩の隙間には、小さな水草が生えていた。
葉っぱは丸く、表面には細かな泡がついている。
「泡がいっぱい!」
指で触れると、泡がいくつか浮かび上がった。
ぽこっ。
白雪は《泡操作》を使い、泡をひとつ持ち上げてみる。
ふわり。
泡は水面から浮かび上がり、白雪の目の前でゆっくり回転した。
「ふふっ」
そのとき、池の中央から小さな水しぶきが上がった。
ぱしゃっ。
「あっ!」
水面から、青い身体の小さな生き物が顔を出した。
丸い頭に、短い脚。
背中には白い葉っぱのようなものが乗っている。
「わあ! また新しい子!」
生き物は白雪を見ると、すぐに水の中へ潜ってしまった。
「あらら……」
白雪は水面を眺めながら待ってみた。
すると、今度は池の反対側から顔を出す。
「こんにちはー!」
白雪が手を振ると、生き物は小さな泡をひとつ吐き出した。
ぽこっ。
「泡だ!」
白雪はその泡を《泡操作》で少しだけ動かした。
生き物は泡を目で追い、また水の中へ潜っていく。
「遊びたいのかな?」
白雪は泡を水面に戻した。
しばらくすると、生き物は再び顔を出し、今度は小さな石をくわえてきた。
池の縁まで泳いできて、石をぽとりと落とす。
「えっ、くれるの?」
白雪は石を拾った。
薄い青色で、表面には白い模様が入っている。
『《白波石》を入手しました』
「白波石! ありがとう!」
生き物は水面を一度だけ跳ねると、また潜っていった。
白雪は石をしまい、池の周囲をもう少し調べた。
すると、池の端に斜めになった岩があることに気づいた。
岩の表面には水が流れ、下の池へと続いている。
「あっ!」
白雪の目が輝いた。
昨日のすべり台に似ている。
「これも滑れるかな?」
白雪は岩の表面を確かめた。
水は流れているけれど、昨日より少し傾斜が緩やかだ。
滑るにはちょうどよさそうだった。
「よーし!」
白雪は岩の上に座った。
足を前に伸ばし、身体を少しだけ傾ける。
「いくよー!」
すーっ。
思った通り、身体が滑り始めた。
水が足元を流れ、白雪の身体を下へ運んでいく。
「わああっ!」
途中で岩が少しだけ曲がっていた。
白雪は《滑走》を使って身体の向きを調整する。
すーっ。
ざばっ!
池の浅い場所に着水した。
「きゃははっ!」
水しぶきが上がり、白雪の髪やマントが濡れる。
けれど、白雪は気にしていない。
「こっちも楽しい!」
今度は岩の上に戻り、別の角度から滑ってみる。
すーっ。
途中で少し身体を傾けると、曲がる方向が変わった。
「おおっ! 曲がれた!」
何度か試しているうちに、白雪は滑りながら少しだけ方向を調整できるようになってきた。
そして、視界に通知が浮かんだ。
『《滑走》の熟練度が上昇しました』
「やった!」
白雪は嬉しそうに笑った。
そのあとも何度か滑って遊んだ。
気づけば、池の近くにいた白い翼の鳥が、少し離れた岩の上からこちらを見ていた。
「あっ、鳥さん!」
白雪が手を振ると、鳥は翼を広げて飛び立った。
そして、池の向こうにある細い道へ降り立つ。
「そっちにも道があるの?」
白雪は濡れたマントを軽く払った。
鳥は一度だけ鳴き、木々の間へと姿を消した。
「うーん……」
白雪は池と道を交互に見た。
まだ池で遊びたい気持ちもある。
けれど、あの道の先も気になる。
「よし、次はあっち!」
白雪は池の縁を離れ、鳥が飛んでいった道へ向かった。
その後ろでは、池の小さな住人が水面から顔を出し、白雪の姿を見送っていた。
森の奥には、まだまだ知らない景色が広がっている。
白雪はそれを見つけるのが、何よりも楽しみだった。




