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第48話 小川の向こうに見つけた水のすべり台

「水が流れてる!」


 白雪は草地の斜面を下りながら、細い水の流れを目指していた。


 木々の間を抜けるように流れる小川は、幅こそ狭いものの、水は透き通っている。


 水面には木漏れ日が揺れ、小さな石の上をさらさらと流れていた。


「きれいだねぇ」


 白雪は小川の縁にしゃがみ込んだ。


 指先を水につけてみる。


「つめたっ!」


 思ったより冷たい。


 けれど、気持ちよさそうな水だった。


 白雪は手ですくってみたが、飲む前に一度だけ匂いを嗅いだ。


 特に変な匂いはしない。


 少しだけ口に含む。


「んっ。普通のお水!」


 当たり前のような感想を呟き、白雪は水面を眺めた。


 小さな魚が一匹、石の陰から出てきた。


 銀色の身体に、薄い緑色の尾びれ。


 魚は白雪の指先を避けるように泳ぎ、すぐに上流へ向かっていった。


「あっ、待って!」


 白雪は魚を追いかけるように、小川沿いを歩き始めた。


 途中、川底に白い石がいくつも見えた。


 ひとつ拾い上げる。


 表面はつるつるしていて、中央に小さな青い筋が入っている。


「これ、きれい!」


『《青筋川石》を入手しました』


「青筋川石かぁ」


 白雪は別の石も探してみた。


 今度は薄い黄色の石が見つかった。


『《陽川石》を入手しました』


「こっちは黄色!」


 石を二つ並べて眺める。


 色が違うだけなのに、なんとなく面白い。


 白雪はアイテム欄へしまい、また上流へ向かった。


 しばらく歩くと、小川の水音が少し大きくなってきた。


 さらさら、ではなく、ざあざあという音に変わっている。


「何かあるのかな?」


 白雪は足を速めた。


 木々の間を抜けると、目の前に小さな段差が現れた。


 水が岩の上を滑り落ち、下の浅い水たまりへ流れ込んでいる。


「わあっ! 小さな滝だ!」


 落差はそれほど大きくない。


 けれど、岩の表面は水で磨かれたように滑らかで、流れ落ちる水が白く泡立っていた。


 白雪は滝の近くまで行き、下を覗き込んだ。


 水たまりの中には、小さな丸い石がいくつも転がっている。


「丸い石がいっぱい!」


 ひとつ拾い上げてみる。


 手のひらに収まる大きさで、淡い水色をしていた。


『《滝丸石》を入手しました』


「滝丸石!」


 別の石も拾ってみる。


 こちらは少し透明で、光にかざすと水滴のように輝いた。


『《水滴晶》を入手しました』


「おおー、きれい!」


 白雪は水滴晶を光にかざしていたが、ふと滝の横に細い岩の道があることに気づいた。


「あれ?」


 水が流れ落ちる岩の横に、少しだけ乾いた場所がある。


 そこを通れば、滝の上へ行けそうだった。


「登れるかな?」


 白雪は岩に手をかけた。


 濡れている部分は滑りそうなので、乾いた場所を選んで足を置く。


 ゆっくり登っていくと、滝の上に出た。


「おおっ!」


 そこには、小さな水たまりがあった。


 上流から流れてきた水が、岩の間に溜まっている。


 水面には小さな葉っぱが浮かび、そこに透明な虫が一匹止まっていた。


「虫さんだ!」


 白雪が近づくと、虫は羽を広げて飛び立った。


 そのまま水面すれすれを飛び、向こう側の草むらへ消えていく。


 白雪は虫を見送ってから、水たまりの周囲を調べた。


 岩の隙間に、薄い青色の草が生えている。


 葉っぱは細長く、水が流れるたびに揺れていた。


「これも水草かな?」


 摘み取ってみる。


『《滝流草》を入手しました』


「滝流草だって!」


 さらに、岩の上には小さな白い花が咲いていた。


 花びらの先に水滴がついていて、風が吹くときらりと光る。


『《滝雫花》を入手しました』


「こっちもきれい!」


 白雪は花をアイテム欄にしまった。


 そのとき、上流から何かが流れてきた。


 ころころ……。


「ん?」


 小さな木の実が、水に乗って流れている。


 白雪は手を伸ばして拾い上げた。


 薄い緑色で、表面には白い筋がある。


「木の実だ!」


『《流れ木の実》を入手しました』


 白雪は実を眺め、匂いを嗅いだ。


 甘い香りがする。


「食べられるかな?」


 ひと口かじってみる。


 しゃくっ。


「んー!」


 最初は少し酸っぱい。


 そのあと、甘さが広がり、最後にほんの少しだけ苦みが残った。


「ちょっと不思議な味!」


 白雪は残りも食べた。


 その直後、水たまりの奥で何かが動いた。


 ぴょこっ。


「あっ!」


 小さな生き物が顔を出している。


 丸い頭に、短い脚。


 身体は淡い水色で、背中には小さな葉っぱが一枚乗っていた。


「わあっ! かわいい!」


 生き物は白雪を見ると、水の中へ潜ってしまった。


「あらら……」


 白雪は水たまりの縁に座り、しばらく待ってみる。


 すると、少し離れた場所から顔を出した。


「こんにちはー」


 生き物は白雪を見つめている。


 白雪は指先を水面につけた。


 生き物は少しずつ近づいてきたが、手が動くとすぐに離れてしまう。


「まだ怖いかな?」


 無理に触らず、しばらく観察することにした。


 生き物は水面に小さな泡を吐き出した。


 ぽこっ。


「おっ、泡!」


 白雪は《泡操作》を使って、泡をゆっくり持ち上げた。


 ふわり。


 泡が水面から浮かび上がる。


 生き物は泡を見上げ、首を傾けた。


「ふふっ。面白い?」


 白雪は泡をゆっくり回転させた。


 すると、生き物はもうひとつ泡を吐き出した。


 ぽこっ。


 白雪は二つの泡を並べて、くるくると回した。


 しばらくすると、生き物は水の中から小さな葉っぱを押し出した。


 ころん。


「ん?」


 拾い上げると、葉っぱの表面には小さな水滴がいくつも並んでいた。


『《水葉》を入手しました』


「水葉だって!」


 白雪は生き物を見た。


「これ、くれたの?」


 生き物は水面で一度だけ跳ねた。


「ありがとう!」


 白雪は手を振った。


 生き物は少しだけ近づいてきたが、結局そのまま水の中へ潜ってしまった。


 白雪は水たまりの周囲をもう少し歩いてみた。


 すると、滝の上流に向かって、岩が斜めに並んでいる場所を見つけた。


 水がその岩の上を滑るように流れている。


「ここ、滑りそう……」


 白雪は岩の表面を指で触ってみた。


 つるつるしている。


 試しに小さな石を置いてみる。


 ころん。


 石は水に押され、岩の上を滑っていった。


「おおっ!」


 白雪は目を輝かせた。


 もうひとつ石を置いてみる。


 ころころ、すーっ。


 石は水の流れに乗り、下の水たまりへ落ちた。


「すべり台みたい!」


 白雪は岩の上にしゃがみ込んだ。


 水が流れる岩は、幅こそ狭いが、白雪が乗れるくらいの大きさがある。


「……滑れるかな?」


 少しだけ考える。


 そして、白雪は岩の上に腰を下ろした。


「いくよー!」


 手で身体を支え、足を前に伸ばす。


 つるっ。


「わわっ!」


 思った以上に滑りがよかった。


 白雪の身体は水と一緒に岩の上を滑り、下の水たまりへ向かっていく。


 ざばーん!


「きゃーっ!」


 水しぶきが大きく上がった。


 白雪は水たまりの中で顔を上げた。


「わっ、冷たい!」


 全身がびしょ濡れになっている。


 けれど、顔には笑顔が浮かんでいた。


「あははっ! 滑れた!」


 もう一度やろうとしたが、今度は少しだけ慎重になった。


 岩の上へ戻り、今度は足を先にして滑ってみる。


 すーっ。


 ざばっ!


「こっちも楽しい!」


 何度か繰り返しているうちに、視界に通知が浮かんだ。


『スキル《滑走》を習得しました』


「えっ、滑走?」


 白雪は通知を確認した。


「滑って進むのが上手になったのかな?」


 もう一度岩の上に座る。


 今度は少しだけ身体を傾けてみた。


 すーっ。


 さっきよりも安定して滑ることができた。


「おおっ! すごい!」


 白雪は満足そうに頷いた。


 そのあと、岩の上から周囲を眺めてみる。


 小さな滝のさらに上流には、木々に囲まれた細い道が続いている。


「まだ先があるんだね!」


 白雪は水たまりから上がり、装備についた水を軽く払った。


 《白蒼の疾風》の装備は《自己修復》によって少しずつ状態が整うが、濡れた水気まではすぐに消えない。


「あとで乾かそうっと」


 白雪はそう呟き、上流の道を見つめた。


 まだ見ていない場所がある。


 それだけで、胸がわくわくしてくる。


「よーし、次はあっち!」


 白雪は小さな滝を後にして、森の奥へと歩き出した。


 背後では、水が岩の上を滑り落ちる音が、いつまでも静かに響いていた。

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