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第46話 池の小さな住人と水草のトンネル

「今日は池の続きを見に行こう!」


 白雪は森の中を歩きながら、昨日見つけた小さな池のことを思い出していた。


 水面から泡を吐き出す、緑色の水草を背負った生き物。


 《泡操作》で一緒に遊んだり、《池紋石》をもらったりした。


「またいるかなぁ?」


 会えたら、もう少し一緒に遊んでみたい。


 そんなことを考えながら歩いていると、木の枝の上に小さな影が見えた。


「あっ!」


 淡い緑色の小鳥だ。


 前に白い幹の木がある広場で見かけた鳥と同じ種類だろう。


 小鳥は白雪に気づくと、ぴぃっと鳴いて枝から飛び立った。


「こんにちはー!」


 白雪は手を振った。


 鳥は少し先の枝に止まり、こちらを振り返る。


「今日も案内してくれるの?」


 小鳥は首を傾けたあと、また飛び立った。


「行っちゃった!」


 白雪は笑いながら、その姿を見送った。


 今日は鳥を追いかけるよりも、池へ行くのが目的だ。


 道を間違えないよう、前回通った木の根の目印を探しながら進んでいく。


 やがて、木々の隙間から水面が見えた。


「あった!」


 白雪は池の縁まで駆け寄った。


 池は昨日と変わらず静かだった。


 水面には緑色の葉っぱが浮かび、周囲の木々が映り込んでいる。


 白雪はしゃがみ込み、水の中を覗いた。


「こんにちはー!」


 返事はない。


 少し待ってみる。


 ぽこっ。


「あっ!」


 池の中央に小さな泡が浮かんだ。


 そのすぐ後に、緑色の頭が水面から顔を出す。


「いた!」


 水草を背負った生き物は、白雪を見つめていた。


「また会えたね!」


 白雪が手を振ると、生き物は水面をゆっくり進んできた。


 昨日よりも少し近い。


 白雪は手を伸ばしたい気持ちを抑え、まずは水面に泡をひとつ浮かべた。


 《泡操作》を使い、泡をゆっくり左右に動かす。


 ふわり、ふわり。


 生き物は泡を目で追っている。


 そして、自分でも小さな泡を吐き出した。


 ぽこっ。


「ふふっ。今日は泡で遊ぼう!」


 白雪は二つの泡を並べ、ゆっくり回転させた。


 生き物がもう一つ泡を吐き出す。


 今度は三つ。


 白雪は三つの泡を近づけて、くるくると回した。


 泡は水面の上で小さな輪を作る。


「おおー! できた!」


 生き物は水面をぱしゃっと叩いた。


 楽しんでいるように見える。


 白雪はしばらく泡遊びを続けていたが、ふと生き物の背中に目を向けた。


「ねえ、その葉っぱって何なの?」


 背中には、細長い水草が何本も生えている。


 水の中で揺れるたび、葉っぱがふわふわと動いていた。


 白雪が近づくと、生き物は少しだけ後ろへ下がる。


「あっ、ごめんね」


 白雪は手を引っ込めた。


 すると、生き物は少し考えるように水面で止まり、背中の葉っぱを一度だけ揺らした。


「見せてくれるの?」


 もちろん返事はない。


 白雪は少し離れた場所から、その葉っぱを眺めた。


 葉の先には、小さな水滴がついている。


 水滴は葉っぱの上を転がり、背中の方へ戻っていった。


「わあ。水を集めてるのかな?」


 白雪は興味津々だった。


 そのとき、生き物が水面から小さなものを押し出した。


 ころん。


 池の縁まで転がってくる。


「ん?」


 拾い上げると、薄い緑色の葉っぱが丸まったような形をしていた。


 中央には透明な水滴が閉じ込められている。


『《水葉の雫》を入手しました』


「水葉の雫!」


 白雪は光にかざしてみた。


 中の水滴がきらりと光る。


「きれいだね。ありがとう!」


 生き物は水面でくるりと回り、また少し離れたところへ移動した。


 白雪は池の周囲を歩いてみることにした。


 昨日は木の根元にある小さな穴を見つけた。


 今日はその周辺をもう少し調べてみよう。


 大きな木の根元まで行くと、細い水の流れが見えた。


 水は根の隙間を通り、池へ流れ込んでいる。


「ここから来てるんだよね」


 白雪は根元にしゃがみ込んだ。


 穴は狭く、奥は暗い。


 昨日は入るのを諦めたが、今日は少しだけ中を覗いてみることにした。


 顔を近づける。


 さらさらさら……。


 水の音が聞こえる。


 さらに奥から、ひんやりとした風が吹いてきた。


「あれ?」


 白雪は顔を上げた。


「水が流れてるのに、風も来るの?」


 不思議に思い、穴の周囲を調べる。


 すると、根の下に小さな隙間があることに気づいた。


 水の通り道とは別に、空気が通っているようだ。


「こっちなら入れるかな?」


 白雪は身体を横にして、ゆっくり隙間へ入っていった。


 木の根が何本も重なっていて、少し進みにくい。


 それでも、短い隙間を抜けると、急に広い場所へ出た。


「おおっ!」


 そこは、木の根の下にできた小さな空洞だった。


 天井には太い根が何本も伸びていて、壁には苔が生えている。


 中央には細い水路があり、池へ向かって水が流れていた。


「こんなところがあったんだ!」


 白雪は水路の横にしゃがみ込んだ。


 水の中には小さな石がいくつも転がっている。


 ひとつ拾い上げる。


 淡い緑色で、表面に細かな筋が入っていた。


『《根水石》を入手しました』


「根っこの下だからかな?」


 さらに水路の縁を歩いていくと、壁に小さな白い花が咲いていた。


 花びらは薄く、中心には青い粒がある。


「またお花!」


 そっと摘み取る。


『《根陰花》を入手しました』


 その近くには、細長い葉っぱが水に浸かっていた。


 葉の表面には小さな泡がいくつもついている。


「泡がいっぱい!」


 白雪が指先で触れると、泡が一斉に浮かび上がった。


 ぽこぽこぽこっ。


「わあっ!」


 泡は天井の根にぶつかり、ぱちぱちと弾けていく。


 白雪は《泡操作》を使って、いくつかの泡を自分の周囲へ集めてみた。


 ふわふわ。


 泡が顔の前を漂う。


「面白いね!」


 葉っぱも少しだけ採取する。


『《泡根草》を入手しました』


「泡根草かぁ。泡がつく草なんだね」


 白雪はアイテム欄にしまい、空洞の奥を見た。


 水路はさらに奥へ続いている。


 けれど、そこには太い根が絡み合っていて、通り抜けられそうにない。


「うーん。こっちは無理かな」


 根を押してみるが、びくともしない。


 無理に動かすのはやめておこう。


 白雪は空洞の中をもう一度見回した。


 すると、天井の根の間に、白いものが挟まっているのが見えた。


「あれは何?」


 近くの岩に足をかけて登り、手を伸ばす。


 指先が届いた。


 引っ張ってみると、小さな白い羽根が落ちてきた。


「羽根だ!」


 拾い上げる。


『《根陰鳥の羽根》を入手しました』


「こんなところに鳥さんの羽根があるんだね」


 もしかすると、空洞の上に巣があるのかもしれない。


 白雪は天井を見上げたが、上へ抜ける道は見つからなかった。


「まあ、いっか!」


 気にしすぎず、元の隙間から外へ戻る。


 池に出ると、水草を背負った生き物がまだ水面にいた。


「あっ、まだいた!」


 白雪は池の縁にしゃがみ込んだ。


「今日はありがとうね!」


 生き物は小さく泡を吐き出した。


 ぽこっ。


 白雪はその泡を《泡操作》で少しだけ持ち上げる。


 泡は生き物の頭の上を通り、ゆっくりと水面へ戻っていった。


「また遊ぼうね!」


 生き物は水の中へ潜っていった。


 白雪はその姿を見送り、池を後にした。


 森の中を歩きながら、今日見つけたものを思い返す。


 池の小さな住人。


 木の根の下の空洞。


 泡がついた草。


 そして、まだ奥へ続いている水路。


「森って、いろんなところに隠れ場所があるんだね!」


 白雪は楽しそうに笑った。


 遠くで小鳥の鳴き声が聞こえる。


 ぴぃっ。


「あっ、鳥さん!」


 声のする方へ顔を向けると、枝の間に淡い緑色の羽根がちらりと見えた。


 白雪は少しだけ足を止めた。


「……あっちも気になるなぁ」


 けれど、今日はもう帰る時間だ。


「また明日!」


 白雪は森の出口の方へ歩き出した。


 明日もきっと、何か面白いものが見つかる。


 そんな予感を抱きながら、白蒼のマントを揺らして帰っていった。

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