第45話 緑の小鳥と木々に囲まれた小さな池
白雪は細い道を歩きながら、前方を見上げた。
先ほどまで広場にいた緑色の小鳥は、枝から枝へと飛び移りながら、少しずつ森の奥へ進んでいる。
白雪が近づくと、鳥は少し先の枝に移動して待っていた。
「もしかして、案内してくれてる?」
小鳥は首を傾ける。
「ふふっ。じゃあ、ついていこう!」
白雪は足取り軽く歩き出した。
道は緩やかな下り坂になっていた。
周囲の木々は少しずつ背が高くなり、枝葉が重なって空が見えにくくなっている。
ところどころに木の根が飛び出しているので、足を引っかけないように気をつけながら進んだ。
……もっとも、白雪は途中で見つけた木の根に興味を持ち、わざわざ上に乗って歩いていたのだけれど。
「この根っこ、橋みたい!」
一本の太い根が地面から浮き上がり、少し先の岩まで伸びている。
白雪はその上に乗り、両手を広げた。
「落ちないように……」
一歩。
もう一歩。
根の上を進み、岩にぴょんと飛び移る。
「できた!」
特に何かを目指していたわけではないが、ちょっとした達成感があった。
そのとき、視界に通知が浮かんだ。
『《平衡歩行》の熟練度が上昇しました』
「あっ、前に覚えたやつ!」
白雪は通知を確認して、にこりと笑った。
「こういうところを歩くと上手になるんだね」
そのまま岩から降り、先へ進む。
しばらく歩くと、木々の隙間から水面が見えた。
「あっ、水!」
白雪は小走りになった。
木々を抜けた先には、小さな池が広がっていた。
池の周囲には丸い石が並び、水面には緑色の葉っぱが浮かんでいる。
木漏れ日が水面に落ち、ゆらゆらと揺れていた。
「わあ……きれい!」
白雪は池の縁にしゃがみ込んだ。
水は透き通っていて、底の石まで見える。
小さな魚が泳いでいるのも分かった。
「お魚さん、いる!」
指先を水面に近づけると、魚たちはすっと離れていった。
「あらら。逃げちゃった」
白雪は池の周囲を歩いてみることにした。
まず目に入ったのは、池の縁に生えている細長い草だった。
葉っぱの表面には小さな水滴がついている。
指で触れると、水滴がころんと転がった。
「これ、前に見た草に似てるね」
少し違う種類らしく、葉っぱの縁が淡い緑色に光っていた。
白雪は何枚か摘み取る。
『《池露草》を入手しました』
「池露草かぁ。池の近くに生えてるんだね」
その隣には、小さな白い花が咲いていた。
花びらの中心に、丸い水滴のような粒が乗っている。
「わっ、かわいい!」
そっと触れると、粒がぷるんと揺れた。
白雪は花を一輪採取した。
『《水珠花》を入手しました』
「水珠花!」
名前を確認し、アイテム欄にしまう。
その直後、池の向こう側で水面が大きく揺れた。
ぱしゃっ。
「ん?」
白雪は顔を上げた。
水面から、小さな生き物が顔を出している。
丸い頭に、緑色の背中。
背中には水草のようなものが生えていて、短い脚で水をかいていた。
「何あれ?」
生き物は白雪を見ると、すぐに水の中へ潜ってしまった。
「あっ、隠れちゃった!」
白雪は池の縁にしゃがみ、しばらく待つ。
すると、少し離れた場所から顔を出した。
「こんにちはー!」
生き物はじっとこちらを見ている。
白雪が手を振ると、また水の中へ潜った。
「恥ずかしがり屋さんなのかな?」
白雪は池の周囲をもう少し歩いてみた。
池の端には、大きな木が一本立っている。
根元には小さな穴があり、そこから細い水の流れが池へ続いていた。
「ここから水が出てるんだ!」
白雪は穴を覗き込んだ。
中は暗く、奥までは見えない。
けれど、さらさらと水の流れる音が聞こえる。
「入れるかな……?」
身体をかがめてみる。
穴はかなり狭い。
白雪が入るには、少し無理がありそうだった。
「うーん。これは無理かな」
今回は諦めて、木の根元を調べることにした。
すると、根の隙間に小さな実が挟まっていた。
淡い緑色で、表面には白い模様がある。
「おっ、木の実!」
拾い上げて、匂いを嗅いでみる。
ほんのり甘い香りがした。
「食べられるかな?」
白雪は少しだけ実をかじった。
しゃくっ。
「んー……」
果肉は柔らかく、甘さは控えめ。
噛んでいると、少しだけ水っぽい味が広がった。
「おいしい! すっきりしてる!」
『《池木の実》を入手しました』
『《味覚》の熟練度が上昇しました』
「池木の実だって!」
白雪は残りの実も食べた。
そのあと、池の近くに落ちていた小さな石を拾う。
丸くて、表面が滑らかだ。
水で磨かれたように、つるつるしている。
「これ、投げたら跳ねるかな?」
白雪は石を持ち、池の水面へ向けて投げた。
ぴしゃっ。
石は一度だけ水面を跳ね、そのまま沈んだ。
「あっ、一回!」
もう一つ拾う。
今度は横向きに投げてみた。
ぴしゃっ、ぴしゃっ、ぴしゃっ。
「三回!」
白雪は嬉しそうに笑った。
もっと跳ねる石はないかな。
池の周りを探していると、水面に小さな泡が浮かんでいることに気づいた。
「ん?」
泡はひとつだけではない。
池の中央から、ぽこぽこと小さな泡が上がってきている。
「水の中から出てるのかな?」
白雪は水面を覗き込んだ。
泡はしばらく浮かんでいたが、やがてぱちんと弾けた。
その直後、水面の下で緑色の影が動いた。
「あっ!」
さっきの生き物だ。
今度は水面から頭だけを出し、泡をひとつ吐き出した。
ぽこっ。
「わあ! 泡を出した!」
白雪は《泡操作》を使って、その泡をそっと動かした。
ふわり。
泡は水面から少し浮き上がり、白雪の目の前へやってくる。
「こんにちは!」
生き物は泡を見つめている。
白雪は泡をゆっくり回転させた。
生き物はもうひとつ泡を吐き出す。
ぽこっ。
「もう一個!」
白雪は二つの泡を並べた。
すると、生き物は水面をぱしゃぱしゃと叩き始めた。
どうやら、泡が動くのを楽しんでいるようだ。
「ふふっ。面白いね!」
しばらく遊んでいると、生き物は池の縁まで近づいてきた。
白雪はしゃがんだまま、そっと手を差し出す。
生き物は一度だけ白雪の指先を見つめ、それから水の中へ潜った。
「あっ、やっぱりまだ怖い?」
白雪は無理に追いかけなかった。
しばらく待っていると、生き物は水面から小さな丸いものを押し出した。
ころん。
池の縁まで転がってくる。
「ん? これ、くれるの?」
白雪は拾い上げた。
淡い緑色の石で、表面には水滴のような模様が刻まれている。
『《池紋石》を入手しました』
「池紋石!」
白雪は石を光にかざしてみた。
模様がきらりと光る。
「ありがとう!」
生き物は小さく水を跳ねさせ、また池の中央へ戻っていった。
白雪は手を振って見送る。
その後、池の周囲を一周してみた。
反対側には、木の根が複雑に絡み合った場所がある。
その根の間に、白い小さな貝殻が挟まっていた。
「あっ、貝殻!」
拾い上げてみると、表面に細い緑色の線が入っている。
『《池紋貝》を入手しました』
「これも池の名前がついてる!」
白雪は満足そうに頷いた。
池の近くには、まだ見つけていないものがありそうだ。
けれど、そろそろ日も傾いてきている。
「今日はここまでかなぁ」
白雪は池を振り返った。
水面には木漏れ日が揺れ、小さな泡がひとつ浮かんでいる。
「また遊びに来るね!」
そう言って、白雪は池を後にした。
帰り道、緑色の小鳥が少し離れた枝に止まっていた。
「あっ、鳥さん!」
小鳥は一度だけ鳴くと、森の奥へ飛んでいった。
「またねー!」
白雪は手を振り、森の中へ歩き出す。
今日も新しい場所を見つけられた。
明日は何が見つかるだろう。
そんなことを考えながら、白雪は軽い足取りで帰路についた。




