第44話 淡い緑の光と秘密の木漏れ日
「緑色の光って、何だろう?」
白雪は岩場の向こうを眺めていた。
木の枝が何本も重なった場所。その隙間から、淡い緑色の光がちらちらと見えている。
風に揺れるたび、光も少しだけ動いているようだった。
「気になるなぁ」
白雪は迷うことなく歩き出した。
岩場を下り、木々の間を抜けていく。
途中、風が吹き抜ける場所を見つけると、《風渡り》を使って軽く跳んだ。
ふわっ。
身体が風に押され、目の前の低い枝を越える。
「おおっ、便利!」
着地した白雪は、すぐに次の風を探した。
風が吹いている場所を見つけると、そこからまた跳ぶ。
ふわっ、とんっ。
ふわっ、とんっ。
まるで森の中を小さく飛び回っているようだった。
「これ、ずっとやってられるね!」
そんなことを言いながら進んでいると、足元に小さな黄色い花が咲いているのを見つけた。
「あっ、お花!」
白雪はしゃがみ込む。
花びらは五枚。中心には小さな緑色の粒があり、風に揺れるたびにかすかに光っていた。
「さっきの光と同じ色だね」
そっと摘み取る。
『《木漏れ花》を入手しました』
「木漏れ花かぁ。かわいい名前!」
白雪は花をアイテム欄にしまい、再び歩き始めた。
少し進むと、今度は地面に小さな実が落ちていた。
淡い緑色で、表面には細い筋が入っている。
「これも緑色!」
拾い上げ、匂いを嗅いでみる。
甘い香りがした。
「いい匂い……」
白雪は迷わずひと口かじった。
しゃくっ。
「んっ!」
みずみずしい果汁が口の中に広がる。
甘さは控えめで、後味が少しだけ爽やかだった。
「おいしい! さっぱりしてる!」
『《若葉の実》を入手しました』
『《味覚》の熟練度が上昇しました』
「若葉の実なんだね」
白雪は残りも食べ、満足そうに頷いた。
そのとき、頭上の枝が揺れた。
かさかさっ。
「ん?」
見上げると、小さな緑色の鳥が枝に止まっていた。
背中は淡い緑色で、お腹は白い。尾羽の先だけが黄色くなっている。
「鳥さんだ!」
白雪が見つめていると、鳥は小さく鳴いた。
ぴぃっ。
そして、枝から枝へと飛び移っていく。
「あっ、待って!」
白雪は追いかけた。
鳥は遠くへ飛んでいくわけではなく、少し先の枝に止まってはこちらを振り返る。
「もしかして、ついてきてほしいの?」
鳥は首を傾けた。
「よーし!」
白雪は木の根を踏み、枝の下をくぐりながら進んでいく。
途中で鳥が高い枝へ移ると、白雪も近くの木に登った。
枝に手をかけ、足を乗せる。
するすると登っていくと、鳥が少し先で待っていた。
「いた!」
鳥はまた飛び立つ。
白雪はその後を追い、枝から枝へと移動した。
やがて、木々の隙間が広がり、明るい場所に出た。
「わあ……!」
そこには、小さな広場があった。
周囲を大きな木に囲まれ、中央には一本だけ、白い幹の木が立っている。
葉は淡い緑色で、光を受けると透き通るように輝いていた。
木の周囲には、先ほど見つけた《木漏れ花》がたくさん咲いている。
「ここだったんだ!」
白雪は広場の中へ入った。
木漏れ日のような緑色の光が、地面に小さく揺れている。
光の正体は、白い幹の木の葉っぱだった。
葉の表面に細かな模様があり、そこに光が当たることで淡く輝いているらしい。
「きれいだねぇ」
白雪は木の幹に手を当てた。
ひんやりとしている。
そのまま上を見上げると、枝の間に丸い実がいくつもなっていた。
「あっ、実がある!」
白雪は木の周りを一周した。
落ちている実がないか探してみる。
木の根元には、淡い緑色の実が二つ落ちていた。
「もらっていいかな?」
周囲を見回しても、誰もいない。
白雪は実を拾い上げた。
『《光葉の実》を入手しました』
「光葉の実!」
実を光にかざしてみると、中に小さな光が閉じ込められているように見えた。
「これも食べられるのかな?」
白雪は少し迷った。
匂いを嗅ぐと、甘い香りがする。
ひと口だけかじってみる。
かりっ。
「んー……?」
最初はほとんど味がしない。
けれど、噛んでいるうちに、ほんのり甘くなっていく。
最後には、口の中に少しだけ温かい感覚が残った。
「不思議な味!」
白雪は残りも食べた。
すると、身体の周囲に小さな緑色の光が浮かび上がった。
「わっ!?」
光はふわふわと漂い、すぐに消えていく。
視界に通知が表示された。
『《光葉の実》を食べました』
『短時間、暗所での視認性がわずかに上昇します』
「おおっ! 暗いところで見やすくなるんだ!」
白雪は広場の端にある木陰へ移動してみた。
確かに、さっきより少しだけ暗い場所の輪郭が見やすくなった気がする。
「面白いね!」
白雪はもう一つの実をアイテム欄にしまった。
そのとき、頭上で鳥が鳴いた。
ぴぃっ。
「あっ、鳥さん!」
緑色の鳥は白い幹の木の枝に止まっていた。
白雪が近づくと、鳥は少しだけ枝の上を移動した。
「ここがお家なの?」
鳥は枝の奥へ進み、葉っぱの陰に隠れた。
白雪はその場所を覗き込む。
すると、枝の間に小さな巣があった。
中には、薄い緑色の卵が二つ並んでいる。
「わぁ……!」
白雪は思わず声を小さくした。
「卵があるんだ」
鳥を驚かせないよう、そっと距離を取る。
巣には触れず、木の根元に戻った。
その近くには、細い草が生えている。
葉の先に小さな光の粒がついていた。
「これは何だろう?」
白雪が指で触れると、光の粒がふわりと浮かび上がった。
まるで小さな蛍のようだ。
「わあっ!」
光の粒は白雪の周囲を一周し、葉っぱへ戻っていった。
白雪は草を少しだけ採取した。
『《光露草》を入手しました』
「光露草……。光る露がついてるからかな?」
さらに周囲を探すと、白い幹の木の根元に、小さな石がいくつも転がっていた。
石は薄い緑色で、表面に葉っぱのような模様がある。
ひとつ拾い上げる。
『《葉紋石》を入手しました』
「石まで葉っぱ模様!」
白雪は他の石も見てみたが、同じものはあまり見つからなかった。
それから広場の端にある小さな水たまりに気づいた。
水面には緑色の葉が浮かんでいる。
白雪はしゃがみ込んだ。
水の中を覗くと、小さな魚が泳いでいる。
魚の身体は透明に近く、背中だけが淡い緑色をしていた。
「こんにちはー」
魚は水底へ隠れた。
「あらら」
白雪は水面に指先をつける。
すると、魚がまた戻ってきた。
今度は指先の近くを一周し、すぐに離れていく。
「ふふっ。かわいいね」
白雪はしばらく魚を眺めていた。
やがて、広場の奥から風が吹き抜ける。
白い幹の木の葉が一斉に揺れ、緑色の光が地面に散らばった。
「わあ……!」
光が広場いっぱいに揺れる。
白雪はその場に座り、しばらく景色を眺めていた。
こんな場所を見つけられるなんて、やっぱり森の探索は面白い。
「また来たいなぁ」
そう呟いて立ち上がる。
帰り道を探そうとしたところで、緑色の鳥が枝から飛び立った。
ぴぃっ。
鳥は広場の反対側へ飛んでいく。
「あっ、そっちにも道があるの?」
白雪は鳥の姿を追った。
広場の端には、木々の間を抜ける細い道が続いている。
その先には、また別の森が広がっていた。
「……行ってみよう!」
白雪は迷わず道へ入った。
緑色の光が揺れる広場を背に、白いマントがふわりと風になびく。
まだまだ、知らない場所はたくさんある。
白雪の冒険は、今日も終わりそうになかった。




