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第43話 風の岩場とふわふわの小さな住人

「よーし、今日はあっち!」


 白雪は森の向こうに見える岩場を指差した。


 昨日覚えた《風渡り》も、もう一度試してみたい。


 風が吹く場所なら、いつもより遠くまで跳べる。


 それが分かった白雪は、さっそく新しい遊び場を探すことにしたのだった。


「ふふっ、楽しみ!」


 白蒼のマントを揺らしながら、森の中を歩いていく。


 木々の間を抜けると、昨日見つけた岩場が見えてきた。


 細長い岩が何本も地面から突き出していて、その間を風が通り抜けている。


 ひゅうう……。


 ぽおん。


「今日も音が鳴ってる!」


 白雪は岩に近づき、穴の前に立った。


 昨日は高い音や低い音を聞いて遊んだ。


 今日は別の場所も見てみよう。


 岩の周囲をぐるりと回ると、裏側に小さな窪みがあった。


 そこには、白い砂のようなものが溜まっている。


「砂かな?」


 指先ですくってみる。


 さらさらしていて、少しだけ青く光っていた。


「きれい!」


 白雪は手のひらに乗せて、光にかざしてみた。


『《風砂》を入手しました』


「風砂だって!」


 名前を確認して、アイテム欄にしまう。


 そのすぐ近くには、細い草が生えていた。


 葉っぱは細長く、先端がくるりと丸まっている。


 風が吹くたび、葉っぱ同士が触れて小さな音を鳴らしていた。


 さらさら、ちりん。


「この草も音が鳴るんだね」


 白雪は草をそっと摘み取った。


『《風鈴草の葉》を入手しました』


「風鈴草の葉っぱ!」


 以前採取した《風鈴草》と同じ植物らしい。


 白雪は二つを見比べてから、満足そうに頷いた。


 さらに奥へ進むと、岩場の間に小さな段差が続いている場所を見つけた。


「ここ、登れそう!」


 白雪は近くの岩に足をかける。


 ぴょんっ。


 ひとつ目の岩に飛び乗り、次の岩へ。


 とんっ。


 そこから少し高い岩へ跳ぶ。


 風が横から吹き抜け、マントがふわりと広がった。


「おおっ!」


 身体がいつもより遠くへ運ばれる。


 白雪は着地すると、嬉しそうに後ろを振り返った。


「今の、すごく飛べた!」


 もう一度やってみよう。


 今度は少し高い場所から、風が吹いてくるタイミングに合わせて跳ぶ。


 ふわっ。


 身体が浮き上がり、岩の向こう側まで進んだ。


 とんっ。


「やった!」


 白雪は両手を上げた。


 何度も繰り返しているうちに、風の向きが少し変わったことに気づく。


 さっきまで横から吹いていた風が、今度は斜め上へ抜けている。


「ん? 風が変わった?」


 白雪は顔を上げた。


 岩場の奥には、細い隙間がある。


 そこから風が強く吹き出していた。


「ここから風が来てるのかな?」


 近づいて覗いてみる。


 隙間の中は暗く、奥はよく見えない。


 ただ、風が吹くたびに、奥から小さな音が聞こえてきた。


 ひゅうう……。


 かさっ。


「何かいる?」


 白雪はしゃがんで、耳を近づけた。


 その瞬間。


 ぽふっ。


「わっ!?」


 目の前を、白いふわふわしたものが横切った。


 白雪は慌てて顔を上げる。


 岩の上に、小さな生き物が乗っていた。


 丸い身体に、長い耳のような毛。


 背中には淡い水色の羽毛が広がっている。


「あっ! 昨日の子!」


 前回追いかけた、白い毛と水色の羽のようなものを持つ生き物だった。


 生き物は白雪を見つめている。


 白雪もじっと見つめ返した。


「こんにちは!」


 生き物は首を傾けた。


「今日は逃げないの?」


 白雪が一歩近づくと、生き物は岩の上でぴょんと跳ねた。


 ふわっ。


 そのまま風に乗って、少し離れた岩へ移動する。


「おおー! やっぱり飛べるんだ!」


 白雪は目を輝かせた。


 生き物はもう一度、ふわりと浮かび上がる。


 今度は白雪の頭上を通り過ぎて、後ろの岩へ降り立った。


「待ってー!」


 白雪も追いかける。


 ただし、今度は走るだけではない。


 風が吹く方向を見て、《風渡り》を使って跳んだ。


 ふわっ。


 とんっ。


 生き物の近くに着地する。


「あっ、追いついた!」


 生き物は驚いたように耳の毛をぴくりと動かした。


 そして、今度は逃げずに白雪を見ている。


「ねえねえ、何してるの?」


 当然、返事はない。


 生き物は小さな鼻を動かし、白雪の装備をくんくんと嗅いだ。


「くすぐったいよー」


 白雪が笑うと、生き物は少し離れた。


 それから、背中の羽毛をふるわせる。


 ふわふわっ。


 小さな羽毛が何枚か舞い上がり、風に乗って白雪の周りを漂った。


「わあっ!」


 白雪は両手を伸ばす。


 羽毛は指先をすり抜け、ゆっくりと地面へ落ちていった。


 ひとつだけ、白雪の手のひらに乗る。


「もらっていいの?」


 生き物は何も言わない。


 ただ、白雪の手のひらをじっと見ている。


 白雪は羽毛を大切にしまった。


『《風羽毛》を入手しました』


「ありがとう!」


 白雪が笑うと、生き物は少しだけ身体を揺らした。


 そのあと、岩の上を歩いていき、細い隙間の前で止まった。


 そして、白雪を振り返る。


「そっちに行くの?」


 生き物は隙間の中へ入っていった。


「あっ、待って!」


 白雪も後を追おうとしたが、隙間は狭く、身体を横にしないと入れそうにない。


 少しだけ悩んでから、白雪は慎重に身体を滑り込ませた。


 中は思ったより短い通路だった。


 岩の間を抜けると、小さな空間に出る。


「わあ……!」


 そこには、風が渦を巻くように流れていた。


 天井には小さな穴がいくつも開いていて、外から入った風が中央へ集まっている。


 地面には白い羽毛がいくつも落ちていた。


「ここがお家なのかな?」


 白雪は周囲を見回す。


 奥には小さな巣のようなものがあった。


 草や羽毛を集めて作られている。


 その近くに、さっきの生き物が座っていた。


「ここに住んでるんだね」


 白雪は巣に近づきすぎないよう、少し離れたところにしゃがんだ。


 生き物は白雪を見つめたあと、巣の横に置いてあった小さな実をくわえた。


 ころん。


 それを白雪の方へ転がしてくる。


「えっ、くれるの?」


 実は淡い水色で、表面に白い筋が入っている。


 白雪は拾い上げた。


『《風羽の実》を入手しました』


「風羽の実……」


 白雪は実を眺めた。


 食べられるのかな。


 甘いのかな。


 それとも酸っぱいのかな。


 気になる。


 とても気になる。


 白雪は生き物の方を見た。


「これ、食べてもいい?」


 生き物は小さく首を傾ける。


 白雪は少しだけ迷い、実を半分に割ってみた。


 中から白い果肉が現れる。


 匂いを嗅ぐと、ほんのり甘い香りがした。


「いい匂い!」


 ひと口だけ食べてみる。


 もぐっ。


「んー!」


 最初はさっぱりしている。


 そのあと、口の中にふわりと甘さが広がった。


「おいしい!」


 白雪は残りも食べた。


 すると、身体が少し軽くなったような感覚がした。


『《風羽の実》を食べました』

『一時的に移動時のスタミナ消費が軽減されます』


「おおっ! 動きやすくなるの?」


 白雪はその場で軽く跳ねてみた。


 確かに、いつもより身体が軽く感じる。


「すごいね、この実!」


 生き物は白雪の様子を見て、また小さく身体を揺らした。


 そのとき、巣の奥から別の小さな影が出てきた。


「……あれ?」


 今度は少し小さい。


 同じように白い毛に包まれているが、背中の羽毛はまだ短い。


「わあっ! もう一匹いた!」


 小さな生き物は、親らしき生き物の後ろに隠れた。


 白雪は驚かせないよう、そっと座り直した。


「こんにちはー」


 小さな生き物は、巣の陰から顔だけを出している。


「かわいいねぇ」


 白雪はにこにこしながら、しばらく二匹を眺めていた。


 やがて、外から風が強く吹き込んできた。


 巣の周囲の羽毛がふわりと舞い上がる。


 親の生き物は、小さな生き物を身体で包むように寄り添った。


「あっ、風が強くなったね」


 白雪は立ち上がった。


 ここは二匹の住処だ。


 長居して邪魔をするのもよくない。


「また来るね!」


 そう言って、白雪は入口へ戻った。


 外に出ると、岩場には相変わらず風が吹き抜けていた。


 白雪は空を見上げる。


 さっきまでいた小さな空間から、羽毛が一枚、風に乗って外へ飛んでいった。


「ふふっ。面白い場所だったなぁ」


 白雪は手を伸ばしたが、羽毛は届かないところへ流れていってしまった。


 追いかけようかとも思ったが、今度は別のものが目に入った。


 岩場の向こうに、細い木の枝が何本も重なっている。


 その隙間から、淡い緑色の光が見えた。


「……あれは何だろう?」


 白雪の視線がそちらへ向く。


 新しい気になるものを見つけてしまったらしい。


「よし、次はあっち!」


 白雪は風に背中を押されるように、岩場の向こうへと駆け出した。


 今日も、まだまだ冒険は終わらない。

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