第41話 岩の隙間に見つけた青い水晶
「やっぱり気になる!」
白雪は川辺に立ち、少し離れた場所にある大きな岩を見つめていた。
昨日、雨宿りをした岩だ。
その奥に細い隙間があり、そこから水が流れ出していた。さらに、その向こうには青白い光が見えたのだ。
あれから川沿いを歩いてみたものの、頭の中にはずっとあの光が残っていた。
「ちょっとだけ見に行こう!」
白雪はくるりと向きを変え、岩の方へ駆け出した。
雨上がりの森は、いつもより少しだけ違って見える。
葉っぱには水滴が残り、地面には小さな水たまりができていた。踏むたびに、靴の下で水がぴちゃりと跳ねる。
「わっ、冷たい!」
わざと水たまりを踏んでみる。
ぴちゃっ。
もう一度。
ぴちゃっ。
「ふふっ」
そんなことをしながら歩いているうちに、目的の岩へ到着した。
白雪はしゃがみ込み、前回見つけた隙間を覗き込む。
さらさらさら……。
細い水の流れる音が聞こえる。
「よし、行ってみよう!」
白雪は身を低くして、隙間の中へ入っていった。
入口は狭かったが、少し進むと肩を動かせるくらいの広さになった。足元には浅い水が流れ、岩の壁はしっとりと濡れている。
白雪は片手で壁を支えながら、ゆっくり奥へ進んだ。
「滑りそう……」
足を置く場所を確かめる。
濡れた岩は少し滑りやすい。勢いよく進むと転びそうだった。
いつものようにぴょんぴょん跳ねるわけにはいかない。
「ここは慎重に、だね」
そう呟いて、一歩ずつ進んでいく。
やがて、隙間の先が少しずつ広がり始めた。
「おお……!」
そこは、小さな水の洞窟だった。
天井は低いものの、立ち上がれる程度の空間がある。中央には浅い水たまりがあり、壁のあちこちに青い鉱石が埋まっていた。
そして、奥の岩壁から青白い光が漏れている。
「わあっ! きれい!」
白雪は目を輝かせた。
水面に光が反射し、洞窟全体が淡い青色に染まっている。
まるで小さな星空の中にいるようだった。
「こんなところがあったんだね!」
まずは近くの壁に近づいてみる。
岩の表面には、小さな青い結晶がいくつも顔を出していた。
「これ、取れるかな?」
指先で触れてみる。
ひんやりと冷たい。
けれど、手で引っ張ってもびくともしなかった。
「うーん。固いね」
無理に引っ張るのはやめて、足元に落ちている小さな欠片を探す。
水の中に、青く透き通った粒が沈んでいた。
「あった!」
拾い上げてみると、光を受けてきらりと輝いた。
『《水晶片》を入手しました』
「水晶片だって!」
白雪はアイテムをしまい、今度は水たまりの縁を歩き始めた。
水は透き通っていて、底の石までよく見える。
ところどころに白い小石が転がっていた。
「こっちは白いね」
ひとつ拾い上げる。
『《水白石》を入手しました』
「水白石。名前もかわいい!」
さらに奥へ進むと、壁の低い位置に小さな花が咲いていた。
花びらは薄い青色で、中心には白い粒が集まっている。
水滴が落ちるたび、花びらが小さく揺れた。
「お花まである!」
白雪はそっと摘み取った。
『《洞水花》を入手しました』
「洞窟に咲くお花なんだね」
そのとき、足元の水面が小さく揺れた。
ぴくっ。
白雪は動きを止める。
「……何かいる?」
水たまりを覗き込むと、石の陰から小さな魚が顔を出していた。
体は半透明で、背中に淡い青色の模様がある。
「お魚だ!」
白雪が指を近づけると、魚はすっと石の陰へ隠れた。
「あっ、逃げちゃった」
少し待ってみる。
すると、魚は別の石の陰から顔を出した。
「こんにちはー」
もちろん返事はない。
白雪は水面に指先をつけてみた。
魚が近づいてくる。
そして、指先のすぐ近くでくるりと向きを変えた。
「おおっ、近い!」
驚いて手を引っ込めると、魚もびっくりしたように水の奥へ逃げてしまった。
「ごめんね。びっくりした?」
白雪はしばらく水面を眺めていたが、やがて別のものを見つけた。
水たまりの底に、丸い透明な石が落ちている。
拾い上げると、中に小さな泡のようなものが閉じ込められていた。
「これ、どうなってるの?」
石を傾けてみる。
中の泡が、ゆっくり動いた。
「わぁ! 泡が動いてる!」
白雪は何度も石を傾けて遊んだ。
『《泡晶》を入手しました』
「泡晶……。泡が入ってるからかな?」
アイテム欄へしまい、今度は洞窟の奥を見た。
青白い光は、さらに奥の壁から漏れている。
「まだ先があるんだね!」
白雪は水たまりを避けながら進んだ。
すると、岩壁の一部が少しだけ開けていることに気づいた。
その隙間の向こうには、細い水路が続いている。
水はそちらから流れてきているようだ。
「入れるかな?」
身をかがめて覗き込む。
通れなくはなさそうだが、かなり狭い。
白雪は少し考えたあと、片手をついて中へ進んでみた。
ざぶっ。
「ひゃっ! 冷たい!」
水路の水は思ったより深かった。
膝のあたりまで水に浸かりながら、ゆっくり進んでいく。
少し進んだところで、頭上の岩が低くなった。
「うーん……」
これ以上は、四つん這いにならないと進めそうにない。
白雪は水に手をつき、そっと身体を低くした。
すると、目の前に小さな青い光が現れた。
「わっ!」
水路の壁に、小さな結晶が並んでいたのだ。
ひとつひとつは小さいが、内側から光を放っている。
その中に、少し大きな結晶がひとつだけあった。
白雪は手を伸ばす。
しかし、結晶は壁に埋まっていて取れそうにない。
「うーん。これも取れないかぁ」
無理をせず、近くに落ちていた小さな欠片を拾う。
『《水光晶の欠片》を入手しました』
「水光晶の欠片!」
名前を確認したところで、背後から小さな水音がした。
ぴちゃっ。
「ん?」
振り返ると、水たまりの方に何かが浮かんでいた。
青い殻を背負った、小さな生き物だ。
以前、川辺で見かけたものに似ている。
ただ、こちらの生き物は殻の上に小さな葉っぱがあり、顔を水面から出したり沈めたりしている。
「あっ、こんにちは!」
白雪が手を振る。
生き物はじっと白雪を見つめた。
そして、ゆっくり近づいてくる。
「来てくれた!」
白雪が嬉しそうに身を乗り出すと、生き物はぴたりと止まった。
しばらく見つめ合ったあと、口元から小さな泡をひとつ吐き出す。
ぽこっ。
泡は水面に浮かび、ゆっくりと白雪の方へ流れてきた。
「わあ、泡だ!」
白雪は指先で泡に触れた。
ぷつん。
泡は小さな音を立てて弾けた。
「あははっ!」
生き物はもう一度、泡を吐き出した。
今度は二つ。
ぽこっ、ぽこっ。
白雪は《泡操作》を使い、泡をそっと動かしてみる。
ふわり。
二つの泡が水面から少しだけ浮かび上がった。
「見て見て! 浮いたよ!」
生き物は不思議そうに泡を見つめている。
白雪は泡をゆっくり回転させたり、並べたりして遊んだ。
生き物も楽しそうに泡を吐き出す。
しばらくすると、そいつは白雪の手元まで近づいてきた。
白雪はそっと指を伸ばす。
ぴとっ。
指先が、殻の端に触れた。
生き物は逃げなかった。
「おおっ! 触れた!」
白雪は嬉しそうに笑った。
けれど、長く触ろうとはせず、すぐに手を離す。
「ありがとう!」
生き物は水面で一度だけくるりと回ると、岩の隙間へと戻っていった。
「また遊ぼうねー!」
白雪は手を振った。
それから、洞窟の中をもう少し見て回った。
水の中には小さな石がいくつも落ちていて、壁には青い結晶が輝いている。
まだまだ見ていない場所がありそうだった。
けれど、そろそろ戻らないといけない。
「今日はいっぱい見つけたね!」
白雪は満足そうに頷いた。
帰り道、もう一度だけ水たまりを覗き込む。
半透明の魚が、石の陰からこちらを見ていた。
「ばいばーい!」
魚は水の中へ潜っていった。
白雪は狭い隙間を通り、岩の外へと戻る。
雨上がりの森は、まだ水滴でいっぱいだった。
空を見上げると、木々の間から柔らかな光が差し込んでいる。
「次はどこに行こうかなぁ」
白雪は川の上流を眺め、それから反対側の森にも目を向けた。
どちらにも、まだ知らない場所がある。
「うーん……」
少しだけ考えて、白雪は森の奥を指差した。
「よし、あっち!」
今日もまた、気になるものを見つけるための冒険が始まるのだった。




