第39話 水路の小さな友達と不思議な水しぶき
森の朝。
「今日は何があるかなー!」
白雪はいつものように、森の中を歩いていた。
昨日は小さな岩の隙間から入れる水路を見つけた。
水路の中には青い石や小さな貝殻があり、さらに奥には細い隙間が続いていた。
そして、川辺で何度も出会っている青い甲羅の生き物も、あの空洞までやってきた。
「今日もいるかな?」
白雪は少しだけ歩く速度を上げた。
木の根を飛び越え、草むらを抜ける。
途中で見つけた小さなキノコを覗き込んだ。
茶色い傘に、白い斑点がついている。
「これ、食べられるのかな?」
白雪はキノコを指先でつついた。
少し柔らかい。
匂いを嗅いでみると、土のような香りがした。
「うーん……今日はやめておこうかな」
そう言ってキノコをそのままにした。
珍しいこともあるものだ。
白雪はまた歩き始めた。
◇
川辺に着くと、青い甲羅の生き物は水面に顔を出していた。
「あっ、いた!」
白雪が手を振る。
生き物は白雪を見ると、少しだけ頭を傾けた。
ぷくっ。
小さな泡がひとつ浮かび上がる。
「おはよう!」
白雪は泡を《泡操作》でそっと動かした。
泡は水面から離れ、白雪の目の前をゆっくり漂う。
生き物はその泡を追いかけるように、岩の上を移動した。
「ふふっ。今日も遊ぼう!」
白雪は泡を少しだけ高く浮かせる。
生き物も水面から顔を出して、泡を見上げた。
しばらく遊んでいると、生き物は水中へ潜った。
「あれ?」
白雪が水面を覗き込む。
生き物は川の底を移動しているようだった。
やがて、白雪の足元に近づいてくる。
ぽちゃん。
水面から顔を出した生き物は、口に何かをくわえていた。
「ん?」
それは、小さな青い石だった。
生き物は白雪の近くまで来ると、石を水辺に置いた。
ころん。
「あっ、またくれるの?」
白雪は石を拾い上げた。
《水泡石》
表面には小さな丸い模様がいくつも並んでいる。
「泡みたいな模様!」
白雪は石を光にかざした。
「ありがとう!」
生き物は、ぷくっと泡を吹いた。
白雪は笑って、石をアイテム欄にしまった。
◇
その後、白雪は水路の入口へ向かった。
「今日は奥も見てみよう!」
岩の隙間から身体を滑り込ませ、小さな水路へ入る。
中はひんやりしていて、天井から水滴が落ちていた。
ぽちゃん。
小さな音が空洞に響く。
白雪は水たまりのそばにしゃがみ込んだ。
青い甲羅の生き物も、少し遅れて水路に入ってきた。
「あっ、来た!」
生き物は水たまりの中をゆっくり泳いでいる。
白雪はその様子を眺めながら、昨日見つけた細い隙間へ向かった。
「ここ、狭いんだよね……」
隙間の奥から、冷たい風が吹いてくる。
水の流れも、そちらへ続いているようだった。
白雪は地面に手をついて覗き込む。
すると、隙間の下に小さな水たまりが見えた。
「あれ?」
水たまりの中に、何かが光っている。
白雪は手を伸ばした。
指先が届くかどうか、ぎりぎりの距離。
「んーっ……!」
あと少し。
もう少し。
指先が水面に触れた。
ちゃぷん。
水が揺れ、光が消えてしまった。
「あっ、消えちゃった!」
白雪は手を引っ込めた。
もう一度覗き込む。
今度は光が見えない。
「どこ行ったんだろう?」
白雪は首を傾げた。
そのとき、背後で水音がした。
ちゃぽん。
振り返ると、青い甲羅の生き物が水たまりの近くにいた。
「どうしたの?」
生き物は白雪の方を見てから、隙間の奥へ進んでいった。
そして、細い身体を隙間に滑り込ませる。
「あっ!」
白雪は目を丸くした。
生き物は狭い隙間を通り抜けられるようだ。
しばらく待っていると、奥から戻ってきた。
口には、先ほど光っていたものらしい小さな粒がくわえられている。
「わあ!」
生き物はそれを白雪の前に置いた。
《水光粒》
透明な粒の中に、小さな青い光が閉じ込められている。
「これ、さっき光ってたやつ?」
白雪は嬉しそうに拾い上げた。
「ありがとう!」
生き物は水たまりの中で、ぷくぷくと泡を吹いた。
白雪は笑いながら、手を伸ばしてみる。
今度は生き物が逃げなかった。
頭の上にある小さな葉っぱに、指先がそっと触れる。
ふわり。
葉っぱが揺れた。
「あっ、触れた!」
生き物は少しだけ目を細めた。
白雪は優しく、もう一度だけ撫でてみた。
「かわいいね!」
生き物はそのまま水の中へ戻っていった。
◇
水路の空洞から出た白雪は、川辺に座り込んだ。
「ふぅ。楽しかった!」
青い甲羅の生き物も、少し離れた水辺に顔を出している。
白雪はアイテム欄から《水光粒》を取り出した。
太陽の光にかざすと、中の青い光がきらきらと揺れる。
「綺麗だなぁ」
そのとき、川の上流から大きな水音が聞こえた。
ばしゃん!
「ん?」
白雪が顔を上げる。
水面が大きく揺れている。
何かが跳ねたようだった。
「魚かな?」
白雪は立ち上がって、上流へ向かった。
少し歩くと、川幅が広くなっている場所に出た。
そこでは、水面から銀色の魚が何匹も跳ねていた。
「わあ! いっぱい!」
魚は水面から飛び出して、空中でくるりと回転する。
そして水の中へ戻っていく。
白雪はしばらく見とれていた。
「すごい! どうやって跳んでるんだろう?」
水辺に近づいてみると、魚たちは白雪に気づいて一斉に散ってしまった。
「あっ、逃げちゃった……」
白雪は少し残念そうに水面を眺める。
すると、ひときわ大きな魚が水面から飛び出した。
銀色の身体に、淡い青色のひれ。
空中で大きく身体をひねり、そのまま水面へ落ちる。
ばしゃん!
水しぶきが白雪の顔にかかった。
「きゃっ!」
白雪は目を閉じた。
頬に冷たい水が流れる。
「もう!」
白雪は笑いながら顔を拭いた。
その魚は、少し離れたところでまた跳ねた。
「元気だねー!」
白雪はしばらく魚を眺めていた。
そのうち、魚の跳ねるタイミングに合わせて、水面に小さな泡が浮かんでくることに気づいた。
魚が跳ねる。
ばしゃん。
泡が浮かぶ。
ぽこっ。
「面白い!」
白雪は《泡操作》で泡を動かしてみた。
泡は水面から浮かび、魚が跳ねる場所の近くへ流れていく。
魚が跳ねると、泡が水しぶきに押されて少しだけ揺れた。
「わあ! 動いた!」
白雪は泡をいくつか集めてみた。
魚が跳ねるたびに、泡がふわふわと揺れる。
まるで魚と泡が一緒に踊っているようだった。
白雪は夢中になって、しばらく遊んでいた。
◇
しばらくすると、魚たちは川の奥へ泳いでいった。
「行っちゃった」
白雪は水面を眺める。
そのとき、近くの岩に小さな青いものが落ちているのを見つけた。
「あれ?」
拾い上げると、薄い青色の鱗だった。
《跳魚の鱗》
「さっきの魚のかな?」
白雪は鱗を光にかざした。
透き通るような青色で、光を受けると銀色に輝く。
「綺麗!」
白雪は鱗をしまった。
さらに、岩の隙間に小さな水草が生えているのを見つけた。
細い葉っぱの先に、丸い水滴がついている。
《跳水草》
「これも水草だ!」
白雪は採取した。
そのとき、システムメッセージが表示される。
《水辺採取スキルの熟練度が上昇しました》
「おっ!」
白雪は嬉しそうに頷いた。
今日は新しいスキルは覚えなかったけれど、いろいろなものを見つけられた。
「そろそろ帰ろうかな!」
白雪は川の方を振り返った。
少し離れた場所には、青い甲羅の生き物がまだ顔を出している。
「またね!」
白雪が手を振ると、生き物は小さな泡をひとつ吹いた。
ぽこっ。
白雪はその泡を《泡操作》で少しだけ動かしてから、そっと水面へ戻した。
「ふふっ。明日も遊ぼうね!」
そう言って、白雪は森の中へ歩き出した。
今日もまた、知らないものをたくさん見つけた。
そして、明日もきっと何かを見つけるだろう。
白雪の冒険は、まだまだ続いていく。




