第38話 小さな穴の奥にあった水の通り道
森の中に、朝の光が差し込んでいた。
「今日は、あの穴を見に行こう!」
白雪は昨日見つけた小さな穴を思い出していた。
川辺に転がした《泡丸石》が入り込んでしまった穴。
中からは水の流れる音が聞こえていた。
「何があるんだろう?」
白雪は少しだけ考える。
穴は小さく、身体を入れることはできなかった。
でも、奥に水が流れているなら、どこかにつながっているのかもしれない。
「よし、行ってみよう!」
白雪は森の中を歩き始めた。
木の根を飛び越え、草むらを抜ける。
途中で小さな黄色い花を見つけた。
「あっ、お花!」
花びらは丸く、中心には小さな水滴が乗っている。
《露黄花》
「黄色くてかわいい!」
白雪は花をひとつ採取した。
そのまま歩いていくと、今度は地面に小さな羽根が落ちていた。
淡い緑色の羽根だ。
「ミドリオトリのかな?」
拾い上げてみる。
《若葉鳥の羽根》
「やっぱり鳥の羽根だ!」
白雪は羽根をアイテム欄にしまった。
それから、川の方へ向かった。
◇
しばらく歩くと、昨日の川が見えてきた。
「あった!」
白雪は川辺へ駆け寄る。
小さな滝も、白い石の道も、昨日と同じ場所にあった。
そして、例の穴も見つかった。
「ここだね!」
白雪はしゃがみ込んで、穴の中を覗き込んだ。
中は暗くてよく見えない。
耳を近づける。
さらさら……。
水の音が聞こえる。
「やっぱり水が流れてる!」
白雪は近くに落ちていた細い枝を拾った。
穴に差し込んでみる。
枝の先が何かに当たった。
こつん。
「あれ?」
もう少し奥へ押してみる。
こつ、こつ。
どうやら、途中に石が詰まっているらしい。
「石があるのかな?」
白雪は枝を引き抜いた。
今度は穴の入口を覗き込んで、周囲の土を少しだけ取り除いてみる。
すると、穴の奥に青白い光が見えた。
「ん?」
白雪は目を細めた。
光は水面に反射しているようだった。
「水があるんだ!」
でも、穴はやっぱり狭い。
白雪は横から覗き込んだり、少し離れて眺めたりした。
すると、穴のすぐ上に小さな岩の隙間があることに気づいた。
「あっ、こっちから入れるかな?」
白雪は岩の隙間へ顔を近づける。
こちらも狭いが、穴よりは広そうだ。
身体を横向きにすれば通れるかもしれない。
「よいしょ……」
白雪はマントが引っかからないように気をつけながら、隙間へ身体を滑り込ませた。
少し進むと、岩の内側に小さな空間があった。
「おおっ!」
そこには、細い水の流れがあった。
岩の壁に沿って、水がちょろちょろと流れている。
天井の隙間から光が差し込み、水面に青白い模様を作っていた。
「綺麗……」
白雪はその場にしゃがみ込んだ。
水は浅く、足首にも届かないくらいだ。
小さな水路は、奥へと続いている。
「どこまで続いてるのかな?」
白雪は水路に沿って進んでみた。
◇
水路の奥には、小さな空間があった。
天井から水滴が落ちていて、地面には小さな水たまりができている。
その水たまりの中に、青い石がいくつも沈んでいた。
「あっ、石!」
白雪は水の中へ手を入れた。
拾い上げると、表面が透き通っていて、中心に白い筋が入っている。
《水脈晶》
「水の中にある水晶みたい!」
白雪は近くに落ちていたものを、いくつか拾った。
さらに水たまりの端には、小さな貝殻が落ちていた。
《滴貝》
白い貝殻の表面には、丸い水滴のような模様が並んでいる。
「こっちもかわいい!」
白雪は貝殻をアイテム欄にしまった。
そのとき、水たまりの奥で何かが動いた。
ぴちっ。
「ん?」
白雪が顔を近づけると、小さな魚が泳いでいた。
透明に近い身体に、淡い青色のひれがついている。
「あっ、お魚!」
魚は白雪を見ると、水草の陰へ隠れてしまった。
「隠れちゃった……」
白雪は水草を覗き込んだ。
そこには、細長い葉っぱがいくつも生えている。
《水滴草》
「前にも似た名前の草があった気がする!」
白雪は葉っぱを少しだけ採取した。
すると、水草の根元から小さな泡が浮かび上がった。
ぽこっ。
「あっ!」
白雪はすぐに《泡操作》を使った。
泡が水面から離れ、ゆっくりと浮かんでくる。
その泡を、白雪は手のひらの上へ移動させた。
「ふふっ。できた!」
泡は小さく揺れながら、白雪の手の上に浮かんでいる。
白雪は少しだけ手を動かしてみた。
泡も一緒に動く。
さらに、もうひとつ泡を浮かせてみる。
ふたつの泡が並んだ。
「仲良しだね!」
白雪が笑った瞬間、ふたつの泡が触れ合った。
ぽよん。
ひとつの大きな泡になる。
「おおっ!」
大きくなった泡は、空間の天井近くまで浮かび上がった。
そして、天井から落ちてきた水滴に触れた。
ぱちん。
泡は弾けてしまった。
「あっ、割れちゃった」
白雪は少し残念そうに天井を見上げた。
そのとき、天井の隙間からもうひとつ水滴が落ちてきた。
ぽちゃん。
水たまりに波紋が広がる。
白雪はその波紋を眺めながら、しばらく遊んでいた。
◇
水路の奥には、さらに細い隙間があった。
白雪はそこを覗き込む。
奥から、冷たい風が吹いてきた。
「風もある!」
水の流れは、その隙間の下へ続いているようだった。
しかし、隙間は狭く、白雪の身体では通れそうにない。
「うーん。ここは無理かな」
白雪は無理に入ろうとはせず、周囲を見回した。
すると、壁に小さな白い花が咲いているのを見つけた。
「こんなところにもお花がある!」
花びらは薄く、中心には青い粒がついている。
《洞滴花》
白雪はそっと花を採取した。
そのすぐ近くには、丸い石がひとつ落ちていた。
拾い上げると、表面に細い溝がある。
《水流石》
「川の石かな?」
白雪は石を眺めてから、アイテム欄へしまった。
そのとき、背後から小さな水音が聞こえた。
ちゃぷん。
「あれ?」
振り返ると、水たまりの向こうに青い甲羅の生き物がいた。
「あっ!」
白雪は思わず声を上げた。
青い甲羅に、頭の上の小さな葉っぱ。
川辺で何度か会った生き物だ。
「どうしてここにいるの?」
生き物は白雪を見ると、少しだけ首を傾けた。
そして、ゆっくりと近づいてくる。
「こっちにも来られるんだ!」
白雪は嬉しそうに笑った。
生き物は水たまりの端で止まり、口を開いた。
ぷくっ。
小さな泡がひとつ浮かぶ。
白雪は《泡操作》で泡を少しだけ動かした。
生き物は泡を追いかける。
そして、泡の近くまで来ると、またひとつ泡を吹いた。
「ふふっ。遊びたいの?」
白雪はふたつの泡を並べた。
生き物はそれをじっと見ていた。
しばらくすると、白雪の足元へ近づいてきた。
小さな頭を、白雪のブーツにちょんと触れさせる。
「あっ!」
白雪は驚いたが、動かなかった。
生き物は少しだけそのまま触れていた。
「ふふっ。くすぐったいよ」
白雪はそっと手を伸ばす。
しかし、生き物はすぐに水の中へ戻ってしまった。
「あっ、まだ駄目かぁ」
白雪は笑いながら手を引っ込めた。
それでも、前よりずっと近くまで来てくれた。
「また遊ぼうね!」
白雪は生き物に手を振った。
◇
空洞から外へ戻ると、森の光は少し赤みを帯びていた。
「もう夕方だ!」
白雪は水路の入口を振り返る。
中にはまだ小さな水の流れが続いている。
もっと奥へ行けたら、何かあるのかもしれない。
でも、今日はここまで。
「また今度、来よう!」
白雪はそう言って、川辺へ戻った。
水辺では、青い甲羅の生き物が水面から顔を出していた。
「ばいばーい!」
白雪が手を振ると、生き物は小さな泡をひとつ吹いた。
ぽこっ。
白雪はその泡を少しだけ動かして、ゆっくりと水面へ戻した。
「またね!」
白雪は森の中へ歩き出した。
今日も、気になるものを見つけて、たくさん寄り道をした。
明日はどこへ行こう。
そんなことを考えながら、白雪は軽い足取りで帰っていった。




