第37話 白い石の道と水辺の小さな住人
森の朝。
「今日は、あの石の道の続きを見に行こう!」
白雪は昨日見つけた不思議な場所を思い出していた。
白い石が並ぶ道。
円形に石が配置された場所。
中央にあった岩は、触れると一瞬だけ光った。
それから、小さな水路と白い苔の生えた木。
「何だったんだろう、あれ?」
白雪は首を傾げる。
気になることはたくさんある。
でも、ひとつずつ調べようとは思っていない。
歩いていれば、また何か見つかるかもしれない。
「よし、出発!」
白雪は森の中を駆け出した。
木の根を飛び越え、低い枝をくぐる。
途中で見つけた小さな青い花を摘み、名前を確認する。
《森青花》
「青いお花!」
白雪は花をアイテム欄へしまった。
そのまま歩いていくと、見覚えのある白い木が見えてきた。
「あっ、あった!」
白い苔の生えた大きな木。
昨日、白いリスのような生き物と出会った場所だ。
白雪は木の根元にある小さな穴を覗き込んだ。
「おーい。いるー?」
返事はない。
穴の入口には、昨日置いた《森赤実》がなくなっていた。
「あっ、食べてくれたんだ!」
白雪は嬉しそうに笑った。
そのとき、木の裏側から小さな音が聞こえた。
かりっ。
「あっ!」
白雪が振り返ると、白いリスが木の根元に座っていた。
淡い青色の尾を揺らしながら、小さな木の実を両手で持っている。
「おはよう!」
白雪が声をかけると、リスは一瞬だけ動きを止めた。
それから、木の根元に置かれた白い実をくわえ、穴の近くへ運んでいく。
「それ、昨日の木の実?」
リスは穴の入口で実を置くと、白雪の方をちらりと見た。
そして、また木の裏側へ隠れてしまった。
「ふふっ。今日も元気だね!」
白雪は追いかけずに、その場を離れた。
◇
昨日の石の道は、白い木から少し進んだところにあった。
白い石が、森の奥へ向かって並んでいる。
「今日はどこまで続いてるのかな?」
白雪は石の上を歩いてみた。
白い石はところどころ苔に覆われているが、踏むと安定している。
少し進むと、昨日見つけた円形の場所が見えてきた。
「あっ、ここ!」
中央の岩には、昨日と同じ模様が刻まれている。
白雪はしゃがみ込み、指先で模様をなぞった。
何も起こらない。
今度は別の場所を触ってみる。
やっぱり何も起こらない。
「うーん……昨日は光ったのに」
白雪は岩の周りを一周した。
円形に並んだ石のひとつを持ち上げてみる。
少し重い。
裏側には、細かな模様が刻まれていた。
「こっちにも模様がある!」
石を元の場所へ戻す。
白雪はしばらく眺めていたが、仕組みは分からなかった。
「まあ、いっか!」
分からないものは、また今度考えればいい。
白雪は石の道をさらに進んだ。
すると、道の先から水の音が聞こえてきた。
「水だ!」
白雪は足を速めた。
◇
石の道の先には、小さな川が流れていた。
川幅はそれほど広くないが、流れは少し速い。
白い石が川の両岸に並び、ところどころに丸い岩が顔を出している。
「綺麗な川!」
白雪は水辺に近づいた。
水は透き通っていて、底の石までよく見える。
そのとき、川の中央にある岩の上で何かが動いた。
「あれ?」
白雪は目を凝らした。
小さな生き物が、岩の上に座っている。
丸い身体に、短い手足。
背中には薄い水色の甲羅のようなものがあり、頭には小さな葉っぱが一枚生えていた。
「かわいい!」
白雪が近づくと、生き物は白雪を見た。
そして、岩の上から川へ飛び込んだ。
ぽちゃん。
「あっ、逃げちゃった!」
白雪は水面を覗き込んだ。
生き物は岩の下へ隠れたようだった。
「どこに行ったのかな?」
白雪は川辺にしゃがみ込む。
しばらく待っていると、岩の反対側から葉っぱがひょこっと出てきた。
「あっ、いた!」
生き物は水面から顔を出した。
白雪と目が合う。
じっと見つめ合うこと数秒。
生き物は口を開いた。
ぷくっ。
小さな泡がひとつ浮かび上がる。
「泡だ!」
白雪は思わず笑った。
《泡操作》を使って、泡を少しだけ横へ動かす。
生き物は泡を目で追い、首を傾けた。
「ふふっ。面白い?」
白雪は泡をゆっくりと元の場所へ戻した。
生き物はもう一度、ぷくっと泡を吹く。
今度は二つ。
白雪はその泡を並べて、少しだけ上へ浮かせてみた。
ぽよん、ぽよん。
ふたつの泡が揺れる。
生き物は水面から顔を出したまま、じっと眺めていた。
「一緒に遊ぶ?」
白雪が手を差し出す。
生き物は少しだけ近づいた。
けれど、手に触れる直前で止まり、また岩の陰へ隠れてしまった。
「あれぇ?」
白雪は手を引っ込めた。
まだ警戒されているらしい。
「ゆっくり仲良くなろうね!」
白雪は笑って、川辺を歩き始めた。
◇
川沿いには、小さな水草がたくさん生えていた。
葉っぱは細長く、先端に透明な水滴がついている。
白雪はひとつ摘んでみた。
《流水草》
「水の中に生えてるんだ!」
さらに少し進むと、白い花が水面近くに咲いていた。
花びらは薄く、風に揺れるたびに水滴が落ちる。
《水白花》
白雪は花をひとつ採取した。
そのとき、川の流れに乗って何かが流れてきた。
ころころ。
白い丸いものが、水面を転がっている。
「あっ、何か来た!」
白雪は手を伸ばして受け止めた。
それは、小さな貝殻だった。
表面には青い線が何本も入っている。
《川紋貝》
「貝殻だ!」
白雪は耳に近づけてみた。
さらさら……。
小さな水音が聞こえる。
「川の音かな?」
白雪は貝殻をしまった。
その直後、足元の水が少しだけ強く流れた。
白雪は慌てて一歩下がる。
「わっ、流れが速い!」
よく見ると、川の一部が岩の間を通って細くなっている。
その場所だけ、水が勢いよく流れていた。
白雪は近くの岩に手をつき、覗き込んでみる。
岩の隙間には、小さな青い粒がいくつも挟まっていた。
「これ、石かな?」
手を伸ばして、ひとつ取り出す。
《流青晶》
透明な青い粒だった。
水に濡れているせいか、光を受けてきらきらと輝いている。
「綺麗!」
白雪は周囲に落ちているものを、いくつかだけ拾った。
そのときだった。
ぽちゃん!
「ん?」
川の中から、先ほどの生き物が顔を出した。
今度は少し離れた岩の上にいる。
口には何かをくわえていた。
生き物は白雪の方を見てから、岩の上にそれを置いた。
ころん。
「あれ?」
白雪が近づくと、生き物は水の中へ戻ってしまった。
岩の上には、小さな緑色の石が残っていた。
拾い上げてみる。
《水葉石》
「葉っぱみたいな模様!」
白雪は石を光にかざした。
中心に、葉っぱのような模様が浮かんでいる。
「これ、くれたのかな?」
川の方を見ると、生き物が少しだけ顔を出していた。
「ありがとう!」
白雪は手を振った。
生き物は返事をするように、ぷくっと泡を吹いた。
◇
白雪は川辺の少し上流へ歩いてみた。
すると、川の途中に小さな段差があり、水が白い泡を立てながら流れ落ちていた。
「小さな滝だ!」
白雪は近づいて、水しぶきを手で受け止めた。
冷たい。
その近くには、丸い石がたくさん転がっている。
白雪はひとつ拾い上げてみた。
《泡丸石》
表面には小さな穴がいくつも開いている。
「泡みたいな穴!」
白雪は石を軽く振ってみた。
もちろん、何も起こらない。
それでも面白くて、何度か転がしてみる。
ころころ。
石は丸い形をしているので、地面をよく転がった。
「あっ、待って!」
石が斜面を転がっていく。
白雪は慌てて追いかけた。
石は草の間を抜け、小さな穴へ入り込んでしまった。
「あれ?」
白雪は穴の前にしゃがみ込む。
穴は小さく、手を入れることはできそうにない。
中から、かすかに水音が聞こえた。
「奥に水があるのかな?」
白雪は耳を近づけてみた。
さらさら……。
水が流れている音だ。
けれど、穴は狭くて入れそうにない。
「うーん。無理だね」
白雪は諦めて立ち上がった。
そのとき、川の方から小さな鳴き声が聞こえた。
ぷくっ。
振り返ると、青い甲羅の生き物が水面から顔を出していた。
「あっ、また来た!」
白雪は嬉しそうに手を振った。
生き物はしばらくこちらを見ていたが、やがて水中へ潜っていった。
その後には、小さな泡がひとつ残った。
白雪はその泡を《泡操作》でそっと動かした。
泡は水面の上をふわふわと進んでいく。
「また遊ぼうね!」
白雪は笑った。
◇
空が少しずつ夕方の色に変わっていく。
「そろそろ帰ろうかな」
白雪は川辺を振り返った。
今日は新しい水辺を見つけて、かわいい生き物にも出会えた。
名前はまだ分からない。
でも、また会いに来たいと思った。
「次に会ったら、もっと近くで見られるかな?」
白雪は川に手を振った。
水面が小さく揺れる。
ぽこっ。
最後に泡がひとつ浮かんだ。
「ばいばーい!」
白雪は森の中へ歩き出した。
帰り道、白い石の道を見つけると、少しだけ立ち止まった。
昨日と同じように、白い石が森の奥へ続いている。
「まだ先があるんだよね」
白雪はその先を眺めた。
けれど、今日はもう帰る。
明日もまた、気になったら来ればいい。
そう思いながら、白雪は軽い足取りで森を抜けていった。




