第36話 森に隠れていた不思議な石の道
森の中に、柔らかな風が吹いていた。
「今日はどっちに行こうかなー」
白雪は道の分かれ目で立ち止まり、左右を見比べていた。
右側には、昨日見つけた花畑へ続く道がある。
左側は、まだ歩いたことのない少し暗い森の中へ続いている。
「うーん……」
白雪は右を見て、左を見て、それから空を見上げた。
木々の隙間から、青い空が見える。
「よし、今日はこっち!」
白雪は左側の道へ進んだ。
特に理由はない。
まだ歩いたことがないから、それだけだった。
木の根を飛び越え、草むらを抜ける。
途中で見つけた小さな赤い実をひとつ拾い、指先で転がしてみた。
「これ、前にも見たことあるかな?」
アイテム名は《森赤実》。
以前食べたことのある実だ。
「これ、おいしかったよね!」
白雪はひとつ口に入れた。
甘酸っぱい味が広がる。
「うん、おいしい!」
もうひとつ食べようとしたところで、頭上から小さな鳴き声が聞こえた。
ぴるるっ。
「あっ!」
白雪が顔を上げると、枝の上に白と淡い緑色の小鳥が止まっていた。
「ミドリオトリ!」
昨日の花畑で出会った鳥だ。
ミドリオトリは白雪を見つめると、短く鳴いた。
ぴるるっ。
「おはよう!」
白雪が手を振ると、鳥は枝から飛び立った。
昨日と同じように、少し先の枝に止まる。
「あれ? 今日もついてきてほしいの?」
ミドリオトリは答えるように羽ばたいた。
「よーし!」
白雪は鳥を追いかけて走り出した。
◇
ミドリオトリは、花畑とは反対の方向へ飛んでいった。
木々の間を抜け、少しずつ地面が下り坂になっていく。
白雪は枝を避けながら追いかける。
「待ってー!」
鳥はときどき振り返るように止まり、白雪が近づくとまた飛び立つ。
やがて、木々の間に白いものが見えてきた。
「あれ?」
白雪は足を止めた。
地面に、白い石が並んでいる。
最初はただの石ころかと思ったが、よく見ると同じような形の石が、一定の間隔で続いていた。
「石の道?」
白雪はしゃがみ込んで、石を触ってみた。
表面は滑らかで、長い時間水に磨かれたような形をしている。
ひとつ持ち上げてみると、思ったよりも軽かった。
《白流石》
「白い石だ!」
白雪は石を元の場所へ戻した。
そのまま道をたどっていく。
石は地面に埋まっているものもあれば、少しだけ顔を出しているものもある。
ところどころに苔が生えていて、かなり古そうだった。
「昔からあるのかな?」
白雪は石を踏まないように、隣の土の上を歩いてみた。
すると、足元から小さな音がした。
ころん。
「ん?」
白雪が振り返る。
白い石がひとつ、少しだけ動いていた。
「動いた?」
もう一度、そっと足を乗せてみる。
今度は何も起こらない。
「気のせいかな?」
白雪は首を傾げた。
そのまま道を進むと、少し開けた場所に出た。
そこには、白い石が円を描くように並んでいた。
中央には平らな岩がひとつ置かれている。
「わあ、丸い!」
白雪は円の中へ入ってみた。
中央の岩には、細い線が刻まれている。
線は円を描くようにつながり、いくつかの小さな穴へ続いていた。
「模様かな?」
白雪は指先で線をなぞった。
すると、岩の表面がほんの少しだけ光った。
「えっ?」
白雪は手を離す。
光はすぐに消えてしまった。
もう一度触れてみる。
今度は何も起こらない。
「……あれ?」
白雪は何度か試してみたが、岩はただの岩のように静かだった。
少しだけ不思議に思ったものの、白雪はすぐに別のものに目を向けた。
「あっ、こっちにも石がある!」
円の端に、小さな白い石が落ちていた。
拾い上げると、表面に淡い青色の模様が入っている。
《環白石》
「こっちは模様がある!」
白雪は嬉しそうにアイテム欄へしまった。
◇
円形の場所を離れた白雪は、さらに石の道を進んだ。
道の先には、小さな水路があった。
水路といっても、幅は白雪の腕ほどしかない。
透明な水が、白い石の間を静かに流れている。
「水だ!」
白雪は水路のそばにしゃがみ込んだ。
水の中には、小さな葉っぱがいくつも浮かんでいる。
葉っぱは水の流れに乗って、ゆっくりと下流へ進んでいった。
白雪はそのひとつを指先で止めてみる。
葉っぱの表面には、銀色の筋が一本走っていた。
《銀脈葉》
「銀色の線がある!」
白雪は葉っぱを採取した。
そのとき、水路の奥から小さな影が近づいてきた。
「ん?」
水面が揺れる。
丸い頭に、細長い身体。
小さな魚のような生き物だった。
背中には透明なひれがあり、身体の横には淡い青色の模様がある。
「お魚?」
白雪が覗き込むと、その生き物は水面近くまで上がってきた。
そして、口を開いた。
ぽわっ。
小さな泡がひとつ浮かぶ。
「あっ、泡!」
白雪は思わず笑った。
《泡操作》を使って、泡をゆっくりと動かしてみる。
泡は水路の上をふわふわと漂った。
生き物は泡を追いかけるように泳いでいる。
「追いかけてる!」
白雪は泡を少しだけ遠くへ動かした。
生き物もその後を追う。
今度はゆっくりと戻してみる。
生き物も戻ってきた。
「ふふっ。遊んでるみたい!」
白雪はしばらく泡を動かして遊んだ。
やがて生き物は水路の奥へ戻っていった。
その姿が見えなくなるまで、白雪は水面を眺めていた。
◇
石の道をさらに進むと、今度は大きな木が見えてきた。
幹の表面には白い苔が生えていて、枝には薄い青色の葉っぱが揺れている。
「変わった木!」
白雪は近づいてみた。
木の根元には、白い石がいくつも集まっている。
その中に、丸い実がひとつ落ちていた。
《月白の実》
「月白?」
白雪は実を拾い上げた。
表面は白く、少しだけ青みがかっている。
鼻を近づけると、甘い香りがした。
「おいしそう!」
白雪は実を軽く拭いてから、ひと口かじった。
「んっ!」
口の中に、優しい甘さが広がる。
そのあと、少しだけ冷たい感覚が残った。
「冷たくて甘い!」
白雪は目を細めた。
もうひと口食べようとしたところで、頭上から葉っぱが落ちてきた。
ひらり。
白雪の髪に乗る。
「ん?」
葉っぱを取ってみると、表面に小さな白い模様があった。
《月白葉》
「葉っぱも綺麗!」
白雪は落ちてきた葉っぱを拾い、アイテム欄へしまった。
そのとき、木の幹の裏側から小さな音が聞こえた。
かりかり。
「何の音?」
白雪は木の裏側へ回った。
そこには、小さなリスのような生き物がいた。
白い身体に、淡い青色の尾。
両手で木の実を持ち、かりかりとかじっている。
「あっ、かわいい!」
白雪が近づくと、生き物はぴたりと動きを止めた。
そして、木の幹の反対側へ隠れてしまった。
「あれ?」
白雪は木の反対側を覗き込む。
生き物は反対側へ移動する。
白雪が回り込む。
生き物も反対へ。
「ふふっ。かくれんぼ?」
何度か繰り返していると、生き物は木の根元にある小さな穴へ逃げ込んでしまった。
「あっ、行っちゃった」
白雪は穴を覗き込んだ。
奥から、かりかりという音が聞こえてくる。
「ご飯食べてるのかな?」
白雪はしばらくその場に座っていた。
すると、穴の入口に小さな木の実がひとつ転がってきた。
「ん?」
拾い上げてみる。
《月白の木の実》
白雪は穴の方を見た。
「くれたの?」
返事はない。
けれど、白雪は嬉しそうに笑った。
「ありがとう!」
木の実をアイテム欄にしまう。
それから、穴の入口に小さな《森赤実》をひとつ置いた。
「これ、お返し!」
白雪は立ち上がると、木に手を振った。
◇
気づけば、日が傾き始めていた。
「もう夕方だ!」
白雪は石の道を振り返る。
白い石が並ぶ道。
円形に並んだ不思議な岩。
小さな水路と、白い苔の木。
どれも初めて見るものばかりだった。
「また来よう!」
白雪はそう言って歩き出した。
帰り道を探している途中、ふと足元に小さな光が見えた。
「あっ!」
白雪はしゃがみ込む。
そこには、小さな白い粒が落ちていた。
拾い上げると、指先でころころと転がる。
《白流の粒》
「何だろう?」
白雪は粒を光にかざしてみた。
すると、ほんの一瞬だけ青白く光った。
「綺麗!」
白雪はそれもアイテム欄にしまった。
そして、何事もなかったように歩き始める。
今日も新しいものをたくさん見つけた。
明日は何があるだろう。
そんなことを考えながら、白雪は森の中を帰っていった。




