第3話 草原で見つけた不思議なもの
「今日は何があるかなぁ!」
ログインした雪乃は、昨日と同じ草原に立っていた。
目の前には青空と広い草原。
風が吹くたびに草が揺れ、遠くでは何匹かのモンスターが歩いている。
「よーし! 今日も探検だ!」
雪乃は両手を軽く握って、元気よく歩き出した。
……ちなみに、街へ向かうという考えは今日もあまりない。
本人の中では、草原を歩き回ることも立派な冒険なのだ。
「そういえば、昨日の青い実おいしかったなぁ」
アイテム欄を開いて、《青草の実》を確認する。
昨日採取したものがまだ残っている。
「もう一個食べちゃおう!」
ぱくり。
「んー、おいしい!」
甘酸っぱい味が口の中に広がった。
満腹度が少し回復する。
「これ、また見つけたら採ろうっと!」
雪乃は満足そうに頷いた。
そのまま歩いていると、昨日とは違う場所に小さな丘が見えてきた。
「おっ、あそこ行ってみよう!」
特に理由はない。
ただ、少し高い場所から景色を見たくなったのだ。
小さな丘と変な遊び
丘の斜面には、背の低い草が生えていた。
雪乃はゆっくり登り始める。
最初は普通に歩いていたが、途中から少し急になってきた。
「おっとっと……」
足元の土が少し滑る。
雪乃は両手を広げてバランスを取った。
「おお、ちょっと滑る!」
そのまま横向きになって、斜面を登る。
一歩。
もう一歩。
そして、ようやく頂上にたどり着いた。
「ついたー!」
丘の上からは、草原を広く見渡せた。
遠くには森がある。
木々がたくさん並んでいて、風に揺れているのが見えた。
「わぁ……森だ!」
雪乃は目を輝かせる。
「あとで行ってみようかな!」
その前に、まずは丘の上を探索することにした。
すると、足元に丸い石が転がっているのを見つけた。
「ん?」
拾い上げる。
灰色の石で、表面が少しざらざらしている。
「普通の石かな?」
手の中で転がしてみる。
特に変わったところはない。
「……投げたらどうなるんだろ?」
雪乃は周囲を見渡した。
近くには誰もいない。
少し離れたところに、小さな岩がある。
「よし!」
雪乃は石を軽く投げた。
ころころころ……。
石は地面を転がり、小さな岩に当たって止まった。
「おお、普通だ!」
もう一個、少し大きな石を拾う。
今度は遠くまで投げてみた。
ぽーん。
石は思ったより遠くへ飛んでいった。
「わっ、結構飛ぶ!」
楽しくなった雪乃は、しばらく石を拾っては投げ、拾っては投げを繰り返した。
すると、突然メッセージが表示された。
『スキル《投擲》を獲得しました』
「えっ!?」
雪乃は手に持っていた石を見た。
「石を投げてたら覚えた!」
どうやら、繰り返し投げていたことが条件になったらしい。
「すごい! こんなことでもスキル覚えるんだ!」
雪乃は嬉しそうに笑った。
その後、もう一度石を投げようとしたが、今度は変な方向へ飛んでいった。
「あっ、そっち!?」
石は草むらの中に消えてしまった。
「……まあ、いっか!」
雪乃はすぐに別のものへ興味を移した。
草むらの中の小さな発見
丘を下りた雪乃は、草原の端にある背の高い草むらへ向かった。
風が吹くと、草が大きく揺れる。
「ここ、何か隠れてそう!」
雪乃はしゃがみ込み、草の隙間を覗いた。
すると、そこに小さな赤い実があった。
「わっ! 赤い実!」
手に取ってみる。
《赤粒の実》という名前が表示された。
「赤粒の実かぁ」
雪乃は実を指先で転がした。
昨日の青い実はおいしかった。
では、これはどうだろう。
「赤いし、いちごみたいな味かな?」
少しだけ迷う。
しかし、すぐに口へ運ぶ。
ぱくり。
「……ん?」
思ったより酸っぱい。
「すっぱーい!」
雪乃は目をぎゅっと閉じた。
舌がきゅっとなるような酸味だ。
「うぅ、これは酸っぱい!」
思わず顔をしかめたが、食べられないほどではない。
『《赤粒の実》を摂取しました』
『満腹度がわずかに回復しました』
「食べられるんだね!」
残りの実をいくつか採取して、アイテム欄へしまう。
その後、草むらの奥に何か動くものが見えた。
「ん?」
じっと見つめる。
小さな茶色い生き物が、草の間を走っていった。
「あっ、何かいる!」
雪乃はすぐに追いかけた。
しかし、草むらの中は思ったより歩きにくい。
足に草が絡み、何度かつまずきそうになる。
「わわっ!」
それでも、雪乃は走る。
すると、身体が自然に草の間をすり抜けるようになってきた。
『スキル《草地走行》を獲得しました』
「おおっ、また覚えた!」
雪乃は一瞬立ち止まった。
「草の中を走るスキルかな?」
説明を確認すると、草地での移動が少し楽になるらしい。
「便利そう!」
その間に、茶色い生き物はどこかへ行ってしまった。
「あれ? いなくなっちゃった」
少し残念そうに周囲を見回す。
すると、足元に小さな羽根が落ちていた。
「羽根?」
拾い上げる。
白っぽくて、先端が少し茶色い。
『《小鳥の羽根》を入手しました』
「わぁ、羽根だ!」
雪乃は羽根を指先でつまみ、ふわふわと揺らしてみた。
「軽いねぇ」
しばらく遊んだあと、アイテム欄へしまった。
森の入口が気になる!
草原を歩き回っているうちに、雪乃は森の近くまで来ていた。
大きな木が何本も並び、木々の間には薄暗い道が続いている。
森の入口には、草原とは違う空気が漂っていた。
「わぁ……」
雪乃は森を見上げた。
木の枝が重なっていて、奥の方はよく見えない。
時折、鳥の鳴き声のようなものも聞こえる。
「なんか、面白そう!」
一歩、森へ近づく。
そのとき、近くの木の根元に小さなキノコを見つけた。
茶色い傘に、薄い黄色の模様がある。
「キノコだ!」
雪乃はしゃがみ込む。
「……あれ?」
見覚えがあるような形だった。
昨日食べて毒になった茶斑キノコとは少し違う。
「これも食べられるのかな?」
雪乃はキノコを見つめた。
しかし、昨日のことを思い出した。
毒になって、HPが減って、慌てて解毒薬を使った。
「うーん……」
少しだけ考える。
「でも、昨日のキノコとは違うし……」
雪乃はキノコを採取した。
『《黄斑キノコ》を入手しました』
「黄斑キノコだって!」
名前は分かった。
でも、食べられるかは分からない。
雪乃はキノコをアイテム欄にしまった。
「これはあとで食べてみようかな!」
昨日の経験を少しだけ覚えていたらしい。
ただし、食べることを諦めたわけではない。
むしろ、別のキノコを見つけたことで興味が増していた。
「森ってキノコいっぱいあるのかな?」
雪乃は森の奥を覗き込む。
「明日は森の中に入ってみよう!」
そう決めたところで、ログアウトの時間が近づいてきた。
今日の冒険はここまで!
雪乃は草原を振り返った。
小さな丘。
草むら。
赤い実。
白い羽根。
そして、森の入口。
「今日はいっぱい見つけたね!」
アイテム欄を確認する。
《赤粒の実》
《小鳥の羽根》
《黄斑キノコ》
それから、昨日から持っている《青筋石》や《茶斑キノコ》もある。
「明日は森に行こうっと!」
雪乃は楽しそうに笑った。
『ログアウトしますか?』
「はーい!」
視界が白く染まる。
今日も、雪乃の冒険は寄り道だらけだった。
そして、本人はまだ知らない。
草原で拾った小さな羽根や、森の入口で見つけたキノコが、これからの冒険につながっていくことを。
現実世界・翌日の学校
「それでね! 昨日、石を投げてたらスキルを覚えたんだよ!」
昼休み。
雪乃は舞と優真に、昨日の冒険を楽しそうに話していた。
「石を投げてスキル?」
舞が少し不思議そうに聞き返す。
「うん! 《投擲》っていうスキル!」
「へえ。行動でスキルが増えるんだな」
優真が興味深そうに頷いた。
「そうなの! あと、草むらを走ってたら《草地走行》も覚えたよ!」
「雪乃、何をしてるんだ……」
「え? 草むらを走ってただけだよ?」
「いや、そういうことじゃなくて」
優真は苦笑した。
舞は小さく笑いながら尋ねる。
「それで、毒キノコの方はどうなったの?」
「毒耐性を覚えたよ!」
「食べたんだ……」
「うん!」
「毒があるかもしれないのに?」
「だって、どんな味か気になったんだもん!」
雪乃は悪びれずに答えた。
舞は少しだけ頭を抱える。
「……雪乃らしいね」
「えへへ!」
「褒めてないと思うぞ」
優真が言う。
「えっ、そうなの?」
三人の笑い声が教室に響いた。
そして雪乃は、今日もゲームにログインするのを楽しみにしていた。
森には、まだ見たことのないものがたくさんある。
何があるのか。
どんなものが見つかるのか。
それを考えるだけで、雪乃の胸はわくわくしていた。




