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第28話 音羽鳥を追いかけて

 森の中にある、不思議な音が鳴る岩場。


 前回そこで出会った《音羽鳥》の鳴き声が、白雪の耳に残っていた。


「ぽろろん、って鳴くんだよねぇ」


 ログインした白雪は、歩きながら小さく口ずさんでいた。


「また会えるかな?」


 あの鳥は、岩場から森の奥へ飛んでいった。


 もう一度あの鳴き声を聞きたい。


 それだけを考えながら、白雪は森の中を進んでいく。


 途中、木の根元に赤い実が落ちているのを見つけた。


「あっ、実!」


 拾い上げると、表面に小さな黒い点がいくつもついている。


 《黒星の実》を入手しました。


 白雪は実を軽く指で押した。


 少し柔らかい。


 匂いを嗅いでみると、甘酸っぱい香りがした。


「おいしそう!」


 ぱくり。


 口の中に広がったのは、甘さのあとに少しだけ渋みが残る味だった。


「んー……ちょっと大人の味?」


 《満腹度》が少し回復しました。


「でも、嫌いじゃないかも!」


 白雪は残りの実をインベントリにしまった。


 そのまま歩いていると、木の枝の上から音が聞こえた。


 ――ぽろん。


「!」


 白雪が顔を上げる。


 枝の上に、灰色の小さな鳥が止まっていた。


 頭には青い羽根が一本。


 間違いない。


「音羽鳥だ!」


 白雪が声を上げると、鳥は首を傾けた。


 ――ぽろろん。


「こんにちはー!」


 白雪が手を振る。


 音羽鳥は少しだけ羽を広げると、別の枝へ飛び移った。


「あっ、待って!」


 白雪は追いかけた。


 音羽鳥は一定の距離を保つように、枝から枝へと移動していく。


 飛ぶ速度はそれほど速くない。


 けれど、木々の間を縫うように進むため、地面を走る白雪には追いかけにくかった。


「そっちに行くの!?」


 白雪は木の根を飛び越え、低い枝をくぐる。


 音羽鳥が高い枝へ移動した。


「むむ……」


 白雪は近くの木に手をかける。


 するすると登り、枝の上へ。


 そこから隣の枝へ飛び移った。


「よいしょっ!」


 《白蒼の疾風》の装備効果で、いつもより高く跳べる。


 枝から枝へと移動していくと、音羽鳥との距離が少しずつ縮まっていった。


 ――ぽろん。


 鳥が鳴く。


「もうちょっと!」


 白雪は最後の枝から大きく跳んだ。


 しかし、音羽鳥はその瞬間に羽ばたいた。


「わっ!」


 白雪の手は空を切る。


 そのまま枝の上に着地し、慌てて体勢を整えた。


「おおっと……!」


 枝が少し揺れる。


 白雪は両手を広げてバランスを取った。


 なんとか落ちずに済んだ。


「危なかったぁ」


 音羽鳥は少し離れた枝に止まり、こちらを見ている。


「……もしかして、遊んでる?」


 白雪が首を傾げると、鳥はもう一度鳴いた。


 ――ぽろん。


 そして、今度は木々の間を抜けて地面へ降りていった。


「待ってー!」


 白雪も木から降り、後を追う。


 音羽鳥がたどり着いたのは、小さな岩場だった。


 そこには、前回見つけた岩場とは違う形の岩がいくつも並んでいる。


 風が吹くと、岩の隙間から低い音が響いた。


 ――ぼおん。


「わぁ、こっちも音がする!」


 白雪は音羽鳥のことを忘れかけ、岩に近づいた。


「この岩、さっきのところより低い音だね」


 《音感》のおかげか、音の違いが以前よりも分かりやすい。


 岩の隙間に耳を近づける。


 ぼおん……。


 少し長く響く音。


 隣の岩は、もっと短く低い音だった。


「面白いなぁ」


 白雪は岩の周囲を歩き回った。


 すると、岩の隙間に小さな植物が生えていることに気づいた。


 細い茎の先に、丸い袋のようなものがついている。


「何だろう?」


 触ってみると、ぷにっと柔らかい。


 《風鳴り草》を入手しました。


「風鳴り草?」


 白雪が袋の部分を軽く押す。


 ぷぅ。


「……えっ?」


 もう一度押してみる。


 ぷぅ、ぷぅ。


 小さな笛のような音が鳴った。


「わっ! これも音が出る!」


 白雪は面白くなって、何度も押してみた。


 ぷぅ、ぷぅ、ぷぅ。


 音羽鳥が近くの岩に止まり、こちらを見ている。


「聞いて聞いて! これも鳴るよ!」


 白雪が風鳴り草を見せると、音羽鳥はくちばしを開いた。


 ――ぽろん。


「お返事してくれた!」


 白雪は嬉しそうに笑った。


 しばらくすると、音羽鳥は岩の隙間へ降りていった。


 何かを探しているように、地面をつついている。


「何か食べてるのかな?」


 白雪も近づいてみる。


 地面には、小さな白い粒がいくつも落ちていた。


 《風鳴り草の種》を入手しました。


「種だ!」


 音羽鳥は種を一つついばむと、再び岩の上へ飛び乗った。


「それ、おいしいの?」


 白雪が尋ねても、当然返事はない。


 代わりに、音羽鳥が短く鳴いた。


 ――ぴろろん。


「さっきと違う!」


 白雪は耳を澄ませた。


 高い音のあとに、少し低い音が続いている。


「鳴き方にも種類があるんだね」


 音羽鳥は何度か鳴くと、今度は岩場の奥へ飛んでいった。


「あっ、また行っちゃう!」


 白雪は慌てて後を追う。


 今度は木の上ではなく、地面すれすれを飛んでいる。


 白雪も走って追いかけた。


 やがて、音羽鳥は大きな木の枝に止まった。


 枝の付け根には、小さな巣が作られている。


「巣だ!」


 白雪は木の下で足を止めた。


 巣の中には、丸い卵が二つ見える。


「わぁ……!」


 思わず近づきたくなったけれど、音羽鳥が巣のそばにいる。


 白雪は少し離れた場所から眺めることにした。


「ここがお家なんだね」


 音羽鳥は巣の近くに止まり、白雪を見下ろしている。


 白雪が動かずにいると、鳥はゆっくり羽を広げた。


 ――ぽろん。


「またね!」


 白雪は手を振った。


 今度は追いかけず、その場を離れる。


 しばらく歩いていると、地面に青い羽根が落ちているのを見つけた。


「あっ!」


 拾い上げる。


 《音羽鳥の羽根》を入手しました。


「また落ちてた!」


 前回拾ったものと同じ種類だ。


 白雪は羽根をインベントリにしまった。


 その後、森の中を少し歩き回ったが、特に目新しいものは見つからなかった。


「今日は音羽鳥と遊べたから満足!」


 白雪は帰り道を探しながら、軽やかに森を進んでいった。


 ログアウトした雪乃は、ベッドの上で両手を伸ばした。


「今日は音羽鳥といっぱい遊べた!」


 翌日、学校で舞と優真に会うと、さっそく話し始めた。


「この前の音羽鳥にまた会えたよ!」


「本当に?」


 舞が嬉しそうに聞き返す。


「うん! 最初は木の上にいてね、追いかけたら岩場まで案内してくれたの!」


「案内してくれた?」


「たぶん!」


「たぶんって……」


 優真が苦笑する。


「それでね、そこにも音が鳴る岩があったんだよ。あと、押すと音が出る草も見つけた!」


「音が出る草?」


「うん! ぷぅって鳴るの!」


 雪乃は口で音を真似した。


 舞がくすっと笑う。


「それ、ちょっと見てみたいな」


「今度見せるね!」


「音羽鳥はどうなったんだ?」


 優真が尋ねる。


「大きな木に巣があったよ。卵もあったから、近づかずに見てきた!」


「それはいい判断だね」


 舞が頷いた。


 雪乃は楽しそうに笑う。


「また会いに行こうっと!」


 森の中には、まだまだ不思議な音がある。


 そして、音羽鳥の巣も見つけた。


 次に訪れたとき、またあの綺麗な鳴き声を聞けるかもしれない。


 白雪の冒険は、今日も気ままに続いていく。



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