第27話 森に響く不思議な音色
「今日は、何か面白い音が聞こえないかなぁ」
ログインした白雪は、森の中を歩きながら、そんなことを考えていた。
滝裏の空洞で見つけた《水音貝》や《水紋貝》。
どちらも耳に当てると、不思議な水の音が聞こえた。
「貝殻って面白いよね」
白雪はインベントリから《水音貝》を取り出し、耳に当ててみる。
さらさら……。
小川のような音が聞こえる。
続いて《水紋貝》も耳に当てる。
こちらは、少しゆっくりとした水の流れる音だった。
「うーん、やっぱり違う!」
二つの貝殻を大切にしまうと、白雪は森の奥へ歩き出した。
今日は特に目的地を決めていない。
気になるものがあったら近づいてみる。
面白そうな場所があったら寄り道する。
いつも通りの自由な冒険だ。
しばらく歩いていると、風が吹いた。
さらさら、と葉っぱが揺れる。
その直後だった。
――ぽろん。
「ん?」
どこかから、小さな音が聞こえた。
風に混じって、鈴を鳴らしたような音が響く。
――ぽろん、ぽろろん。
「……楽器?」
白雪は足を止めた。
耳を澄ませる。
音は森の奥から聞こえてくるようだった。
「何だろう?」
気になった白雪は、音のする方へ歩き始めた。
木々の間を抜け、少し坂になった道を登っていく。
途中、枝にぶら下がっている小さな実を見つけた。
丸くて、表面が薄い黄色をしている。
「これ、初めて見る!」
手を伸ばして一つ採取する。
《鈴黄の実》を入手しました。
実を軽く振ってみると、かすかに音が鳴った。
「……あっ!」
白雪はもう一度振ってみる。
ちりん。
小さな鈴のような音がした。
「これが鳴ってるのかな?」
周囲を見回すと、同じ実がいくつも枝にぶら下がっている。
風が吹くたび、枝が揺れて実同士が触れ合っていた。
ちりん、ちりん。
「わぁ! これ、かわいい音!」
白雪はしばらく木の下で音を聞いていた。
けれど、最初に聞こえた音とは少し違う気がする。
もっと澄んでいて、長く響く音だった。
「まだ奥かな?」
再び歩き始める。
坂を登り切ると、少し開けた場所に出た。
そこには、奇妙な形をした岩がいくつも並んでいた。
細長い岩が地面から突き出していたり、丸い岩が重なっていたりする。
そして、風が吹くたびに岩の隙間を空気が通り抜けていた。
――ぽろん。
「あっ、これだ!」
岩の間から、綺麗な音が響いていた。
白雪は岩の周囲を歩き回る。
風が通る場所によって、音が少しずつ変わる。
低い音が鳴る岩もあれば、高い音が響く岩もある。
「すごーい! 岩が楽器みたい!」
白雪は岩の隙間に顔を近づけた。
ふうっと風が吹き込む。
――ぽろろん。
「おおっ!」
今度は少し長い音が響いた。
白雪は面白くなって、岩の周りを行ったり来たりした。
「こっちはどうかな?」
別の隙間に耳を近づける。
――ぴゅう。
「こっちは笛みたい!」
さらに別の岩へ。
――ぽろん。
「こっちは鈴!」
しばらく音を聞いていると、白雪はふと思いついた。
「……石を叩いたら、どうなるんだろう?」
足元に落ちていた小石を拾う。
岩の側面を軽く叩いてみた。
こん。
少し低い音が響いた。
もう一度。
こん、こん。
今度は別の岩を叩いてみる。
かんっ。
高い音が鳴った。
「わっ、音が違う!」
白雪はあちこちの岩を軽く叩いてみた。
強く叩くと危ないので、力加減には気をつけている。
こん、かん、ぽろん。
風の音も混ざり、岩場には不思議な音色が広がった。
そのとき、システムメッセージが表示された。
《新しいスキルを習得しました》
《音感》
「おっ、新しいスキル!」
白雪はすぐに内容を確認した。
《音感》
音の高低や響きの違いを感じ取りやすくなる。
「音の違いが分かりやすくなるんだ!」
白雪はもう一度、岩の隙間に耳を近づけた。
先ほどよりも音の違いがはっきり分かる気がする。
「こっちは高い音で、こっちは低い音……」
白雪は楽しそうに何度も聞き比べた。
すると、岩場の端に小さな生き物がいることに気づいた。
「あれ?」
岩の上に、丸い鳥のようなモンスターが止まっていた。
体は灰色で、頭には小さな青い羽根が一本だけ生えている。
くちばしは短く、丸い目をしていた。
白雪が近づくと、鳥は首を傾けた。
「こんにちは!」
鳥は岩の上で、くちばしを開いた。
――ぽろん。
「えっ?」
鳥が鳴いた音は、まるで岩が響かせた音とそっくりだった。
「今の、鳥さんの声?」
白雪は驚いて鳥を見つめた。
鳥はもう一度鳴く。
――ぽろろん。
「わぁ! 綺麗!」
白雪が拍手すると、鳥は少しだけ羽を広げた。
そして、岩から岩へと飛び移っていく。
「待ってー!」
白雪も追いかけた。
鳥は高い岩の上へ移動し、そこから白雪を見下ろしている。
「そこ、登れるかな?」
白雪は近くの岩に手をかけた。
《登攀》を使って登り、途中の出っ張りに足をかける。
最後は《跳躍》で、鳥のいる岩の近くまで飛び移った。
「よいしょっ!」
着地した瞬間、鳥が羽ばたいた。
ふわりと飛び上がり、少し離れた岩の上へ移動する。
「また逃げちゃった!」
白雪が追いかけようとすると、鳥は一度だけ鳴いた。
――ぽろん。
そのあと、森の奥へ飛んでいってしまった。
「行っちゃったかぁ」
残念そうに見送る。
すると、鳥が止まっていた岩の上に、青い羽根が一枚落ちていた。
「おっ!」
拾い上げてみる。
《音羽鳥の羽根》を入手しました。
「さっきの鳥さんのかな?」
白雪は羽根をインベントリにしまった。
その後も岩場を歩き回り、いろいろな音を聞いた。
風が吹くと音が鳴る岩。
叩くと高い音がする岩。
低く響く岩。
どれも少しずつ違っていて、飽きることがなかった。
気づけば、空は夕方に近づいていた。
「そろそろ帰ろうかな」
白雪は最後にもう一度、岩の隙間に耳を近づけた。
――ぽろろん。
「また聞きに来ようっと!」
満足した白雪は、森の中を軽やかに駆けていった。
ログアウトした雪乃は、ベッドの上でごろんと横になった。
「岩が楽器みたいだったなぁ」
翌日、学校で舞と優真に会うと、昨日の冒険について話した。
「森の中でね、音が鳴る岩を見つけたんだよ!」
「音が鳴る岩?」
舞が不思議そうに聞き返す。
「うん! 風が通ると、ぽろんって鳴るの!」
「へえ、面白そうだな」
優真も興味を持ったようだった。
「それでね、いろんな岩の音を聞いてたらスキルを覚えたよ!」
「また新しいスキル?」
「《音感》っていうんだって!」
舞は少し考える。
「音を聞き分けるスキルか。探索で役に立つこともありそうだね」
「うん! でも、昨日は音を聞くのが楽しかった!」
「それで、何かモンスターには会った?」
優真が尋ねる。
「鳥さんがいたよ! 鳴き声も岩と同じような音だったの!」
「それは珍しいな」
「羽根も一枚拾った!」
雪乃は嬉しそうに笑った。
森には、まだ知らない音がたくさんある。
今度はどんな音が聞こえるだろう。
白雪は、次の冒険を楽しみにしていた。




