第26話 水の中に隠された小さな宝物
「今日は、あの光っていたものを見に行こう!」
ログインした白雪は、森の中を軽快に駆けていた。
目指す場所は、前回見つけた滝の裏側にある小さな空洞。
細い水路の奥に、何か光るものがあったのだ。
「何があるのかなぁ。石かな? それとも何かの実?」
考えるだけでわくわくする。
白いマントをひらひらと揺らしながら、白雪は石橋を渡った。
途中、欄干の上を歩いてみる。
《平衡歩行》のおかげで、細い場所でもふらつかない。
「よしよし!」
橋を渡り終えると、そのまま滝へ向かった。
ざあああ……。
滝の音を聞きながら、濡れた岩場を慎重に進む。
以前よりも足場を確かめながら歩くようになったのは、何度か滑りそうになった経験があるからだ。
「ここを通って……」
滝の裏側に入り、空洞の中へ。
青白い苔が壁を照らしている。
水たまりの向こうには、前回出会ったモグラのような生き物がいた。
「あっ、おはよー!」
白雪が手を振ると、生き物は水面から顔を出した。
ぴちゃっ。
「今日もいるんだね!」
白雪が近くに座ると、生き物は少しだけ近づいてくる。
昨日より警戒心が薄れているようだ。
「今日はね、あっちを見に来たんだよ」
白雪は細い水路を指差した。
生き物もそちらを向く。
「この奥に何か光ってたんだよね」
水路を覗き込む。
水は細いけれど、空洞の壁の下を通って奥へ続いている。
光はまだ見えていた。
「やっぱりある!」
白雪は水路の入口に手を入れた。
冷たい水が指先を包む。
しかし、腕を入れても途中で岩に引っかかってしまう。
「うーん……やっぱり届かない」
身体を横にして覗いてみる。
今度は肩まで水に入りそうになった。
「わわっ、危ない危ない!」
白雪は慌てて身体を引っ込めた。
無理に入ると抜けなくなりそうだ。
「どうしようかなぁ……」
そのとき、水たまりの中で小さな波紋が広がった。
モグラのような生き物が、白雪の近くまでやってきたのだ。
「ん?」
生き物は水路の入口まで泳いでいき、細い隙間へ頭を入れた。
するり。
身体が細い水路の中へ消えていく。
「えっ、入れるの!?」
白雪は驚いて覗き込んだ。
水路は人間には狭いけれど、小さな身体の生き物なら通れるらしい。
しばらくすると、生き物が戻ってきた。
口には小さな青いものをくわえている。
「それ、もしかして……!」
生き物は白雪の目の前まで泳いでくると、くわえていたものを水面に落とした。
ころん。
小さな青い石が、白雪の手元へ転がってきた。
《水脈石》を入手しました。
「わぁ! 取ってきてくれたの!?」
白雪は目を輝かせた。
石は透明感のある青色で、中に細い水の流れのような模様が見える。
「ありがとう!」
白雪が頭を撫でようとすると、生き物は少しだけ頭を近づけた。
今度は、ほんの一瞬だけ撫でることができた。
「えへへ。やった!」
生き物は満足したのか、水たまりの中をくるりと回った。
「ねえねえ、もう一回あそこに行ける?」
白雪が水路を指差す。
生き物は水路へ向かい、今度は何も持たずに奥へ消えていった。
しばらくして戻ってくる。
今度は何もくわえていない。
「もう何もないのかな?」
白雪は少し残念そうに水路を覗いた。
すると、奥にあった光が少しだけ動いたように見えた。
「あれ?」
水路の奥には、まだ何かがあるらしい。
けれど、生き物が戻ってきたということは、そこから先には進めないのかもしれない。
「うーん……。今日はここまでかな」
白雪は無理に追いかけるのをやめた。
代わりに、空洞の中をもう少し見て回ることにする。
壁際には、前回見つけた《水晶花》が咲いていた場所がある。
その近くに、今まで気づかなかった小さな穴が開いていた。
「こんなところにも穴がある!」
覗き込んでみると、奥に白いものが見える。
指先を入れてみる。
少しだけ届いた。
「あとちょっと……!」
指を伸ばす。
ぎりぎり届かない。
白雪は近くに落ちていた細い枝を拾い、穴の中へ差し込んでみた。
ころころ。
白いものが動いた。
「あっ!」
枝で引っかけるようにして、ゆっくり手前へ寄せる。
何度か失敗したあと、ようやく取り出すことができた。
それは、小さな白い貝殻だった。
表面には青い線が一本だけ入っている。
《水紋貝》を入手しました。
「貝殻だ!」
白雪は貝殻を耳に当ててみる。
すると、かすかに水の音が聞こえた。
「この前の《水音貝》とは違う音がする!」
今度は水紋貝を耳に当てる。
さらさら、と静かな水が流れるような音だった。
「面白いねぇ」
しばらく貝殻を眺めていると、今度は足元の水たまりに小さな泡が浮かんできた。
ぽこっ。
ぽこぽこっ。
「ん?」
泡は水面に浮かぶと、すぐに消えてしまう。
白雪は指先で泡を触ってみた。
ぷつん。
「消えちゃった」
もう一度泡が出てくる。
今度は両手でそっとすくってみた。
もちろん、泡は手の中で弾けてしまった。
「うーん。捕まえられない!」
白雪は何度か挑戦した。
そのうち、泡が出てくる場所が水たまりの端にある小さな穴だと気づいた。
「ここから出てるんだ!」
穴の周囲には、透明な小石がいくつも転がっている。
一つ拾ってみると、表面に細かな泡が閉じ込められていた。
《泡晶》を入手しました。
「おおっ! 泡が入ってる!」
白雪は石を光にかざした。
中の泡がゆっくり動いているように見える。
「これ、きれいだなぁ」
そのまましばらく眺めていた。
気づけば、空洞の中でかなりの時間を過ごしていた。
「そろそろ帰ろうかな」
白雪が立ち上がると、モグラのような生き物がまた近づいてきた。
「今日はありがとうね!」
白雪は手を振る。
生き物は水面から顔を出し、鼻先を小さく動かした。
「また遊びに来るね!」
今度は白雪の指先に、ちょんと鼻を押しつけた。
それだけで、白雪は十分満足だった。
空洞を出て、滝の外へ戻る。
水しぶきが頬に当たる。
「気持ちいい!」
白雪は滝壺の水を手ですくい、顔に軽くつけた。
ひんやりとしていて、気分がすっきりする。
そして、来た道を戻っていった。
ログアウトした雪乃は、ベッドの上で大きく伸びをした。
「今日はいっぱい遊べた!」
翌日、学校で舞と優真に会うと、昨日の出来事を話した。
「滝の裏側にいた子がね、水路の奥から石を取ってきてくれたんだよ!」
「えっ、あのモグラみたいな子が?」
舞が驚く。
「うん! 私の手じゃ届かなかったところに入れたみたい!」
「それでアイテムをくれたのか」
優真が尋ねる。
「そう! 《水脈石》っていうんだよ!」
「友好的なモンスターなんだね」
「たぶん! 今日は頭も少し撫でられたよ!」
雪乃は嬉しそうに笑った。
「それはよかったね」
舞も微笑む。
「あとね、泡が出てくる穴もあったんだよ。泡が石の中に入ってるみたいなの!」
「泡が入った石?」
「うん! 《泡晶》っていうんだって!」
優真は少し呆れたように笑った。
「森の中で石と泡を集めてるのか……」
「きれいだったんだもん!」
雪乃は胸を張った。
森の中には、まだまだ知らないものがたくさんある。
次にログインしたら、どんなものに出会えるだろう。
白雪の冒険は、今日も気ままに続いていく。




