第25話 滝の裏側に隠れていたもの
森の中にある小さな滝。
その裏側に、人一人が通れそうな隙間を見つけた白雪は、次の日もそこへ向かっていた。
「今日は入ってみようかな!」
白と淡い青の装備を揺らしながら、石橋を渡る。
欄干の上を歩くのも、もうすっかり慣れたものだ。
《平衡歩行》のおかげで、細い足場でも安定して進める。
「ふふーん♪」
鼻歌交じりに橋を渡り、昨日見つけた滝へと向かった。
ざあああ……。
水の流れる音が近づいてくる。
木々の間を抜けると、昨日と変わらない小さな滝が姿を現した。
「ただいまー!」
もちろん、滝から返事はない。
白雪は滝壺の周囲を歩き、裏側にある隙間を探した。
「あった!」
岩壁の横に、細い通路のような場所がある。
水しぶきがかかっていて、足元は濡れていた。
白雪は一度しゃがみ込み、足場を確認する。
「ここ、滑りそうだね……」
慎重に足を置いてみる。
少しだけ滑ったけれど、すぐに体勢を立て直せた。
「おっ、いけそう!」
ゆっくりと横歩きで進んでいく。
水の流れを避けながら、岩に手をついて一歩ずつ。
やがて、滝の裏側へとたどり着いた。
「わぁ……!」
そこは、小さな空洞になっていた。
外から見たときよりも広く、天井からは水滴がぽたりぽたりと落ちている。
壁には青白い苔が生えていて、薄暗い空間をほんのり照らしていた。
「こんなところがあったんだ!」
白雪は目を輝かせながら、中を見回した。
足元には浅い水たまりがあり、その周囲に小さな石が転がっている。
一つ拾い上げてみると、表面が淡い水色に光った。
《滝裏の水晶片》を入手しました。
「水晶だ!」
もう一つ拾ってみる。
今度は少し白っぽい石だった。
《水滴石》を入手しました。
「こっちもきれい!」
白雪は二つの石をインベントリにしまった。
さらに奥へ進むと、壁際に白い植物が生えていた。
細長い葉っぱの先に、小さな透明の実がついている。
「これも食べられるのかな?」
白雪は実を一つ摘み取った。
《水滴草の実》を入手しました。
手のひらに乗せると、実の中で水が揺れているように見える。
白雪は匂いを嗅いでみた。
ほとんど匂いはない。
「……食べてみよう!」
ぱくり。
ぷちん、と薄い皮が弾けた。
中から出てきた水分は、ほんのり甘く、少しだけミントのような清涼感があった。
「おおっ! さっぱり!」
《満腹度》が少し回復しました。
白雪はもう一つ実を採って、インベントリにしまった。
そのとき、空洞の奥から小さな音が聞こえた。
ぴちゃっ。
「ん?」
水たまりの向こう側。
岩の隙間から、何かがこちらを見ている。
丸い目が二つ。
白雪が近づくと、目の持ち主はひょこっと姿を現した。
「……あっ!」
昨日、水辺で見かけたモグラのような生き物だった。
丸い頭に短いひげ。
体の側面には青い模様があり、背中は水に濡れてつやつやしている。
「また会ったね!」
白雪がしゃがみ込む。
生き物はすぐには逃げなかった。
じっと白雪を見つめている。
「ここがお家なの?」
白雪が手を伸ばすと、生き物は少しだけ後ろへ下がった。
けれど、昨日のように水の中へ逃げることはなかった。
「大丈夫だよー。何もしないよー」
白雪は手を引っ込めて、少し離れた場所に座った。
すると、生き物は岩陰からゆっくりと出てきた。
水たまりの端まで移動し、白雪の方をちらちらと見ている。
「おいで?」
ぴちゃっ。
生き物は水面を前足で叩いた。
小さな水しぶきが白雪の方へ飛んでくる。
「わっ!」
白雪は思わず笑った。
「水をかけたなー!」
今度は白雪も指先で水を弾いた。
ぴしゃっ。
生き物は驚いたように後ろへ跳ねた。
「ふふっ!」
しばらく、そんなやり取りが続いた。
やがて生き物は白雪の近くまでやってきて、鼻先を少しだけ近づけた。
「……触ってもいい?」
そっと手を差し出す。
生き物は一度だけ匂いを嗅ぎ、それから白雪の指先に鼻を押しつけた。
「わぁ……!」
白雪は驚いて動きを止める。
指先に、ひんやりとした感触が伝わった。
「かわいい……!」
頭を撫でようとした瞬間、生き物はすっと離れてしまった。
「あっ、まだだめ?」
どうやら、触られるのは少し苦手らしい。
白雪は無理に追いかけず、手を膝の上に戻した。
すると、生き物は水たまりの中へ潜り、何かをくわえて戻ってきた。
「ん?」
白雪の足元に、小さな丸い石が置かれる。
《水守の小石》を入手しました。
「えっ、くれるの?」
生き物は返事をするように、ぴちゃっと水面を叩いた。
「ありがとう!」
白雪が笑うと、生き物は再び水の中へ潜っていった。
今度は逃げたというより、いつもの場所へ戻っていったように見えた。
「また遊ぼうね!」
白雪は小さな空洞をさらに調べることにした。
奥には細い水路が続いている。
水は岩の隙間から外へ流れているようだった。
その水路のそばに、青い花が一輪だけ咲いていた。
花びらは透き通っていて、中央には小さな水滴が浮かんでいる。
《水晶花》を入手しました。
「これ、すごくきれい!」
花を採取したあと、白雪は水路を覗き込んだ。
水は奥から流れてきている。
「どこにつながってるんだろう?」
水路は人が通れるほど大きくない。
指先を入れてみると、ひんやりと冷たい水が流れていた。
さらに奥を覗いていると、水の底に小さな光が見えた。
「あっ、光ってる!」
白雪は手を伸ばしてみたけれど、指先が届かない。
水路の奥は細く、無理に腕を入れると抜けなくなりそうだった。
「うーん……届かない」
少しだけ考えて、白雪は諦めた。
「また今度、何か道具があったら取れるかな?」
無理をしても仕方がない。
白雪は空洞の入口へ戻り、外の景色を眺めた。
滝の水が目の前を流れ落ちている。
「ここ、秘密基地みたい!」
お気に入りの場所が一つ増えた。
白雪は最後にもう一度、空洞の中を振り返った。
水たまりの向こうで、あの生き物が顔を出している。
「またねー!」
手を振ると、生き物も前足で水面を叩いた。
まるで返事をしているようだった。
ログアウトした雪乃は、ベッドの上で満足そうに伸びをした。
「今日はあの子と遊べた!」
翌日、学校で舞と優真に会うと、さっそく話し始めた。
「滝の裏側に入れたんだよ!」
「本当に入ったんだ」
舞が驚いたように言う。
「うん! 中に小さな空洞があってね、青く光る苔が生えてたの!」
「何か見つけたのか?」
優真が尋ねる。
「水晶とか、お花とか。それからね、前に見たモグラみたいな子がいたよ!」
「また会えたんだ」
「うん! 今日は逃げなかったんだよ!」
雪乃は嬉しそうに話す。
「指に鼻をくっつけてきたの。あと、小さな石をくれた!」
「それ、アイテムとして手に入ったの?」
舞が尋ねる。
「うん。《水守の小石》っていうんだって!」
「へえ……。友好的なモンスターなのかな」
「そうかも!」
雪乃は少し考えてから、にこっと笑った。
「また会いに行こうっと!」
優真は苦笑した。
「お前、モンスターと遊ぶの好きだな」
「だって、かわいいんだもん!」
舞も楽しそうに笑った。
滝の裏側にある小さな空洞。
そこは、白雪にとって新しいお気に入りの場所になった。




