第24話 石橋の向こうにあった小さな滝
森の中にある小さな草原を見つけた翌日。
白雪は、昨日と同じ場所からログインした。
「よーし! 今日はどこに行こうかな!」
白と淡い青の装備を揺らしながら、白雪は草原の中央まで歩いていく。
昨日出会った白いウサギのような生き物は、今日もいるだろうか。
木の根元にある穴を覗き込んでみる。
「こんにちはー!」
……返事はない。
穴の前には、昨日置いたものとは別の、小さな葉っぱが一枚落ちていた。
「ん? これ、なんだろう?」
拾い上げてみると、葉っぱの表面には丸い水滴のような模様が並んでいた。
《露葉》を入手しました。
「露葉かぁ。水っぽい名前だね」
葉っぱを光にかざして眺める。
すると、穴の奥から小さな音が聞こえた。
「……?」
ぴょこっ。
白い耳が穴から飛び出した。
「あっ!」
白雪が身を乗り出すと、ウサギのような生き物が顔を覗かせた。
昨日と同じ子だ。
「おはよー!」
白雪が手を振る。
生き物はしばらく白雪を見つめていたが、すぐに穴の奥へ引っ込んでしまった。
「あれぇ……」
もう少し仲良くなりたかったのに。
白雪は残念そうに頬を膨らませた。
「まあ、また今度ね!」
気持ちを切り替えると、昨日見つけた石橋の方へ向かった。
石橋の欄干にひょいっと飛び乗る。
昨日覚えた《平衡歩行》のおかげか、細い場所でも足元が安定している。
「おおー! やっぱり歩きやすい!」
橋の上を軽快に進み、向こう岸へ飛び降りる。
その先には、昨日は気づかなかった細い道が続いていた。
「こっちにも道がある!」
白雪はさっそく進んでみることにした。
道は水路に沿って伸びている。
しばらく歩くと、流れる水の音が少しずつ大きくなってきた。
さらさら、という音が、いつの間にかざあざあという音に変わっている。
「水の音が大きくなってきたね」
木々の隙間を抜けた先で、白雪は足を止めた。
「わぁっ!」
そこには、小さな滝があった。
高さはそれほどないけれど、岩肌を伝って水が流れ落ちている。
滝壺には透明な水が溜まり、周囲には細かな水しぶきが舞っていた。
「きれい……!」
白雪は滝壺の近くまで歩いていく。
水しぶきが頬に当たって、ひんやりと気持ちいい。
「わっ、冷たい!」
手を伸ばして水に触れる。
透き通った水の中には、小さな魚が泳いでいた。
「お魚さん!」
白雪はしゃがみ込んで、じっと眺める。
魚は白雪の影に驚いたのか、岩の隙間へ隠れてしまった。
「あー、逃げちゃった」
水の中を覗き込んでいると、滝壺の底に何かが光っているのが見えた。
「あれ?」
白雪はブーツを脱ぐこともなく、そのまま水に足を入れた。
「つめたっ!」
思ったより冷たい。
それでも、光っているものが気になって仕方がない。
ゆっくりと水の中を進み、手を伸ばす。
指先に触れたのは、丸みを帯びた青い石だった。
《滝雫石》を入手しました。
「青い石だ!」
水滴のような形をした石で、内側に小さな泡が閉じ込められている。
白雪は水から上がり、石を眺めた。
「これ、すごくきれい!」
そのまま周囲を見回す。
滝の横には、岩が重なってできた小さな隙間があった。
「ん?」
水しぶきが届かない場所に、白い花が咲いている。
白雪は隙間に手を伸ばして、一輪だけ摘み取った。
《滝白花》を入手しました。
「お花もあった!」
さらに奥を覗き込むと、岩の陰に小さな貝殻のようなものが見えた。
拾い上げてみる。
《水音貝》を入手しました。
耳に近づけてみると、かすかに水の流れる音が聞こえた。
「おおっ! 水の音がする!」
白雪は何度も貝を耳に当てた。
普通の貝殻とは少し違うらしい。
しばらく遊んでいると、滝壺の向こう側で水面が揺れた。
「ん?」
小さな影が水面から顔を出す。
丸い頭に、短いひげ。
体の側面には青い模様があり、濡れた毛並みがきらきらと光っていた。
「……モグラ?」
見た目はモグラに似ているが、体は水の中に半分沈んでいる。
以前、池で見かけた《ミズモグラ》とは別の種類のようだ。
白雪が近づくと、その生き物は水面に鼻先だけを出して、こちらを見た。
「こんにちは!」
ぴちゃっ。
水面に小さな波紋が広がる。
「お友達になれるかな?」
白雪が手を伸ばした瞬間、生き物は水の中へ潜ってしまった。
「あっ、行っちゃった!」
しばらく待ってみたけれど、戻ってこない。
「うーん。恥ずかしがり屋さんかな?」
白雪は水辺に座り、足を水につけた。
そのとき、足元を小さな魚が横切った。
「あっ、さっきのお魚!」
今度は逃がさないように、そっと手を伸ばす。
しかし魚は白雪の指先をするりと抜けていった。
「速い!」
白雪は水の中を覗き込み、魚が泳いでいった方向を目で追う。
岩の隙間に、何か白いものが引っかかっている。
「今度は何かな?」
水に手を入れて取り出す。
それは小さな丸い実だった。
表面は透明な膜に覆われていて、中には水が入っているように見える。
《水膜の実》を入手しました。
「実だ!」
白雪は少しだけ迷った。
水の中に落ちていた実。
食べられるのだろうか。
「……気になる!」
指で軽く押してみると、ぷにっと柔らかい。
匂いを嗅いでみる。
ほんのり甘い香りがした。
「いただきます!」
ぱくっ。
口の中で薄い膜が弾け、冷たい果汁が広がった。
「んんっ!」
甘さは控えめで、後味がすっきりしている。
「おいしい! 水みたい!」
《満腹度》が少し回復しました。
白雪は満足そうに頷いた。
「これは当たり!」
その後も滝の周囲を歩き回り、岩の隙間や水辺を覗き込んだ。
すると、滝の裏側に小さな足場があることに気づいた。
「……あそこ、行けるかな?」
水が流れ落ちる岩壁の横に、人一人が通れるほどの隙間がある。
白雪は近づいてみた。
水しぶきが顔にかかる。
「わわっ!」
一歩下がり、もう一度隙間を覗く。
奥は暗く、何かがあるのかは分からない。
「入ってみたいけど……」
白雪は少し考えた。
足場は濡れていて滑りやすそうだ。
《足場感知》と《平衡歩行》があっても、無理に進むのは危ない。
「今日はやめておこうかな」
珍しく、白雪はその場所に入るのをやめた。
代わりに、近くの岩に腰掛けて滝を眺める。
「また今度来たときに入ってみよう!」
しばらく休んだあと、白雪は滝を離れた。
帰り道では、石橋の欄干を歩いてみたり、倒木の上を走ってみたり。
新しい装備とスキルのおかげで、森の中を移動するのがますます楽しくなっていた。
「今日もいっぱい見つけた!」
白雪は満足そうに笑った。
そして、滝の方を振り返る。
水の流れる音が、木々の間から小さく聞こえていた。
ログアウトした雪乃は、ベッドの上でごろんと横になった。
「滝、きれいだったなぁ」
翌日、学校で舞と優真に会うと、昨日のことを話した。
「森の中に小さな滝を見つけたよ!」
「また新しい場所を見つけたんだ」
舞が笑う。
「うん! 水が冷たくて気持ちよかった!」
「何かあったのか?」
優真が尋ねる。
「青い石とか、貝殻とか。それから水の中にいたモグラみたいな子!」
「またモンスターか」
「うん。でも逃げちゃった」
「追いかけた?」
「水の中に潜っちゃったから、追いかけられなかった!」
舞は少し考えるように顎に手を当てた。
「水中に入れる場所なら、次に会ったときは追いかけられるかもね」
「そうだね!」
雪乃は嬉しそうに頷いた。
「あとね、滝の裏側に隙間があったんだよ!」
「入ったのか?」
「ううん。滑りそうだったからやめた!」
「……珍しいな」
優真が少し驚いた顔をする。
「えへへ。危なそうだったからね」
「その判断は正しいと思うよ」
舞が微笑んだ。
雪乃は滝の裏側に何があるのか、まだ知らない。
けれど、次に森へ行く楽しみが一つ増えたのだった。




