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第23話 森の奥に広がる不思議な景色

 森の中を歩く白雪の足取りは、いつもより軽かった。


 白と淡い青を基調とした装備が、木々の間から差し込む光を受けてきらりと輝く。


 《白蒼の疾風》を手に入れてから、森を歩くのがますます楽しくなった。


 少し高い段差があれば、ぴょんと飛び越える。


 倒れた木があれば、わざわざ上を歩いてみる。


 枝が低いところでは、しゃがんでくぐるのではなく、横から回り込んでみたりもする。


「んー、今日はどっちに行こうかなぁ」


 白雪は分かれ道の前で立ち止まった。


 右側はいつもの木々が続く道。


 左側は少しだけ木の間隔が広く、向こうから明るい光が漏れている。


「……あっち、明るい!」


 それだけで十分だった。


 白雪は迷わず左へ進んだ。


 枝を避けながら歩いていると、足元に小さな白い石が転がっていた。


「お?」


 拾い上げてみると、表面には細かな模様が入っている。


 光にかざすと、模様の部分だけがほんのりと青く透けた。


「きれい!」


 《白紋石》を入手しました。


「白紋石……。模様がかわいいね」


 白雪は石をくるりと回して眺めたあと、インベントリにしまった。


 そのまま進んでいくと、木々の隙間から風が吹き抜けた。


 さらさら、と葉が揺れる。


「わぁ……」


 目の前に広がっていたのは、小さな草原だった。


 森の中にぽっかりと開いた、丸い空き地。


 周囲を高い木々に囲まれ、中央には背の低い草が一面に広がっている。


 ところどころに白い花が咲き、風が吹くたびに花びらが揺れていた。


「ここ、気持ちいい!」


 白雪は草の上に座り込んだ。


 しばらく空を見上げる。


 木々の隙間から見える青空には、白い雲がゆっくりと流れていた。


「こういうところ、好きだなぁ」


 何かを探すでもなく、ただ景色を眺める。


 それだけでも、ゲームの中を歩き回る楽しさは十分だった。


 ……もっとも、白雪の場合はそれだけで終わることが少ない。


「あれ?」


 草原の端に、何かが動いた。


 白雪が顔を向けると、白い小さな生き物が草の間を跳ねていた。


 丸い体に、長い耳。


 見た目はウサギに似ているけれど、背中には小さな葉っぱが何枚も生えている。


「かわいい……!」


 白雪はそっと近づいた。


 生き物は白雪に気づくと、ぴたりと動きを止める。


「こんにちはー」


 もちろん返事はない。


 白雪が一歩近づく。


 ぴょん。


 生き物が一歩分だけ離れた。


 もう一歩。


 ぴょん。


「……あれ?」


 どうやら距離を保たれているらしい。


 白雪はしゃがみ込んで、手を伸ばした。


「おいでー」


 ぴょんっ!


 生き物は大きく跳ね、草原の向こうへ逃げていった。


「あっ、待って!」


 白雪も思わず立ち上がる。


 追いかけてみたものの、生き物は草の間を器用に跳ねていく。


 白雪が近づくと逃げ、離れると少しだけこちらを振り返る。


「うーん……。遊んでくれないのかなぁ」


 そのまま追いかけていると、生き物が大きな木の根元にある穴へ飛び込んだ。


「あっ、入っちゃった」


 白雪は穴の前にしゃがみ込んだ。


 中は暗く、奥までは見えない。


「ここ、お家なのかな?」


 穴の周囲には、小さな葉っぱと丸い木の実が落ちていた。


 白雪は木の実を一つ拾い上げる。


 《若葉の実》を入手しました。


「これ、あの子が食べるのかな?」


 木の実を穴の前に置いてみる。


 少し待ってみたけれど、何も出てこない。


「……いない?」


 もう一度穴を覗き込む。


 その瞬間、奥から小さな鼻先が現れた。


「わっ!」


 白い生き物が木の実をくわえると、すぐに穴の奥へ引っ込んでしまった。


「食べた!」


 白雪は嬉しそうに笑った。


 しばらく待っても、もう姿は見えなかった。


「また会えるといいなぁ」


 そう呟いて、白雪は草原の中央へ戻った。


 そのとき、頭上から何かがひらひらと落ちてきた。


「あっ」


 白雪が手を伸ばす。


 指先に落ちたのは、薄い緑色の羽根だった。


 羽根の先端は少しだけ白く、光に透かすと淡い金色が浮かび上がる。


 《若葉鳥の羽根》を入手しました。


「鳥さんの羽根かな?」


 白雪は周囲を見回した。


 木の枝に、小さな鳥が止まっている。


 緑色の羽毛に包まれた鳥は、白雪を一度見下ろすと、枝から枝へと飛び移っていった。


「さっきの羽根、あの子のかな?」


 鳥は森の奥へ飛んでいく。


 白雪は少しだけ追いかけようとしたけれど、すぐに足を止めた。


「……まあ、いっか!」


 今度は草原の反対側が気になった。


 そこには、少し変わった形の木が生えていた。


 幹が途中で二股に分かれ、左右に大きく広がっている。


 その枝の間には、丸いものがいくつもぶら下がっていた。


「実かな?」


 近づいて見上げる。


 丸い実は薄い緑色で、表面に小さな白い斑点がある。


 白雪は木の幹に手をかけた。


「よいしょっと」


 するすると登っていく。


 《登攀》の効果もあり、以前よりずっと簡単に枝までたどり着けた。


 枝に腰を下ろして、実を一つ取る。


 《木陰の実》を入手しました。


「食べられるかな?」


 白雪は実を眺めた。


 少しだけ匂いを嗅いでみる。


 甘い香りがする。


「うーん……甘そう!」


 ぱくり。


 口の中に広がったのは、梨のようなみずみずしい甘さだった。


「おいしい!」


 《満腹度》が少し回復しました。


「これ、好きかも!」


 白雪はもう一つ実を取って、インベントリにしまった。


 そのとき、木の上から草原を見下ろして、ふと気づいた。


「……あれ?」


 草原の端に、細い道のようなものが見える。


 地面の草が少しだけ倒れていて、その先は木々の間へ続いているようだった。


「道かな?」


 白雪は枝から降りると、その場所へ向かった。


 草をかき分けて進んでいく。


 道は細く、途中で何度も曲がっていた。


 しばらく歩くと、木々の間に小さな石橋が現れた。


 橋の下には細い水路が流れている。


「橋だ!」


 白雪は橋の上に乗り、下を覗き込んだ。


 水は浅く、底には丸い石がいくつも転がっている。


 その中に、ひときわ透明な石があった。


「おおっ!」


 白雪は橋を降りて、水路のそばへしゃがみ込む。


 手を伸ばして石を拾い上げた。


 《透水晶》を入手しました。


「きれいな石!」


 石の中を水が流れているように見える。


 白雪はしばらく眺めたあと、インベントリにしまった。


 そして、もう一度橋を見上げた。


「……渡ってみよう!」


 普通に渡ればいいだけなのに、白雪はなぜか橋の欄干に手をかけた。


 ひょいっと乗り越え、そのまま細い欄干の上を歩き始める。


「おっとっと……」


 足元が少し揺れる。


 それでも、白雪は両手を広げてバランスを取った。


 一歩。


 もう一歩。


 橋の向こう側までたどり着くと、ぴょんと地面へ飛び降りた。


 その直後、システムメッセージが表示された。


 《新しいスキルを習得しました》

 《平衡歩行》


「おっ、新しいスキル!」


 白雪は目を輝かせた。


「橋の上を歩いたからかな?」


 習得したスキルを確認してみる。


 《平衡歩行》

 狭い足場や不安定な場所での移動時、バランスを取りやすくなる。


「へぇー! 便利そう!」


 白雪は近くにあった倒木の上へ乗ってみた。


 少し歩いて、くるりと方向転換。


「おおっ、さっきより歩きやすい!」


 今度は倒木の端から、地面へ向かって軽くジャンプした。


 ふわりと着地する。


「うんうん!」


 白雪は満足そうに頷いた。


 気づけば、空は少しずつ夕方の色に変わり始めていた。


「そろそろ帰ろうかな」


 草原を振り返る。


 白い花が風に揺れ、木々の間から差し込む光が少しずつ赤くなっていた。


「また来ようっと!」


 白雪は来た道を戻り始めた。


 途中で、先ほどの木の根元を覗いてみる。


 穴の前に置いた木の実はなくなっていた。


「食べてくれたんだね」


 白雪は小さく笑った。


 そして、森の中を軽やかに駆けていく。


 新しい装備は、今日も彼女の動きを助けてくれていた。


 ただし、本人は装備の性能を確かめているというより、走ることそのものを楽しんでいるだけだった。


 ログアウトした雪乃は、ベッドの上で大きく伸びをした。


「今日も楽しかったぁ」


 翌日、学校で舞と優真に会うと、さっそく昨日の冒険について話し始めた。


「森の中にね、小さな草原があったんだよ!」


「草原? 森の中に?」


 舞が興味深そうに聞き返す。


「うん! お花がいっぱい咲いてて、すごくきれいだった!」


「そこで何か見つけたのか?」


 優真が尋ねる。


「白くて小さい、ウサギみたいな子!」


「モンスターか?」


「たぶん! でも逃げちゃった。木の根っこの穴に入っていったんだよ」


「追いかけたの?」


「うん。でも出てこなかったから、木の実を置いてみたの」


 舞が少し笑う。


「餌付けしようとしたの?」


「えへへ。食べてくれたよ!」


「……仲間にしたわけじゃないんだな」


「うん。食べたら隠れちゃった」


 優真は呆れたように息を吐いた。


「相変わらず自由だな」


「あとね、橋の上を歩いたら新しいスキルを覚えたよ!」


「また変なことしてる……」


 舞は笑いながらも、少し羨ましそうに言った。


「でも、そういうところからスキルが見つかるのは面白いね」


「でしょ!」


 雪乃は嬉しそうに頷いた。


 次はどこへ行こう。


 何を見つけるのか。


 そんなことを考えるだけで、またログインするのが楽しみになるのだった。

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