第19話 風に乗って見つけた小さな隠れ家
「今日は、風に乗ってみよう!」
ELOにログインした雪乃は、森の高台へ向かっていた。
昨日見つけた岩場。
そこでは風が穴を通り抜け、笛のような音を鳴らしていた。
そして、風の流れを利用して移動できるスキル《風乗り》も覚えた。
「もうちょっと遠くまで行けるかな?」
雪乃は楽しそうに笑った。
新しいスキルを覚えると、すぐに試してみたくなる。
今日も特に目的地は決めていない。
風に乗って、行けるところまで行ってみる。
それが今日の予定だった。
もう一度、風の岩場へ!
森の中を進み、昨日の高台へたどり着く。
「着いた!」
雪乃は岩の隙間を抜け、風が吹き抜ける場所へ向かった。
ひゅうう……。
今日も岩の穴から音が鳴っている。
「やっぱり笛みたい!」
雪乃は岩に近づき、いくつかの穴を覗いてみた。
穴の大きさによって、風の音が少しずつ違う。
「こっちは低い音で、こっちは高い音!」
しばらく音を聞いて楽しんだあと、雪乃は岩の上へ登った。
高台の端まで歩いていく。
そこには、森の木々を見渡せる場所があった。
「よーし!」
雪乃は両手を広げた。
風が吹く。
マントがふわりと持ち上がる。
「今だ!」
雪乃は地面を蹴った。
ふわっ。
身体が浮かび、風に押されるように前へ進む。
「おおっ!」
いつもより少し長く空中にいられた。
けれど、風が弱まると、そのままゆっくりと高度が下がっていく。
トンッ。
雪乃は岩の上に着地した。
「おおー! 昨日より遠くまで行けた!」
嬉しくなって、もう一度試してみる。
今度は少し横向きに跳んでみた。
ふわり。
身体が風に流され、岩の端から少し離れた場所へ着地する。
「わっ、横にも動ける!」
雪乃は何度も繰り返した。
飛び続けられるわけではない。
それでも、風に押されて移動する感覚が面白かった。
風の先に見えたもの
何度か跳んでいるうちに、雪乃は少し離れた場所に目を向けた。
高台の向こう側。
木々の間に、白っぽい岩がいくつも並んでいる。
「あれ?」
昨日は気づかなかった場所だ。
岩の上には、細い木が一本だけ生えている。
その枝が風に揺れていた。
「行ってみよう!」
雪乃は岩場の端へ移動した。
少し下を見る。
距離はあるが、途中に大きな岩がいくつかある。
「届くかな?」
一度、足元を確認する。
それから、風が吹くのを待った。
ひゅうう……。
「今!」
雪乃は思い切り地面を蹴った。
《風乗り》を使い、風の流れに身体を乗せる。
ふわっ。
身体が前へ進む。
思ったよりも風が強く、雪乃の身体は少し横へ流された。
「わわっ!」
慌てて身体をひねる。
近くの岩に足を伸ばし、なんとか着地した。
「ふぅ……」
危なかった。
けれど、目的の岩場まではあと少し。
雪乃は岩の上を跳び移り、最後の一段を登った。
「着いた!」
そこは小さな岩の広場だった。
周囲には低い草が生え、風が通り抜けている。
そして、中央には一本の細い木が立っていた。
木の根元にあったもの
雪乃は木に近づいた。
枝には小さな葉がついている。
葉の形は細長く、先端が少し丸い。
風が吹くたび、葉がさらさらと音を立てた。
「きれいな木だね」
木の根元には、白い小さな花が咲いていた。
雪乃はしゃがみ込む。
「この花、初めて見る!」
そっと摘み取る。
『《風鈴草》を入手しました』
「風鈴草!」
名前を読み上げる。
花を振ってみると、かすかに鈴のような音が鳴った。
「わっ、音がする!」
もう一度振ってみる。
ちりん。
「かわいい!」
雪乃は嬉しそうに笑った。
さらに木の根元を見ていると、落ち葉の下に小さなものが埋まっているのを見つけた。
「ん?」
落ち葉をどけてみる。
そこには、丸い木の実がいくつか転がっていた。
『《風木の実》を入手しました』
「木の実だ!」
雪乃は一つ手に取った。
表面は薄い茶色で、小さな渦模様が入っている。
匂いを嗅いでみる。
香ばしい匂いがした。
「おいしそう!」
ぱくっ。
「ん……」
少し硬い。
けれど、噛んでいるとほんのり甘い味が広がった。
「おいしい!」
雪乃はもう一つ食べようとした。
しかし、アイテム欄にはまだいくつか残っている。
「持って帰ってもいいね!」
残りはしまっておくことにした。
岩の隙間に小さな入口?
木の周りを一周してみると、根元の裏側に小さな岩の隙間があることに気づいた。
「あれ?」
雪乃はしゃがみ込んだ。
隙間の向こうは暗く、奥がよく見えない。
けれど、風が流れている。
「風が出てる!」
雪乃は顔を近づけた。
ひゅうう……。
隙間から冷たい風が吹いてくる。
「ここも風が通るんだね」
中を覗いてみると、少しだけ広い空間があるようだった。
「入れるかな?」
雪乃は身体を横にして、ゆっくりと隙間へ入った。
頭をぶつけないように気をつけながら進む。
少し進んだところで、身体を起こせる場所に出た。
「わぁ……」
そこは、小さな岩の空間だった。
天井は低いが、立ち上がることはできる。
壁には白い石がいくつも埋まっていた。
そして、奥には小さな水たまりがある。
「こんなところがあったんだ!」
雪乃は目を輝かせた。
水たまりの周囲には、青い苔のようなものが生えている。
「これ、光ってる?」
近づいてみると、苔は淡く青く光っていた。
『《風穴苔》を入手しました』
「風穴苔……」
雪乃は苔を少しだけ採取した。
その近くには、白い小さな石も落ちていた。
『《風白石》を入手しました』
「こっちもきれい!」
拾ってアイテム欄へしまう。
すると、奥の水たまりから小さな音がした。
ぴちゃ。
「ん?」
雪乃は水面を覗き込んだ。
何かが動いている。
小さな住人
水たまりの中から、白くて丸い生き物が顔を出した。
身体は透き通るような白色で、背中には小さな葉っぱが一枚ついている。
目は黒く、身体の横には小さなひれのようなものがあった。
『《ミズシズク》』
「わぁ!」
雪乃は思わず声を上げた。
「かわいい!」
ミズシズクは雪乃を見つめている。
逃げる様子はない。
雪乃はそっとしゃがみ込んだ。
「こんにちは!」
ミズシズクは、ぴょこっと身体を揺らした。
「お返事してくれたの?」
もちろん、返事ではない。
けれど、雪乃にはそう見えた。
ミズシズクは水たまりの中をゆっくり泳ぎ、壁の近くへ移動した。
その先には、小さな白い実が落ちていた。
ミズシズクはそれを口にくわえ、雪乃の方へ運んでくる。
「えっ?」
雪乃は驚いた。
ミズシズクは水面から顔を出し、白い実をぽとりと落とした。
「くれるの?」
雪乃が手を伸ばすと、ミズシズクは少しだけ後ろへ下がった。
けれど、逃げはしなかった。
雪乃は実を拾い上げた。
『《雫の実》を入手しました』
「ありがとう!」
雪乃は笑顔でお礼を言った。
ミズシズクは再び水の中へ潜り、ゆっくりと泳いでいった。
「また来るね!」
雪乃は小さな空間を見回した。
ここは、ミズシズクの住みかのようだった。
あまり長居して邪魔をするのもよくない。
雪乃は採取したものを確認し、岩の隙間から外へ戻った。
今日の冒険は大成功!
外へ出ると、風が頬を撫でた。
雪乃は岩の広場をもう一度見渡した。
風鈴草が揺れ、細い木の葉がさらさらと鳴っている。
「ここ、いい場所だなぁ」
お気に入りの場所が一つ増えた。
今日の収穫をアイテム欄で確認する。
《風鈴草》
《風木の実》
《風穴苔》
《風白石》
《雫の実》
それから、ミズシズクがくれた《雫の実》。
「今日はいっぱい見つけた!」
雪乃は満足そうに頷いた。
帰り道も、風に乗って移動してみる。
岩から岩へ。
少しずつ風の流れを感じながら跳んでいく。
「やっぱり楽しい!」
途中で一度だけ着地に失敗し、草むらへ転がってしまった。
「わわっ!」
けれど、すぐに起き上がる。
「えへへ。失敗しちゃった」
雪乃は笑いながら、森の中へ戻っていった。
『ログアウトしますか?』
「はーい!」
視界が白く染まる。
今日もまた、雪乃は新しい場所を見つけた。
そして、その場所には小さな住人がいた。
次に訪れたときも、ミズシズクは姿を見せてくれるだろうか。
雪乃はそんなことを考えながら、ログアウトした。
現実世界・学校
「風に乗って、別の岩場まで行ったの?」
昼休み。
舞は雪乃の話を聞きながら、楽しそうに笑っていた。
「うん! それでね、小さな隠れ家を見つけたんだよ!」
「隠れ家?」
「岩の隙間の奥に、小さな空間があったの!」
優真が尋ねる。
「そこには何があったんだ?」
「光る苔と、白い石と、小さな水たまり!」
「また変わった場所だな」
「それでね、そこに小さな生き物がいたの!」
雪乃は両手を丸くして見せた。
「白くて、ぷにぷにしてて、葉っぱがついてた!」
「モンスター?」
「うん! 《ミズシズク》っていうんだって!」
舞が微笑む。
「かわいい名前だね」
「そうなの! しかもね、実をくれたんだよ!」
「アイテムを?」
「うん! 《雫の実》っていうの!」
優真は少し考えた。
「友好的なモンスターなのかもしれないな」
「そうなのかな?」
雪乃は嬉しそうに笑った。
「また会いに行きたいな!」
舞は頷いた。
「今度も会えるといいね」
「うん!」
雪乃は次の冒険を思い浮かべた。
森には、まだまだ不思議な場所がある。
そして、まだ会っていない生き物もたくさんいる。
次はどこへ行こうか。
雪乃の頭の中には、もういくつもの寄り道候補が浮かんでいた。




