第18話 森で見つけた不思議な水晶
「今日は何を見つけられるかなぁ!」
ELOにログインした雪乃は、森の中をのんびり歩いていた。
白と淡い青の装備が、木漏れ日を受けてきらきらと輝いている。
昨日は池の中に小さな空間を見つけた。
水の中で活動しているうちに、《水中行動》というスキルも覚えた。
「水の中って面白いね!」
雪乃は昨日のことを思い出して笑った。
けれど、今日は池へ向かうつもりはない。
なんとなく、別の場所へ行ってみたくなったのだ。
「こっちに行ってみよう!」
目の前には、木々が少しずつ少なくなっている方向がある。
その先に何があるのかは分からない。
だからこそ、気になった。
雪乃は軽い足取りで歩き始めた。
木々の向こうにあったもの
しばらく進むと、森の景色が少し変わってきた。
大きな木が減り、代わりに背の低い草や岩が増えている。
地面も少し傾斜していた。
「坂道だ!」
雪乃は坂を見上げた。
それほど急ではないけれど、ところどころに大きな岩が転がっている。
「登れるかな?」
近くの岩に手をかける。
ひょいっと足を乗せ、そのまま上へ。
《白蒼の疾風》の効果もあって、以前より軽々と登ることができた。
「よいしょっと!」
最後の岩を越えると、小さな高台に出た。
そこからは森の木々を見渡すことができる。
「わぁ……!」
雪乃は思わず足を止めた。
遠くには、昨日見つけた池らしき水面も見える。
森の中に、こんな場所があったのだ。
「上から見ると、全然違うね!」
しばらく景色を眺めていた雪乃だったが、すぐに足元へ視線を落とした。
岩の隙間に、何かが光っている。
「ん?」
しゃがみ込んで覗いてみる。
そこには、細い青色の結晶が一本、地面から顔を出していた。
「水晶かな?」
雪乃は指先でそっと触れた。
ひんやりとしていて、表面はつるつるしている。
『《風晶片》を入手しました』
「風晶片?」
雪乃は手のひらに乗せて眺めた。
青い結晶の中に、白い筋が一本走っている。
「きれいだなぁ」
アイテム欄にしまい、周囲を見回した。
すると、同じような青い光がいくつか見える。
「あっちにもある!」
雪乃はさっそく向かった。
変わった石がいっぱい!
高台の岩場には、小さな結晶がいくつも転がっていた。
青いもの。
白いもの。
少し紫がかったもの。
「わぁ、宝石みたい!」
雪乃は一つずつ拾ってみた。
『《白晶片》を入手しました』
『《紫晶片》を入手しました』
『《風晶片》を入手しました』
「いっぱいある!」
雪乃は嬉しそうにアイテム欄を確認した。
その中に、少し変わった石があった。
丸くて、表面が少しざらざらしている。
中央には小さな穴が開いていた。
「これは何だろう?」
指を穴に通してみる。
すぽっ。
「おおっ!」
ちょうど指にはまった。
「指輪みたい!」
雪乃は指にはめたまま、手を動かしてみた。
けれど、特に何も起こらない。
「うーん。何かの素材かな?」
そのまま外して、アイテム欄にしまった。
『《風穴石》を入手しました』
「風穴石……」
名前を読み上げる。
穴が開いているから、風穴石なのだろうか。
雪乃は少しだけ考えたが、すぐに別のものを見つけてそちらへ向かった。
風が通る岩場
高台の端には、少し大きな岩が並んでいた。
そのうちの一つには、人が通れそうな細い隙間がある。
「ここ、通れるかな?」
雪乃は身体を横にして隙間を抜けた。
すると、反対側から強い風が吹いてきた。
「わっ!」
マントが大きく揺れる。
髪もふわりと後ろへ流れた。
「すごい風!」
隙間の向こうは、小さな岩場になっていた。
周囲には草がほとんど生えていない。
風が通り抜けるたび、岩の表面から低い音が鳴る。
ひゅうう……。
「笛みたいな音!」
雪乃は岩に近づいた。
よく見ると、岩には小さな穴がいくつも開いている。
風がそこを通ることで、音が鳴っているようだった。
「面白いね!」
雪乃は穴の近くに耳を寄せた。
ひゅうう……。
穴によって音の高さが違う。
「こっちは高い音!」
別の穴に耳を近づける。
ぼうっ。
「こっちは低い!」
雪乃はあちこちの穴を覗き込んだ。
すると、一つの穴から小さな白いものが飛び出してきた。
「わっ!」
雪乃は驚いて後ろへ下がる。
白いものは風に乗るようにふわふわと漂い、岩の上へ降り立った。
よく見ると、小さな生き物だった。
丸い身体に短い手足。
背中には、風を受けて揺れる薄い羽のようなものがある。
『《カゼマル》』
「かわいい!」
雪乃は目を輝かせた。
カゼマルは雪乃を見つけると、身体をふくらませた。
次の瞬間。
ふわっ!
風が吹き、カゼマルの身体が浮かび上がる。
「飛んだ!」
カゼマルはそのまま岩の隙間を抜け、空へ飛んでいってしまった。
「あっ、待って!」
雪乃は追いかけようとした。
しかし、カゼマルは風に乗ってどんどん遠ざかっていく。
「速いなぁ……」
雪乃は空を見上げた。
そのとき、足元に小さな白い羽根が落ちていることに気づいた。
「ん?」
拾い上げる。
『《風羽》を入手しました』
「カゼマルの羽根かな?」
雪乃は羽根を眺めてから、アイテム欄へしまった。
風に乗ってみたい!
カゼマルが飛んでいった方向には、少し高い岩の突き出した場所があった。
雪乃はそこへ登ってみることにした。
岩に手をかけ、足を乗せる。
よいしょ。
ひょい。
あっという間に上まで登る。
そこは風が強く吹き抜ける場所だった。
「わぁ!」
マントが大きく広がる。
雪乃は両手を広げてみた。
「これ、風に乗れたりするのかな?」
もちろん、マントは翼ではない。
けれど、少しだけ試してみたくなった。
雪乃は岩の端から少し離れた場所に立つ。
そして、両手を広げたまま、軽く跳んでみた。
ふわっ。
身体が浮かぶ。
風がマントを押し上げる。
「おおっ!」
ほんの少しだけ、空中にいる時間が長くなった気がした。
けれど、すぐに地面へ着地する。
「飛べないかぁ」
雪乃は残念そうに頬を膨らませた。
それでも、もう一度やってみる。
今度は風が吹く方向に合わせて跳んでみた。
ふわり。
さっきよりも少しだけ遠くへ進む。
「おおおっ!」
雪乃は嬉しくなった。
何度か繰り返しているうちに、身体の動かし方も少しずつ分かってきた。
『スキル《風乗り》を獲得しました』
「えっ?」
雪乃は表示を見つめた。
「風乗り?」
説明には、風の流れを利用して跳躍や移動を補助するスキルだと書かれていた。
「すごい! 風に乗れるんだ!」
雪乃はもう一度、風が吹く方向へ跳んでみた。
ふわっ。
先ほどよりも少しだけ空中を移動できた。
「おおっ! 楽しい!」
飛べるわけではない。
けれど、風に押されるように移動できるのが面白かった。
雪乃はしばらく岩場で遊んでいた。
風の中に隠れていたもの
そろそろ別の場所へ行こうかと思ったとき、岩の隅に小さな花が咲いているのを見つけた。
「ん?」
風が吹くたび、花びらが揺れている。
花は薄い水色で、中央には小さな白い粒がついていた。
「かわいい花!」
雪乃はしゃがみ込んだ。
『《風待ち花》を入手しました』
「風待ち花……」
名前を読み上げる。
花を採取した場所には、小さな種が一つ残っていた。
「これも種かな?」
拾い上げる。
『《風待ち花の種》を入手しました』
雪乃は種をアイテム欄へしまった。
その直後、背後でガサガサと音がした。
「ん?」
振り返る。
岩の隙間から、茶色い小さなモンスターが顔を出していた。
長い耳。
丸い身体。
背中には、小さな葉っぱが何枚もついている。
『《リーフモモン》』
「わっ、かわいい!」
雪乃が近づくと、リーフモモンはすぐに走り出した。
「あっ!」
雪乃も追いかける。
リーフモモンは岩を登り、狭い隙間を抜けていく。
雪乃も後を追う。
しかし、途中でリーフモモンは急に向きを変えた。
「わわっ!」
雪乃は慌てて足を止めた。
そのまま追いかけようとしたが、リーフモモンは岩の向こうへ消えてしまった。
「また逃げられたぁ」
雪乃は少し残念そうにした。
けれど、すぐに岩の隙間を覗き込む。
「ここ、通れるかな?」
どうやら、まだまだ気になる場所がありそうだった。
今日の冒険は大成功!
その後も雪乃は高台の周辺を歩き回った。
風が吹くたびにマントを広げてみたり、岩の穴から聞こえる音を聞いたり。
途中で見つけた草や小石も拾っていく。
気づけば、アイテム欄には今日の収穫がいくつも並んでいた。
《風晶片》
《白晶片》
《紫晶片》
《風穴石》
《風羽》
《風待ち花》
《風待ち花の種》
「今日は風のものがいっぱい!」
雪乃は嬉しそうに笑った。
そして、最後にもう一度だけ岩の上へ登った。
風が吹く。
マントが揺れる。
「ふふっ」
雪乃は両手を広げた。
「また来よう!」
『ログアウトしますか?』
「はーい!」
視界が白く染まる。
今日もまた、雪乃は森の中で不思議なものを見つけた。
そして、新しいスキルも覚えた。
本人にとっては、ただ風と遊んでいただけなのだが。
現実世界・学校
「風に乗るスキル?」
昼休み。
舞は雪乃の話を聞いて、不思議そうに首を傾げた。
「うん! 風が吹いている方向に跳ぶと、ちょっと遠くまで移動できるんだよ!」
「そんなスキルもあるんだね」
優真も興味を持ったようだった。
「風の流れを利用するタイプか。移動系のスキルだな」
「そうみたい!」
雪乃は楽しそうに頷いた。
「それでね、風の中に小さなモンスターがいたんだよ!」
「どんなモンスター?」
「丸くて、ふわふわしてて、風に乗って飛んでいっちゃった!」
舞が笑う。
「また追いかけたんだ?」
「うん! でも逃げられちゃった」
「雪乃は本当に追いかけるのが好きだね」
「だって気になるんだもん!」
雪乃は笑った。
優真は少し呆れたように言った。
「そのうち、森の中のモンスター全部に追いかけられてるんじゃないか?」
「えー? そんなことないよ!」
「どうだか」
舞は二人のやり取りを聞いて、くすっと笑った。
「でも、新しいスキルが増えてよかったね」
「うん!」
雪乃は大きく頷いた。
「次はどんな風に乗れるか試してみたいな!」
新しいスキルを覚えた雪乃。
森には、まだまだ知らない場所がある。
次はどんなものに出会えるのだろうか。
雪乃は、次のログインを楽しみにしていた。




