第17話 池の中に隠れていた不思議な場所
「今日は、あの池に行ってみよう!」
ELOにログインした雪乃は、森の中を元気よく歩いていた。
昨日見つけた小さな池。
そこには、青い羽根や不思議な水の玉があり、カニのようなモンスターとも戦った。
そして、もう一つ気になっていることがある。
「ミズモグラ、またいるかなぁ?」
昨日、池で出会った小さなモンスター。
仲良くなろうとしたけれど、すぐに水の中へ逃げてしまった。
今日はもう少し近くで見てみたい。
「待っててねー!」
誰に向かって言っているのか分からない言葉を残し、雪乃は池へ向かった。
また会えた!
木々の間を抜けると、昨日と同じ池が見えてきた。
水面には木漏れ日が揺れ、小さな魚が泳いでいる。
「着いた!」
雪乃は池の端まで駆け寄った。
まずは水の中を覗いてみる。
魚が数匹、岩の隙間を泳いでいた。
けれど、ミズモグラの姿は見えない。
「いないのかな?」
少し残念そうに水面を眺める。
そのとき。
ぽこっ。
池の中央付近に、小さな泡が浮かんだ。
「ん?」
ぽこぽこっ。
今度は二つ。
そして、水面から丸い頭がひょこっと現れた。
「あっ!」
雪乃は目を輝かせた。
「いた!」
昨日のミズモグラだった。
大きな目で周囲を見回し、こちらを見つけるとじっと動かなくなる。
「おはよう!」
雪乃は手を振った。
ミズモグラは少しだけ首を傾けたあと、また水の中へ潜った。
「あー! また行っちゃった!」
雪乃は池の端から水面を覗き込んだ。
すると、少し離れた場所に泡が浮かんでいる。
「こっちかな?」
池の周りを歩いてみる。
泡は少しずつ移動しているようだった。
「追いかけっこかな?」
雪乃は楽しそうに後を追った。
水の中を覗いてみよう!
泡が浮かんだ場所は、池の端にある大きな岩の近くだった。
雪乃は岩の上にしゃがみ込む。
「この辺かな?」
水面を覗くと、岩の下に小さな隙間がある。
そこから、細い水流が流れ出していた。
「んー?」
雪乃は顔を近づける。
隙間の奥は暗くてよく見えない。
けれど、何か青いものがちらりと光った気がした。
「何かある!」
雪乃は岩の周囲を調べてみた。
岩の横には足を置ける場所があり、水深もそれほど深くなさそうだ。
「入れるかな?」
まずは足先だけ水につけてみる。
ひんやり。
「冷たっ!」
思わず足を引っ込めた。
けれど、水の中が気になって仕方ない。
「ちょっとだけなら大丈夫かな?」
雪乃は周囲を確認してから、ゆっくりと池へ入った。
水は膝くらいまでの深さだった。
岩の隙間へ近づく。
そこには、人一人が身体を横にすれば通れそうな空間があった。
「通れるかも!」
雪乃は身体を横にして、そっと隙間を抜けた。
すると、岩の向こう側に小さな空間が広がっていた。
「わぁ……!」
そこは池の裏側にできた、小さな水のたまり場だった。
天井の隙間から光が差し込み、水面に青い光が揺れている。
壁には透明な石がいくつも埋まっていた。
「きれい!」
雪乃は水の中を歩きながら、周囲を眺めた。
水の中の不思議な石
空間の端には、小さな石がいくつも転がっていた。
その中に、淡い水色の石がある。
「これ、きれいだなぁ」
雪乃は拾い上げた。
『《水透石》を入手しました』
「すいとうせき?」
石を光にかざすと、向こう側が少し透けて見える。
「すごい! 透明みたい!」
その近くには、細長い水草が生えていた。
葉の先端には小さな丸い粒がついている。
「これは何だろう?」
雪乃は一本だけ採取してみた。
『《泡葉草》を入手しました』
「泡葉草……」
名前を読み上げる。
葉の先端にある粒を指で軽く触ると、ぷちん、と小さな泡が弾けた。
「わっ!」
雪乃は目を丸くした。
「泡が出た!」
もう一度触ってみる。
ぷちっ。
今度は小さな泡が二つ浮かんだ。
「おもしろい!」
雪乃はしばらく泡葉草を眺めていた。
そのとき、空間の奥で水が揺れた。
ぽちゃん。
「あれ?」
振り向く。
そこには、ミズモグラがいた。
「いた!」
雪乃は嬉しそうに近づこうとした。
しかし、ミズモグラは逃げない。
ただ、じっとこちらを見つめている。
「今日は逃げないの?」
雪乃がしゃがみ込むと、ミズモグラも少しだけ近づいてきた。
「おおっ!」
雪乃は嬉しくなった。
けれど、手を伸ばすとミズモグラはすぐに後ろへ下がった。
「あっ、まだだめ?」
雪乃は手を引っ込めた。
無理に触ろうとはせず、その場に座って眺めることにした。
しばらくすると、ミズモグラは水面に浮かび、小さな泡を一つ吐き出した。
ぽこっ。
「泡?」
雪乃が見ていると、ミズモグラはもう一つ泡を吐き出す。
ぽこっ。
「ふふっ。面白いね!」
ミズモグラはそのまま水の中へ潜っていった。
泡の向こう側
ミズモグラが潜っていった場所を眺めていると、水面に小さな泡がいくつも浮かんできた。
ぽこぽこぽこ。
「わぁ、いっぱい!」
泡は一か所に集まり、少しずつ奥へ流れていく。
雪乃はその流れを目で追った。
すると、壁の下の方に小さな穴があることに気づいた。
泡はそこから出てきているらしい。
「ここから出てるんだ!」
雪乃は穴の前まで移動した。
穴は水の中に続いている。
中は暗く、どこまで続いているのか分からない。
「入れるかなぁ?」
顔を近づけてみる。
すると、穴の奥から冷たい水が流れてきた。
「ひゃっ!」
雪乃は思わず顔を離した。
少し考える。
「……でも、気になる」
雪乃は水中へ潜り、穴の中を覗き込んだ。
奥には、青く光るものが見える。
「何かある!」
しかし、穴は狭く、身体を入れるのは難しそうだった。
無理に進むのは危ない。
雪乃は一度水面へ戻った。
「うーん……」
穴の周囲を見回す。
すると、近くの壁に足を置けそうな小さな出っ張りがいくつもある。
「上から行けるかな?」
雪乃は水から上がり、壁の出っ張りに手をかけた。
一つずつ登っていく。
少し滑りやすい。
けれど、足場を確かめながら登れば何とか進めそうだった。
「よいしょ……」
もう少し。
そして、穴の上にある小さな岩棚へたどり着いた。
そこから下を覗くと、穴の奥が少しだけ見えた。
「わっ!」
青い光の正体は、小さな結晶だった。
けれど、岩に埋まっているようで、簡単には取れそうにない。
「うーん。取れないね」
雪乃は少し残念そうにした。
それでも、見つけられただけで満足だった。
不思議な水の実
岩棚から降りた雪乃は、空間の反対側を歩いてみた。
すると、水辺に小さな植物が生えているのを見つけた。
丸い葉の中央に、青い実が一つついている。
「実だ!」
雪乃はしゃがみ込んだ。
実は透明感があり、中に小さな泡が浮かんでいる。
「これ、食べられるのかな?」
雪乃は手に取って眺めた。
匂いを嗅いでみる。
ほのかに甘い香りがする。
「おいしそう……」
少しだけ迷ったあと、雪乃は実を口に入れた。
ぱくっ。
「ん!」
口の中で、ぷちぷちと小さな泡が弾ける。
味はほんのり甘く、後からすっきりした冷たさが広がった。
「おいしい!」
雪乃は嬉しそうに笑った。
『《泡水の実》を入手しました』
『スキル《水中行動》を獲得しました』
「えっ?」
雪乃は表示を見つめた。
「水中行動?」
どうやら、水辺を歩いたり、水の中で活動した経験が認められたらしい。
「わぁ! 新しいスキル!」
雪乃は嬉しそうに何度も表示を確認した。
「これがあれば、もっと水の中で遊べるかな?」
さっそく試してみたくなった。
池の中でひと泳ぎ!
雪乃はもう一度、水の中へ入った。
今度は少し深い場所まで進んでみる。
足が底につかなくなる手前で、身体を水に浮かせた。
「よいしょ……」
水面に顔を出したまま、ゆっくりと手足を動かす。
「おおっ!」
昨日よりも水の中で動きやすい気がした。
水中行動のスキルが役に立っているのかもしれない。
雪乃は水の中を少しだけ進んでみた。
岩の周りを回る。
水草の間を通る。
そして、ミズモグラがいた場所を覗いてみる。
「あっ!」
小さな影が動いた。
ミズモグラだ。
雪乃が近づくと、ミズモグラは少しだけこちらを見てから、ゆっくりと泳ぎ始めた。
「待ってー!」
雪乃も後を追う。
しかし、ミズモグラは岩の隙間へすいっと入ってしまった。
「また逃げられた!」
雪乃は水面に顔を出した。
それでも、今日は昨日より近くで見られた。
「少し仲良くなれたかな?」
そう思うことにした。
今日の冒険は大成功!
池の外へ戻った雪乃は、濡れた装備を眺めた。
「水の中も楽しかった!」
《白蒼の疾風》の装備は、特に問題なく使えている。
マントも水から上がると、少しずつ元の状態に戻っていた。
「これ、濡れても大丈夫なんだね」
雪乃は満足そうに頷いた。
今日見つけたものを確認する。
《水透石》
《泡葉草》
《泡水の実》
それから、新しく覚えた《水中行動》。
「今日はいっぱい見つけた!」
池の奥には、まだ気になる場所が残っている。
壁の下にある水中の穴。
その奥に見えた青い結晶。
「また今度、見に来よう!」
雪乃は池を振り返った。
そして、森の中を歩いて帰っていった。
『ログアウトしますか?』
「はーい!」
視界が白く染まる。
今日もまた、雪乃は不思議なものを見つけた。
本人はただ、気になった場所へ行ってみただけ。
けれど、そんな寄り道が少しずつ新しい発見につながっていた。
現実世界・学校
「水の中に入ったの?」
昼休み、舞は雪乃の話を聞いて少し驚いていた。
「うん! 池の岩の向こうに、小さな空間があったんだよ!」
「そんなところがあったんだ」
「青い石とか、泡が出る草とかもあったよ!」
優真が尋ねる。
「水中行動のスキルも覚えたのか?」
「うん! 水の中で遊んでたら、いつの間にか覚えた!」
「水中での行動が条件だったのかもな」
「そうなのかな?」
雪乃は首を傾げた。
舞は少し笑って言った。
「それにしても、ミズモグラとは仲良くなれた?」
「うーん……。まだ逃げちゃう」
「残念だったね」
「でも、昨日より近くで見られたよ!」
雪乃は嬉しそうに答えた。
「次はもっと近くで見たいなぁ」
優真は苦笑した。
「また池に行くのか?」
「うん! まだ穴の奥も気になるし!」
舞は楽しそうに頷いた。
「雪乃らしいね」
雪乃は笑った。
次に池を訪れたとき、あの青い結晶の正体が分かるだろうか。
それとも、また別の不思議なものを見つけてしまうのだろうか。
それは、次の冒険のお楽しみだった。




