第16話 新しい装備で森を駆け回ろう
「よーし! 今日もいっぱい遊ぶぞー!」
ELOにログインした雪乃は、両手を上げて伸びをした。
白と淡い青を基調とした軽装衣。
背中には小さなマントが揺れ、腰には二本の短剣が収まっている。
《白蒼の疾風》シリーズ。
昨日、洞窟の宝箱から手に入れたばかりの装備だ。
「うん! やっぱりかわいい!」
雪乃は自分の姿を眺めて、満足そうに頷いた。
今日はこの装備で、森の中をもっと走り回ってみたい。
ただ、それだけだった。
いつもより高く!
森に入った雪乃は、さっそく近くの木を見上げた。
太い枝がいくつも伸びている。
「……あそこまで行けるかな?」
以前なら、登るのに少し苦労した高さだ。
けれど、今は新しい装備がある。
雪乃は木の幹に手をかけ、足を乗せた。
よいしょ。
ひょい。
枝から枝へと移動していく。
「おおっ! 軽い!」
足が自然と動く。
いつもより身体が軽く、枝へ飛び移るのも簡単だった。
少し太い枝に乗ると、雪乃は周囲を見渡した。
木々の向こうに、少し開けた場所が見える。
「あっ、あっち何だろう?」
気になった。
すぐにそちらへ行きたくなった。
雪乃は枝の上でしゃがみ込み、少し先の枝へ向かって跳ぶ。
ふわっ。
「わっ!」
思った以上に身体が浮いた。
枝に手を伸ばし、そのまま反対側へ着地する。
「すごい! 前より高く跳べる!」
もう一度。
今度は少し離れた枝へ。
ぴょんっ!
「楽しい!」
雪乃は木の上を移動しながら、見える景色を楽しんだ。
その途中、枝の隙間に小さな巣を見つけた。
「ん?」
近づいてみると、そこには小さな卵が二つ並んでいた。
「鳥さんの巣かな?」
雪乃はそっと覗き込んだ。
卵には薄い青色の模様が入っている。
「きれいだなぁ」
触ろうとはせず、少し眺めてからその場を離れた。
すると、巣の近くに白い羽根が一枚落ちていることに気づいた。
「おっ!」
雪乃はそれを拾い上げた。
『《淡青鳥の羽根》を入手しました』
「淡青鳥?」
初めて見る名前だった。
「さっきの卵の鳥かな?」
そんなことを考えながら、羽根をアイテム欄にしまった。
木の上から見えたもの
さらに枝を進んでいくと、木々の向こうに小さな池が見えた。
「池だ!」
雪乃は目を輝かせた。
「行ってみよう!」
枝から地面へ向かって飛び降りる。
ふわりと身体が浮き、思っていたよりも遠くへ進んだ。
「わわっ、飛びすぎた!」
着地する直前に身体をひねる。
トンッ。
無事に地面へ降り立った。
「ふぅ。びっくりしたぁ」
雪乃は笑いながら、池の方へ歩いていった。
池は木々に囲まれた静かな場所だった。
水面には木漏れ日が映り、小さな波紋が広がっている。
「わぁ……きれい」
雪乃は池の端にしゃがみ込んだ。
水の中を覗いてみる。
小さな魚が泳いでいる。
その魚は、普通の魚とは少し違っていた。
背中に淡い青色の模様があり、尾びれが透き通っている。
「何の魚だろう?」
雪乃が指を近づけると、魚はすっと離れていった。
「あっ、逃げちゃった」
もう少し近づいてみる。
今度は別の魚が水面近くまで上がってきた。
「おいでー」
もちろん、魚が言葉を理解するはずもない。
魚は水面を跳ね、再び水の中へ戻っていった。
「わっ!」
雪乃は少し驚いたあと、楽しそうに笑った。
池の中の丸いもの
池の周りを歩いていると、水辺の石の隙間に何かが挟まっているのを見つけた。
「ん?」
しゃがんで手を伸ばす。
丸い青色のものだった。
石のようにも見えるが、表面はつるつるしている。
雪乃は水の中から取り出してみた。
『《水珠》を入手しました』
「すいじゅ?」
手のひらに乗せて眺める。
内部には、小さな水滴のようなものが浮かんでいた。
「きれい!」
光にかざすと、青い輝きが揺れる。
「これ、食べられるのかな?」
雪乃は少し考えた。
しかし、石なのか何なのか分からない。
とりあえず、今日は眺めるだけにしておいた。
「うん。持って帰ろう!」
アイテム欄へしまう。
そのとき、池の反対側で水面が大きく揺れた。
ばしゃっ!
「ん?」
雪乃が顔を向ける。
水面から、丸い頭がひょこっと出てきた。
大きな目。
小さな口。
身体には水草のようなものがついている。
『《ミズモグラ》』
「わっ、かわいい!」
ミズモグラは雪乃を見ると、すぐに水へ潜ってしまった。
「あっ、待って!」
雪乃は池の端を走って追いかけた。
しかし、水の中を泳ぐ相手に追いつけるはずもない。
水面に小さな波紋が残り、ミズモグラの姿は見えなくなった。
「行っちゃった……」
雪乃は残念そうに池を覗き込んだ。
「また会えるかな?」
水辺のモンスター!
しばらく池の周りを歩いていると、今度は水草の陰から別のモンスターが現れた。
細長い身体に、硬そうな甲羅。
小さなハサミのような前足がついている。
『《ブルーシェルクラブ》』
「カニさんだ!」
雪乃はしゃがんで眺めた。
ブルーシェルクラブは、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「こんにちはー」
当然、返事はない。
代わりに、カチン!
ハサミが鳴った。
「わっ!」
雪乃は少し後ろへ下がった。
どうやら、近づかれるのが嫌だったらしい。
「怒ってる?」
もう一度近づいてみる。
カチン!
今度はハサミを振り上げた。
「やっぱり怒ってる!」
雪乃は慌てて後ろへ跳んだ。
ブルーシェルクラブが地面を蹴り、横向きに突進してくる。
「わわっ!」
雪乃は身体をひねって避けた。
新しい装備のおかげか、動き出しがとても軽い。
カニの突進が空振りする。
「おおっ、避けられた!」
そのまま後ろへ回り込み、短剣を振るう。
キンッ!
甲羅に弾かれた。
「硬い!」
ブルーシェルクラブが振り返り、ハサミを振り下ろす。
雪乃は横へ跳んだ。
今度は反対側へ回り込む。
「こっち!」
短剣を二本使い、脚の付け根を狙ってみた。
ザシュッ。
小さなダメージが入る。
「おっ!」
その後も、突進を避けては攻撃することを繰り返した。
何度目かの攻撃で、ブルーシェルクラブが大きく身体を揺らす。
そして、青い光の粒となって消えていった。
『経験値を獲得しました』
『《青殻の欠片》を入手しました』
「やった!」
雪乃は嬉しそうにアイテムを確認した。
「青いカニさんだったね!」
ちょっと休憩!
戦いを終えた雪乃は、池の近くにある平らな岩へ腰を下ろした。
「ふぅ……」
水面を眺める。
風が吹くと、木々の葉がさらさらと音を立てた。
「ここ、いい場所だなぁ」
雪乃は足をぶらぶらさせながら、アイテム欄を開いた。
《淡青鳥の羽根》
《水珠》
《青殻の欠片》
今日見つけたものが並んでいる。
「いっぱい増えた!」
そのとき、池の水面がまた揺れた。
「ん?」
顔を上げると、さっきのミズモグラが少し離れた場所から顔を出していた。
「いた!」
雪乃は立ち上がった。
ミズモグラは雪乃を見つめている。
「こっちおいでー」
雪乃が手を振る。
ミズモグラはしばらく動かなかったが、やがて水の中へ潜ってしまった。
「あー……」
雪乃は肩を落とした。
「仲良くなりたかったのに」
もちろん、モンスターと仲良くなれるかどうかは分からない。
けれど、雪乃はまた会えることを期待していた。
今日の冒険は大成功!
その後、雪乃は池の周りをもう少しだけ歩いた。
小さな花を見つけて摘んだり、変わった形の石を拾ったり。
気になるものがあれば、すぐに足を止める。
そして、帰り道には何度も木の枝へ飛び乗った。
「やっぱり高く跳べる!」
枝から枝へ。
木の根を飛び越え、岩の上へ。
新しい装備は、雪乃の遊び方にぴったりだった。
「明日はどこへ行こうかなぁ」
考えるだけで楽しくなる。
『ログアウトしますか?』
「はーい!」
雪乃は笑顔でログアウトした。
今日もまた、森の中でたくさんのものを見つけた。
けれど、まだ見ていない場所も、出会っていないモンスターもたくさんある。
雪乃の冒険は、まだまだ終わらない。
現実世界・学校
「新しい装備、そんなに動きやすいんだ」
昼休み。
雪乃の話を聞いた舞が、興味深そうに尋ねた。
「うん! 木の上を移動するのも楽しかったよ!」
「木の上?」
優真が聞き返す。
「枝から枝へ跳んだの!」
「……普通に道を歩けばいいんじゃないか?」
「でも、上から見ると景色が違うんだよ!」
雪乃は楽しそうに答えた。
舞は笑いながら尋ねる。
「それで、何か見つけた?」
「池! それから、青い羽根と水の玉みたいなもの!」
「水の玉?」
「うん。中に水滴みたいなのが入ってるの!」
「へえ、珍しいアイテムかもね」
優真が言った。
「あと、カニみたいなモンスターとも戦ったよ!」
「水辺のモンスターか」
「甲羅が硬かった!」
雪乃は両手を動かしながら、戦いの様子を説明する。
「でもね、新しい装備のおかげで、ぴょんって避けられたんだよ!」
「それはよかったね」
舞が微笑む。
「うん!」
雪乃は嬉しそうに頷いた。
「またあの池に行こうかな。今度はミズモグラと仲良くなりたい!」
優真は少し呆れた顔をした。
「モンスターと仲良くなれるかは分からないぞ」
「やってみないと分からないよ!」
雪乃は笑った。
次に池へ行ったとき、ミズモグラは姿を見せてくれるだろうか。
それとも、また水の中へ逃げてしまうのだろうか。
そんなことを考えながら、雪乃は次の冒険を楽しみにしていた。




