第15話 宝箱の中にあったもの
「今日は、あの箱を開けるよ!」
ELOにログインした雪乃は、森の奥にある洞窟へ向かっていた。
前回、怖い大きなモンスターを倒した先で見つけた宝箱。
青い石が埋め込まれた、小さな箱だ。
蓋には窪みがあって、何かを入れないと開かないようだった。
「何を入れるんだろう?」
雪乃は歩きながら、アイテム欄を眺めた。
薬草、木の実、キノコ、石ころ。
色々なものが入っている。
「鍵っぽいものはないかなぁ……」
そう言いながら、指を動かしていく。
すると、少し前に手に入れたアイテムが目に入った。
《結晶核》
「あっ!」
雪乃は思わず声を上げた。
「これ、青くてきれいだよね!」
前回倒した大きなモンスターから手に入れたものだ。
手のひらに収まるくらいの大きさで、内部には青い光がゆっくりと流れている。
「もしかして、これかな?」
なんとなく、宝箱の青い石と似ている気がした。
「試してみよう!」
雪乃は少し足取りを速めた。
宝箱のところへ!
洞窟の中は、相変わらず青い光で満たされていた。
壁に埋まった結晶が淡く輝き、天井からは小さな水晶がいくつも垂れ下がっている。
「やっぱりきれいだなぁ」
雪乃は途中で見つけた結晶を眺めたり、床に落ちている小さな石を拾ったりしながら進んだ。
そして、大きな岩の隙間を抜ける。
前回、怖いモンスターがいた広い空間だ。
今は静かで、あの大きな身体も見当たらない。
「今日はもういないね」
雪乃は少し安心した。
そのまま奥へ進み、台座のある小部屋へたどり着く。
「着いた!」
中央に置かれた台座。
その奥にある青い宝箱。
雪乃は宝箱の前にしゃがみ込んだ。
「さてさて……」
蓋の中央には、やはり小さな窪みがある。
雪乃はアイテム欄から《結晶核》を取り出した。
青く光る結晶を、窪みの上に持っていく。
「入るかな?」
そっと置いてみる。
カチッ。
「おっ?」
結晶核が窪みにぴったりとはまった。
その瞬間。
ピィィン……!
宝箱の青い石が光り始めた。
「わっ!」
台座の模様にも青い光が走る。
床に刻まれた線が次々と輝き、部屋全体が淡い光に包まれた。
そして――。
ガコン。
宝箱の蓋が、ゆっくりと開いた。
「開いたぁ!」
雪乃は思わず両手を上げた。
「やった! 開いたよ!」
中には、白と淡い青を基調にした装備がきれいに並べられていた。
「わぁ……!」
雪乃は目を輝かせた。
白と青の装備
宝箱の中には、いくつもの装備が収められていた。
まず目に入ったのは、二本の短剣。
刃は白銀色で、根元には小さな青い宝石が埋め込まれている。
柄は白く、握る部分には淡い青の模様が刻まれていた。
「短剣だ!」
雪乃は一本を手に取った。
今使っている武器よりも少し細身で、軽そうに見える。
もう一本も取り出して、両手に持ってみた。
「わぁ、かわいい!」
続いて、胴体を守る軽装の防具。
白を中心に、淡い青と銀色の装飾が入っている。
重そうな鎧ではなく、身体を動かしやすそうな形だった。
腕には白銀の腕当て。
脚には淡い青の装飾が入った脚当て。
足元には軽いブーツ。
そして最後に、背中へ取り付ける小さなマントがあった。
マントの裏側は淡い青色で、端には銀色の模様が入っている。
「これ、全部セットなのかな?」
雪乃は一つずつ手に取って眺めた。
どれも白と青で統一されていて、とてもかわいらしい。
「着てみたい!」
雪乃はさっそく装備画面を開いた。
新しい装備!
『ユニーク装備《白蒼の疾風》シリーズを獲得しました』
『武器:《白蒼の疾風・双短剣》』
『胴装備:《白蒼の疾風・軽装衣》』
『腕装備:《白蒼の疾風・腕当て》』
『脚装備:《白蒼の疾風・脚当て》』
『足装備:《白蒼の疾風・ブーツ》』
『背中装備:《白蒼の疾風・マント》』
「……?」
雪乃は表示された文字を眺めた。
「白蒼の疾風……?」
名前を小さく読み上げる。
聞き慣れない言葉だったけれど、響きは気に入った。
『特殊能力:《自己修復》』
『シリーズ効果:移動速度・回避性能・跳躍能力上昇』
「じこしゅうふく?」
よく分からない。
雪乃は首を傾げた。
「壊れても直るのかな?」
説明を読んでみると、装備が受けた損傷を時間経過で修復する能力らしい。
「へぇー! 便利!」
それ以上、深く考えることはなかった。
「よし、着てみよう!」
雪乃は装備を一つずつ変更していった。
白い軽装衣を身につけ、腕当てと脚当てを装着する。
足元には白いブーツ。
背中には淡い青色のマント。
最後に、二本の短剣を腰に装備した。
「…………」
雪乃は自分の姿を確認する。
白い衣装に淡い青色の装飾。
銀色の細かな模様が光を受けて輝いている。
マントが背中でふわりと揺れた。
「わぁ……!」
思わず声が漏れた。
「かわいい!」
くるりと一回転する。
マントがふわっと広がった。
「こっちもかわいい!」
腕当てを眺める。
ブーツを眺める。
短剣を抜いて、光にかざしてみる。
「すごい! 全部かわいい!」
雪乃はすっかり気に入ってしまった。
ちょっと走ってみよう!
装備を一通り眺めた雪乃は、部屋の中を歩き始めた。
「動きやすいかな?」
一歩。
二歩。
そして、軽く走ってみる。
「……あれ?」
いつもより身体が軽い。
足を動かすたびに、前へ進む感覚が滑らかになっている。
「おおっ!」
雪乃は少しだけ速度を上げた。
部屋の端まで走り、くるりと向きを変える。
止まる。
また走る。
「すごい! 走りやすい!」
次は、軽く跳んでみた。
ぴょん。
「おっ?」
いつもより高く跳べた気がする。
もう一度。
ぴょんっ!
今度は少しだけ強く地面を蹴ってみる。
身体がふわりと浮き、思っていたよりも高い位置まで届いた。
「わぁ! 高い!」
雪乃は着地すると、嬉しそうに笑った。
「これ、すっごく動きやすい!」
さらに、左右へ小さく跳ねてみる。
右へ。
左へ。
くるりと回る。
マントが揺れる。
「楽しい!」
しばらくその場で動き回っていた。
装備の効果を試しているというより、新しい服を着て遊んでいるようだった。
洞窟の外へ
「よし! 外でも試してみよう!」
雪乃は宝箱の中をもう一度確認した。
装備はすべて取り出していた。
宝箱は空になっている。
「何も残ってないね」
蓋をそっと閉じてから、雪乃は部屋を出た。
洞窟の通路を歩く。
以前より足取りが軽い。
小さな段差を見つけると、自然と跳び越えた。
「おっ、簡単!」
少し高い岩も、軽く跳び上がって乗ることができた。
「すごいすごい!」
そのまま岩から飛び降りる。
着地も安定している。
「これ、いいね!」
洞窟を抜け、森の中へ出る。
木々の間から日差しが差し込み、葉の隙間に小さな光が揺れていた。
「外も気持ちいい!」
雪乃は森の中を走り始めた。
枝を避ける。
根を飛び越える。
小さな岩に乗って、そこからまた跳ぶ。
「わぁー!」
身体が軽い。
今までよりも自由に動ける。
そのとき、少し先の茂みが揺れた。
「ん?」
雪乃は足を止めた。
そこから、小さなモンスターが顔を出す。
ふわふわした毛並み。
丸い耳。
《モコリス》だ。
「あっ! ふわふわ!」
以前、追いかけたことのあるモンスターだった。
モコリスは雪乃を見ると、すぐに逃げ出した。
「あっ、待って!」
雪乃は追いかける。
いつもなら追いつけない相手だった。
しかし、今日は違った。
足が軽い。
木の根を跳び越え、岩を蹴って、茂みの横を駆け抜ける。
「もうちょっと!」
モコリスが木の根元へ向かう。
その直前、雪乃は大きく跳んだ。
ふわり。
モコリスの前へ着地する。
「つかまえた!」
雪乃が手を伸ばす。
しかし、モコリスは小さな身体をひねって、手の隙間をすり抜けてしまった。
「あっ!」
モコリスはそのまま木の根元の穴へ逃げ込んでしまう。
「行っちゃった……」
雪乃は少し残念そうに穴を眺めた。
けれど、すぐに笑顔になる。
「でも、今日は追いつけた!」
新しい装備のおかげだろうか。
雪乃は自分のブーツを見下ろした。
「この服、すごいね!」
壊れても大丈夫?
少し森を歩いていると、雪乃は地面に落ちていた小枝を見つけた。
「んー……」
何となく拾い上げる。
そして、近くの岩を軽く叩いてみた。
コンッ。
小枝が折れた。
「わっ、折れちゃった」
雪乃は小枝を捨てた。
そのとき、腕当てに小さな傷がついていることに気づく。
さっきの戦闘でついたものかもしれない。
「ん? 傷がある」
雪乃が眺めていると、腕当ての表面に淡い青い光が浮かんだ。
傷の部分が、少しずつ元に戻っていく。
「……あれ?」
雪乃は目を近づけた。
青い光が消えるころには、傷も見えなくなっていた。
「おおっ!」
雪乃は腕を動かして確認する。
「本当に直った!」
《自己修復》の効果だ。
「すごい! 勝手に直るんだ!」
雪乃は嬉しそうに腕当てを眺めた。
「これなら、いっぱい遊んでも大丈夫かな?」
装備の性能を考えるよりも、傷が消えたことが嬉しいらしい。
雪乃は満足そうに頷いた。
今日の冒険は大成功!
その後も雪乃は森を歩き回った。
新しい装備で木の根を飛び越えたり、岩の上へ跳び乗ったり。
時々、見つけた草や花を拾いながら、気ままに進んでいく。
途中で小さな川を見つけると、川辺の石を眺めたり、水面に手を入れてみたりもした。
「今日はいっぱい遊べたなぁ」
新しい装備はとても気に入った。
何より、動きやすい。
これまで以上に、森の中を自由に走り回れそうだった。
『ログアウトしますか?』
「はーい!」
雪乃は満足そうに返事をした。
視界が白く染まっていく。
今日手に入れた装備の名前は、《白蒼の疾風》。
それがどれほど珍しい装備なのか、雪乃はまだ知らない。
ただ、かわいくて、軽くて、走りやすい。
それだけで十分だった。
現実世界・学校
「……えっ?」
昼休み。
雪乃の話を聞いた舞は、思わず目を丸くした。
「宝箱から装備一式が出てきたの?」
「うん!」
雪乃は嬉しそうに頷いた。
「白と青でね、すっごくかわいいんだよ!」
「それって、珍しい装備なんじゃない?」
「そうなのかな?」
雪乃は首を傾げた。
優真も話に加わる。
「どんな名前の装備なんだ?」
「えっとね、《白蒼の疾風》っていうんだって!」
「白蒼の疾風……?」
優真は少し考え込んだ。
「聞いたことない名前だな」
「私も知らない!」
雪乃は笑った。
「でも、すごく動きやすいんだよ! 走るのも跳ぶのも楽になったの!」
舞が尋ねる。
「装備の効果を確認した?」
「うん! 移動と回避とジャンプが強くなるんだって!」
「かなり便利そうだね」
「それにね、傷が勝手に直るんだよ!」
「えっ?」
舞が驚く。
「自分で修理しなくていいの?」
「うん! 光ったら、傷が消えちゃった!」
優真は少し呆れたように笑った。
「またすごいものを拾ったな」
「拾ったんじゃないよ。宝箱に入ってたの!」
「そういう意味じゃない」
舞はくすっと笑った。
「でも、よかったね。気に入ったみたいで」
「うん!」
雪乃は大きく頷いた。
「明日もあの服でいっぱい走るんだ!」
新しい装備を手に入れた雪乃。
けれど、彼女の冒険はまだまだ続く。
次はどんなものを見つけるのだろうか。
雪乃自身にも、まだ分からなかった。




