第14話 洞窟の奥にいた怖いモンスター
「今日は、あの岩の向こう!」
ELOにログインした雪乃は、森の奥にある洞窟へ向かっていた。
前回、洞窟の奥で見つけた広い空間。
そのさらに先には、大きな岩が道を塞いでいた。
岩の隙間からは冷たい風が吹き、奥には青い光が見えていた。
「何があるのかなぁ?」
雪乃は楽しそうに笑った。
今日はあの先を見てみたい。
そう思いながら、洞窟の中へ入っていった。
岩の向こうへ
洞窟の中を進み、前回見つけた広い空間へたどり着く。
青い結晶が天井から垂れ下がり、壁には燐光苔が淡く光っている。
「やっぱりきれい!」
雪乃は少しだけ立ち止まって景色を眺めた。
それから、奥の通路へ向かう。
大きな岩が道を塞いでいる場所だ。
「うーん……どうしようかな」
岩の周囲を調べてみる。
右側は壁。
左側も壁。
上の方には、少しだけ隙間がある。
「上から行けるかな?」
雪乃は岩の出っ張りに手をかけた。
よいしょ。
足を乗せる。
もう一つ上へ。
「よし!」
少しずつ登っていくと、岩の上部にたどり着いた。
そこには、身体を横にすれば通れそうな隙間があった。
「通れそう!」
雪乃は身体をかがめて、ゆっくりと隙間を抜けた。
向こう側へ降りると、冷たい風が頬を撫でた。
「わぁ……!」
そこには、今までよりも広い空間が広がっていた。
壁には青い鉱石が埋まり、床には大きな水晶がいくつも生えている。
天井は高く、奥の方は暗くてよく見えない。
「すごい場所!」
雪乃は目を輝かせた。
そして、すぐに奥へ歩き始めた。
大きな足跡
少し進んだところで、雪乃は地面に何かを見つけた。
「ん?」
しゃがみ込んでみる。
そこには、大きな足跡が残っていた。
「……大きいねぇ」
自分の足と比べてみる。
かなり大きい。
しかも、一つだけではない。
奥へ向かって、いくつも続いている。
「何の足跡だろう?」
雪乃は足跡を眺めた。
少しだけ不思議に思ったが、すぐに顔を上げる。
「大きなモンスターかな?」
なんだか面白そうだ。
雪乃は足跡を追いかけるように歩き始めた。
すると、奥の方から低い音が聞こえてきた。
ごご……。
「ん?」
立ち止まる。
ごごご……。
何かが動いているような音だった。
雪乃は少しだけ慎重になり、双短剣を手に取った。
「何かいるのかな?」
ゆっくりと進んでいく。
そして、岩の陰からそっと顔を出した。
怖い大きなモンスター
「……え?」
雪乃は目を丸くした。
そこには、大きなモンスターがいた。
岩のようにごつごつした身体。
太い四本の足。
背中には青く光る結晶がいくつも生えている。
頭部には二本の角があり、赤い目が暗闇の中で光っていた。
『クリスタルゴーレム』
「…………」
雪乃はしばらく動けなかった。
大きい。
とにかく大きい。
今まで見たモンスターとは比べものにならない。
「……こわっ!」
思わず声が漏れた。
クリスタルゴーレムはゆっくりと頭を動かし、雪乃の方を向いた。
赤い目がこちらを捉える。
「……あ」
次の瞬間。
ゴオオオオッ!
クリスタルゴーレムが大きな腕を振り上げた。
「わああっ!」
雪乃は慌てて横へ跳んだ。
ドゴォン!!
地面が大きく揺れる。
さっきまで雪乃が立っていた場所に、巨大な拳が叩きつけられていた。
「な、何今の!?」
雪乃は目を見開いた。
地面には大きなひびが入っている。
「当たったら絶対痛いやつ!」
クリスタルゴーレムが再び腕を振り上げる。
「ひゃっ!」
雪乃は後ろへ下がった。
拳が目の前を通り過ぎる。
風圧だけで身体が揺れた。
「ちょっと待って! 大きすぎるよ!」
逃げようかとも思った。
けれど、ここまで来たのに何もしないで帰るのも少し悔しい。
雪乃は短剣を握り直した。
「……よし!」
まずは、攻撃してみることにした。
速さで避けて!
雪乃はクリスタルゴーレムの周囲を走り始めた。
大きな身体は動きが遅い。
ならば、攻撃を避けながら隙を探せばいい。
「こっちだよ!」
雪乃は横へ回り込み、脚へ短剣を振るった。
キンッ!
硬い音が響く。
「えっ!?」
刃が弾かれた。
クリスタルゴーレムの身体は、岩のように硬かった。
「うそぉ!」
慌てて距離を取る。
その直後、巨大な腕が横から迫ってきた。
「わわっ!」
雪乃は地面を蹴って跳び上がる。
《回避》と《跳躍》を使い、攻撃をぎりぎりで避けた。
しかし、着地した場所にも小さな岩が飛んでくる。
「きゃっ!」
身体をひねって避ける。
岩が足元を転がった。
「危なかったぁ!」
クリスタルゴーレムは腕を振り回しながら、雪乃を追ってくる。
雪乃は走り続けた。
右へ。
左へ。
大きな岩を回り込む。
足元の水たまりを飛び越える。
「速さなら負けないよ!」
雪乃は何度も攻撃を避けた。
しかし、攻撃できる隙がほとんどない。
しかも、短剣で斬りつけても硬い身体にはあまり効いていないようだった。
「どうしよう……」
雪乃は少し焦り始めた。
光る結晶
クリスタルゴーレムが大きく腕を振り上げた。
「また来る!」
雪乃は横へ跳ぶ。
ドゴォン!
拳が地面に叩きつけられた。
その瞬間、背中に生えている青い結晶が強く光った。
「……あれ?」
雪乃は目を向けた。
結晶の光が強くなっている。
そして、クリスタルゴーレムの身体から青い光が広がった。
「わっ!」
地面から小さな結晶がいくつも飛び出してきた。
「ええっ!?」
雪乃は慌てて走り出す。
足元から結晶が伸びてくる。
一つ避ける。
次も避ける。
しかし、逃げた先にも結晶が飛び出した。
「わわわっ!」
雪乃は岩の上へ飛び乗った。
その直後、地面から伸びた結晶が岩にぶつかる。
ガキンッ!
「危なかったぁ……!」
雪乃は胸をなで下ろした。
しかし、安心する暇はなかった。
クリスタルゴーレムがこちらを向いている。
赤い目が光った。
「……え?」
大きな腕が振り下ろされる。
雪乃は慌てて岩から飛び降りた。
ドゴォン!!
岩が砕け散った。
破片が飛び散り、雪乃の身体にもいくつか当たる。
「いたっ!」
HPが減った。
「うわぁ、痛い!」
雪乃は慌てて回復薬を取り出し、飲み干した。
「ふぅ……」
体力は戻った。
けれど、このままでは危ない。
「何とかしないと……!」
雪乃はクリスタルゴーレムを見つめた。
その背中には、青く光る結晶が並んでいる。
「……あれ、何だろう?」
少し気になった。
何度も挑戦!
雪乃は再びクリスタルゴーレムへ近づいた。
今度は正面からではなく、横へ回り込む。
攻撃を避ける。
一度離れる。
また近づく。
何度か繰り返しているうちに、雪乃は気づいた。
クリスタルゴーレムが大きく腕を振り下ろした直後、背中の結晶が少しだけ光を失う。
「……あれ?」
もう一度。
攻撃を誘う。
ゴーレムの腕が振り下ろされる。
ドゴォン!
その直後、背中の結晶が一瞬だけ暗くなった。
「やっぱり!」
雪乃は目を輝かせた。
「今なら行けるかも!」
雪乃は岩を蹴り、ゴーレムの背中へ向かって跳び上がった。
《跳躍》を使って高く飛ぶ。
そして、背中の結晶に短剣を振り下ろした。
ガキンッ!
「硬っ!」
やはり簡単には壊れない。
しかし、結晶の表面に小さな傷がついた。
「おっ!」
クリスタルゴーレムが身体を揺らす。
雪乃はすぐに飛び降りた。
ドゴォン!
地面に着地する。
「わわっ!」
《着地》を意識して体勢を整えた。
今の攻撃で、少しだけダメージを与えられたらしい。
「よし! もう一回!」
雪乃は再びゴーレムの周囲を走り始めた。
何度も攻撃を誘う。
避ける。
隙を見つける。
跳ぶ。
結晶を斬る。
その繰り返しだった。
最後の一撃!
何度目かの攻撃のあと、背中の結晶の一つに大きなひびが入った。
「あと少し!」
雪乃は息を切らしていた。
HPも少し減っている。
回復薬も残り少ない。
「もうちょっと……!」
クリスタルゴーレムが大きく腕を振り上げた。
雪乃は後ろへ跳ぶ。
しかし、今度は地面から結晶が飛び出してきた。
「えっ!?」
逃げ道が塞がれる。
雪乃は慌てて横へ飛んだ。
だが、完全には避けきれなかった。
腕の一部が肩に当たり、身体が吹き飛ばされる。
「きゃあっ!」
地面を転がった。
HPが大きく減る。
「いたた……!」
雪乃は慌てて回復薬を飲んだ。
クリスタルゴーレムはゆっくりと近づいてくる。
「うぅ……まだ来るの?」
雪乃は立ち上がった。
もう一度、背中の結晶を見る。
傷ついた結晶は、先ほどよりも強く光っていた。
「……あれ?」
次の攻撃が来る。
雪乃はぎりぎりまで引きつけた。
そして、攻撃が振り下ろされる瞬間に横へ跳ぶ。
ドゴォン!
地面が揺れる。
その隙に、雪乃はゴーレムの背中へ回り込んだ。
「今だぁ!」
大きく跳び上がる。
《跳躍》を使い、結晶の近くまで飛ぶ。
両手の短剣を握り直し、傷ついた結晶へ交差するように斬りつけた。
ガキィィン!!
青い結晶に大きなひびが走る。
そして――
パキンッ!
結晶が砕けた。
クリスタルゴーレムの身体が大きく揺れた。
青い光が全身に広がり、動きが止まる。
「……え?」
雪乃が見つめていると、ゴーレムはゆっくりと膝をついた。
そして、身体が青い光の粒となって崩れていった。
『経験値を獲得しました』
『《結晶核》を入手しました』
『《ゴーレムの欠片》を入手しました』
『スキル《強敵回避》を獲得しました』
「…………」
雪乃はその場に立ち尽くしていた。
「……た、倒せた?」
少し遅れて、実感が湧いてくる。
「やったぁぁ!」
雪乃は両手を上げた。
「勝った! 勝ったよ!」
嬉しそうにその場で跳ねた。
けれど、すぐに足が疲れてしまい、岩に腰を下ろした。
「はぁ……疲れたぁ……」
今までで一番大変な戦いだった。
回復薬もかなり使ってしまった。
「大きかったなぁ……」
雪乃はゴーレムがいた場所を見た。
もう何も残っていない。
ただ、奥に続く道だけが残されていた。
「……あれ?」
雪乃は顔を上げた。
道の先に、青い光が見える。
「まだ先があるんだ!」
疲れたはずなのに、また気になってしまった。
「ちょっとだけ見てみようかな?」
雪乃は立ち上がった。
奥にあったもの
ゴーレムがいた場所の奥には、小さな通路が続いていた。
壁には青い結晶が埋まり、床には細かな光の粒が散らばっている。
雪乃はゆっくり歩いていった。
すると、通路の先に少し広い空間が見えてきた。
「わぁ……!」
そこには、青白い光に包まれた小さな部屋があった。
中央には、石でできた台座のようなものが置かれている。
その上には、何もない。
「何だろう?」
雪乃は近づいた。
台座の周りには、細かな模様が刻まれている。
雪乃はしゃがみ込んで、模様を眺めた。
「きれいな模様!」
指でなぞってみる。
しかし、特に何も起きない。
「うーん?」
周囲を見回す。
部屋の端には、青い結晶がいくつも並んでいる。
その奥に、小さな箱のようなものが見えた。
「……ん?」
雪乃は近づいた。
木と金属でできた小さな箱。
蓋には青い石が埋め込まれている。
「宝箱かな?」
雪乃は目を輝かせた。
「わぁ! 何が入ってるんだろう!」
蓋に手をかけてみる。
しかし、開かない。
「……あれ?」
何度押しても動かない。
「鍵がいるのかな?」
雪乃は箱の周りを調べた。
すると、蓋の中央に小さな窪みがあることに気づいた。
「ここに何か入れるのかな?」
少し考えたが、今は何も持っていない。
「うーん……」
雪乃は箱を見つめた。
「また今度にしよう!」
ログアウトの時間も近い。
今日はこれ以上無理をしないことにした。
雪乃は宝箱の場所を覚えておく。
そして、来た道を戻っていった。
今日の冒険は大成功!
洞窟の入口まで戻った雪乃は、アイテム欄を確認した。
《結晶核》
《ゴーレムの欠片》
それから、新しく覚えたスキル《強敵回避》。
「今日は大変だったけど、楽しかった!」
雪乃は満足そうに笑った。
「次はあの箱を開けたいなぁ!」
宝箱の中に何が入っているのか。
考えるだけでわくわくする。
『ログアウトしますか?』
「はーい!」
視界が白く染まった。
今日、雪乃は初めての強敵を倒した。
しかし、本人はそれを特別な戦いだとは思っていない。
ただ、大きくて怖いモンスターと戦って、何とか勝てただけだった。
そして、洞窟の奥に残された小さな宝箱。
その中には、雪乃がまだ知らないものが眠っていた。
現実世界・学校
「大きなゴーレムを倒したの?」
昼休み、舞は驚いた顔をしていた。
「うん! すっごく大きかった!」
雪乃は両手を大きく広げる。
「岩みたいな身体で、背中に青い結晶が生えてたの!」
「強そうだね……」
「うん! 攻撃もすごく痛かったよ!」
優真が尋ねる。
「どうやって倒したんだ?」
「いっぱい避けて、背中の結晶を斬ったの!」
「結晶が弱点だったのか」
「たぶん!」
雪乃は笑った。
「それでね! 奥に宝箱があったんだよ!」
「宝箱?」
「うん! でも、開かなかったの」
舞が首を傾げる。
「鍵が必要なのかな?」
「そうかも! 次は開けたいなぁ!」
優真は少し考えてから言った。
「それだけ強いモンスターがいた場所なら、何か珍しいものがあるかもしれないな」
「そうなの?」
「可能性はあるだろ」
雪乃は目を輝かせた。
「じゃあ、次は絶対に開けよう!」
舞は笑った。
「また無理しすぎないようにね」
「はーい!」
雪乃は元気よく返事をした。
次の冒険が、今から楽しみだった。




