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第129話 久しぶりの通常探索と素材整理

 イベントのない世界


「ログイン!」


 白雪の声とともに、視界がゆっくりと切り替わる。


 目の前に広がったのは、見慣れた休憩所だった。


 白を基調とした軽装衣に、淡い青色の装飾。腰には双短剣を装備している。


 白雪はその場で軽く跳ねた。


「よしっ!」


 足元の感覚も問題ない。


 イベントが終わってから初めてのログインだ。


 休憩所の中には、イベント中と同じように何人かのプレイヤーがいた。ただ、探索祭の終了によって、イベント参加者らしき慌ただしい動きはなくなっている。


「今日は何をしようかなぁ」


 白雪は周囲を見回した。


 イベント中は、探索ポイントや終了時間を気にする必要があった。


 けれど、今は違う。


 時間を気にせず、好きな場所へ行けばいい。


「まずは素材整理だね!」


 昨日、舞と優真にも言われたことを思い出す。


 白雪はインベントリを開いた。


 そこには、三日間で集めた素材が大量に並んでいる。


 草花、木の実、石、鉱石、羽根、貝殻。


 同じ種類のものがまとまっている一方で、一つだけの素材もいくつかある。


「……いっぱいだ!」


 改めて眺めると、かなりの量だった。


「これ、全部使えるのかな?」


 白雪は一つずつ確認しようとした。


 しかし、三つほど見たところで、画面の端に表示された小さな案内が目に入る。


 《生産施設の利用案内》


「……あっ」


 そういえば、昨日舞が生産について話していた。


 料理や鍛冶、裁縫、錬金など、プレイヤーが自分で作ることもできるし、専門の生産プレイヤーに依頼することもできるらしい。


「ちょっと見に行ってみようかな!」


 素材整理は、あとでもできる。


 白雪はインベントリを閉じ、休憩所を出た。


 生産区画へ


 街の通りは、イベント前と変わらない賑わいを見せていた。


 探索祭の期間中は、イベントの話題で盛り上がっていたプレイヤーも多かったが、今はそれぞれの目的に合わせて動いている。


 白雪は街の案内板を眺めながら歩いていた。


「生産施設って、どこかな?」


 案内板には、鍛冶設備や料理設備、裁縫設備などの場所が記されている。


 白雪はその中から、複数の生産設備が集まっている区画を見つけた。


「ここだ!」


 通りを曲がると、少し雰囲気の違う場所に出た。


 金属を叩く音。


 鍋から漂う香ばしい匂い。


 布を裁つ音や、瓶に液体を注ぐ音。


 さまざまな作業音が重なっている。


「わあ……!」


 白雪は思わず足を止めた。


 鍛冶設備の前では、プレイヤーが金属を熱している。


 少し離れた場所では、料理を作っているプレイヤーが何人かいた。


 さらに奥には、布や糸を扱う裁縫設備も見える。


「いろいろあるんだね!」


 白雪は料理設備の方へ近づいた。


 そこでは、一人のプレイヤーが鍋をかき混ぜていた。


 鍋の中から、いい匂いが漂ってくる。


「おいしそう……」


 思わず呟くと、作業していたプレイヤーがこちらを見た。


「料理に興味があるのか?」


「うん! どんなものが作れるのかなって!」


「素材があれば、簡単な料理から作れるぞ。慣れれば少し手の込んだものも作れる」


「へえー!」


 白雪は料理設備を眺めた。


「この鍋、使ってもいいの?」


「空いていればな。自分で材料を持ってくれば使える」


「そうなんだ!」


 白雪はインベントリを開き、持っている食材を探し始めた。


 木の実や草の実はある。


 けれど、料理に使えるものなのかは分からない。


「うーん……」


 白雪は一覧を眺める。


 その中に、以前拾った《風綿の木の実》があった。


「これ、料理に使えるかな?」


「種類によるな。まずは材料の説明を確認してみたらどうだ?」


「分かった!」


 白雪は説明を開いた。


 食材として利用できる可能性がある、と書かれている。


「おお!」


 しかし、料理のレシピまでは表示されない。


 白雪は少し考えた。


「今度、何か作ってみようかな!」


「それがいい。最初は簡単なものから試すといいぞ」


「ありがとう!」


 白雪は料理設備から離れた。


 今すぐ作るつもりだったが、ほかの場所も気になってきたのだ。


 気になるものがいっぱい


 次に白雪が足を止めたのは、裁縫設備の前だった。


 布地が何種類も並べられ、糸や針、装飾用の素材が置かれている。


 その奥では、プレイヤーが白い布に青い糸で模様を縫い込んでいた。


「きれい……」


 白雪は少し離れた場所から眺めた。


「見ていくか?」


 作業していたプレイヤーが声をかけてくる。


「うん! 何を作っているの?」


「装備の装飾部分だよ。布の色や素材を変えると、仕上がりも変わるんだ」


「へえー!」


 白雪は自分の装備を見下ろした。


 白と淡い青を基調とした軽装衣。


 今の装備は気に入っている。


 けれど、こうして自分で装飾を作れるなら、何か小物を作ってみるのも面白そうだ。


「羽根とかも使える?」


「使える素材もあるよ。どんなものを作りたいかによるけどね」


「羽根……」


 白雪の頭に、風羽チドリの羽根が浮かぶ。


 《風羽チドリの羽根》。


 《風羽の青羽根》。


 《草風スズメの羽根》。


 インベントリには、いくつかの羽根が入っている。


「今度、持ってきてみようかな!」


「素材を見せてくれれば、何に使えるか相談できると思うよ」


「ありがとう!」


 白雪はぺこりと頭を下げた。


 そのまま歩き出そうとしたとき、足元に小さな金属片が落ちているのが見えた。


「あれ?」


 しゃがんで拾い上げる。


 《小さな金属片》


「落とし物かな?」


 周囲を見回したが、誰も探している様子はない。


 白雪は近くにいたプレイヤーへ声をかけた。


「これ、誰かのかな?」


「ん? ああ、それは設備の端材だよ。加工中に出たものだから、自由に使っていい」


「そうなんだ!」


 白雪は金属片をインベントリにしまった。


 使い道は分からない。


 でも、何かに使えるかもしれない。


「拾っておこう!」


 いつものように、白雪のインベントリに素材が一つ増えた。


 三人で素材整理


「白雪!」


 街の通りから声がした。


 振り向くと、黒羽とユウマがこちらへ歩いてくる。


「黒羽! ユウマ!」


「やっぱりここにいたのね」


「生産区画を見ていたのか?」


 ユウマが尋ねる。


「うん! 料理とか裁縫とか、いろいろあったよ!」


「そういえば、素材を整理する約束だったな」


「そうだった!」


 白雪は思い出したように頷く。


 黒羽は苦笑した。


「忘れていたわね」


「忘れてないよ! ちょっと見てただけ!」


「それならいいけれど」


 三人は生産区画の端にある休憩スペースへ移動した。


 空いているテーブルに座ると、それぞれインベントリを開く。


「まずは、どんな素材を持っているか確認しましょう」


 黒羽が提案した。


「白雪から見せてもらってもいい?」


「うん!」


 白雪は素材一覧を共有した。


 画面いっぱいに、素材の名前が並ぶ。


 黒羽は一覧を眺めて、少し黙った。


「……多いわね」


「そう?」


「かなり多いぞ」


 ユウマも驚いている。


「草花だけでも相当な種類があるな」


「だって、気になったから!」


「拾った理由は分かるけれど、これを全部覚えているの?」


「えっと……」


 白雪は少し考えた。


「見たら思い出すよ!」


「それなら、ひとまず種類ごとに分けましょう」


 黒羽は一覧を見ながら、素材を分類していく。


 草花や木の実。


 石や鉱石。


 羽根や生き物から得た素材。


 水辺で拾ったもの。


 それぞれの種類をまとめると、かなり見やすくなった。


「この《風鳴りの実》は食べたことがあるの?」


「うん! 前に食べたよ!」


「状態異常は?」


「えっと……何かあったかな?」


「覚えていないのね」


「でも、ちゃんと薬は持ってるよ!」


 白雪は回復薬と状態異常薬を見せた。


 ユウマが頷く。


「備えはあるんだな」


「うん!」


 黒羽は別の素材に目を向けた。


「この《風水晶粒》や《根脈の欠片》は、仕掛けで使ったり、加工素材になったりする可能性がありそうね」


「へえー!」


「ただし、具体的な用途は生産設備で確認するか、専門のプレイヤーに相談した方がいいわ」


「分かった!」


 三人は素材を一つずつ確認していった。


 白雪のインベントリには、用途が分からないものも多かったが、すぐに処分する必要はない。


 素材によっては、後から使い道が分かることもある。


「これは残しておこう」


「これも?」


「ええ。珍しい素材かもしれないから」


「じゃあ、これも!」


 白雪は別の素材を追加した。


「……白雪」


「なに?」


「全部残すつもりじゃないでしょうね?」


「えへへ」


「笑ってごまかさないの」


 ユウマは二人のやり取りを見て笑った。


「まあ、インベントリに余裕があるなら、しばらく保管しておけばいいんじゃないか」


「そうね。必要になったら整理すればいいわ」


 黒羽はそう言って、分類を続けた。


 新しい目的


 素材の確認が一段落した頃、ユウマが自分のインベントリを開いた。


「俺も、今回の探索祭で集めた素材を少し整理しておきたいな」


「ユウマもいっぱい持ってる?」


「鉱石や魔物の素材が多いな。武器の手入れや、今後の装備作りに使えそうなものもある」


「黒羽は?」


「私は根に関係する素材が多いわね。今回の地下探索で手に入れたものが中心よ」


「みんな違うものを集めてるんだね!」


「探索した場所が違うからな」


 ユウマが答えた。


 白雪は三人のインベントリを見比べた。


 草花や木の実。


 鉱石や魔物の素材。


 根や結晶に関係するもの。


 同じイベントに参加していても、集めたものはずいぶん違う。


「今度は、みんなで同じ場所に行ってみたいな!」


「それもいいわね」


 黒羽が頷く。


「それぞれ違うものに気づくかもしれないし」


「俺も賛成だ。白雪が何を見つけるかは少し心配だけどな」


「えー?」


「突然、草むらに飛び込んだりしないか?」


「しないよ!」


 白雪は胸を張った。


「……たぶん」


「今の間は何だ?」


 ユウマが笑う。


 黒羽も小さく笑った。


「でも、今日は生産区画を見られたし、素材の整理もできたわね」


「うん! 次は料理もしてみたい!」


「まずはレシピを確認してからね」


「はーい!」


 白雪は元気よく返事をした。


 まだ知らないこと


 三人は休憩スペースを出て、街の通りへ戻った。


 生産区画には、まだ多くのプレイヤーが残っている。


 鍛冶設備からは金属を叩く音が響き、料理設備からは香ばしい匂いが漂っていた。


 白雪は歩きながら、もう一度そちらを振り返る。


「今度は何か作ってみようっと」


「素材を持ってきてね」


「うん!」


「作る前に、材料の使い方を確認するのよ」


「分かってるよ!」


 黒羽が念を押すと、白雪は笑顔で頷いた。


 ユウマは街の出口を見た。


「今日はこのあと、少し狩りに行こうと思う」


「私も通常の探索をしてみようかしら」


「私は……」


 白雪は街の外へ続く道を見つめた。


 イベント中に何度も訪れた草原とは反対側。


 まだ足を踏み入れていない道がある。


 その先には、少し高い丘と、遠くに続く林が見えた。


「こっちに行ってみたい!」


「そっちはまだ探索していないのか?」


 ユウマが尋ねる。


「うん! あっち、何があるんだろう?」


 黒羽は地図を確認した。


「街の北側ね。草原とは少し違う地形が続いているみたい」


「じゃあ、今日はそっちに行ってみようかな!」


 白雪はすぐに歩き出しかけた。


「待って。行くなら準備を確認してからよ」


 黒羽に呼び止められる。


「あっ、そうだった!」


 白雪は足を止めた。


 回復薬、状態異常薬、装備の状態。


 必要なものを確認する。


 準備はできている。


「よし!」


 白雪は再び北の道を見た。


 イベントは終わった。


 けれど、探索する場所はまだいくらでもある。


 そして、今日もまた新しい発見が待っているかもしれない。


「行ってみよう!」


 白雪は軽やかな足取りで、街の北側へ向かって歩き始めた。

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