第128話 探索祭の翌日と次の冒険
いつもの朝
「……んん」
白瀬雪乃は、ベッドの上でゆっくりと目を開けた。
窓から差し込む朝の光が、部屋の中を明るく照らしている。
枕元に置いていたスマートフォンを手に取り、時刻を確認した。
「……まだ大丈夫」
今日は平日。
学校へ行かなければならない。
雪乃は布団から抜け出すと、制服に着替え始めた。
昨夜はELOの探索祭が終わったあと、少しだけ部屋の片付けをしてから眠った。
三日間のイベントは楽しかった。
草原や森、水辺に岩場。普段なら通り過ぎてしまいそうな場所にも足を運び、たくさんの生き物や素材を見つけた。
そして、最後のランキングでは一位。
「……一位だったんだよね」
改めて思い出すと、少し不思議な気分になる。
けれど、雪乃にとって一番印象に残っているのは順位ではなかった。
「風羽チドリ、かわいかったなぁ」
思わず口に出してしまう。
昨日出会った小さな鳥の姿を思い出す。
ふわふわした羽根に、ちょこちょこと動く仕草。
また会えるだろうか。
「今度は別の場所にも行ってみたいな」
雪乃は制服の襟を整え、鞄を持った。
そのまま部屋を出る。
今日もいつも通りの学校生活が始まる。
学校での報告会
教室に入ると、窓際の席に座っていた黒崎舞がこちらに気づいた。
「おはよう、雪乃」
「おはよう、舞!」
雪乃は自分の席に鞄を置き、舞の方へ向き直る。
「昨日、イベント終わったね!」
「ええ。お疲れさま」
「舞もお疲れさま!」
二人が話していると、少し遅れて朝倉優真が教室に入ってきた。
「おはよう」
「おはよう、優真!」
「おはよう。昨日は遅くまでやってたのか?」
舞が尋ねる。
「いや、イベントが終わってからすぐログアウトしたよ。石柱の仕掛けを解くのに時間を使ったから、さすがに疲れた」
「でも、最後まで解けてよかったね!」
雪乃が言う。
「ああ。あれは途中でやめるのが惜しかったからな」
優真は自分の席に鞄を置き、二人の近くへやってきた。
「それで、二人は報酬を何に交換した?」
「私は採取用の道具と染料よ」
舞が答える。
「俺は回復薬と補助アイテム。普段の戦闘でも使えるからな」
「私は風車!」
雪乃は嬉しそうに答えた。
「風車?」
優真が首を傾げる。
「うん! 《探索祭の記念風車》っていう置物。くるくる回るんだよ!」
「……それを選んだのか」
「かわいかったから!」
雪乃は迷いなく答えた。
舞は小さく笑う。
「雪乃らしいわね」
「そうかな?」
「そうよ」
優真も苦笑した。
「まあ、イベント報酬なんだから好きなものを選ぶのが一番だな」
「うん!」
雪乃は満足そうに頷いた。
一位の実感
「そういえば、最終ランキングは確認した?」
舞が尋ねた。
「うん! 一位だった!」
「私は二位だったわね」
「俺は四位。最後の仕掛けで少しポイントを取れたけど、順位は変わらなかったな」
優真はそう言って肩をすくめた。
「レイが三位だったわね。セツナは五位」
「二人とも、最後まで上位に残っていたんだよね」
「そうね。結局、最後まで直接会うことはなかったけれど」
舞が言う。
雪乃は少し考え込んだ。
「レイさんとセツナさんって、どんな人なんだろう?」
「イベント中のランキングだけでは分からないな」
優真が答える。
「今度会ったら話してみたいね!」
「会う機会があればね」
舞はそう答えながら、机の上に置いていたノートを開いた。
「それにしても、雪乃が一位になるとは思わなかったわ」
「えっ、そうなの?」
「もちろん、探索を楽しんでいたのは知っているけれど。あれだけ自由に動き回って、結果的に一位だったんだもの」
「私、普通に遊んでただけだよ?」
「そこが不思議なのよ」
舞は少しだけ呆れたように笑った。
優真も頷く。
「俺も、白雪の行動を全部追っていたら、たぶん探索どころじゃなくなると思う」
「えー?」
雪乃は頬を膨らませた。
「そんなに変なことしてないよ!」
「いや、していると思うぞ」
「そうかしらね」
舞まで頷いた。
雪乃は二人を交互に見たあと、少し考えた。
「……まあ、楽しかったからいいや!」
「それでいいと思うわ」
舞は笑った。
次のログイン予定
休み時間の終わりが近づいてきた頃、優真が話題を変えた。
「イベントも終わったし、次はどうする?」
「普通に探索かな!」
雪乃がすぐに答える。
「私は、少し生産のことも調べてみたいわね。今回集めた素材を使えるかもしれないし」
舞はイベント中に集めた素材を思い出しているようだった。
「生産か。俺も装備の手入れをしたいな」
「そういえば、ELOってプレイヤーが自分で生産できるんだよね?」
雪乃が尋ねる。
「ええ。料理や鍛冶、裁縫、錬金なんかがあるわ。自分で作ることもできるし、専門の生産プレイヤーに依頼することもできるみたい」
「へえー!」
雪乃の目が少し輝いた。
「じゃあ、私が拾ったものも何かに使えるかな?」
「素材によると思うけれど、使えるものはあるでしょうね」
「楽しみ!」
「ただ、まずはインベントリを整理した方がいいんじゃないか?」
優真の言葉に、舞も頷く。
「そうね。雪乃は何を持っているのか、自分でも把握できていないでしょう?」
「えっと……」
雪乃は少しだけ視線をそらした。
「……たぶん!」
「やっぱり」
舞は苦笑した。
「今度、三人で素材を確認してみる?」
「いいね!」
「俺も参加するよ。使えそうな素材があれば分けてくれ」
「うん!」
次にELOへログインする予定が、少しずつ決まっていく。
イベントが終わっても、三人で遊ぶことは変わらない。
ただ、次は何を見つけることになるのか。
それはまだ誰にも分からなかった。
放課後の寄り道
放課後。
授業が終わると、雪乃は鞄を持って舞と優真のところへ向かった。
「二人とも、今日は帰る?」
「私は帰るわよ」
「俺も特に予定はないな」
「じゃあ、一緒に帰ろう!」
三人は教室を出て、昇降口へ向かった。
廊下では、ほかの生徒たちが部活動へ向かったり、友達同士で話したりしている。
校門を出ると、少し涼しい風が吹いた。
「そういえば、雪乃」
舞が隣を歩きながら声をかける。
「なに?」
「イベントで集めた素材、全部残しているの?」
「うん! たぶん全部!」
「たぶん、なのね……」
「インベントリに入れたから大丈夫だよ!」
「そういう意味ではないんだけど」
舞は小さく息を吐いた。
優真が横から口を挟む。
「素材を整理するなら、今度ログインしたときに一緒に見よう。使い道が分からないものもあるだろうし」
「うん!」
雪乃は頷いた。
「でも、全部使えるとは限らないわよ」
「分かってるよ!」
「本当に?」
「……たぶん!」
舞と優真は顔を見合わせた。
「まあ、少しずつ確認していこう」
優真がそう言うと、雪乃は嬉しそうに笑った。
三人は駅へ向かう道を歩いていく。
イベント中は、それぞれ別の場所を探索していた。
白雪は草原、黒羽は森、ユウマは岩場。
それぞれが見つけたものを、こうして話し合う時間も楽しい。
「次は三人で同じ場所を探索してみるのもいいかもしれないわね」
舞が言った。
「いいね! みんなで行こう!」
「ただ、白雪が突然どこかへ行かないようにしてくれよ」
優真が冗談交じりに言う。
「えー? ちゃんと戻ってくるよ!」
「それならいいけどな」
「迷子になったら探しに行くわ」
舞が微笑む。
「迷子にならないもん!」
雪乃は少しだけ頬を膨らませた。
そんな会話をしながら、三人は駅前で別れた。
次の冒険へ
家に帰った雪乃は、鞄を置いてから部屋へ向かった。
ベッドの端に腰掛け、スマートフォンを手に取る。
ELOの公式サイトを開いてみたが、イベント終了後の新しい告知はまだ出ていない。
「次は何をしようかなぁ」
探索祭で訪れた場所を思い出す。
草原の小さな窪地。
水音の隠れ場。
風穴の奥にあった水場。
そして、まだ行ったことのない場所もたくさんある。
「そうだ!」
雪乃は思いついたように顔を上げた。
「今度は、違う方向に行ってみよう!」
イベント中は、見つけたものを追いかけているうちに、同じような場所を何度も訪れていた。
次は、まだ見たことのない地形を探してみたい。
森の奥でもいい。
山の向こうでもいい。
水辺から離れて、広い平原を歩くのも楽しそうだ。
「あと、素材も整理しないとね!」
雪乃は机の上に置いていたVR機器を見た。
イベントは終わった。
けれど、ELOの世界にはまだまだ知らないことがある。
白雪の冒険は、まだ始まったばかりだ。
「明日も楽しみ!」
雪乃は笑顔でそう呟いた。




