第127話 探索祭の終わりと三日間の思い出
イベント終了
休憩所の壁に表示された残り時間が、ゆっくりと減っていく。
白雪、黒羽、ユウマの三人は、同じテーブルを囲んでいた。
「あと一分くらいかな?」
白雪が表示を見上げる。
「そうね。そろそろ終わるわ」
黒羽は落ち着いた様子で答えた。
ユウマもイベント情報を開き、残り時間を確認している。
「三日間か。思ったより長かったな」
「私はあっという間だったよ!」
白雪は元気よく答えた。
「毎日いろんなところに行ったもんね!」
「白雪は特に、あちこち動き回っていたわね」
「うん! 知らない場所がいっぱいあった!」
「ポイントを稼ぐために動いていたというより、普通に探索を楽しんでいた感じだったな」
ユウマの言葉に、黒羽が頷く。
「実際、白雪は順位をほとんど確認していなかったものね」
「え? だって、見つけたものの方が気になるし!」
白雪は不思議そうに首を傾げた。
黒羽は小さく笑う。
「そういうところよ」
そのとき、休憩所にシステムメッセージが流れた。
《イベント終了まで、残り十秒》
「おっ」
ユウマが画面を見る。
《九》
《八》
《七》
休憩所にいたプレイヤーたちも、次々とイベント情報を開き始めた。
《六》
《五》
《四》
白雪は何となく、黒羽とユウマの顔を見た。
《三》
《二》
《一》
そして――。
《イベント《未知なる大地の探索祭》が終了しました》
休憩所に、終了を知らせる音が響いた。
「終わったー!」
白雪が両手を上げる。
「お疲れさま」
黒羽が微笑む。
「ああ。二人ともお疲れ」
ユウマも頷いた。
三日間にわたる探索祭は、こうして幕を閉じた。
最終ランキング
イベント終了のメッセージに続いて、別の通知が表示される。
《イベント最終ランキングを発表します》
白雪が画面を覗き込んだ。
「ランキングだって!」
「最終結果ね」
黒羽もイベント情報を開く。
ユウマは表示された順位を確認した。
そこには、三日間の探索で獲得したポイントを集計した結果が並んでいた。
《未知なる大地の探索祭・最終ランキング》
一位 白雪
二位 黒羽
三位 レイ
四位 ユウマ
五位 セツナ
「……あ」
白雪は自分の名前を見つけた。
「一位だって!」
「そうね。おめでとう」
黒羽は二位の欄を見てから、白雪へ視線を戻した。
「白雪が一位、私が二位ね」
「黒羽もすごい!」
「ありがとう。白雪もね」
ユウマは三位から五位までの順位を確認していた。
「レイが三位か。最後まで順位を維持したんだな」
「ユウマは四位だね!」
「ああ。最後の石柱で少しポイントを取れたけど、順位を変えるほどではなかったみたいだ」
「でも、石柱の仕掛けを解けたじゃない!」
「それはそうだな。あれは面白かったよ」
黒羽も頷いた。
「私も、森の地下で見つけた仕掛けは楽しかったわ。普段なら通り過ぎてしまいそうな場所だったもの」
「探索祭らしい結果になったな」
ユウマがそう言うと、白雪はもう一度ランキングを眺めた。
「レイさんって、どんな人なんだろう?」
「イベント中に何度か名前を見かけたけれど、私は直接会っていないわね」
黒羽が答える。
「セツナもそうだな。上位に入るくらいだから、かなり探索していたんだろう」
「いつか会えるかな?」
「同じゲームを続けていれば、どこかで会うかもしれないわね」
「楽しみ!」
白雪は嬉しそうに笑った。
順位がどうこうというより、まだ知らないプレイヤーがいることの方が気になっているようだった。
イベント報酬
ランキング発表のあと、個人報酬の通知が続いた。
《イベント報酬を配布します》
《イベントメダルを獲得しました》
《イベントショップ交換用ポイントを獲得しました》
白雪のインベントリに、イベントメダルが追加される。
「メダルだ!」
「イベントショップで使えるものね」
黒羽が説明する。
「交換できるアイテムは、イベント専用の素材や装飾品、消耗品などだったはずよ」
「そうなんだ!」
白雪はイベントショップを開いた。
一覧には、イベント限定の染料や家具、小物、採取用の道具、消耗品などが並んでいる。
「わあ、いろいろある!」
白雪は一つずつ眺めていく。
その中で、青と白を基調にした小さな置物が目に留まった。
「これ、かわいい!」
《探索祭の記念風車》
小さな風車を模した置物だった。
白雪は詳細を開いて、くるくる回る見本を眺める。
「これにしようかな!」
「家具を選ぶの?」
黒羽が尋ねた。
「うん。かわいいから!」
「実用性より見た目なのね」
「かわいいのは大事だよ!」
白雪は必要なメダル数を確認し、交換を決めた。
《探索祭の記念風車を交換しました》
小さな風車がインベントリに追加される。
「やった!」
白雪は満足そうに頷いた。
黒羽は交換品の一覧を眺め、採取用の道具と染料を選んでいた。
「私はこの道具にしておこうかしら。今後の探索にも使えそうだし」
「黒羽らしいね」
「使えるものを選んでいるだけよ」
ユウマは消耗品をいくつか交換した。
「俺は回復薬と補助アイテムにしておく。普段の狩りでも使えるからな」
「みんな違うものを選んだね!」
「欲しいものは人それぞれだからな」
三人はそれぞれ交換を終えた。
上位入賞の記念称号
さらに、ランキング上位三名への特別報酬が配布された。
《イベントランキング上位入賞報酬を配布します》
《記念称号を獲得しました》
白雪の画面に、称号が表示される。
《探索祭・第一回探索上位者》
「称号だ!」
白雪はすぐに詳細を開いた。
説明には、第一回探索祭で上位三名に入賞したことを示す記念称号であると書かれている。
能力値の上昇や特別な効果はない。
あくまでイベントの記録として残る称号だった。
「これ、何か強くなるの?」
「記念称号だから、能力上昇はないみたいね」
黒羽が説明文を確認する。
「そうなんだ」
白雪は少しだけ残念そうにしたが、すぐに称号の表示を切り替えた。
「でも、記念になるね!」
「そうね。今回のイベントでしか手に入らないものだし」
黒羽も同じ称号を受け取っていた。
ユウマも称号の説明を確認する。
「能力が上がらないなら、戦闘には影響しないな」
「でも、三人とも同じイベントの記念が残ったね!」
「そうだな」
ユウマは称号を確認してから、イベント情報を閉じた。
白雪は称号を表示した自分のキャラクターを眺める。
「うーん……どうしよう。今の称号も気に入ってるんだよね」
「無理に変える必要はないわよ」
「そうだね! あとで考えよう!」
白雪は称号の設定画面を閉じた。
三日間の振り返り
イベント報酬の受け取りが終わると、休憩所の中も少しずつ落ち着いてきた。
イベントの終了によって、探索を終えたプレイヤーたちは次々とログアウトしていく。
白雪たちも、そろそろログアウトする時間だった。
「三日間、いろいろあったね」
白雪がテーブルに両手を置く。
「そうね。私は森の地下で見つけた仕掛けが印象に残っているわ」
黒羽が答えた。
「根を使った仕掛けだったな。俺は最後の石柱が一番印象に残っている」
「ユウマの石柱、最後まで解けてよかったね!」
「ああ。途中で諦めなくてよかった」
「私はね、動物たちに会えたのが楽しかった!」
白雪は指を折りながら話し始めた。
「風綿モモンに、風羽チドリに、草巻きラビットに、草風スズメ。それから水泡クラゲも!」
「本当に生き物の話が多いわね」
「だって、みんなかわいかったんだもん!」
「白雪らしいな」
ユウマは笑った。
「それに、知らない場所もいっぱい見つけたよ。水の中の場所とか、風が通る穴とか、音が鳴る岩場とか!」
「探索祭の目的には合っていたわね」
「うん!」
白雪は満足そうに頷く。
黒羽は少し考えてから口を開いた。
「今回のイベントで、普段の探索とは違う場所にも足を運べたわ。時間を決めて探索するのも悪くないわね」
「俺もそう思う。普段なら、あそこまで一つの仕掛けに時間をかけなかったかもしれない」
「私はいつも通りだったよ!」
「それは知っているわ」
黒羽の返事に、白雪はきょとんとした。
そして、三人で笑った。
また明日
休憩所の時計が、イベント終了後の時刻を示していた。
白雪はインベントリを開き、今日手に入れた素材を確認する。
《風羽チドリの羽根》
《風羽の青羽根》
《風羽草》
《風羽の木の実》
《風転がり草》
《風転がり草の種》
《風車花》
《草風スズメの羽根》
《風向花》
《風露花》
《風石》
《風石の欠片》
《風白の実》
《風白石》
《風削り石》
《風鳴り石片》
《風紋の小片》
《風通しの砂》
「……やっぱり、いっぱいある!」
「帰ったら整理するの?」
黒羽が尋ねる。
「うん! たぶん!」
「たぶん、ね」
「明日、何かに使えるかもしれないし!」
「まあ、必要になったら考えればいいわね」
黒羽は苦笑した。
ユウマも立ち上がる。
「そろそろ俺もログアウトするよ。明日も学校だしな」
「あ、そうだった!」
白雪も時計を見た。
「私もそろそろ戻ろうかな」
「じゃあ、今日はここまでね」
黒羽が言う。
三人は休憩所の入口へ向かった。
「黒羽、ユウマ、今日はありがとう!」
「こちらこそ。お疲れさま」
「また明日な」
「うん! またね!」
それぞれログアウト操作を行う。
白雪の視界がゆっくりと暗くなった。
《ログアウトします》
次に目を開けたとき、そこは現実の自室だった。
雪乃はVR機器を外し、ベッドの上でゆっくりと身体を起こす。
「ふぅ……楽しかった!」
三日間の探索祭。
新しい場所を見つけ、知らない生き物と出会い、たくさんの素材を集めた。
そして、最後には一位という結果までついてきた。
けれど、雪乃の頭の中に残っているのは順位よりも、草原で出会った小さな生き物たちの姿だった。
「また、あの子たちに会いに行こうっと」
雪乃はそう呟き、ベッドから降りた。
イベントは終わった。
でも、ELOの世界には、まだ知らない場所がたくさんある。
白雪の冒険は、これからも続いていく。




