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第123話 風に鳴る石柱

「これ、何かの仕掛けなのか?」


 ユウマは目の前に並ぶ石柱を見上げていた。


 岩場の上にある小さな平地。


 そこには高さの異なる石柱が七本並んでいる。


 表面には細かな線が刻まれており、先ほどユウマが触れた石柱を中心に、淡い光が広がっていた。


「……触ると反応するのか」


 ユウマはもう一度、最初の石柱に手を伸ばした。


 指先が触れた瞬間、石柱の表面が淡く光る。


 少し遅れて、隣の石柱も光った。


 さらにその隣。


 光は七本すべてへと広がっていく。


 カァン……。


 どこからか、澄んだ音が響いた。


「音?」


 ユウマは周囲を見回した。


 石柱の上部には小さな穴が開いている。


 風が吹くと、その穴を通り抜けるように空気が流れ、石柱がわずかに震えた。


 カァン……。


 再び音が鳴る。


「なるほど。風で音を鳴らす仕掛けか」


 ユウマは石柱の配置を確認した。


 七本の石柱は、一直線ではなく、少しずつ角度を変えて並んでいる。


 風の通り道を作っているようにも見えた。


 ユウマは石柱の周囲を歩き、地面に刻まれた模様を調べた。


 すると、七本の石柱の中央に、小さな円形のくぼみがあることに気づいた。


「ここに何かを置くのか?」


 インベントリを確認する。


 《風削り石》が目に入った。


 先ほど拾った石だ。


 形は滑らかで、手のひらに収まる程度の大きさ。


 ユウマは試しにくぼみへ置いてみた。


 コトン。


 石が収まる。


 その瞬間、石柱の光が強くなった。


 ゴォォ……。


 風が吹き抜ける。


 七本の石柱が一斉に震え、音が重なった。


 カァン、カン、カァン……。


 音は不規則に響いていたが、しばらくすると一定の間隔に変わっていく。


 やがて中央のくぼみが淡く光り、小さな石片が現れた。


 《風鳴り石片》


「おお……!」


 ユウマは石片を回収した。


 《隠された仕掛けを発見しました》

 《イベントポイントを獲得しました》


「これも探索ポイントになるのか」


 ユウマは表示を確認した。


 ただし、まだ石柱の仕掛けが完全に終わったのかは分からない。


 石柱の光は弱まったものの、表面の模様はまだ淡く輝いている。


「もう少し調べてみるか」


 ユウマは石柱の並びを確認し始めた。


 白雪は丘の上で、風の流れを感じていた。


「もう一回!」


 先ほど習得した《風受け跳躍》。


 風の向きを合わせて跳ぶことで、普段よりも少し遠くへ移動できるようになった。


 白雪は風が吹いてくる方向を確認する。


 草が右から左へ揺れている。


「今かな?」


 足に力を込める。


 ぴょんっ!


 身体が宙へ浮かぶ。


 その瞬間、風が背中を押した。


「わっ!」


 いつもより長く空中に留まり、着地地点が少し遠くなる。


 とんっ。


 草地に着地した。


「おおー! すごい!」


 白雪は振り返って、跳んできた距離を確認した。


「さっきより遠い!」


 もう一度試してみようと、少し高い岩へ登る。


 今度は風の流れが変わっていた。


 草が左から右へ揺れている。


「今度はこっち!」


 白雪は勢いよく跳び上がった。


 ぴょんっ!


 風が横から吹きつけ、身体が少しだけ流される。


「わわっ!」


 思った方向とは違う場所へ着地した。


 ころんっ。


 草の上を転がる。


「いたた……」


 ダメージはないが、髪に草がいくつか付いてしまった。


 白雪は起き上がり、髪を払う。


「風の向きが違うと難しいね」


 それでも、楽しそうだった。


 もう一度風を確認しようと、両腕を広げてみる。


 風が頬を撫で、髪を揺らす。


 白雪は目を閉じた。


「……こっちかな」


 風が吹いてくる方向を感じ取る。


 そして、ゆっくりと跳び上がった。


 今度は風に押される感覚が分かった。


 空中で少しだけ身体を傾ける。


 着地。


 とんっ。


「できた!」


 白雪は両手を上げた。


 そのとき、システム通知が表示される。


 《スキル《風受け跳躍》の熟練度が上昇しました》


「やった!」


 白雪は通知を確認して、満足そうに頷いた。


「これ、楽しい!」


 そのまま何度も跳び続ける。


 しかし、夢中になっているうちに風向きが変わってしまった。


「わっ、今度はそっち!?」


 白雪は慌てて空中で身体を傾けた。


 少しだけ軌道が変わり、何とか草地へ着地する。


「ふぅ……」


 白雪は胸を撫で下ろした。


 まだ完璧には使いこなせない。


 それでも、風を利用して移動するのはとても面白かった。


 黒羽は森の出口へ向かっていた。


 地下の仕掛けを解き、隠し部屋の素材も回収した。


 これ以上の探索を続けるより、一度休憩所へ戻った方がよさそうだ。


「今日の探索は十分ね」


 黒羽はインベントリを確認した。


 《根絡みの金属片》

 《根絡みの木片》

 《根脈の小結晶》

 《根脈の欠片》

 《古樹の小片》

 《根水晶の粒》


 素材はそれなりに集まっている。


 ただ、どれも使い道はまだ分からない。


「帰ったら少し整理しないと」


 そう呟きながら歩いていると、前方の木の根元に小さな影が見えた。


 黒羽は足を止めた。


 影は木の根の隙間から顔を出している。


 小さな茶色の生き物だった。


 《根走りネズミ》


 ネズミは黒羽を見ると、すぐに木の根の間へ潜り込んだ。


「……逃げたわね」


 黒羽は追いかけず、そのまま歩き始めた。


 すると、背後でカサカサと音がした。


 振り返ると、根走りネズミが少し離れた場所からこちらを見ている。


 その口には、小さな木の実がくわえられていた。


「何か用?」


 黒羽が立ち止まる。


 ネズミは木の実を地面に置き、再び木の根の中へ消えた。


 黒羽は近づいて、木の実を拾い上げた。


 《根実》


「……置いていったのかしら」


 少し不思議に思いながらも、インベントリへしまう。


 そして、今度こそ森を出た。


 ユウマは石柱群の仕掛けを調べ続けていた。


 《風鳴り石片》を入手した後も、石柱の光は完全には消えていない。


 七本の石柱を順番に確認すると、それぞれに刻まれた線の向きが違うことに気づいた。


「風の流れを調整するためか?」


 ユウマは石柱の根元を調べる。


 一番高い石柱には、細い溝が刻まれている。


 二番目には、小さな丸い穴。


 三番目には、横向きの切れ込み。


 それぞれ形が違っていた。


 ユウマは風が吹くたびに、石柱から鳴る音を聞き分ける。


 カァン。


 コン。


 カン。


 音の高さが違う。


「……音階みたいなものか?」


 ユウマは少し離れた場所に立ち、風が吹く方向を確認した。


 そのとき、七本の石柱のうち一本だけが、ほかよりも強く震えた。


 カァァン!


 澄んだ音が響き、石柱の表面に新しい模様が浮かび上がる。


 ユウマは近づいて確認した。


 模様は石柱の根元から中央へ向かって伸びている。


 その先には、細い矢印のような形が刻まれていた。


「……まだ何かあるな」


 ユウマは石柱の周囲を調べる。


 すると、地面に小さな石の板が埋まっているのを見つけた。


 表面には、七つの丸いくぼみが並んでいる。


「七本の石柱と関係しているのか」


 ユウマは手を伸ばしかけて、止めた。


 不用意に触れて何かが起こる可能性もある。


「順番を確認してからだな」


 ユウマは石柱の音をもう一度聞き、どの順番で鳴っているのかを確かめ始めた。


 白雪は丘を下り、草原の道へ戻っていた。


「いっぱい跳んだー!」


 何度も風を利用して跳んだため、少しだけ疲れている。


 それでも、顔には笑顔が浮かんでいた。


「風を使うのって面白いね!」


 白雪は風を受けながら歩いていた。


 すると、草むらの中に小さな青い花が咲いているのを見つけた。


「あっ、お花!」


 近づいてみる。


 花びらは細長く、風が吹くたびに同じ方向へ傾いていた。


 《風向花》


「風向花……」


 白雪は花を眺めた。


 花びらの向きが、風の流れに合わせて変わっている。


「こっちが風の方向なんだね!」


 白雪は花の向きを見て、風が吹いてくる方向を確かめた。


「これがあれば分かりやすいかも!」


 一輪だけ採取し、インベントリへしまう。


 その直後、風向花の近くから小さな虫が飛び立った。


 青い羽根を持つ、小さな虫だった。


 《風羽虫》


「わっ、虫さん!」


 白雪は目で追いかける。


 風羽虫は花の周りを飛び回り、少し離れた草の上へ止まった。


 白雪が近づくと、また飛び立つ。


「待ってー!」


 白雪は追いかけようとしたが、途中で足を止めた。


 風羽虫は花から花へ移動している。


 どうやら、花の蜜を集めているようだった。


「そっか。ごはん中なんだね」


 白雪は邪魔をしないよう、少し離れて見守ることにした。


 風が吹く。


 風向花が揺れ、風羽虫の羽根がきらりと光った。


「きれいだなぁ」


 白雪はその光景をしばらく眺めていた。


 イベント最終日。


 空は少しずつ夕方の色へ変わり始めている。


 探索できる時間も、残り少なくなってきた。


 それでも白雪は、まだまだ歩き続けるつもりだった。

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