第121話 風に揺れる草原の道
「次はどこに行こうかなー!」
白雪は草原を歩きながら、両腕を大きく伸ばした。
風羽チドリの休息地を離れてから、少し時間が経っている。
鳥たちが休んでいた木々は、もう遠くに見えるほど小さくなっていた。
「今日は鳥さんがいっぱいだったね!」
白雪はインベントリを開き、手に入れた素材を眺める。
《風羽チドリの羽根》
《風羽の青羽根》
《風羽草》
《風羽の木の実》
「羽根がいっぱい!」
同じ羽根でも、色や形が少しずつ違う。
白雪は一枚ずつ眺めてから、インベントリを閉じた。
そのとき、頬に風が当たった。
「ん?」
少し強い風だった。
草原の草が一斉に傾き、白雪の長い銀白色の髪も後ろへ流れる。
風は丘の向こうから吹いてきているようだった。
「今日は風が強いねぇ」
白雪は風上へ顔を向けた。
すると、草原の上を何かが転がっていくのが見えた。
ころころ、ころころ。
丸いものが、風に押されて地面を転がっている。
「あれ?」
白雪は目を凝らした。
小さな茶色い球体だ。
草の間を転がり、岩にぶつかると方向を変え、また転がっていく。
「木の実かな?」
白雪は走り出した。
ころころ。
ころころ。
球体は白雪の進行方向とは少しずれながら、丘の斜面を下っていく。
「待ってー!」
白雪は坂を駆け下りた。
ようやく追いつき、両手で受け止める。
「捕まえた!」
手のひらに乗せてみると、それは小さな草の塊だった。
乾いた細い草が絡まり合い、丸い形になっている。
「……草?」
白雪はくるくると回してみた。
中には小さな種がいくつか混じっている。
《風転がり草》
「風転がり草?」
名前を見て、白雪は首を傾げた。
その直後、強い風が吹いた。
手の中の草の塊が、ふわりと浮き上がる。
「あっ!」
白雪は慌てて掴もうとしたが、指の間をすり抜けてしまった。
草の塊は地面へ落ち、そのまま再び転がり始める。
「また行っちゃった!」
白雪は笑いながら追いかけた。
草の塊は坂を転がり、低い岩の間を抜けていく。
その先には、広い草地が広がっていた。
草地の中央には、同じような草の塊がいくつも転がっている。
「わあっ!」
白雪は思わず足を止めた。
風が吹くたびに、草の塊が一斉に動き出す。
ころころ、ころころ。
まるで草の玉が競争しているようだった。
「すごい! いっぱい転がってる!」
白雪はその中に飛び込んだ。
草の塊を一つ追いかけ、別のものが足元を通り過ぎるとそちらを追いかける。
「こっちも!」
一つを捕まえて、また一つ。
しばらく遊んでいると、草地の端に小さな生き物がいることに気づいた。
茶色い身体に、長い耳。
身体の周囲には草が絡まっている。
《草巻きラビット》
「うさぎさんだ!」
白雪が近づくと、草巻きラビットは地面に転がっている草の塊を前足で押した。
ころん。
草の塊が転がる。
ラビットはそれを追いかけ、鼻先でさらに押した。
「遊んでるの?」
白雪は同じように草の塊を押してみた。
ころん。
ラビットがぴょんと跳ねる。
白雪も別の草の塊を押した。
ころころ。
二つの草の塊が風に乗って転がっていく。
「競争だね!」
白雪はラビットと一緒に草の塊を追いかけた。
その頃、黒羽は地下の水場で仕掛けを調べていた。
台座の中央には透明な水が溜まっている。
その周囲には三本の溝が伸びており、それぞれ異なる場所へ続いていた。
「水を流す仕掛けだと思うけれど……」
黒羽は溝の先を確認する。
一本目は通路の壁へ。
二本目は根の隙間へ。
三本目は小さな穴へと続いている。
台座の端には、細い木の棒が差し込まれていた。
黒羽はその棒を一度だけ動かしてみた。
水面がわずかに揺れる。
しかし、溝へ水が流れる様子はない。
「何かが足りないのね」
黒羽は周囲を見回した。
台座の近くには、古い木の根が複雑に絡み合っている。
そのうち一本だけ、表面が少し削れていた。
「ここだけ新しい傷……」
黒羽は短剣の先で根の表面を慎重に払った。
すると、根の下から小さな金属の輪が現れた。
「これかしら」
金属の輪を引いてみる。
だが、動かない。
よく見ると、輪の奥には細い溝があり、何かを差し込める形になっていた。
黒羽はインベントリを確認した。
先ほど入手した《根脈の小結晶》が目に入る。
「……これを使うのかしら」
黒羽は小結晶を取り出し、金属の輪の中央へ近づけた。
カチッ。
結晶が小さく光る。
すると、台座の水面が揺れ、三本の溝に淡い緑色の光が走った。
「反応した!」
しかし、まだ水は流れない。
黒羽は台座の端にある木の棒へ手を伸ばした。
ゆっくりと押し込む。
ゴトッ。
水面が大きく揺れ、一本目の溝へ水が流れ始めた。
その水は根の下を通り、壁の奥へ消えていく。
続いて二本目にも水が流れた。
最後の一本は、まだ反応しない。
「三本すべてを動かす必要があるのね」
黒羽は水の流れを追い、最後の溝の先を確認しに向かった。
ユウマは岩場を離れ、草原に近い斜面を歩いていた。
先ほど出会った《岩角リス》は、もう見当たらない。
「この辺りは、思ったより生き物が多いな」
ユウマは周囲を見回した。
岩場から草原へ続く斜面には、小さな草や木の実が点在している。
採取できそうなものもあるが、今は先へ進むことにした。
すると、斜面の上から小石が転がってきた。
ころころ。
ユウマの足元で止まる。
「……?」
上を見ると、岩の上に小さな影があった。
先ほどの岩角リスとは違う。
少し大きな身体に、灰色の毛。
背中には小さな岩のような突起がある。
《岩背モグラ》
モグラはユウマを見つけると、岩の陰へ隠れた。
「また小動物か」
ユウマは剣を抜かず、少し距離を取って様子を見た。
すると、モグラは岩の下から顔を出し、地面を掘り始めた。
前足を使って土をかき分ける。
やがて、小さな鉱石がいくつか姿を現した。
「採掘しているのか?」
ユウマは近づき、地面を確認する。
《灰岩鉱》
特別な鉱石ではないが、素材として使えるものだ。
モグラは掘り出した鉱石を一つくわえ、岩の隙間へ運んでいった。
「巣に運んでいるのか」
ユウマは少し離れた場所で、その様子を見守った。
モグラは何度か往復し、最後にユウマの方を振り返った。
そして、地面に残っていた小さな鉱石を前足で押す。
ころん。
ユウマの足元まで転がってきた。
「……くれるのか?」
拾い上げる。
《灰岩鉱》
「ありがとう」
モグラは一度だけ鼻を動かし、岩の隙間へ戻っていった。
ユウマは鉱石をインベントリへしまい、探索を再開した。
白雪は草巻きラビットと遊び続けていた。
「それー!」
白雪が草の塊を押す。
ころころころ。
ラビットも負けじと別の草の塊を押した。
二つの草の塊が風に乗って転がり、草地の端まで進んでいく。
「どっちが先かな?」
白雪は走って追いかけた。
しかし、途中で風向きが変わった。
草の塊は急に方向を変え、斜面を横切っていく。
「あっ、そっち!?」
白雪は慌てて追いかけた。
草巻きラビットもぴょんぴょん跳ねて追いかける。
やがて草の塊は、大きな岩の手前で止まった。
白雪が拾い上げる。
「捕まえた!」
そのとき、草の塊の中から小さな種がいくつか落ちた。
「あれ?」
地面に落ちた種を拾う。
《風転がり草の種》
「種も入ってたんだ!」
白雪は種をインベントリにしまった。
すると、草巻きラビットが白雪の足元へやってきた。
前足で地面を掘り始める。
「ん? 何かあるの?」
白雪もしゃがみ込んで覗き込んだ。
ラビットが掘った場所には、小さな白い花が咲いていた。
《風車花》
花びらが風を受けるたびに、くるくると回っている。
「わぁ! かわいい!」
白雪は花を眺めた。
花の中央には小さな種がついている。
風が吹くと、花びらが回転し、種が少しだけ揺れた。
「風車みたいだね!」
白雪は花を一輪だけ採取した。
その直後、イベントの案内が表示された。
《未発見植物を発見しました》
《未発見生物との遭遇を確認しました》
《イベントポイントを獲得しました》
「おおっ、また増えた!」
白雪は通知を見て、満足そうに頷いた。
草巻きラビットは、そんな白雪の足元を一周してから、草地の奥へ走っていった。
「あっ、行っちゃうの?」
白雪は手を振る。
「またねー!」
ラビットの姿が草の向こうへ消える。
白雪は風車花を眺め、風に揺れる花びらを指先でそっと触った。
くるり。
花びらが回る。
「これ、持って帰ろう!」
白雪はインベントリを閉じ、草地の向こうを見た。
まだ探索できる場所はありそうだ。
「よーし、次も行ってみよう!」
白雪は再び歩き始めた。
イベント最終日の午後は、まだ続いていた。




