第119話 岩場に響く小さな音
「こっちの岩はどうなってるのかな?」
白雪は先ほど《鳴き石》を見つけた岩場を、さらに奥へと進んでいた。
周囲には大小さまざまな岩が転がっている。
平たい岩、丸い岩、表面がざらざらした岩。
中には、白い模様が浮かんでいるものもあった。
白雪は一つずつ眺めながら歩いていく。
「これも音が鳴るのかな?」
手近な岩を指で軽く叩く。
コンッ。
普通の岩らしい。
「こっちは?」
別の岩を叩く。
コツン。
少し低い音が返ってきた。
「うーん……違うね」
白雪は首を傾げた。
そのとき、少し離れた場所から別の音が聞こえてきた。
カン、カン、カン。
規則的な音だ。
「ん?」
白雪は顔を上げた。
誰かが採掘でもしているのだろうか。
音のする方へ歩いていくと、岩の間に細い道が続いていた。
その先には、背の高い岩が三つ並んでいる。
それぞれ形が違い、表面には細かな亀裂が走っていた。
そして、その岩の前で小さなトカゲが一匹、尻尾を振っていた。
《石鳴きトカゲ》
「あっ、さっきの子!」
白雪が声をかけると、トカゲは一度だけこちらを向いた。
そのまま、目の前の岩へ近づく。
尻尾で岩を軽く叩いた。
カン。
少し高い音が響く。
次に隣の岩を叩く。
コン。
最後の岩を叩く。
カン。
三つの音が順番に鳴った。
「おおっ! 演奏してるみたい!」
白雪は目を輝かせた。
トカゲはもう一度、同じ順番で岩を叩く。
カン、コン、カン。
「私もやってみよう!」
白雪は岩の前に立ち、手のひらで最初の岩を叩いた。
カン。
次の岩。
コン。
最後の岩。
カン。
「できた!」
白雪が喜んでいると、石鳴きトカゲは岩の周囲をくるりと回り、今度は別の順番で尻尾を振った。
コン、カン、コン。
「今度はこっち?」
白雪も同じ順番で叩いてみる。
コン、カン、コン。
すると、三つの岩がかすかに震えた。
「えっ?」
岩の表面に走っていた亀裂が、淡く光る。
そして、三つの岩の間にあった地面がゆっくり沈み始めた。
ゴゴゴ……。
「わわっ!」
白雪は慌てて後ろへ下がる。
地面の一部が開き、その下から小さな石の台座が現れた。
台座の中央には、丸いくぼみがある。
「何これ?」
白雪は近づいて覗き込んだ。
くぼみの周囲には、三つの小さな模様が刻まれている。
先ほどの岩と同じような模様だ。
「さっきの音と関係あるのかな?」
白雪は手に入れた《鳴き石》を取り出した。
丸いくぼみへ置いてみる。
ぴたり。
鳴き石は、まるで最初からそこにあったかのように収まった。
カチッ。
小さな音が鳴る。
すると、台座の模様が順番に光り始めた。
「おおー!」
台座の奥から、細い石の板がせり上がってくる。
その表面には、小さな文字が浮かんでいた。
《響きの欠片》
「響きの欠片?」
白雪が手を伸ばすと、石の板は淡い光となって消え、アイテムがインベントリへ追加された。
《響きの欠片》
「もらえた!」
その直後、イベントの案内が表示される。
《隠された仕掛けを発見しました》
《イベントポイントを獲得しました》
「やったー!」
白雪は嬉しそうに両手を上げた。
一方、石鳴きトカゲはいつの間にか岩の上へ移動していた。
「教えてくれたの?」
白雪が尋ねると、トカゲは尻尾を一度振った。
カン。
「ありがとう!」
白雪は笑顔で手を振った。
トカゲは岩の隙間へ入り、姿を消していった。
「また会えるといいな!」
白雪は《響きの欠片》をインベントリへしまい、岩場の奥を見渡した。
まだ気になる場所はたくさんある。
けれど、そろそろ別の景色も見たくなってきた。
「次はあっち!」
白雪は岩場を離れ、草原の向こうへ走っていった。
黒羽は、暗い穴の中を慎重に進んでいた。
木の根に覆われた細い通路は、奥へ進むほど狭くなっている。
短剣を片手に、足元を確かめながら進んでいく。
「……この先に何かあるはず」
先ほど見つけた石板には、三本の線が刻まれていた。
《根絡みの金属片》と《根絡みの木片》を反応させたことで、二本目の線が光った。
残る一本。
その先に何があるのかを確かめる必要がある。
通路の先には、小さな空洞があった。
中央には、古い木の根が絡み合った塊がある。
その根の隙間に、淡い緑色の光が見えた。
「……結晶?」
黒羽は近づき、周囲を確認する。
床には細い溝が走り、壁の根元には小さな穴がいくつも並んでいる。
「この穴に何かを通すのかしら」
黒羽は先ほどの木片を取り出し、床の溝に沿わせてみた。
しかし、反応はない。
次に金属片を近づける。
カチッ。
小さな音がした。
床の溝が一瞬だけ光る。
「やっぱり、二つの素材が必要なのね」
黒羽は金属片を溝の端へ置き、木片を隣に並べた。
すると、二つの部品がわずかに引き寄せられる。
根の塊がゆっくりと動いた。
ゴゴゴ……。
中央の隙間が開き、中から緑色の小さな結晶が現れる。
《根脈の小結晶》
黒羽は慎重に手を伸ばし、それを回収した。
《隠された場所を発見しました》
《イベントポイントを獲得しました》
「……ここが仕掛けの終点だったのね」
黒羽は周囲をもう一度確認した。
まだ奥へ続く通路がある。
しかし、今のところ危険な気配はない。
「少しだけ先を確認してから戻りましょう」
黒羽は双短剣を構え直し、通路の奥へ進んでいった。
ユウマは、岩場で《白晶トカゲ》と向かい合っていた。
トカゲの背中にある小さな結晶が、再び淡く光る。
「また地面から来るか……!」
ユウマは足元を確認しながら、相手の動きを見ていた。
トカゲは身体を低くし、岩の隙間へ走り込む。
その直後、ユウマの足元の岩が白く光った。
「そこだ!」
ユウマは光った場所から飛び退く。
地面から小さな結晶が突き出した。
しかし、ユウマはすでにその場所を離れている。
「攻撃の前に、地面が光るんだな」
これまでの戦闘で、攻撃の兆候が少しずつ見えてきていた。
トカゲは再び岩の陰へ隠れようとする。
ユウマは追わず、少しだけ距離を取った。
相手が出てくる場所は限られている。
ならば、その場所を押さえればいい。
ユウマは岩の隙間の出口へ回り込んだ。
「今度は逃がさない」
しばらく待つ。
カサッ。
トカゲの頭が見えた。
ユウマは剣を構える。
トカゲが飛び出す。
その瞬間、ユウマは一歩踏み込んだ。
剣を横に振り、進路を塞ぐ。
トカゲは急停止し、反対側へ逃げようとした。
だが、その先には崩れた岩がある。
逃げ道が狭まった。
「ここだ!」
ユウマは剣を振り下ろす。
ガキッ!
攻撃が背中の結晶に当たった。
結晶に細かな亀裂が走る。
トカゲは大きく跳ね、距離を取った。
「もう少し……!」
トカゲは最後の抵抗をするように、身体を丸めて突進してきた。
ユウマは横へ避ける。
しかし、トカゲは途中で方向を変え、ユウマの足元へ飛び込んできた。
「っ!」
ユウマは剣の柄で受け止める。
衝撃で腕がしびれた。
そのままトカゲが地面へ落ちる。
「これで終わりだ!」
ユウマは体勢を立て直し、剣を振り下ろした。
ザシュッ!
攻撃を受けたトカゲは、光の粒となって消えていった。
《白晶トカゲを討伐しました》
「……ふぅ」
ユウマは剣を下ろし、息を吐いた。
足元には報酬が残されている。
《白晶の小片》
《白晶トカゲの鱗》
《白晶の粉》
「よし」
ユウマは報酬を回収した。
昨日の《白晶の岩蜥蜴》ほどの強敵ではなかったが、狭い地形を利用する相手で、思った以上に苦戦した。
「さて、もう少し先を見てみるか」
ユウマは岩場の奥を見た。
まだ探索できそうな場所は残っている。
ただし、無理をするつもりはない。
イベント最終日だからといって、焦る必要はなかった。
白雪は岩場を離れ、草原に戻っていた。
「いっぱい走ったー!」
両手を上げて伸びをする。
遠くには緩やかな丘が広がり、風に揺れる草が波のように動いていた。
白雪はその景色を眺めながら、少しだけ歩く速度を落とした。
すると、草原の向こうから何かが飛んでくる。
ひらり。
白い布のようなものが風に乗っていた。
「ん?」
白雪は目を凝らす。
それは布ではなく、大きな羽根だった。
羽根は風に揺られながら、白雪の頭上を通り過ぎていく。
「わっ、待って!」
白雪は走り出した。
羽根は丘の向こうへ流れていく。
白雪は草原を駆け抜け、丘を登った。
そして、丘の頂上にたどり着いたところで足を止める。
そこには、白い羽根を持つ鳥たちが何羽も集まっていた。
「わぁ……!」
鳥たちは丘の斜面を歩き回り、時々羽ばたいている。
その中の一羽が、白雪に気づいて首を傾けた。
白い身体に、淡い青色の翼。
尾羽は長く、風を受けるとゆっくりと広がる。
《風羽チドリ》
「こんにちは!」
白雪が手を振る。
風羽チドリは少しだけ距離を取ったが、逃げる様子はない。
白雪はその場にしゃがみ、しばらく鳥たちを眺めた。
一羽が羽ばたく。
その風に押されて、周囲の草が一斉に揺れた。
「すごいねぇ……」
白雪は風羽チドリの羽ばたきを見つめていた。
すると、足元に一枚の羽根が落ちていることに気づいた。
《風羽チドリの羽根》
「これ、落とし物かな?」
白雪は羽根を拾い上げた。
風に当てると、羽根の先がふわりと揺れる。
「きれい!」
白雪は羽根をインベントリへしまった。
そのとき、丘の向こうから風が吹き上がってきた。
鳥たちが一斉に羽ばたく。
白い羽根が空へ舞い上がり、草原の上を流れていった。
白雪はその様子を見上げた。
「……わぁ」
イベント最終日の空は、まだまだ広い。
白雪は鳥たちを見送りながら、次にどこへ行こうか考え始めていた。




