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第118話 草原を渡る小さな影

「さて、次はどこに行こうかな!」


 白雪は綿毛の舞う小さな空間を後にし、岩の隙間を通って外へ出た。


 外に出ると、少し眩しい日差しが目に入る。


「まぶしっ!」


 目を細めながら、白雪は周囲を見回した。


 さっきまでいた場所は、草原の端にある低い丘の近くだったらしい。


 見慣れた草原が広がっているが、ここから見る景色はいつもと少し違っていた。


 遠くには緩やかな坂道が続き、その先には背の高い岩がいくつも並んでいる。


「向こうも面白そう!」


 白雪はさっそく歩き始めた。


 イベント最終日。


 今日も時間はたっぷりある。


 急ぐ理由はなかった。


 草原を進んでいると、足元に小さな白い花が咲いているのを見つけた。


「お花だ」


 しゃがんで眺める。


 花びらは五枚。中央は淡い黄色で、風が吹くたびに小さく揺れていた。


 《朝露花》


「朝露花……かわいい名前!」


 白雪は一輪だけ採取した。


 その隣には、少しだけ色の違う花も咲いている。


 こちらは花びらの先が淡い青色だった。


 《青露花》


「こっちは青いんだね」


 二種類の花をインベントリにしまう。


 さらに進むと、草むらの中から小さな影が飛び出した。


 ぴょんっ。


「あっ!」


 白雪は反射的に振り返る。


 影は草原を横切り、少し離れた岩の上へ飛び乗った。


 小さなネズミのような姿をしているが、背中には短い草の穂が生えている。


 《草穂ネズミ》


「わあ、かわいい!」


 草穂ネズミは白雪を見ると、前足で顔を洗うような仕草をした。


「こんにちはー」


 白雪が手を振る。


 ネズミは一度だけ耳を動かし、岩の反対側へ降りていった。


「待って!」


 白雪は追いかけた。


 しかし、草穂ネズミは思った以上に速い。


 草の間をすり抜け、岩を越え、坂道を駆け下りていく。


 白雪も負けじと追いかける。


「速いねー!」


 坂道を下りきったところで、草穂ネズミは急に方向を変えた。


 白雪は勢いを止めきれず、そのまま数歩走り抜ける。


「わっ、そっち!?」


 振り返ると、草穂ネズミは低い草むらの中へ消えていた。


 白雪は草むらを覗き込む。


「どこかな?」


 しばらく探していると、草むらの向こう側で小さな音がした。


 カサカサ。


 今度は一匹ではない。


 白雪がそっと近づくと、草穂ネズミが三匹集まっていた。


 一匹は少し大きく、残りの二匹は小さい。


「家族かな?」


 白雪は邪魔をしないように少し離れた場所から眺めた。


 三匹は草の穂をかじり、時々顔を上げて周囲を確認している。


 やがて大きな一匹が草の根元を掘り始めた。


「何してるんだろう?」


 白雪が見ていると、地面から小さな実が出てきた。


 《草穂の実》


 ネズミたちは実を分け合うように食べ始めた。


「それ、おいしいの?」


 白雪は近くに落ちていた実を一つ拾った。


 少しだけ匂いを嗅いでみる。


 甘い香りがする。


「ちょっとだけ……」


 小さくかじる。


「ん。甘くて、ちょっとだけ青っぽい味!」


 特に状態異常は起きない。


 白雪は残りを食べずに、採取した分をインベントリへしまった。


「またねー!」


 三匹に手を振り、坂道の方へ戻っていった。


 一方、黒羽は森の中で石板の続きを調べていた。


 三本の線が刻まれた石板。


 そのうち一本は、木の根の奥へ続いている。


 黒羽は根の隙間を確認し、指先で土を払った。


 すると、細い金属の溝が見つかった。


「やっぱり繋がっているのね」


 昨日見つけた《根絡みの金属片》を取り出し、溝の近くに置いてみる。


 金属片はぴたりとはまった。


 カチッ。


 小さな音が響く。


「……反応した」


 黒羽はすぐに周囲を確認した。


 地面の根がわずかに動き、石板の表面に刻まれた線の一部が淡く光る。


 だが、それ以上の変化はない。


「まだ足りないみたいね」


 黒羽は金属片を押し込んだり、無理に動かしたりはしなかった。


 仕掛けの構造を考える。


 三本の線。


 金属片がはまった場所は、そのうち一本の始点に近い。


 残り二本の先にも、何かがあるのかもしれない。


 黒羽は石板の周囲を調べ、根の間に隠れた小さな穴を二つ見つけた。


「これが残りの場所かしら」


 片方の穴には土が詰まっている。


 もう片方は、奥が暗くて見えない。


 黒羽はまず土の詰まった方を調べることにした。


 短剣の先で少しずつ土を取り除く。


 すると、中から小さな木製の部品が出てきた。


 《根絡みの木片》


「金属だけじゃないのね」


 黒羽は木片を取り出し、石板の近くに置いた。


 今度は、石板の線がもう一つ淡く光った。


「なるほど。二つの部品を揃える必要があるのかしら」


 まだ仕掛けは動かない。


 残る一つの場所を探す必要がありそうだった。


 黒羽は周囲を見回し、暗い穴へと視線を向けた。


「……先にこちらを確認しましょう」


 慎重に短剣を構え、穴の奥を覗き込んだ。


 ユウマは岩場で《白晶トカゲ》と向かい合っていた。


 トカゲは先ほどと同じように、岩の隙間へ入り込んでいる。


 ユウマは剣を構えたまま、動かずに待っていた。


「出てこい……」


 しばらくすると、岩の陰から小さな頭が現れる。


 トカゲはユウマの足元を確認するように動き、地面を蹴った。


「そこだ!」


 ユウマは横へ踏み込み、剣を振るう。


 トカゲは素早く身をひねったが、完全には避けきれなかった。


 攻撃が胴体をかすめる。


 トカゲは地面に着地すると、背中の小さな結晶を光らせた。


「何だ?」


 ユウマが警戒した直後、トカゲの身体が白く輝く。


 次の瞬間、足元の岩から小さな結晶がいくつも突き出した。


「っ!」


 ユウマは後方へ跳ぶ。


 地面から伸びた結晶が、先ほどまで立っていた場所を覆った。


「地面にも攻撃できるのか……!」


 トカゲはその隙に、また岩の隙間へ逃げようとする。


 しかし、今度はユウマが先回りしていた。


「同じ手は通じないぞ!」


 ユウマは逃げ道の前へ踏み込み、剣を横に振るった。


 トカゲは方向を変えようとしたが、岩に囲まれて進路が狭くなっている。


 剣がその身体を捉えた。


 ガッ!


 トカゲは大きく跳ね、地面へ転がる。


 ユウマはすぐに距離を取った。


「まだ終わっていないな」


 トカゲは身体を起こし、背中の結晶を再び光らせる。


 ユウマは剣を構え直した。


 今度は、地面の変化を見逃さないように。


 白雪は坂道を越え、岩が並ぶ場所までやって来ていた。


「大きな岩がいっぱい!」


 岩はそれぞれ形が違い、丸いものもあれば、細長く尖ったものもある。


 白雪はその間を歩き回り、気になる岩を見つけるたびに近づいていた。


 一つの岩の表面には、白い線が何本も走っている。


「模様かな?」


 指でなぞってみる。


 ざらざらしている。


 もう一つの岩には、小さな穴が開いていた。


「こっちは穴があるね」


 覗き込んでみるが、奥は暗くて見えない。


 白雪は耳を近づけてみた。


 ……カラッ。


 小さな音が聞こえた。


「ん?」


 もう一度耳を近づける。


 カラカラッ。


 中で何かが動いているようだ。


「石が入ってるのかな?」


 白雪は岩を軽く叩いてみた。


 コンッ。


 すると、中から少し大きな音が返ってきた。


 コロコロ……。


「おおっ!」


 白雪は目を輝かせた。


 もう一度叩いてみる。


 今度は少し強く。


 コンコンッ。


 コロコロコロ……。


 穴の奥で何かが転がっている。


「面白い!」


 白雪は岩の周囲を調べ始めた。


 すると、岩の反対側に小さな石がいくつも落ちているのを見つけた。


 一つ拾い、穴の近くに置いてみる。


「これ、入るかな?」


 石を穴に近づける。


 しかし、穴は少し狭く、石は入らなかった。


「うーん……」


 白雪は別の小さな石を探す。


 ようやく穴に入りそうなものを見つけた。


「これなら!」


 そっと穴へ入れる。


 コロッ。


 石は中へ転がっていった。


 その直後。


 カラカラカラッ!


 岩の中で音が響き、穴の奥から何かが押し出されてきた。


 ころん。


 地面に落ちたのは、小さな白い石だった。


 《鳴き石》


「わあっ! 出てきた!」


 白雪は鳴き石を拾い上げた。


 手の中で軽く振ってみる。


 カラッ。


 小さな音が鳴った。


「おもしろーい!」


 白雪は何度も鳴き石を振っていた。


 すると、近くの岩の隙間から、ひょこっと小さな頭が現れた。


「あっ!」


 白雪が動きを止める。


 出てきたのは、灰色の身体をした小さなトカゲだった。


 背中には白い小石のような模様がある。


 《石鳴きトカゲ》


 トカゲは白雪の手にある鳴き石をじっと見つめている。


「これ、君の?」


 白雪が鳴き石を地面に置くと、トカゲはゆっくり近づいてきた。


 そして、鳴き石に鼻先を近づける。


 カラッ。


 トカゲが少し身体を動かすと、鳴き石が転がった。


 トカゲは驚いたように後ろへ跳ねる。


「ふふっ」


 白雪は笑った。


 トカゲはしばらく鳴き石を見つめていたが、やがて岩の隙間へ戻っていった。


「またねー!」


 白雪は鳴き石をインベントリへしまった。


 そのとき、イベントの案内が表示された。


 《未発見素材を発見しました》

 《未発見生物との遭遇を確認しました》

 《イベントポイントを獲得しました》


「おっ、また増えた!」


 白雪は通知を確認し、満足そうに頷いた。


 そして、すぐに次の岩へ向かって歩き出した。


「こっちの岩は何があるのかな?」


 探索祭最終日。


 草原のあちこちには、まだまだ知らないものが残っているようだった。

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