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第116話 探索祭、最後の日!

 朝。


 白瀬雪乃は、ベッドの上でゆっくりと目を開けた。


「んー……」


 大きく伸びをして、枕元に置いていた端末へ手を伸ばす。


 昨日はELOのイベント二日目。


 草原を歩き回り、風や水に関係する場所を見つけたり、小さな生き物と遊んだりしていた。


「今日で最後かぁ」


 少しだけ残念そうに呟く。


 イベントは三日間。


 普段よりもゲーム内時間が速く進む特別な期間も、今日で終わりだ。


「よしっ!」


 雪乃はベッドから起き上がると、朝の支度を始めた。


 朝食を済ませた雪乃は、自室でELOを起動する。


 視界が切り替わり、白い光が全身を包んだ。


 《エターナル・リンク・オンラインへようこそ》


 次の瞬間、白雪はイベント専用の休憩所に立っていた。


「おはよー!」


 周囲には、すでにログインしているプレイヤーたちがいる。


 イベント最終日ということもあってか、いつもより人が多いように感じた。


 中央の案内板には、現在のランキングが表示されている。


 《探索祭・二日目終了時ランキング》


 1位 白雪

 2位 黒羽

 3位 レイ

 4位 ユウマ

 5位 セツナ


 白雪は自分の名前を見つけると、少しだけ首を傾げた。


「……あ、まだ一位なんだ」


 それだけ確認すると、すぐに視線を別の場所へ移した。


「今日はどこに行こうかなぁ」


 休憩所の出口へ向かおうとした、そのとき。


「白雪」


 後ろから声をかけられた。


 振り返ると、黒羽が立っていた。


「黒羽ちゃん! おはよう!」


「おはよう。今日は早いわね」


「うん! 早く遊びたくて!」


「そう」


 黒羽は小さく笑った。


 その隣にはユウマもいる。


「おはよう、白雪」


「ユウマもおはよう!」


「昨日の戦闘で少し疲れたけど、今日は最後だしな」


「今日は何するの?」


「まだ決めてない。昨日の続きも気になるけど、別の場所を探すのもいいと思ってる」


 黒羽は案内板を見上げた。


「私は昨日の探索で手に入れた素材を使って、もう少し先へ進めないか調べたいわね」


「そっか!」


 白雪は二人の話を聞きながら、出口の方を見た。


 外には朝の光が差し込んでいる。


「じゃあ、私は先に行ってくるね!」


「また別行動か?」


 ユウマが尋ねる。


「うん! 気になるところがあるかもしれないし!」


「分かった。何かあったら連絡してくれ」


「はーい!」


 白雪は元気よく手を振り、休憩所を出ていった。


 黒羽とユウマも、それぞれ別の方向へ向かう。


 最終日も三人は別行動。


 それぞれの探索が始まった。


 白雪が最初に向かったのは、昨日まで何度も歩いた草原だった。


「今日はどっちに行こうかな」


 草原には、朝露を残した草が広がっている。


 風が吹くたびに、草の穂が一斉に揺れた。


 白雪はその様子を眺めながら、適当に歩き始める。


 しばらく進むと、地面に小さな白い羽根が落ちているのを見つけた。


「あれ?」


 しゃがんで拾い上げる。


 《夕風の羽根》


 昨日出会った夕風チドリの羽根と似ている。


「昨日の子のかな?」


 羽根を指先でくるりと回してみる。


 軽い。


 風が吹くと、手の中から飛び出しそうになるほどだ。


「わっ、飛んでいっちゃう!」


 慌てて両手で包み込む。


 羽根は風に揺られながら、白雪の手の中でふわりと動いた。


「……あれ?」


 羽根の先が、風の流れに合わせて少しだけ傾いている。


 白雪は手を開き、羽根をそっと持ち上げた。


 すると、羽根は風に乗ってゆっくりと浮かび上がった。


「おおっ!」


 白雪はその羽根を追いかける。


 羽根は地面すれすれを漂い、草の上を滑るように進んでいく。


 右へ曲がり、左へ流れ、時には少し高く舞い上がる。


「待ってー!」


 白雪は走った。


 草を踏み、岩を飛び越え、羽根の後を追う。


 やがて羽根は、草原の端にある低い丘の向こうへ流れていった。


 白雪も丘を駆け上がる。


 そして、その向こう側に広がっていた景色を見て、足を止めた。


「わぁ……!」


 そこには、背の低い草が一面に広がる小さな草地があった。


 草の間には、白い綿毛のようなものがいくつも浮かんでいる。


 風が吹くと、それらは一斉に空へ舞い上がった。


「雪みたい!」


 白雪は思わず両手を広げた。


 綿毛が頬に触れ、髪の上に乗る。


「ふわふわだねー」


 一つを指先でつまんでみる。


 柔らかい。


 《風綿の種》


「種なんだ!」


 白雪は一つだけインベントリにしまい、残りはそのまま眺めることにした。


 すると、草地の奥で何かが動いた。


 ふわっ。


 白い綿毛の中から、小さな生き物が顔を出す。


 丸い身体に短い耳。


 《綿尾モモン》


「わっ、かわいい!」


 綿尾モモンは、白雪を見ると一度だけ身体を揺らした。


 その瞬間、身体の周囲に綿毛が舞い上がる。


 ふわふわ、ふわふわ。


「すごーい!」


 白雪が近づくと、綿尾モモンは草の上を走り始めた。


「待って待って!」


 追いかけてみるが、綿尾モモンは綿毛を散らしながら、草地の中を器用に逃げていく。


 白雪は何度か転びそうになりながらも、その後を追った。


 やがて綿尾モモンは大きな岩の上に飛び乗り、白雪を見下ろした。


「そこにいた!」


 白雪も岩に登ろうとする。


 しかし、岩の表面には細かな綿毛が付着していて、足を乗せると少し滑った。


「わわっ!」


 慌てて手をつき、何とか転倒を防ぐ。


 綿尾モモンはその様子を見て、ぴょんと岩から飛び降りた。


「待ってよー!」


 また追いかける。


 そんなことを繰り返しているうちに、白雪はすっかり夢中になっていた。


 その頃、黒羽は森の外れにある岩場を歩いていた。


 昨日の探索で見つけた素材を使い、いくつかの仕掛けを確認していたが、今日は別の場所を調べることにした。


「この辺りは、まだあまり探索されていないみたいね」


 黒羽は足元を確認しながら進む。


 森の奥には、木々の根が地面を覆う場所がある。


 その根の間に、細い通路が続いていた。


「……ここは昨日の場所とは違うわね」


 黒羽は周囲を見回した。


 根の表面には、ところどころ小さな傷がある。


 何かが通った跡だろうか。


 黒羽は双短剣を構え、慎重に進んだ。


 通路の先には、少し開けた場所があった。


 そこには小型の魔物が二体、地面を掘り返している。


「……敵ね」


 黒羽はすぐには飛び出さず、二体の動きを観察した。


 片方が地面を掘り、もう片方が周囲を警戒している。


「役割が分かれているのかしら」


 黒羽は近くの小石を拾い、少し離れた場所へ投げた。


 カンッ。


 音に反応した一体が振り向く。


 もう一体も掘る手を止めた。


 その隙に、黒羽は背後へ回り込む。


 一体の後ろ足を狙って短剣を振るった。


「まず一体」


 相手が振り返る前に距離を取る。


 残った一体が地面を蹴って突進してきた。


 黒羽は横へ避け、相手の進路に小さな罠を仕掛ける。


 魔物の足が罠に引っかかり、動きが止まった。


「これで終わりね」


 黒羽は短剣を構え直し、確実に攻撃を当てた。


 二体の魔物は光の粒となって消えていく。


 黒羽は周囲を確認し、地面に落ちていた素材を回収した。


 《根土の欠片》

 《根皮》


「普通の素材ね」


 特別なものではない。


 だが、こういう素材も後で役立つことがある。


 黒羽はインベントリにしまい、さらに森の奥へ進んだ。


 ユウマは昨日《白晶の岩蜥蜴》と戦った場所へ戻っていた。


「昨日はここまでだったな」


 崩れた岩壁と、砕けた水晶の欠片。


 その奥には、昨日気になっていた岩の隙間がある。


 ユウマは剣を構え、周囲を警戒しながら進んだ。


 岩の隙間を抜けると、少し広い空間に出た。


 そこには、地面に埋まった白い鉱石がいくつか見える。


「鉱石か……」


 近づいて確認する。


 《白晶鉱》


 昨日の岩蜥蜴がいた場所と関係があるのだろうか。


 ユウマは採掘道具を取り出し、慎重に鉱石を掘り出した。


 しばらく作業していると、奥の岩陰から小さな音が聞こえた。


 カリッ。


「……誰かいるのか?」


 ユウマは剣を持ち直す。


 岩陰から現れたのは、小型のトカゲだった。


 白い鱗に、背中には小さな結晶が一つ。


 《白晶トカゲ》


「また白晶系か」


 トカゲはユウマを見つけると、身体を低くした。


「……戦うつもりか?」


 ユウマは剣を構える。


 トカゲが素早く走り出した。


 小さな身体を活かした突進。


 ユウマは一歩横へずれ、すれ違いざまに剣を振るう。


 しかし、トカゲは岩の隙間へ潜り込んでしまった。


「逃げたか?」


 しばらく待つ。


 すると、別の岩陰から顔を出した。


「……なるほど。狭い場所を使うのか」


 ユウマは無理に追いかけず、トカゲが出てくるのを待つことにした。


 相手の動きを見極めてから攻撃する。


 昨日の戦闘で学んだことを、今日の探索にも活かしていく。


 白雪は、まだ草地にいた。


「ふわふわー!」


 綿尾モモンが散らした綿毛を追いかけているうちに、いつの間にか草地の反対側まで来ていた。


 綿尾モモンは岩の上で丸くなり、こちらを見ている。


「遊んでくれてありがとう!」


 白雪は笑顔で手を振った。


 すると、綿尾モモンは身体を揺らし、白い綿毛を一つだけ飛ばした。


 それは風に乗り、白雪の手のひらへ落ちてくる。


「くれるの?」


 綿毛をそっと受け取る。


 《綿尾の綿毛》


「わぁ、ありがとう!」


 白雪は大事そうにインベントリへしまった。


 そのとき、イベントの案内表示が視界の端に浮かんだ。


 《未発見生物との遭遇を確認しました》

 《イベントポイントを獲得しました》


「……あっ、そうだった!」


 白雪はようやくイベント中だったことを思い出した。


「今日もイベントなんだよね!」


 今さらのように頷く。


 そして、すぐに綿毛の感触を確かめるように手のひらを眺めた。


「これ、何に使えるのかな?」


 白雪の興味は、もう次のものへ移っていた。


 探索祭最終日。


 まだ朝は始まったばかりだった。

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